半導体レーザーとは? LEDとの違いと光通信での使われ方
半導体レーザーは、LEDと同じく、電子と正孔の出会いで光を出す部品です。違うのは、かけらの両端を鏡にして光を往復させ、光に光を呼び出させて増やす点です。そのため色がそろい、細く絞りやすい光になり、光ファイバのインターネットやデータセンターで情報を運んでいます。
この記事でわかること
- レーザーの光がLEDの光とどう違うのか
- 「誘導放出」「反転分布」「共振器」「しきい値」の意味
- 端面発光型とVCSELの2つの形
- 光ファイバの通信で1310nmと1550nmが使われる理由
- シリコンでレーザーが作りにくい理由と、安全のクラス分け
前提知識: LEDが光るしくみを知っていると読みやすくなります(「LEDはなぜ光る?」)。
身近なところでは
半導体レーザーは、小さな半導体のかけらから、色のそろった光を出す部品です。レーザーダイオード(LD)とも呼びます。ダイオードは電流を一方向にだけよく流す部品で、半導体レーザーもその仲間です。
2000年のノーベル物理学賞の発表は、使い道の例をいくつか挙げています。光ファイバのインターネット、CDプレーヤー、バーコードの読み取り機、レーザーポインターです。CDは1982年に発売され、円盤の細かな凹凸をレーザーの光で読み取ります。DVDやブルーレイディスクも同じしくみです。
スマホの中にもあります。2017年のiPhone Xから使われている顔認証(Face ID)は、目に見えない赤外線の点を顔に数千個映します。その点の並びから、顔の凹凸を測ります。この光源が、後で説明するVCSELという半導体レーザーです(Apple)。2020年のiPad Proには、光が戻るまでの時間で距離を測るLiDARスキャナが載りました。
目に見えない所では、データセンターの中で大量に使われています。サーバーやネットワーク機器は、光の配線で結ばれています。2022〜2023年に発表された部品では、1本の光で1秒に100〜200ギガビットを送ります。
レーザーの光は何が特別なのか
LEDの光と比べると、レーザーの光には3つの特徴があります。
- 色が1つにそろう: 波長(光の波の長さ)の幅がとても狭い
- 波の調子がそろう: 波の山と谷の位置が、そろったまま進む
- 細く絞りやすい: レンズで小さな点に集めたり、平行な光にして遠くへ届けたりできる
LEDの光は、色に幅があり、四方に広がります。部屋を照らすには向いていますが、細いガラスの線に入れて遠くへ送るのは苦手です。なお、半導体レーザーの光も、出口がとても小さいので出た直後は広がります。そこでレンズで整えてから使います。違いは「LEDと半導体レーザーの違い」の表でも比べられます。
しくみ① 光が光を呼ぶ「誘導放出」
出発点はLEDと同じです。性質の違う2種類の半導体の境目(PN接合)に電流を流します。すると電子と正孔(電子の空席)が出会い、そのエネルギーが光の粒として出ます。LEDでは、この出会いがそれぞれ勝手なときに、勝手な向きで起きます。これを自然放出と呼びます。
出会う直前の電子のそばを、ちょうど同じエネルギーの光の粒が通ると、電子はつられて光を出します。新しい光は、通った光と同じ色・同じ向き・同じ波の調子です。これを誘導放出と呼び、1917年にアインシュタインが理論で予言しました。
誘導放出では、1個の光の粒が2個になります。その2個が別の電子に光を出させれば4個になり、次々に増えます。レーザー(LASER)という名前も、英語の「誘導放出による光の増幅」の頭文字です。
しくみ② 増やすには「反転分布」が要る
光の粒は、電子に光を出させるだけではありません。低いエネルギーの電子に当たると吸い込まれ、その電子を持ち上げるのに使われます。ふつうの状態では低い側の電子のほうがずっと多いので、光は増える前に吸い込まれてしまいます。
光を増やすには、光を出せる高いエネルギーの電子を、低い側より多くする必要があります。ふつうとは逆の並び方なので、これを反転分布と呼びます。半導体レーザーでは、大きな電流で電子と正孔を光る層に次々に送り込み、この状態を作ります。ここでは話を簡単にするため、電子のエネルギーの細かな分布は省いています。
しくみ③ 両端の鏡で光を往復させる
反転分布ができても、光がかけらを1回通るだけでは、増え方はわずかです。そこで光る層の両端に鏡を置き、光を何度も往復させます。往復のたびに光は増え、向きもそろっていきます。この鏡の組を共振器と呼びます。
多くの半導体レーザーでは、鏡は別の部品ではありません。結晶を決まった向きに割ると、原子の並びに沿った平らな面ができます。この割った面(へき開面)がそのまま鏡になります。半導体と空気では光の進み方が大きく違うので、境目で光の約3割がはね返るのです。
残りの約7割は鏡を通り抜けて外へ出ます。これが、私たちが使うレーザーの光です。片方の面に反射を強める膜をつけ、もう片方から多く取り出す製品もあります。
