GPSはどうやって位置がわかる? 衛星と時刻のしくみ

約14分 · 更新: 2026年10月23日

GPSは、衛星から届く電波の「かかった時間」から、衛星までの距離を求めるしくみです。衛星は正確な時刻と自分の位置を電波で流し続け、スマホはそれを受け取るだけです。4機以上の衛星との距離から、自分の位置とスマホの時計のずれを同時に計算します。

この記事でわかること

  • GPSとGNSSの違いと、日本の衛星「みちびき」の役割
  • 電波の届く時間から距離を求めるしくみと、衛星が4機要る理由
  • 衛星の原子時計と、相対性理論による時計のずれの補正
  • スマホで位置がすぐ出る理由と、位置がずれる理由

前提知識: 特にありません。電波や周波数の基本は「Wi-Fiのしくみとは?」で説明しています。

身近なところでは

地図アプリを開くと、自分のいる場所に青い点が出ます。この点は、主に宇宙を回る人工衛星の電波から計算されています。

ところが、ビルの谷間では、青い点が道の反対側に飛ぶことがあります。点のまわりの薄い円が、大きく広がることもあります。衛星の電波でなぜ位置がわかるのか、なぜずれるのかを、順に見ていきます。

GPSとGNSS: 衛星で位置を知るしくみの名前

人工衛星の電波を使って位置を求めるしくみを、まとめて衛星測位システムと呼びます。英語の頭文字をとって、GNSSとも書きます。GPSは、そのうちアメリカが運用するシステムの名前です。

GPSはアメリカが軍のために作ったシステムで、今は世界中の誰でも無料で使えます。衛星は高さ約2万kmを、1日に約2周しています。アメリカは、少なくとも24機が使える状態を保つとしています。2026年時点で、運用中の衛星は30機あまりです。

ほかの国や地域も、自前のシステムを持っています。

名前国・地域メモ
GPSアメリカこの記事の主な例
GLONASS(グロナス)ロシア世界中で使える
Galileo(ガリレオ)EU2016年12月に初期のサービス開始
BeiDou(北斗)中国2020年7月に世界向けの運用開始
みちびき(QZSS)日本日本の上空が中心。2018年11月にサービス開始

今のスマホの多くは、これらを合わせて使います。たとえばiPhone 16 Pro(2024年)の仕様には、上の5つとNavIC(インド)が並びます。使える衛星が多いほど、空が狭い場所でも位置を出しやすくなります。ふだん「GPS」と呼んでいるものの多くは、実際にはGNSS全体です。

位置がわかるもとは、「電波が届くまでの時間」

電波は光の仲間で、真空の中を1秒に約30万km進みます。速さがわかっていれば、届くまでの時間から距離を計算できます。距離は「速さ×時間」だからです。

GPSの衛星は、電波に「この電波を出した時刻」と「そのときの自分の位置」を乗せて、流し続けています。受け取ったスマホは、届いた時刻との差から、電波が飛んでいた時間を求めます。それに光の速さをかければ、その衛星までの距離がわかります。

衛星が真上の約2万200 km先にいるとき、電波は約0.067秒(67ミリ秒)で届きます。斜めの方向にいる衛星はもっと遠いので、80ミリ秒を超えることもあります。

衛星は電波に出した時刻と自分の位置を書き込む。スマホは届いた時刻との差に光の速さをかけて、衛星までの距離を求める 衛星 電波に書き込む ・出した時刻 ・衛星の位置 かかった時間 約0.067秒 × 光の速さ = 約2万km 届いた時刻 (スマホの時計) スマホ
衛星が真上にいる場合の例です。光の速さは1秒に約30万km。省略していること: 空気の層での遅れ、衛星とスマホの時計のずれ。

時計が100万分の1秒ずれると、距離は300 mずれる

この方法は、時間の測り違いにとても弱いのです。電波は、1マイクロ秒(100万分の1秒)の間に約300 m進みます。つまり、時刻が1マイクロ秒ずれると、距離は約300 mずれます。1ナノ秒(10億分の1秒)のずれでも、約30 cmです。

