GaN(窒化ガリウム)とは? 小さな充電器を作れる理由

約14分 · 更新: 2026年10月23日

GaN(窒化ガリウム)は、ガリウムと窒素からできた半導体の材料です。シリコンより強い電気の力に耐え、電子がとても動きやすい通り道を作れます。そのため電気のオン・オフをシリコンより速くでき、充電器の中の変圧器やコンデンサを小さくできます。

この記事でわかること

  • GaNが使われている場所(充電器、LED、携帯電話の基地局、データセンター)
  • シリコンと何が違うのか(段差の大きさと、境目にできる電子の通り道)
  • 速くオン・オフすると、なぜ充電器が小さくなるのか
  • SiC・シリコンとの使い分けと、GaNのまだ難しいところ

前提知識: パワー半導体を「電気を速くオン・オフして、電気の形を変える部品」と知っていると読みやすくなります(「パワー半導体とは?」)。

身近なところでは: 充電器から基地局まで

家電量販店で「GaN採用」と書かれた充電器を見かけることが増えました。早い時期の例では、2019年2月にアンカー・ジャパンが、GaNを使った30ワットのUSB充電器を日本で発売しています。

USB-Cの充電器の多くは、USB PDという規格に従います。充電器とスマホやパソコンが通信して、送る電圧と電流を決めるしくみです。2021年5月の改訂で、上限が100ワットから240ワットに上がりました(USB-IF)。大きな電力を小さな箱で扱うために、GaNが役立っています。

充電器のほかにも、GaNは次の場所で働いています。

  • 青や白のLED: 青色LEDの材料です。発明した赤﨑勇・天野浩・中村修二の3氏は、2014年のノーベル物理学賞を受けました(「LEDはなぜ光る?」)
  • 携帯電話の基地局: 電波を強くして送り出す増幅器に使われます。三菱電機は2024年6月、5Gの基地局向けにGaNの増幅器の部品のサンプル提供を始めました
  • データセンター: サーバーに電気を配る電源に使われます。インフィニオンは2024年5月、シリコン・SiC・GaNを組み合わせた、AI向けの大きな電源の計画を発表しました
  • 電気自動車: 家のコンセントから電池を充電する「車載充電器」で、開発が進んでいる段階です(2026年時点)

GaNはどんな材料?

GaNは、ガリウム(Ga)と窒素(N)が規則正しく並んだ結晶です。半導体は、電気を通したり止めたりを切り替えやすい材料です(「半導体とは?」)。

材料の性格を決める大事な数字に、バンドギャップがあります。電子が自由に動き出すために越える「段差」の高さです。単位はeV(電子ボルト)で、シリコンは1.12 eV、GaNは約3.4 eVです。GaNの段差は、シリコンの約3倍あることになります。

シリコンより段差が大きい材料を、ワイドバンドギャップ半導体と呼びます。GaNのほか、SiC(炭化ケイ素)もこの仲間です。この記事では、主に電気を切り替える部品としてのGaNを見ていきます。

しくみ① 強い電気の力に耐えるので、チップを小さくできる

電圧をかけると、材料の中に電子を押す「電気の力」が生まれます。力が強すぎると、勢いのついた電子が原子にぶつかり、新しい電子をたたき出します。これがなだれのように増えると、電流が止められなくなります。段差が大きい材料では、電子をたたき出すのに大きなエネルギーが要ります。そのため、この現象が起きにくいのです(ここでは単純化しています)。

電気の力の強さは、電圧を、それを受け止める層の厚さで割ったものです。耐えられる限度は、厚さ1センチあたりシリコンで約30万ボルト、GaNで約330万ボルトです(東芝の物性値の表)。GaNはシリコンの約10倍です。耐えられる力が10倍なら、同じ電圧を約10分の1の厚さで受け止められます。電流を横に流すGaNのトランジスタ(次の節)では、この「厚さ」は電極と電極の間の距離にあたります。

