モバイルバッテリーのしくみ: 10000mAhで何回充電できる?
モバイルバッテリーは、リチウムイオン電池のセルと、電気をUSBの電圧に変えるチップでできた「持ち歩ける電池」です。「10,000 mAh」はセルの電圧(約3.7 V)で数えた量です。5 Vに変える回路などで一部が熱になり、スマホの電池に入るのは、この記事の計算例で7割あまりです。比べるときや飛行機に乗るときは、エネルギーの量を表すWh(ワット時)を見ます。
この記事でわかること
- モバイルバッテリーの中に入っている部品と、それぞれの役目
- 「10,000 mAh」でスマホを何回充電できるか、計算のしかた
- Whで見る理由と、飛行機に持ち込むときのルール(2026年10月時点)
- 発火することがある理由と、安全な選び方・使い方・捨て方
前提知識: 電圧(V)と電流(A)の大まかな意味。掛け算と割り算を少し使います。電池そのもののしくみは「リチウムイオン電池とは?」にゆずります。
身近なところでは
外出先でスマホの残りが少なくなったとき、カバンからモバイルバッテリーを出してつなぐ人は多いでしょう。箱には「10,000 mAh」「20,000 mAh」のような大きな数字が書かれています。
ところが、4,000 mAhのスマホなら2.5回、と計算しても、実際は2回も充電できないことがよくあります。故障でも、うそでもありません。箱の数字と、スマホに届く量とでは、数える場所が違うのです。
ニュースでは、モバイルバッテリーの発火や、飛行機のルールの変更もよく話題になります。この記事では、中のしくみから順に、数字の読み方と安全な使い方までを見ていきます。
しくみ① 中に入っているもの
モバイルバッテリーの中身は、大きく2つに分かれます(開けると危ないので、図で見ます)。電気をためる電池と、その電気を出し入れする回路の板(基板)です。基板の上では、役目の違うチップがいくつも働いています。
図の下から順に、それぞれの部品の役目を見ていきます。
しくみ② 電気をためる「セル」
電気をためる電池の1個1個を、セルと呼びます。モバイルバッテリーのセルは、スマホと同じリチウムイオン電池です。1セルの電圧は約3.6〜3.7 Vで、表示の値は製品によって違います。容量の大きな製品では、セルを何本か並べてつないでいます。
箱に「リチウムポリマー電池」と書かれた製品もあります。これは別の種類の電池ではなく、リチウムイオン電池の作り方の一つです。中の液体をゼリー状にし、薄い袋に詰めた形のものを、こう呼ぶことが多いのです。使う人から見ると、性質はほぼ同じです(Battery University)。薄く平らに作れるので、薄型の製品に向いています。
しくみ③ 3.7 Vから5 Vを作る
ここで一つ問題があります。USBの電気は、もともと5 Vと決まっています(「USBとは?」)。ところが、セルが出せるのは約3.7 Vです。そのままでは、スマホに渡す電圧が足りません。
そこで、電圧を高くする回路を使います。電気を通す・止めるを、トランジスタのスイッチで1秒に数十万回以上切り替えます。オンの間は、電線を巻いたコイルという部品に、電気のエネルギーをためます。オフになった瞬間、ためたエネルギーを電池の電圧に上乗せして送り出します。ここでは話を簡単にするため、出口の電圧をならす部品などは省いています。
こうして入口より高い電圧を作る回路を、昇圧コンバータと呼びます。電池を充電するチップ(充電IC)には、昇圧の働きも持つものがあります。例はTexas InstrumentsのBQ25895です。速いオン・オフで電気を整える考え方は、「パワー半導体とは?」で説明しています。
昇圧はとても効率のよい方法ですが、損失がゼロではありません。スイッチやコイル、配線には少しずつ抵抗があり、電流が流れると熱が出ます(「抵抗とは?」)。セルの中にも小さな抵抗があり、そこでも熱が出ます。使っているとモバイルバッテリーが温かくなるのは、こうした損失のためです。
しくみ④ 電圧を話し合うPDコントローラ
