スマホの中にはどんな半導体が入っている? 主なチップと役割
スマホの中には、1つではなく、役割の違うたくさんの半導体チップが入っています。中心は計算を受け持つSoCです。そのまわりに、メモリとストレージ、電波を扱うチップ、電源を管理するチップ、センサなどが並びます。仕事ごとに向いた材料や作り方が違うので、別々のチップが仕事を分け合っています。
この記事でわかること
- スマホの中で、どんなチップが何をしているか
- 計算の中心「SoC」に入っている回路(CPU・GPU・NPUなど)
- 電波を扱う部品が多い理由と、フィルタがたくさん要る理由
- 実際の機種の例と、「コア数」や「nm」だけで性能を比べられない理由
前提知識: 特にありません。「CPUとは?」「集積回路(IC)とは?」を読んでいると、SoCの話がわかりやすくなります。
身近なところでは: 1日の中でスマホがする仕事
朝はメッセージを読み、駅ではスマホをかざして改札を通ります。昼は写真を撮り、地図を見ながら歩きます。夜は充電器につなぎます。この一つ一つの場面で、別々の半導体チップが働いています。
たとえば、スマホを横にすると画面が回るのは、傾きを感じるセンサのチップのおかげです。この記事では、1台のスマホの中を見て回るつもりで、主なチップを順に紹介します。
スマホの中の「地図」
スマホの中には、部品を載せて細い配線でつなぐ板があります。これを基板と呼びます。黒くて四角いチップの多くは、この基板の上に並んでいます。画面やカメラ、電池は基板とは別の部品で、薄いケーブルでつながっています。
下の図は、主なチップを仕事ごとに並べた模式図です。実際の配置や大きさ、数は、機種ごとにまったく違います。
計算の中心: SoCには何が入っている?
基板の中心には、計算を受け持つ大きなチップがあります。中には、CPUのほか、何種類もの回路が1つのチップに作り込まれています。このように機器の主な働きを1つにまとめたチップをSoC(システム・オン・チップ)と呼びます。チップそのもののしくみは「集積回路(IC)とは?」で説明しています。
SoCに入っている主な回路は、次のとおりです。
- CPU: アプリの命令を1つずつ実行する部分です(「CPUとは?」)。命令を実行するひとそろいの回路を「コア」と呼びます。
- GPU: 画面に表示する絵を描く回路です。同じ計算をたくさん同時に進めるのが得意です。
- NPU: AIの計算に向けた回路です。写真に写った物を見分ける、といった処理を少ない電力で進めます。
- ISP(画像信号処理プロセッサ): カメラのセンサから届いた数字の並びを、写真に仕上げる回路です。
- モデム: 携帯電話の電波で送る信号と、0と1のデータの間を変換する部分です(後で説明します)。
何をSoCに入れるかは、メーカーや機種で違います。たとえばQualcommのSoC「Snapdragon 8 Gen 3」(2023年発表)は、モデムを中に持っています。一方、2024年発売のiPhone 16 Proでは、分解調査によると、モデムはQualcomm製の別のチップです。
iPhone 16 ProのSoCは「A18 Pro」です。Appleの仕様では、CPUは6コア(高性能2つと高効率4つ)です。作る技術の世代は、Appleによると「第2世代の3ナノメートル」です。
メモリとストレージ: 作業する場所としまう場所
スマホにも、作業中のデータを置くメモリと、写真やアプリをしまうストレージがあります。違いは「メモリとストレージの違いは?」で説明しています。ここでは、スマホならではの点を見ます。
スマホのメモリには、電力を少なくする工夫をした作業用メモリ(DRAM)が使われます。この規格をLPDDRと呼び、LPは「Low Power(低い電力)」の略です。iPhone 16 Proの分解調査では、Micron製で容量8GBのものが見つかっています。
iPhone 16 Proでは、このメモリをSoCの真上に重ねて載せています。チップどうしが近いほど、データを速く、少ない電力でやり取りできます。基板の面積も節約できます。
ストレージには、電源を切ってもデータが残るフラッシュメモリのチップが使われます。スマホ向けの代表的な規格は「UFS」で、業界団体JEDECが定めています。
電波を扱うチップ: モデムからアンテナまで
電話やモバイル通信のデータは、携帯電話会社の基地局(ビルの屋上などにあるアンテナ設備)と電波でやり取りします。スマホの中では、データが電波になるまでに、いくつものチップを通ります。
最初の段は、0と1のデータを、電波に乗せられる信号の形に置き換える回路です。受け取るときは逆に、信号からデータを取り出します。この回路をモデム、またはベースバンドと呼びます。データを波の形に置き換える考え方は「Wi-Fiのしくみとは?」でも説明しています。