層が薄ければ、電流が通る道のりも短くなります。その結果、オンのときに残る抵抗(オン抵抗)を小さくできます。抵抗が同じでよいなら、チップの面積を小さくできるということです。

チップが小さいことは、切り替えの速さにもつながります。トランジスタは、オン・オフのたびに、内部に少し電気を出し入れする必要があります。小さなチップほど、この量が少なくてすみます。だから、GaNのトランジスタは速く切り替えられるのです。

しくみ② 境目にできる「電子の通り道」

GaNのもう一つの強みは、電子の通り道の作り方にあります。GaNの上に、アルミニウムを混ぜた薄い層(AlGaN)を重ねます。すると、2つの層の境目のすぐ下に、電子が薄い膜のように集まります。この電子の膜を、2次元電子ガス(2DEG)と呼びます。

GaNやAlGaNの結晶は、原子の並び方のせいで、内側にプラスとマイナスの電気の偏りを持っています。偏りの大きさが2つの層で違うので、境目にはプラスの電気が残ります。このプラスに、電子が引き寄せられるのです(ここではかなり単純化しています)。集まる電子は、1平方センチメートルあたり数兆〜20兆個ほどになります(Ambacherらの1999年の論文)。

シリコンで電子を増やすときは、ふつう別の元素を少し混ぜます。混ぜた原子は、電子が走るときの障害物にもなります。2DEGは、電子を増やすための混ぜ物なしで集まるので、電子がぶつかる相手が少なくてすみます。電子の動きやすさ(移動度)は、室温でおよそ1,500〜2,000 cm²/(V·s)です。電子が多く集まっても、混ぜ物の少ないシリコンの電子(約1,400)並みに動けるのが強みです。

GaNのトランジスタ(HEMT)の断面。シリコンの板の上にGaNとAlGaNの層を重ね、境目のすぐ下に電子の膜ができる ソース ゲート ドレイン AlGaN(薄い層) 電子の通り道(2DEG) GaN なじませる層 シリコンの板 電子は表面に沿って横に流れる ゲートの電圧で、すぐ下の膜を消す
GaNのトランジスタ(HEMT)の断面のイメージ。矢印は電子が進む向き(電流の向きはその逆)。なじませる層は、シリコンとGaNの違いを和らげる層(後で説明)。縮尺は正確ではなく、AlGaNは数十nm、電子の膜は厚さ数nmほど。省略していること: 表面を守る膜、電極の細かい形、なじませる層の何層もの重なり。

この通り道を使うトランジスタを、HEMT(高電子移動度トランジスタ)と呼びます。上に並んだ電極のうち、真ん中のゲートに電圧をかけて、すぐ下の電子の膜を消したり戻したりします。電流はチップの表面に沿って横に流れ、多くのパワー半導体のように縦には流れません。

HEMTを考え出したのは、富士通研究所の三村高志氏です。1979年、GaNではなくガリウムヒ素(GaAs)という材料で発想しました。衛星放送の受信機などに広まり、2019年12月にIEEE(電気・電子の学会)のマイルストーンとして銘板が贈られています。GaNのHEMTは、住友電工のグループが2000年代半ばに基地局向けの量産を始めています。

しくみ③ 速く切り替えると、なぜ充電器が小さくなるのか

充電器は、コンセントの交流をいったん直流にし、それを細かくオン・オフして変圧器に通します。変圧器は、2つのコイルで電圧を上げ下げする部品です(「交流と直流の違いとは?」)。最後に、電気をためて少しずつ出すコンデンサで、なめらかな直流にします(「コンデンサとは?」)。

変圧器とコンデンサは、1回のオン・オフの間、電気のエネルギーをいったん預かる役目をしています。1秒間に送る電気の量が同じなら、切り替えの回数を10倍にすると、1回に預かる量は10分の1ですみます。預かる量が少ないほど、部品は小さくできます。