しくみ④ 光り始める電流「しきい値」
半導体レーザーに流す電流を0から少しずつ増やすと、はじめはLEDのように弱く光るだけです。往復の途中で失われる光が、増える光より多いからです。光は鏡から外へ出たり、結晶の中で吸い込まれたりして失われます。
電流がある値を超えると、増える分が失われる分を上回り、そろった光が急に強くなります。この境目の電流をしきい値電流と呼びます。それより上では、電流を増やした分だけ光が強くなります。
しきい値は温度で変わり、温まると上がります。光の色もわずかにずれます。そのため通信用のレーザーでは、温度を一定に保つ部品を組み合わせることもあります。
2つの形: 端面発光型とVCSEL
ここまでの図のように、横に長いかけらの端から光を出す形を、端面発光型と呼びます。光る層が長いので強い光を出しやすく、光ファイバの長距離の通信や光ディスクで使われてきました。
もう一つは、チップを作る円い板(ウエハ)の面に垂直に光を出すVCSEL(ビクセル)です。日本語では面発光レーザーと呼びます。光る層の上下に、薄い膜を数十層重ねた鏡を作り、光を縦に往復させます。
| 端面発光型 | VCSEL | |
|---|---|---|
| 光が出る向き | かけらの横の端から | ウエハの面から上へ |
| 鏡 | 結晶を割った面 | 薄い膜を重ねた鏡 |
| 得意なこと | 強い光、長距離の通信 | 割る前に検査できる。たくさん並べやすい |
| 主な使い道 | 光ファイバの通信、光ディスク | 顔認証、データセンターの短い配線 |
色は材料で決まる
レーザーの色(波長)も、LEDと同じく、電子が落ちるときのエネルギーの段差(バンドギャップ)で決まります。段差は材料ごとに決まり、大きいほど波長の短い光になります。使うのは、ガリウムヒ素のように2種類以上の元素を組み合わせた半導体です。周期表の13族と15族の元素の組み合わせが多く、III-V族化合物半導体と呼びます。下の表の材料名は、主な系統だけを示しています。
| 使い道 | 波長 | 主な材料 |
|---|---|---|
| ブルーレイ | 405nm(青紫) | 窒化ガリウム(GaN)系 |
| DVD | 650nm(赤) | AlGaInP系 |
| CD | 780nm(赤外) | AlGaAs系 |
| データセンターの短い配線 | 850nm(赤外) | ガリウムヒ素(GaAs)系のVCSEL |
| 光ファイバの通信 | 1310nm・1550nm(赤外) | InP系 |
波長が短いほど、光を小さな点に絞れます。CDからDVD、ブルーレイへと波長を短くするたびに、同じ大きさの円盤に多くのデータを入れられるようになりました。
光ファイバが1310nmと1550nmを使う理由
光ファイバは、髪の毛ほどの細いガラスの線に光を通すケーブルです(「インターネットでデータが届くしくみ」)。ガラスはどの色の光も同じように通すわけではありません。光が弱まる割合は波長で変わり、1550nm付近で最も小さくなります。
標準的なファイバでは、1550nmの光が1kmで弱まる量は約0.2デシベルです。大手メーカーの製品の上限値は、1kmあたり0.18〜0.22デシベルほどです(2024年時点)。デシベルは「何分の1になったか」を表す目盛りで、0.2デシベルは約5%の減少です。100km進んでも、約1%の光が残ります(「デシベルとは?」)。
1310nm付近は、ファイバの中を進む速さが、波長によってほとんど変わらない所です。レーザーの光にもわずかに色の幅があるので、ほかの波長では光の点滅の形が少しずつ崩れます。1310nmでは崩れにくいので、データセンターの中や、10km程度までの通信でよく使われます。
この2つの波長の範囲はOバンド(1310nm付近)とCバンド(1550nm付近)と呼ばれます。どちらの光も、InPの基板の上に作った半導体レーザーで効率よく出せます。
光をすばやく点滅させて情報を送る
光通信では、光の強弱を0と1に対応させて情報を送ります。半導体レーザーは、電流を変えるとすぐに光の強さが変わります。そのため、電流で直接点滅させる方法がVCSELなどで使われています。
もっと速く送るときは、レーザーを点けたままにして、すぐ前に置いた「光のシャッター」で点滅させます。光の強さを4段階に分けて、1回の点滅で2ビットを送る工夫も使われます。2022年にCoherent社は、レーザーとシャッターを1つのかけらにまとめた部品を発表しました。1本の光で毎秒200ギガビットを送れます。ここで「シャッター」と書いたのは単純化で、実際は電圧で光の吸い込み方を変える部分です。
シリコンでレーザーを作りにくい理由
パソコンやスマホのチップはシリコンで作ります。ところがシリコンは間接遷移型の半導体で、電子と正孔が出会っても、ほとんど光になりません。エネルギーの多くは熱になってしまいます。理由は「直接遷移型と間接遷移型の違い」で比べられます。