急速充電に対応した製品は、5 Vだけでなく、9 Vなども出せます。どの電圧にするかは、つないだ相手とケーブルの線を通して話し合って決めます。この話し合いの決まりを、USB PDと呼びます。
話し合いを受け持つのは、PDコントローラというチップです。電圧が決まると、電圧を作る回路に目標の値を伝えます。つないだ直後、話し合いが済むまでは、出ているのは5 Vだけです(「USBとは?」)。
製品によっては、セルの電圧より高い電圧も低い電圧も作れる回路を使います。これを昇降圧コンバータと呼びます。出す電圧の幅が広いときや、いろいろな電圧で充電されるときに便利です。
USB-Cの口が1つでも、モバイルバッテリーは「受ける側」と「送る側」の両方になります。壁の充電器につなげば電気を受け取ってセルを充電し、スマホにつなげば送り出します。
しくみ⑤ 見張り役と、残量の表示
セルのすぐそばには、保護ICという見張り役のチップがあります。電圧が高すぎる、低すぎる、電流が大きすぎる、といった異常を見つけると、電気の通り道のスイッチを切ります。考え方は、スマホの電池パックの保護ICと同じです。
ボタンを押すと光るLEDの数は、残りの量の目安です。残りは、出入りした電流を数えたり、休んでいるときの電圧を測ったりして推定します(Texas Instruments)。製品によって、専用の残量計のチップを使うものと、充電のチップが簡単に推定するものがあります。
使わずにしまっておいても、残りは少しずつ減ります。セル自身がわずかに電気を失ううえ、見張りの回路も止まらずに電気を使うからです。このように、回路が待っているだけで使う電流を静止電流と呼びます。
「10,000 mAh」はスマホで何回ぶん?
mAh(ミリアンペア時)は、電流と時間を掛けた電気の量です。たとえば1,000 mAhなら、1,000 mAの電流を1時間流せます。モバイルバッテリーの「10,000 mAh」は、セルの電圧、つまり約3.7 Vで数えた値です。ところが、スマホへは5 Vなどの高い電圧で送り出します。
電気が運ぶエネルギーは「電圧×電気の量」で決まります。エネルギーそのものを表す単位がWh(ワット時)です。mAhに電圧を掛けて1,000で割ると求められます(ミリは1,000分の1という意味です)。同じエネルギーなら、電圧を上げると、mAhで数えた量は小さくなります。
実際に計算してみます。③まではアンカーのサポートページの例で、④と⑤はこの記事が置いた仮定です。数字は一例で、効率は製品や使い方で変わります。
| 段階 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| ① セルにためた量 | 10,000 mAh × 3.7 V ÷ 1,000 | 37 Wh |
| ② 5 Vで数え直す(損失なし) | 37 Wh ÷ 5 V | 7,400 mAh |
| ③ 昇圧などの損失(効率82 %: アンカーの例) | 37 Wh × 0.82 | 約30.3 Wh(5 Vで約6,070 mAh) |
| ④ スマホ側の充電でも1割失う(仮定) | 30.3 Wh × 0.9 | 約27.3 Wh |
| ⑤ 約15 Whのスマホ(仮定)を空から満タンに | 27.3 Wh ÷ 15 Wh | 約1.8回 |
②で減ったのは数え方が変わったからで、エネルギーは失われていません。本当に熱になって消えたのは、③と④の部分です。箱に小さく書かれた「定格容量」は、多くの場合、③のように出口の5 Vで数えた量です(アンカー)。
⑤のスマホは、4,000 mAh・3.7 Vの電池(約15 Wh)を例にしました。④の27.3 Whをスマホの電池の3.7 Vで数え直すと、約7,400 mAhです。②と同じ数になったのは偶然です。元の10,000 mAhの約74 %で、mAhどうしで割った「2.5回」より少なくなります。
この割合は、条件しだいでもっと下がります。アンカーのよくある質問は、回路の損失や電圧の変換で30〜45 %ほどが使われるとしています。電池が古い、寒い場所で使う、充電しながらスマホを使う、といった条件でも回数は減ります。