そこでGPSの衛星には、とても正確な時計が積まれています。原子が、決まった周波数の電波にだけ反応する性質を使った時計です。これを原子時計と呼びます。最新のGPS III衛星は、ルビジウムという元素を使う原子時計を、1機に3台積んでいます。

地上では、管制の施設が衛星の時計と軌道を見張っています。わずかなずれを測り、直すための情報を衛星に送ります。衛星はその情報も、電波に乗せて流します。

一方、スマホの中の時計は、水晶の振動を使うふつうの時計です。原子時計ほど正確ではなく、マイクロ秒の単位ではすぐにずれます。それでも、スマホに原子時計を積む必要はありません。次に説明する工夫があるからです。

なぜ衛星が4機必要なのか

位置を決めるには、東西・南北・高さの3つの数字が要ります。衛星1機との距離がわかると、自分は「その衛星を中心とした、ある半径の球の上」のどこかにいるとわかります。3機との距離がわかれば、3つの球が交わる点として、位置が決まります。交わる点は2つできますが、片方は宇宙の遠くなので除けます。

ただし、それはスマホの時計が正確な場合の話です。スマホの時計がずれていると、すべての衛星までの距離が、同じ量だけ長く(または短く)測られます。すると、球は1点で交わらなくなります。

そこで、時計のずれも「わからない数」に加えます。わからない数は、東西・南北・高さ・時計のずれの4つです。4つの数を決めるには、4つの手がかり、つまり4機の衛星との距離が要ります。

時計が正しいと、3機の衛星からの距離の線が1点で交わる。スマホの時計がずれると、どの距離も同じだけ長くなり、線が1点で交わらない 時計が正しいとき 衛星 1点で交わる スマホの時計がずれているとき 1点にならない
色の線は、各衛星から「測った距離」だけ離れた場所です。平面で描いたので、3機で「位置の2つの数+時計のずれ」を求める形です。立体では1機増えて4機になります。省略していること: 実際の衛星の高さと距離の比、測定の誤差。

受信機は、4機以上の距離がぴったり1点でそろうように、時計のずれを調整しながら計算します。すると、位置と同時に、スマホの時計のずれもわかります。そのためGPSの受信機は、正確な時刻を知る道具にもなります。見える衛星が5機、6機と増えるほど、計算の確かさも上がります。

雑音より弱い電波を聞き分ける

衛星の電波は2万km以上の旅をしてくるので、地上ではとても弱くなっています。GPSの仕様で決められた、地上で受ける強さの最低値は、−128.5 dBm(約−130 dBm)です。dBmは電波の強さを表す単位で、0 dBmが1ミリワット、−10 dBmごとに10分の1になります。−130 dBmは1ミリワットの10兆分の1、つまり1京分の1ワットです。

受信機の回路の中では、電子が熱でばらばらに動くため、いつも小さな雑音が生まれています。GPSの電波は、この雑音よりもさらに弱いのです。計算の目安では、雑音の数十分の1しかありません。

それでも聞き分けられるのは、衛星ごとに決まった0と1の並びを、繰り返し流しているからです。この並びを符号と呼びます。GPSの民間向けの電波では、1,023けたの符号を、1000分の1秒ごとに繰り返します。

受信機は同じ符号の写しを持っていて、時間を少しずつずらしながら、届いた電波と重ね合わせます。ぴったり重なったところで、強い反応が出ます。雑音はでたらめなので、重ね合わせても強め合いません。この「ぴったり重なった時間のずれ」が、電波の届いたタイミングになります。

相対性理論で、衛星の時計は1日に約38マイクロ秒進む

衛星の原子時計には、もう1つ意外なずれがあります。アインシュタインの相対性理論によると、時計の進み方は、まわりの重力の強さと、動く速さで変わります。日常では気づかない差ですが、GPSでは無視できません。

衛星は地上から約2万km離れていて、地球の重力が弱い場所にいます。重力が弱いと時計は速く進み、その分は1日に約46マイクロ秒です。一方、衛星は秒速約3.9 kmで動いていて、速く動く時計は遅れます。その分は1日に約7マイクロ秒です。