一方、シリコンは1310nmや1550nmの光をほとんど吸い込まず、よく通します。そこで、シリコンのチップの上に光の部品を作るシリコンフォトニクスが広がっています。光の通り道やシャッター、受光部(光を電気に変える部分)などです。光の源だけは、InPなどのレーザーを貼り合わせるか、別の部品から光を入れて補います。
安全のためのクラス分け
レーザーの光は細く強いまま進むので、目に入ると網膜を傷つけるおそれがあります。そこで国際規格IEC 60825-1は、危険の大きさでレーザー製品をクラスに分けています。日本ではJIS C 6802がこれに対応します。
- クラス1: ふつうに使う限り安全。たとえばiPhone 15 Proはこのクラスです(Apple)
- クラス2: 目に見える光で、出力は1ミリワットまで。まぶしくて目を閉じる反射で守られる程度
- クラス3R・3B: 直接見ると目を傷つけるおそれがある
- クラス4: 散らばった反射光でも危険で、やけどや火災のおそれもある
このほか、虫眼鏡や双眼鏡で見たときだけ危険な1M・2Mもあります。日本ではレーザーポインターは法律で特に管理される製品で、基準に合うものにPSCマークが付きます(国民生活センター)。赤外線のレーザーは目に見えないので、まぶしさで危険に気づけない点にも注意が要ります。
半導体レーザーの歩み
1962年秋、米国の4つのグループが、それぞれ独立に半導体レーザーを実現しました。GE社の2つの研究所、IBM、MITリンカーン研究所です。多くはガリウムヒ素で、GEのホロニアックらは目に見える赤い光を出しました。ただし、液体窒素(約−196℃)などで冷やし、ごく短い時間だけ電流を流す必要がありました。
部屋の温度で光らせ続けるには、少ない電流で反転分布を作る工夫が要りました。答えは、光る層を、段差の大きい別の半導体で上下から挟む作りです。電子と正孔、そして光が真ん中の層に集まります。これをダブルヘテロ構造と呼びます(ヘテロは「異なる」という意味)。
1970年、ソ連のアルフェロフらと、米国ベル研究所の林厳雄氏・パニッシュ氏が、ほぼ同時に室温で光り続けるものを作りました。報告はアルフェロフらがわずかに早く、林氏らも同じ年の6月に確認しています。この作りは、1963年にアルフェロフらとクレーマーが別々に提案していました。2人はこうした「ヘテロ構造」の研究で、2000年のノーベル物理学賞を受けました(賞の半分は集積回路のキルビー)。
よくある誤解
誤解: レーザーの光は、赤や緑の目に見える光だ
実際は、多くの半導体レーザーは赤外線を出し、目に見えません。顔認証の点の光も、光ファイバの1310nmや1550nmの光も赤外線です。身近なレーザーポインターが赤や緑なので、レーザーは見えるものと思われやすいのです。
誤解: LEDに大きな電流を流せば、レーザーになる
実際は、光を往復させる共振器がなければ、誘導放出で光がそろって増えることはほとんどありません。LEDは明るくなるだけで、色の幅や広がり方は変わりません。どちらもPN接合で光るので、明るさだけの違いに見えやすいのです。
誤解: シリコンは光をまったく扱えない
実際は、シリコンは通信用の赤外線をよく通し、光の通り道や光のシャッター、受光部をチップの上に作れます。苦手なのは「光を出すこと」です。そのためシリコンフォトニクスでは、光の源だけを化合物半導体に任せています。
数字で見る
| 項目 | 数字 | ひとこと |
|---|---|---|
| 最初の半導体レーザー | 1962年 | 4グループ。液体窒素で冷やした |
| 室温で光り続けた | 1970年 | ダブルヘテロ構造 |
| へき開面ではね返る光 | 約3割 | 残りが外へ出る |
| 光ファイバの損失(1550nm) | 1kmで約0.2dB | 100kmで約1%が残る |
| 1本の光で送る速さ | 毎秒200ギガビット | 2022年に発表された部品の例 |
| クラス2の出力 | 1ミリワットまで | 目に見える光のレーザー |
200ギガビットは、1秒に2,000億個の0と1を送る量です。光の強さを4段階に分けると、1回で2ビットを送れます。そのため明るさの切り替えは1秒に約1,000億回です。指先ほどの部品の中の小さなかけらが、これだけの速さで明るさを変えています。
もっと詳しく学ぶ
- 違いを表で見る: LEDと半導体レーザーの違い、シングルモードとマルチモードの光ファイバの違い、NRZとPAM4の違い(光の強さを何段階に分けるか)
- 次の一歩の用語: 量子井戸(光る層をさらに薄くした作り)、WDM(波長多重)(色の違う光を1本にまとめる)
- 光とチップの近い未来: CPO(コパッケージドオプティクス)(光の部品をチップのすぐ隣に置く)
- 光るしくみの基本: 「LEDはなぜ光る?」
- 光を受ける側: 「イメージセンサとは?」