飛行機に持ち込むとき: Whで決まるルール
飛行機のルールは、mAhではなくWhで決まっています。電圧が違う電池でも、エネルギーの量で公平に比べられるからです。製品の本体にWhが書かれていれば、その値を見ます。書かれていなければ、mAhにセルの電圧を掛けて1,000で割ります。
日本の国内線と、日本を発着する国際線の国のルールは次のとおりです。2026年4月24日からのもので、この記事を確かめた2026年10月時点の内容です(国土交通省)。
| 項目 | ルール |
|---|---|
| 預ける荷物 | 入れられない(必ず機内へ持ち込む) |
| 持ち込める大きさと数 | 160 Wh以下のものを1人2個まで |
| 機内での充電 | モバイルバッテリーを充電しない。モバイルバッテリーでほかの機器を充電することもしない |
| 置き場所 | 座席の上の収納棚に入れず、手元に置くよう求められている |
収納棚に入れないことは、2025年7月8日から求められるようになりました。国土交通省はその発表で、2025年1月に韓国の空港で旅客機が焼けた火災に触れています。モバイルバッテリーからの発火が原因の可能性がある、と指摘されている火災です。
2026年のルールは、国際基準に合わせたものです。国際民間航空機関(ICAO)が、2026年3月27日に基準を急いで改めました(ICAO)。
このように、ルールは短い間に何度も変わっていて、これからも変わることがあります。航空会社が独自に、もっと厳しいルールを決めていることもあります。乗る前に、必ず利用する航空会社の案内を確かめてください。
なぜ発火することがあるのか
セルの中では、プラス側とマイナス側の電極が、薄い膜をはさんで向かい合っています。膜が破れて両側が中で直接触れると、そこに大きな電流が流れ、ためたエネルギーが短い時間で熱に変わります。この電池の中の近道を、内部ショートと呼びます。
危ない発熱のきっかけは、主に3つあります。落とす、踏む、強く押すといった、外からの傷。作るときに混じった小さな異物や、品質の悪い部材。そして、熱い場所に置くことや、上限を超えて充電されることです(米国の安全研究機関ULRI)。
熱で中の反応が進むと、さらに熱が出て、温度が上がり続けることがあります。この悪循環を熱暴走と呼びます。中の液体は燃えやすいので、煙や火が出ることもあります。くわしいしくみは「リチウムイオン電池とは?」で説明しています。
NITE(製品評価技術基盤機構)が2026年7月15日に発表した資料があります。NITEが受け付けた事故の情報では、リチウムイオン電池を使う製品の事故が、2021〜2025年に2,140件ありました。製品別ではモバイルバッテリーが最も多く、月別では8月が最多です。充電中の事故が多いことも示されています。
安全に選ぶ・使う・捨てる
NITEは、事故を防ぐ合言葉として「3つのC」を挙げています。賢く選ぶ、丁寧に使う、正しく捨てる、の3つです。ここでは、国や公的な機関の案内に沿って紹介します。
選ぶ: PSEマークとリコールを確かめる
日本では、モバイルバッテリーは電気用品安全法という法律の対象です。2019年2月1日からは、丸い形のPSEマークのない製品は売ることができません(経済産業省)。マークの近くには、国に届け出た製造・輸入の事業者の名前も表示されます。
マークがあっても、あとから欠陥が見つかって回収(リコール)されることがあります。たとえば2025年10月には、アンカー・ジャパンがモバイルバッテリーなどのリコールを行いました。セルを作る委託先の工程で、異物が混じったおそれがあるためです(経済産業省)。消費者庁は、買った後も、リコール情報サイトやNITEの検索サイト「SAFE-Lite」で確かめるよう勧めています。
使う: 熱・衝撃・異常に気をつける
- 夏の車の中や直射日光の下など、熱くなる場所で使ったり置いたりしない
