MEMSとは? スマホの中の小さな動く機械のしくみ

約13分 · 更新: 2026年10月23日

MEMS(メムス)は、チップと同じ技術で、シリコンの中に肉眼では見分けられないほど細かい「動く部品」を作り込んだ部品です。スマホの傾きや回転を測るセンサ、マイク、車のエアバッグのセンサ、プリンタのヘッド、プロジェクタの鏡などに使われています。多くのセンサでは、ばねで支えたおもりや薄い膜がわずかに動き、そのすき間の変化を電気の変化として読み取ります。

この記事でわかること

  • MEMSとは何か、身の回りのどこに使われているか
  • スマホの加速度センサとジャイロスコープが、動きを測るしくみ
  • 動く部品をチップの技術で作る方法(犠牲層エッチング・ボッシュプロセス)
  • 小さく作る利点と、張り付きや包み方の難しさ

前提知識: とくになし。電気をためる部品(コンデンサ)の考え方を少し使いますが、本文で説明します。

身近なところでは

スマホを横に向けると、画面も横向きに切り替わります。アップルは2007年、最初のiPhoneの発表資料で、この切り替えに傾きを感じる加速度センサを使うと説明しています。2010年のiPhone 4には、回転の速さを測るジャイロスコープも加わりました。どちらも、中に小さな動く部品をもつMEMSです。

通話や音声入力に使うマイクにも、MEMSが広く使われています。車では、ぶつかったときの急な減速を感じて、エアバッグを開く合図を出すセンサに使われてきました。インクジェットプリンタのヘッドや、映画館のプロジェクタの中にもあります。これらは、後の節で一つずつ見ていきます。

MEMSとは: チップの作り方で作る小さな機械

MEMSは、英語のMicro Electro Mechanical Systemsの頭文字です。「とても小さな電気と機械のしくみ」という意味です。電気の回路だけでなく、しなるばねや揺れる膜のような機械の部分を、小さな部品にまとめたものを指します(MEMS)。

特徴は、チップと同じ道具で作ることです。シリコンの円い板(ウエハ)の上に膜を重ね、光で模様を写し、いらない部分を削ります(「半導体チップはどうやって作られる?」)。ふつうのチップは、こうして配線やトランジスタを作ります。MEMSでは、削った結果として「動ける形」を残します。

シリコンは、電気の部品の材料としてだけでなく、ばねの材料としても優秀です。小さく作ったシリコンのばねは、折れない範囲なら、曲げても元の形にきちんと戻ります。1982年に米国のカート・ピーターセンが論文「機械材料としてのシリコン」で、この考え方を広く紹介しました。

大きさの例を挙げます。米国アナログ・デバイセズの動きを測るセンサADXL105では、センサの部分は0.5 mm × 0.4 mmほどです。厚さは2 µm(1000分の2 mm)しかありません(同社の技術誌)。

しくみ① 加速度センサ: ばねで支えたおもり

速さが変わる度合いを、加速度と呼びます。止まっていた電車が動き出すときや、車がブレーキで止まるときに生じます。加速度を測る部品が、加速度センサです。

中には、ばねで支えた小さなおもりが入っています。部品の外側が急に動くと、おもりはその場にとどまろうとして、少し遅れます。その結果、おもりは外側に対してわずかにずれます。加速度が大きいほど、ずれも大きくなります。

ばねで支えたおもりの両側に、動かない電極がある。部品が右へ動き出すと、おもりは遅れて左へずれ、左のすき間が狭く、右のすき間が広くなる 動き出すと、おもりが遅れる ばね おもり 狭い 広い 固定 電極 固定 電極 部品全体が右へ動き出す
真上から見た加速度センサのイメージ。上と下の四角は、土台に固定された支え。ずれは大きく誇張している。省略していること: 実際は電極が櫛の歯のように何十本も並ぶこと、上下や前後の向きを測る部分、読み取りの回路。