切り替えの回数を増やすと、1回に預かる電気が減り、変圧器を小さくできる ゆっくり切り替え 変圧器 速く切り替え 変圧器 時間 → 1回分が少ないので、小さくてすむ
同じ時間に、上は2回、下は8回オンにしたときのイメージ。箱の大きさは考え方を示すためのもので、実際の大きさの比ではない。省略していること: コンデンサ、整流の回路、制御用のチップ、切り替えの途中の波形。

ここでGaNの出番です。切り替えのたびに、電気の一部が熱になって失われます。これをスイッチング損失と呼び、回数を増やすほど合計が増えます。シリコンのトランジスタで回数を増やしすぎると、熱が増えて効率が落ちてしまいます。

GaNのトランジスタは、1回あたりの損失が小さいので、回数を増やしても熱が増えにくいのです。目安として、シリコンでは1秒に数万〜10万回ほど(数十〜100キロヘルツ)の設計が多くあります。GaNでは、数十万回から100万回(1メガヘルツ)ほどで動かす設計もあります。

損失が小さければ熱も少なく、熱を逃がす金属の板(放熱板)も小さくできます。充電器が小さくなるのは、速い切り替えと少ない熱の両方のおかげです。

GaN・SiC・シリコンの使い分け

パワー半導体の主な3つの材料を、大まかに比べます。

材料得意な電圧主な使い道
シリコン低い電圧から数千ボルトまで安い。多くの電源、家電、電車、電気自動車
SiC600ボルト級から数千ボルト電気自動車のモーター用、鉄道、太陽光発電
GaN数百ボルトまでが中心小型の充電器、サーバーの電源、基地局の増幅器

SiCは熱を逃がしやすく、高い電圧と大きな電力に向きます。GaNは、数百ボルトまでの範囲で、速い切り替えが生きる場面に向きます。シリコンは安く大量に作れるので、速さがそれほど要らない場面では、今も最も経済的です。くわしくは「SiCとGaNの違い」「SiとSiCの違い」の表にまとめています。

基地局で使われるのも、同じHEMTです。こちらは、電気をオン・オフするのではなく、電波の信号を強くする増幅器として使います。高い電圧に耐え、たくさんの電子を速く動かせるので、小さなチップで大きな電波の力を出せます。三菱電機の2024年の部品は、1秒に33億〜38億回振動する電波(3.3〜3.8ギガヘルツ)で、平均16ワットを出します(「5Gとは?」)。

電気自動車では、モーターを回すインバータ(直流を交流に変える装置)に、主にSiCやシリコンが使われています。GaNは、家で電池を充電するための車載充電器などで、研究と採用が始まったところです。欧州の研究計画「HiPower 5.0」は、GaNで22キロワットの車載充電器を4リットルに収める目標です。市場の平均の12リットルの3分の1です(フラウンホーファーIZM、2026年4月)。

GaNの難しいところ

大きなGaNの板を作りにくい

シリコンは、溶かした液から大きな結晶を引き上げて、直径300ミリの円い板(ウエハ)を作れます。GaNは、ふつうの圧力で熱すると、溶ける前に窒素が抜けてしまいます。そのため、同じやり方では大きな結晶を作れません。多くの場合、シリコンなど別の材料の板の上に、GaNの薄い膜を育てて使います。

違う材料の上に結晶を育てることを、ヘテロエピタキシーと呼びます。シリコンとGaNは、原子の並ぶ間隔が違います。これを格子不整合と呼びます。冷えるときの縮み方も違うので、そのまま育てると、結晶に傷が入ったり、板が割れたり反ったりします。間に「なじませる層」を何層もはさんで、この問題を和らげています。

シリコンの板は、安くて大きく、シリコンの工場の設備を使えるのが利点です。インフィニオンは2024年9月、直径300ミリのシリコンの板にGaNを育てる技術を開発したと発表しました。200ミリの板に比べて、1枚から取れるチップは2.3倍になるとしています。なお、LEDでは主にサファイアの板が使われます。

何もしないと「オン」のまま

2DEGは、ゲートに電圧をかけなくても、最初からそこにあります。つまり、基本の形のHEMTは、何もしないと電流が流れる「ノーマリーオン」です。電源の回路では、これは危険です。制御の回路が止まったとき、スイッチが入ったままになり、大きな電流が流れ続けるおそれがあるからです。