- 落としたり、強く押したり、重いものの下に置いたりしない
- 外出中や寝ている間の充電は避け、まわりに燃えやすいものがない、目の届く場所で充電する(NITE)
- ふくらむ、異常に熱い、においがするなどのときは、すぐに使うのも充電するのもやめ、メーカーや販売店に相談する
- 分解や修理はしない
捨てる: ふつうのごみに混ぜない
モバイルバッテリーを燃えないごみなどに混ぜると、収集車や処理施設でつぶされて発火することがあります。環境省によると、こうした火災が各地で起きています。捨てるときは、住んでいる市区町村のルールに従ってください。
メーカーや、家電店などに置かれた回収の箱で引き取る仕組みもあります。対象の製品や、ふくらんだものを受け付けるかどうかは、窓口によって違います。迷ったら、市区町村やメーカーに問い合わせてください。
よくある誤解
誤解: 10,000 mAhなら、4,000 mAhのスマホを2.5回充電できる
実際は、2回に届かないことがふつうです。10,000 mAhは3.7 Vのセルで数えた量で、5 Vに直すと数が減ります。さらに、昇圧やスマホ側の充電で一部が熱になります。比べるならWhで考え、届くのは計算例でも7割あまり、条件によってはもっと少ないと見ておくのが現実的です。
誤解: PSEマークがあれば、絶対に安全
実際は、PSEマークは、製造や輸入の事業者が国の基準に合うことを確かめたうえで付ける表示です。マークのない製品は売れないので、まず確かめる価値はあります。ただし、マークのある製品でも、あとで欠陥がわかってリコールになることがあります。マークに加えて、リコール情報と、熱や衝撃に気をつけた使い方が大切です。
誤解: 100 Wh以下の小さなものなら、飛行機に何個でも持ち込め、機内でも自由に使える
実際は、2026年4月24日から、日本の空港を発着する便では、160 Wh以下のものを1人2個までになりました。機内でモバイルバッテリーを充電することも、それでスマホなどを充電することもできません(国土交通省)。ルールは2025年と2026年に続けて変わったので、古い情報が残っていることがあります。
数字で見る
| 数字 | 何の数字か |
|---|---|
| 約3.6〜3.7 V / 5 V | セル1本の電圧 / USBの基本の電圧 |
| 37 Wh | 10,000 mAh・3.7 Vのセルにためたエネルギー(当サイトの計算) |
| 約30 Wh / 約27 Wh | 10,000 mAhの製品で、5 Vで送り出せる量 / スマホの電池に入る量(計算例。効率82 %はアンカーの例、スマホ側の1割は仮定) |
| 160 Wh・2個 | 機内に持ち込める1個の上限と数(国土交通省、2026年4月24日から) |
| 2019年2月1日 | PSEマークのないモバイルバッテリーが売れなくなった日(経済産業省) |
| 2,140件 | 2021〜2025年のリチウムイオン電池を使う製品の事故。製品別ではモバイルバッテリーが最多(NITE) |
持ち込みの上限の160 Whは、①のセル(37 Wh)の4個ぶんあまりです。大きめの20,000 mAhの製品でも、3.7 Vなら74 Whで、上限の半分ほどです。
もっと詳しく学ぶ
- 関連する記事: 「リチウムイオン電池とは?」(セルの中、熱暴走) / 「USBとは?」(USB PDの話し合い) / 「ACアダプターのしくみ」(コンセント側の充電器) / 「GaN(窒化ガリウム)とは?」(小さな充電器) / 「ワイヤレス充電とは?」(置くだけで充電するモバイルバッテリーも)
- 違いを表で見る: 降圧コンバータと昇圧コンバータの違い / LDOとスイッチングレギュレータの違い / 直列接続と並列接続の違い(セルをつないだときの電圧と容量)
- 数字で試す: DC-DCコンバータの計算ツール(「リチウムイオン電池から5 V」の例があります。中級向け)
- 次の一歩の用語: 昇圧コンバータ、昇降圧コンバータ、DC-DCコンバータ、パワーMOSFET、静止電流