加速度センサは、重力も感じます。机に置いたスマホの中でも、おもりは重力で下へ引かれ、少しずれています。どの向きにずれているかで、本体がどちらに傾いているかがわかります。画面の向きの切り替えは、このしくみを使っています。

車のエアバッグにも、このセンサが使われてきました。アナログ・デバイセズは1991年、エアバッグ向けの加速度センサADXL50を発表しました。1993年までに量産も始めています(部品販売会社Digi-Keyの解説)。センサと読み取りの回路を1つのチップに収め、自分の故障を確かめる機能も持たせていました。それまでは、筒の中を玉が動く機械式のセンサが主流でした。

しくみ② ずれを電気で読む: すき間とコンデンサ

おもりのずれはとても小さく、そのままでは見えません。そこで、おもりのすぐそばに、動かない板を置きます。この板を電極と呼びます。電気を通す板で、おもりとすき間をはさんで向かい合います。

すき間をはさんで向かい合う2枚の板は、電気をためる部品、コンデンサと同じ形です。ためられる電気の量は、すき間が狭いほど大きくなります(「コンデンサとは?」)。おもりがずれてすき間が変わると、ためられる量も変わります。チップの中の回路が、この変化を測ります。

実際には、おもりの両側に電極を置きます。片側のすき間が狭くなると、反対側は広がります。2つの差をとれば、温度などで両方が同じように変わる影響を打ち消せます。このように、電気のためやすさの変化で動きを読む方式を、静電容量検出と呼びます。

変化はとても小さいものです。地球の重力と同じ強さの加速度を、1 gと書きます。ADXL105では、1 gを受けても、電気のためやすさは約1500分の1しか変わりません。それを読み取るため、測る回路がすぐそばに作り込まれています。

すき間ではなく、ばねの根もとのゆがみを、電気の通しにくさ(抵抗)の変化として読む方式もあります(ピエゾ抵抗効果)。2つの方式の違いは、「静電容量式とピエゾ抵抗式のMEMSセンサの違い」で表にまとめています。

しくみ③ ジャイロスコープ: 回転で生まれる横向きの力

ジャイロスコープは、回転の速さを測るセンサです。加速度センサは重力で傾きを知りますが、苦手な動きがあります。スマホを机に平らに置いたまま水平に回しても、重力の向きは変わりません。そのため、加速度センサにはほとんど変化が出ないのです。

MEMSのジャイロスコープの中では、おもりを一定の方向に細かく往復させ続けています。この状態で部品全体が回ると、おもりは往復の向きと直角の方向へ押されます。回転する物の上で動く物に働く、この見かけの力をコリオリの力と呼びます。

押す力は、回転が速いほど大きくなります。おもりが横へずれた量を、加速度センサと同じく、すき間の変化として読みます(MEMSのジャイロスコープの論文)。往復させるための電極と、横のずれを読む電極を、別々に用意するのがポイントです。

作り方① 下の層を溶かして浮かせる

動く部品を作るには、その下にすき間が要ります。しかし、チップの作り方は、膜を下から積み重ねていく方法です。宙に浮いた形を、いきなり上に積むことはできません。

そこで、あとで取り除くための層を先に置いておきます。この層を犠牲層と呼びます。その上に構造の膜を重ね、最後に犠牲層だけを薬品で溶かします。すると上の膜が浮いて、動ける細長い板(梁)や膜になります。この方法が犠牲層エッチングです。

犠牲層エッチングの3つの段階。土台の上に犠牲層を積み、その上に構造の層を作り、犠牲層だけを溶かすと、片側だけ固定された梁が浮く ① 土台の上に犠牲層を積む ② その上に構造の層を作る ③ 犠牲層だけを溶かす 土台 犠牲層 構造
断面のイメージ。③の右の矢印は、浮いた梁の先が上下に動けることを表す。縮尺は正確ではない。省略していること: 光で模様を写す工程、配線、梁の上に重ねる膜。