差し引くと、衛星の時計は地上の時計より、1日に約38マイクロ秒速く進みます。距離に直すと約11 km分で、時刻で距離を測るGPSには、放っておけない大きさです。そこで衛星の時計は、打ち上げる前から、ほんのわずか遅く進むように合わせてあります。基準の10.23 MHz(1秒に1,023万回の振動)を、10.22999999543 MHzにしているのです。

ここでは話を簡単にしています。衛星の軌道はわずかに楕円なので、ずれの大きさは軌道の上の場所で少し変わります。この変わる分は、受信機の側で計算して直します。

スマホはなぜすぐ位置が出るのか: A-GPS

位置を計算するには、衛星の正確な軌道の情報も要ります。この情報も電波に乗っていますが、送る速さは1秒に50ビットと、とてもゆっくりです。ビットは、0か1かの1けたです。必要な部分を読み終えるまでに、最大で36秒ほどかかります。

そこでスマホは、軌道の情報やおおよその時刻を、携帯電話の回線やWi-Fiを通して先に受け取ります。通信の基地局からは、おおよその現在地もわかります。どの衛星が空のどこにいるかが先にわかるので、電波を探す手間も減ります。このしくみをA-GPS(アシストGPS)と呼びます。

A-GPSのおかげで、地図アプリを開くと、多くの場合すぐに位置が出ます。電波が弱くて軌道の情報を読み取りにくい場所でも、位置を出しやすくなります。

位置がずれる理由

アメリカ政府のGPSの公式サイトによると、空の開けた場所でのスマホの精度は、ふつう半径4.9 m以内です。ただし、建物や橋、木の近くでは悪くなります。ずれる主な理由を3つ見ていきます。

1. 建物で反射した電波

ビルの谷間では、衛星からまっすぐ届く電波が建物でさえぎられ、壁で反射した電波だけが届くことがあります。反射した電波は回り道をするので、届くのが遅れます。受信機はその衛星を実際より遠いと考え、位置がずれます。まっすぐの電波と、反射した電波が重なって届くこともあります。このように電波がいくつもの道を通って届くことを、マルチパスと呼びます。

衛星からまっすぐ来る電波は手前のビルにさえぎられ、向かいのビルの壁で反射した電波が回り道をしてスマホに届く 衛星 まっすぐの 電波は さえぎられる ビル ビル 反射した電波 スマホ
反射した電波は回り道をするので遅れて届き、衛星が実際より遠くにあるように見えます。省略していること: まっすぐの電波と反射した電波が両方届いて重なる場合。

2. 空気の層で電波が遅れる

電波は、はるか上空にある電離層を通るときに、少し遅れます。電離層は、太陽の光などで空気の一部が電気を帯びた層です。もっと低い空気の層でも、水蒸気などでわずかに遅れます。遅れの大きさは時間帯や天気、太陽の活動で変わるので、予測の式で直しても、完全には消せません。

電離層での遅れは、電波の周波数によって違います。そのため、2つの周波数の電波を比べれば、遅れを見積もれます。2つの周波数(L1とL5)を受けるスマホ向けのチップは、2017年にBroadcomが発表しました。L5の電波は、反射した電波を見分けやすいという利点もあります。

3. 衛星の並び方

見えている衛星が空の一方向に固まっていると、距離の小さな誤差が、位置の大きな誤差になります。球どうしが浅い角度で交わり、交わる点がぼやけるからです。衛星が空のあちこちに散らばっているほど、位置は正確になります。ビルの谷間では見える空が細長く、衛星の並びも偏りがちです。

日本の「みちびき」: 真上からの電波と、センチメートル級の補正

みちびき(準天頂衛星システム)は、日本の内閣府が運用する衛星のシステムです。主な衛星は、地上から見ると8の字を描くように動き、日本の真上近くに長くとどまります。真上の空を「天頂」と呼ぶので、「準天頂」の名前がつきました。真上から届く電波は、ビルにさえぎられにくいのが利点です。