そこで、電圧をかけないときは切れているノーマリーオフにする工夫が使われます。代表的なのは、ゲートの下に「p型」のGaNの層を入れる方法です。p型は、正孔(電子が抜けた穴)が多いタイプで、その下の電子の膜をあらかじめ消しておけます。この方式では、ゲートにかけてよい電圧の幅がせまく、ゲートに電圧をかける回路(ゲートドライバ)に注意が要ります。ほかに、低い電圧用のシリコンのトランジスタを1列につなぎ(直列)、組み合わせ全体をノーマリーオフにする方法もあります。

長く使ったときの確かさと、値段

GaNのパワー半導体は歴史が浅く、長く使ったときのふるまいの調べ方も、整えられている途中です。例えば、高い電圧をかけたあと、電子が結晶の傷にとらえられ、一時的に抵抗が上がることがあります。半導体の規格を作る団体のJEDECは、2017年に委員会(JC-70)を作りました。ワイドバンドギャップ半導体の試験方法などを決めるためです。

値段も課題です。部品1個で比べると、シリコンのトランジスタのほうが今も安いのがふつうです。ただし、変圧器や放熱板が小さくなる分、製品全体では得になる場合があります。業界の動きも速く、買収が続いています。2023年10月にインフィニオンがGaN Systemsを、2024年6月にルネサスがTransphormを買いました。一方、受託製造の大手TSMCは、GaNの受託生産を2027年7月末までにやめると報じられました(2025年7月。「ファウンドリとは?」)。

よくある誤解

誤解: GaNの充電器なら、どれも安全で熱くならない

実際は、GaNは損失を減らしますが、ゼロにはしません。例えば、受け取った電力の95%を送り出せる(効率95%)充電器を考えます。100ワットを送り出すとき、受け取るのは約105ワットで、約5ワットが熱になります(当サイトの計算)。しかも小さな充電器は表面が狭く、熱を逃がしにくいので、触ると温かいのは珍しくありません。安全かどうかは、材料ではなく、設計と検査で決まります。日本では、ACアダプターは電気用品安全法の「特定電気用品」で、ひし形のPSEマークの表示が義務です(経済産業省)。広告で「発熱が少ない」と強調されるので、誤解されやすいのです。

誤解: GaNはシリコンより優れているので、いずれCPUもGaNになる

実際は、CPUのような計算用のチップは、性質の違う2種類のトランジスタを組にしたCMOSで作ります。片方は電子で、もう片方は正孔で電流を運びます。GaNでは正孔がとても動きにくく、動きやすさは電子の数十分の1以下です。p型の層も作りにくく、よい組はまだ研究の段階です(ここでは単純化しています)。また、計算用のチップでは低い電圧で何十億個も並べることが大事で、高い電圧に耐える長所は生きません。

誤解: 「GaN充電器」は、中身がすべてGaNでできている

実際は、GaNなのは主に電気を切り替えるトランジスタで、部品のごく一部です。制御用のチップ、変圧器、コンデンサ、整流用のダイオードなどは、別の材料の部品です。

数字で見る

項目数字ひとこと
段差(バンドギャップ)Si 1.12 eV / GaN 約3.4 eVGaNはシリコンの約3倍
耐えられる電気の力Si 約0.3 MV/cm / GaN 約3.3 MV/cm約10倍。薄い層で受け止める
2DEGの電子の数1 cm²あたり数兆〜20兆個混ぜ物なしで集まる
2DEGの電子の動きやすさ約1,500〜2,000 cm²/(V·s)シリコンの電子は約1,400
基地局用のGaN増幅器平均16 W3.3〜3.8 GHz、三菱電機(2024年)

MV/cmは「厚さ1センチあたり何百万ボルトか」です。移動度の単位cm²/(V·s)は、「1センチに1ボルトの電圧をかけたとき、電子が1秒に何センチ進むか」を表します。

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