次の段は、信号を、実際に飛ばす電波の高さに移す回路です。電波の高さは、波が1秒間に振動する回数で表し、これを周波数と呼びます。スマホの電波は、主に1秒間に数億回から数十億回振動します。周波数を移す回路は、トランシーバと呼ばれます。
アンテナのすぐ手前には、電波を直接扱う部品が集まっています。送る電波を強める増幅器、要らない周波数を取り除くフィルタ、使う道を切り替えるスイッチなどです。これらをまとめて「RFフロントエンド」と呼びます。RFは、無線で使う周波数(Radio Frequency)の略です。
送る電波を強める増幅器には、シリコンではなく、ガリウムヒ素という材料のチップが多く使われています。高い周波数で、大きな出力を効率よく出しやすいからです(2026年の国際学会IMSの発表要旨による)。受け取る側では逆に、ごく弱い電波を、雑音をなるべく足さずに強める増幅器が働きます。
なぜフィルタがたくさん要るのか
携帯電話で使う周波数の範囲は、国や携帯電話会社、4Gや5Gといった世代ごとに決められています。この範囲の一つ一つを「バンド」と呼びます。海外でも使えるように、1台のスマホは多くのバンドに対応しています。iPhone 16 Proの仕様表には、4Gと5Gで数十のバンドが並びます。
フィルタは、決まった範囲の周波数だけを通し、ほかを止める部品です。バンドが違えば、必要なフィルタも違います。送ると受けるで別の周波数を使うバンドでは、2つを同時に分けるフィルタの組も要ります。2017年の論文(Mahon)によると、当時の先端のスマホには60個を超えるフィルタが入っていました。
スマホのフィルタの多くは、電気の信号を、いったんごく小さな振動に変えて選り分けます。使うのは、電圧をかけるとわずかに伸び縮みする「圧電」という性質の材料です。決まった周波数の振動だけがよく伝わる形に作るので、ほかの周波数は通りにくくなります。
振動が材料の表面を伝わる方式を、SAW(表面弾性波)フィルタと呼びます。おおよその目安で、2GHz(1秒間に20億回の振動)くらいまでで使われます。
もう一つは、薄い膜を厚さの方向に振動させる方式で、BAW(バルク弾性波)フィルタと呼びます。こちらは、より高い周波数に向いています。使い分けの境目は資料によって幅があり、1.5〜2.5GHzほどです。
Wi-Fi・Bluetooth・位置情報
家のWi-Fiや、ワイヤレスイヤホンのBluetoothは、携帯電話とは別の周波数と方式を使います。これらは、モデムとは別のチップが受け持つことが多くあります。使い分けは「Wi-Fi・Bluetooth・LPWAの違い」で表にしています。地図アプリで現在地がわかるのも、GPSなどの人工衛星の電波を受け取る回路があるからです。
電源を整えるチップ: PMICと充電
SoCの中の回路は、1ボルト前後かそれより低い電圧で動きます。電池の電圧はそれより高く、残りの量でも変わります。ほかのチップにも、それぞれ別の電圧が必要です。しかも、CPUが急に忙しくなっても、電圧が大きく揺れてはいけません。
こうした電圧を電池から作り分けるのが、PMIC(電源管理IC)です。電圧を変える回路をいくつも1つのチップにまとめ、どの回路にいつ電気を送るかも管理します。電圧を変える主な方法は、電気をとても速くオン・オフして平均の電圧を整えるものです。「パワー半導体とは?」で説明したしくみを、小さな電力向けにしたものです。
電池への充電を管理するチップもあります。Texas Instrumentsの解説によると、リチウムイオン電池は、はじめは決まった電流で充電します。満充電に近づくと、電圧を一定に保ちながら電流を絞っていきます。
画面・カメラ・音のチップ
画面は、たくさんの小さな点(画素)の明るさを、短い間隔で描き直しています。iPhone 16 Proの画面には約316万個の画素があります。Appleの仕様では、最大で1秒間に120回描き直します。どの画素をどれだけ光らせるかの信号を送るのが、ディスプレイドライバICです。
指で画面に触れると、画面に張りめぐらせた細い電極の間で、電気のたまり方がわずかに変わります。その変化から指の位置を割り出すのが、タッチコントローラというチップです。
カメラでは、光を電気に変えるイメージセンサが画素ごとの数字を作ります(「イメージセンサとは?」)。その数字を、色を計算したり、ざらつきを減らしたりして写真に仕上げるのが、SoCの中のISPです。
音では、マイクが拾った音の電気の波を0と1の数字に変え、音楽の数字を電気の波に戻す回路が働きます。この回路を、オーディオコーデックと呼びます。スピーカーを鳴らすには、さらにアンプ(増幅器)で電気の波を強めます。
動きを感じるセンサ: MEMS
画面の向きの切り替え、歩数計、手ぶれの補正には、スマホの傾きや動きを測るセンサが使われます。中には、半導体を作る技術で削り出した、ごく小さな「動く部品」が入っています。電気の回路だけでなく、機械の部品まで作り込んだこのような部品をMEMS(メムス)と呼びます。