犠牲層には、ガラスの主な成分である二酸化ケイ素がよく使われ、フッ酸という薬品で溶かします。構造の膜には、細かい結晶が集まったシリコン(多結晶シリコン)をよく使います(米国バークレー校の講義資料)。フッ酸は二酸化ケイ素をよく溶かしますが、シリコンはほとんど溶かしません。この溶け方の差で、必要な形だけが残ります。

コンクリートの床を作るとき、下に仮の支えを組み、固まってから外すのに少し似ています。ただし犠牲層は、外すのではなく溶かして流し去ります。できるすき間も、ふつう数µm(1000分の数 mm)以下です。

作り方② 細く深く掘る: ボッシュプロセス

MEMSでは、シリコンを深く、まっすぐに掘りたい場面がよくあります。おもりを重くしたり、電極が向かい合う面積を広げたりするためです。しかし、薬品やガスで削ると、下だけでなく横にも削れがちです。

ここでは、ガスに電気をかけて作る「プラズマ」で削ります(「プラズマとは?」)。1990年代の初め、ドイツの部品メーカーのボッシュが、プラズマで深く掘る方法を開発しました(ドイツの研究機関の資料)。会社の名前をとって、ボッシュプロセスと呼ばれます。

手順は3つです。①少し掘る。②穴の内側全体に、薄い保護の膜をつける。③電気を帯びた粒(イオン)を真上から当てて、底の膜だけを破る。底が出たら、また①で少し掘ります。壁は膜に守られているので、横にはほとんど広がりません。

ボッシュプロセスで掘った細く深い溝の断面と、少し掘る、壁に膜を張る、底の膜を破るという3つの手順のくり返し 3つの手順をくり返す 壁の波は誇張 ① 少し掘る ② 壁に膜を張る ③ 底の膜を破る ①へ戻る
断面のイメージ。左上の矢印は、真上から当たるイオン。上の2つの板は、掘らない所を覆う膜(マスク)。省略していること: 実際は幅に比べてもっと深く掘れること、使うガスの種類、壁の保護膜の厚さ。

このくり返しで、幅に比べてずっと深い穴や溝が掘れます。ただし少しずつ掘るので、壁には細かい波の形が残ります。最初の商用の装置は、1995年に英国の装置メーカー(今のSPTS社)が出荷しました(同社の資料)。今では、チップを縦に貫く穴を開ける工程にも使われています。

小さく作るとなぜよいのか

1つ目は、安く作れることです。1枚のウエハに同じ部品を数千個以上(部品の大きさによる)並べ、まとめて作れます。一つずつ組み立てる機械の部品と比べて、1個あたりの値段を大きく下げられます。

2つ目は、使う電気が少ないことです。動かす部分がとても軽いので、少しの電気で動かしたり、測ったりできます。スマホが一日じゅう歩数を数えていられるのは、この省電力のおかげでもあります。

3つ目は、そろった品質で大量に作れることです。調査会社のYole Groupによると、2024年に世界で出荷されたMEMSは約310億個、売上は約154億ドルでした。同じ品質の部品を、これだけの数そろえられるのは、チップの作り方を使っているからです。

難しいところ: 張り付きと、包み方

小さな世界では、重さよりも、表面どうしが引き合う力が目立ちます。とくに危ないのは、犠牲層を溶かしたあと、洗った水を乾かすときです。すき間に残った水の表面が縮もうとする力で、浮かせた梁が土台に引き寄せられ、張り付いてしまいます。この現象をスティクションと呼びます。

対策の一つは、水をアルコール、さらに液体の二酸化炭素に入れ替えてから乾かす方法です。圧力と温度を上げて、液体と気体の境目ができない状態にするので、縮もうとする力が働きません(バークレー校の講義資料)。表面に水をはじく膜をつけ、使っている間の張り付きを防ぐ工夫もあります。

もう一つの難しさは、包み方(パッケージ)です。ふつうのチップは樹脂で固めて守ります(「チップのパッケージとは?」)。しかしMEMSを固めると、動けなくなります。そこで、動く部分の上に小さなふたをかぶせ、空間を残して封じます。