みちびきはGPSと同じ形式の電波も出すので、GPSの衛星の仲間として使えます。2018年11月に4機でサービスを始め、7機に増やす計画が進んでいます。2025年12月には打ち上げの失敗で1機を失い、2026年8月に別の1機を打ち上げました。7機そろえば、みちびきだけで日本の周辺の位置を出せる計画です。

もう1つの役割は、精度を上げるための補正の情報を配ることです。国土地理院が全国に置く観測点(電子基準点)のデータから、誤差の情報を作り、衛星から流します。これをセンチメートル級測位補強サービス(CLAS)と呼びます。内閣府の仕様では、止まった受信機で、水平の誤差を95%の確率で6 cm以内としています。

ただし、CLASを使うには、この補正の情報を受け取れる専用の受信機が要ります。主な使い道は、測量や、農業機械・建設機械のように位置を細かく知りたい仕事です。ふつうのスマホの青い点が、センチメートルの精度になるわけではありません。

スマホの中の受信回路

スマホの中で衛星の電波を受けるのは、無線の回路の一部です。アンテナで受けたごく弱い電波を、まず雑音を足しにくい増幅器で強めます。次に、扱いやすい低い周波数に移してから、0と1の数字に変えます。

そのあと、先ほどの「符号を重ね合わせる」計算を、何機分も同時に進めます。こうした回路を、計算の中心のチップ(SoC)に組み込む機種もあれば、専用の小さなチップを使う機種もあります。スマホの中のほかのチップとの関係は「スマホの中にはどんな半導体が入っている?」で紹介しています。

建物の中では: Wi-Fiや携帯電話の電波も手がかりに

建物の中では、衛星の電波は壁や屋根でさらに弱まり、ほとんど届かないことも多くあります。そこでスマホは、衛星以外の手がかりも組み合わせます。

Appleの説明では、iPhoneはGPSに加えて、Bluetoothも使います。周りのWi-Fiの親機や携帯電話の基地局の位置のデータも使います。どの親機の電波が聞こえるかを、位置がわかっているデータと照らし合わせるのです。Wi-Fiの電波のしくみは「Wi-Fiのしくみとは?」、基地局は「5Gとは?」で説明しています。

よくある誤解

誤解: GPSの衛星が、スマホの位置を見張っている

実際は、GPSの衛星は電波を出しているだけで、スマホからの電波は受け取りません。スマホは受け取った電波から、自分で位置を計算します。受けるだけなので、何台の受信機が使っても、衛星の側は困りません。

位置がほかの人や会社に伝わるのは、アプリがその位置を、携帯電話の回線やWi-Fiで送るときです。位置情報を使えるアプリは、スマホの設定で選べます。「衛星で位置がわかる」と「衛星に位置を知られる」が混同されやすいのです。

誤解: GPSは、モバイルデータ通信がないと使えない

実際は、衛星の電波を受けて位置を計算するだけなら、通信は要りません。携帯電話の圏外の山の中でも、空が開けていれば位置は出ます。ただし、A-GPSの助けがないので、最初に位置が出るまで時間がかかることがあります。また、地図の絵は通信で取り寄せるアプリが多いので、前もって保存していないと表示できません。

誤解: 地図の青い点は、いつも正しい場所を指している

実際は、青い点は「いちばんありそうな場所」です。Androidでは、位置と一緒に精度の数字が届きます。「68%の確率で、本当の位置がこの半径の円の中にある」という意味です。多くの地図アプリは、こうした目安を点のまわりの円で示します。ビルの谷間や建物の中では、円が大きくなり、点が飛ぶこともあります。

数字で見る

項目数字くらべると
時計のずれと距離1マイクロ秒で約300 m1ナノ秒でも約30 cm
真上の衛星から届く時間約0.067秒距離は約2万km
相対性理論による時計の進み1日に約38マイクロ秒距離にすると約11 km分
地上で受ける電波の強さ−128.5 dBm(仕様の最低値)約1京分の1ワット
スマホの精度(空の開けた場所)半径約4.9 mCLASの仕様は水平6 cm(止まった受信機)

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