加速度センサの中には、ばねで支えた小さなおもりがあります。スマホが動くと、おもりはその場に残ろうとして、わずかにずれます。ずれると、すぐそばの電極とのすき間が変わり、電気のたまり方が変わります。これを測って動きを知ります(Analog Devicesの資料による)。重力もおもりを引くので、止まっていても、どちらが下かがわかります。
ジャイロスコープは、回転の速さを測るセンサです。振動させておいたおもりが、回転すると横へ押される力を測ります。
かざして払う: NFCとセキュアエレメント
改札やお店でスマホをかざして払えるのは、数センチの近い距離で通信するNFCのチップがあるからです。NFC Forumによると、NFCは13.56MHzの周波数を使います。日本の交通系ICカードなどで使われるFeliCaも、同じ周波数です。
カードの番号のような大切な情報は、ふつうのアプリが動く場所とは別の、守りの固いチップにしまわれます。このチップをセキュアエレメントと呼びます。Appleの資料によると、Apple Payのカード情報は暗号化され、セキュアエレメントに保存されます。お店の読み取り機は、NFCのチップを通して、セキュアエレメントと直接やり取りします。
実際の機種では: iPhone 16 Pro(2024年)の例
下の表は、修理の情報サイトiFixitと調査会社TechInsightsが、分解して調べた結果によるものです。Appleが公表した部品表ではありません。
| 役割 | 分解調査で見つかったチップ(メーカー) |
|---|---|
| 計算の中心(SoC) | A18 Pro(Apple) |
| メモリ | LPDDR、8GB(Micron)。SoCの上に重ねる |
| ストレージ | フラッシュメモリ(キオクシア) |
| モデム | SDX71M(Qualcomm) |
| 電波の部品 | 増幅器などをまとめた部品(Skyworks、Qorvoなど) |
| 音のアンプ | Cirrus Logic |
| NFC・セキュアエレメント | NXP |
表のチップは、分解した個体で見つかったものです。同じ機種でも、時期などで違う会社の部品が使われることがあります。特定には推定も含まれ、メモリの世代のように資料で書き方が違う点もあります。
なぜ1つのチップにまとめないのか
スマホのすべてを、1つのチップにはできません。電波を強める増幅器はガリウムヒ素、フィルタは圧電の材料と、シリコンとは違う材料を使います。動きを測るセンサには、動く部品を作る特別な工程が要ります。
よくある誤解
誤解: スマホには「スマホのチップ」が1つ入っているだけ
実際は、SoCのほかに、メモリ、モデム、電波の部品、電源管理、センサなど、たくさんのチップが入っています。広告やニュースには「A18 Pro」「Snapdragon」のようなSoCの名前だけが出ることが多いです。そのため、1つだけのように見えるのです。
誤解: CPUのコアが多いスマホほど速い
実際は、コアの種類と使い方で速さが変わります。A18 ProのCPUは6コアですが、そのうち4つは、軽い仕事を少ない電力でこなすための高効率のコアです。また、アプリがたくさんのコアを同時に使えるとは限りません。ファンのないスマホでは、熱くなると速さを落とすこともあります。コア数は仕様表で比べやすい数字なので、それだけで判断されがちです。
誤解: SoCの「◯nm」を見れば、スマホの性能がわかる
実際は、「3nm」のような数字は作る技術の世代の名前で、会社が違えば同じ数字でも中身が違います(「「2nm」「3nm」は何の長さ?」)。性能は、回路の設計や熱の逃がし方でも大きく変わります。つながりやすさや電池の持ちは、SoC以外のチップにも左右されます。
数字で見る
| 数字 | 何の数字か |
|---|---|
| 約190億個 | A17 Pro(2023年のiPhone 15 Pro用)のトランジスタの数。Appleの発表による。A18 Proの数は公表されていない |
| 8GB | iPhone 16 Proのメモリ。分解調査による(Appleは非公表) |
| 60個以上 | 2017年ごろの先端のスマホのフィルタの数(Mahonの論文) |
190億個のトランジスタを、1秒に1個ずつ数えると、約600年かかります。ただし、トランジスタの数も、コア数と同じく、それだけで性能を表す数字ではありません。
もっと詳しく学ぶ
- 違いを表で見る: CPU・GPU・NPUの違い、DDR・LPDDR・GDDR・HBMの違い、ASIC・FPGA・SoCの違い、LDOとスイッチングレギュレータの違い、静電容量型とピエゾ抵抗型のMEMSの違い
- 次の一歩の用語: DVFS(仕事の量で電圧と速さを変える)、DC-DCコンバータ、HBT(電波の増幅器のトランジスタ)
- 数字で試す: dB・dBmの換算ツール(電波の強さの単位)、DC-DCコンバータの計算ツール
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