ジャイロスコープは、中を真空に近くして封じることがよくあります(MEMSの封止の論文)。空気があると、往復の揺れがすぐ弱まってしまうからです。反対にマイクは、音が入る穴が要ります。部品ごとに、守り方と外とのつなぎ方を工夫しなければなりません。

ほかの身近なMEMS

MEMSマイク

薄い膜と、たくさんの穴をあけた固い板が、すき間をはさんで向かい合っています。音で空気の圧力が変わると膜が揺れ、すき間が変わります。これを、加速度センサと同じくコンデンサの変化として読むのが代表的な方式です(2024年のMEMSマイクの総説論文)。米国のノウルズは2000年代の初めにMEMSマイクを売り出しました。同社の技術者は2006年の論文で、これを「最初に商品化されたMEMSマイク」と呼んでいます。

インクジェットプリンタのヘッド

ここでは熱を使う方式を紹介します。ノズルの奥の小さなヒーターでインクを一瞬熱すると、泡ができて、インクの粒が押し出されます。HPはこの方式のプリンタThinkJetを1984年に発売しました(HPの資料)。1997年の米国研究評議会の報告書は、このヘッドを、数でも金額でもMEMSで最大の商業的成功と書いています。

プロジェクタの小さな鏡

米国テキサス・インスツルメンツ(TI)のラリー・ホーンベックは、1987年に小さな鏡を並べた部品(DMD)を作りました。米国機械学会(ASME)は、最大で約200万個の鏡を並べた部品と紹介しています。基本は鏡の1枚が映像の1点を受け持ち、傾きを変えて、光をレンズへ送るか、外へそらすかを切り替えます。

傾きは、たとえば車向けの製品では+12°と−12°の2通りです(TIのデータシート)。明るさは、鏡が光をレンズへ送っている時間の長さで表します。この部品を使う映し方はDLPと呼ばれ、映画館の映写機にも使われています(米国MITのレメルソン・プログラム)。

よくある誤解

誤解: MEMSは、小さな歯車やモーターが回る「ミニチュアの機械」だ

実際は、身近な製品のMEMSの多くは、こすれ合う部分をもちません。ばねのようにしなる梁や、揺れる膜で動きます。小さな世界では表面どうしがくっつく力が強く、こすれる部分は張り付いたりすり減ったりしやすいからです。歯車は分かりやすい絵として描かれがちですが、量産品の主役ではありません。

誤解: スマホは、ジャイロスコープだけで向きを知っている

実際は、下がどちらか(傾き)は、加速度センサが重力から知ります。2007年の最初のiPhoneは、ジャイロスコープなしで、加速度センサで画面の縦横を切り替えていました。ジャイロスコープは回転の速さを測る係で、両方の結果を合わせて、動きをなめらかに追います。

誤解: MEMSは、チップとはまったく別の技術で作る

実際は、膜をつける、模様を写す、削るという基本の道具は、チップと共通です。バークレー校の講義資料は、表面に作るMEMSを、チップの製造装置だけで作れる方法と説明しています。そのうえで、犠牲層を溶かす、深く掘る、ふたで封じるといった、MEMS向けの工程を加えます。

数字で見る

数字何の数字か
0.5 mm × 0.4 mm、厚さ2 µm加速度センサADXL105のセンサの部分の大きさ(アナログ・デバイセズ)
約0.5 µg同じセンサのおもりの重さ(µgは100万分の1グラム)
約1500分の1同じセンサが1 gの加速度を受けたときの、電気のためやすさの変化の割合
1987年プロジェクタ用の小さな鏡の部品(DMD)が作られた年(ASME)
1991年エアバッグ向けの加速度センサADXL50が発表された年
約310億個2024年に世界で出荷されたMEMSの数(Yole Group、2025年の発表)

表の「1 g」は加速度の単位で、重さの1 g(グラム)とは別物です。おもりの重さは約0.5 µgで、1円玉(1グラム)の200万分の1です。そんなに軽いおもりのずれを、電気で読み取っているのです。

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