スマホの中にはどんな半導体が入っている? 主なチップと役割

約13分 · 更新: 2026年10月23日

スマホの中には、1つではなく、役割の違うたくさんの半導体チップが入っています。中心は計算を受け持つSoCです。そのまわりに、メモリとストレージ、電波を扱うチップ、電源を管理するチップ、センサなどが並びます。仕事ごとに向いた材料や作り方が違うので、別々のチップが仕事を分け合っています。

この記事でわかること

  • スマホの中で、どんなチップが何をしているか
  • 計算の中心「SoC」に入っている回路(CPU・GPU・NPUなど)
  • 電波を扱う部品が多い理由と、フィルタがたくさん要る理由
  • 実際の機種の例と、「コア数」や「nm」だけで性能を比べられない理由

前提知識: 特にありません。「CPUとは?」「集積回路(IC)とは?」を読んでいると、SoCの話がわかりやすくなります。

身近なところでは: 1日の中でスマホがする仕事

朝はメッセージを読み、駅ではスマホをかざして改札を通ります。昼は写真を撮り、地図を見ながら歩きます。夜は充電器につなぎます。この一つ一つの場面で、別々の半導体チップが働いています。

たとえば、スマホを横にすると画面が回るのは、傾きを感じるセンサのチップのおかげです。この記事では、1台のスマホの中を見て回るつもりで、主なチップを順に紹介します。

スマホの中の「地図」

スマホの中には、部品を載せて細い配線でつなぐ板があります。これを基板と呼びます。黒くて四角いチップの多くは、この基板の上に並んでいます。画面やカメラ、電池は基板とは別の部品で、薄いケーブルでつながっています。

下の図は、主なチップを仕事ごとに並べた模式図です。実際の配置や大きさ、数は、機種ごとにまったく違います。

スマホの中の主なチップを仕事ごとに並べた模式図 スマホの中の主なチップ(模式図) 基板 電波の部品 増幅・フィルタ モデム 電波⇔データ メモリ(SoCの上に重ねる) SoC(計算の中心) CPU・GPU・NPU・ISP ストレージ 写真・アプリ 電源管理 電圧・充電 Wi-Fiなど Bluetooth・GPS NFC 決済の安全 センサ 傾き・回転 音 変換・増幅 ケーブルでつながる部品 画面 表示・タッチ カメラ 光を電気に 電池 電気をためる
モデムをSoCに入れる機種もある。省略していること: 電波の部品を構成する多くの小さなチップ、アンテナ、コイルやコンデンサ。

計算の中心: SoCには何が入っている?

基板の中心には、計算を受け持つ大きなチップがあります。中には、CPUのほか、何種類もの回路が1つのチップに作り込まれています。このように機器の主な働きを1つにまとめたチップをSoC(システム・オン・チップ)と呼びます。チップそのもののしくみは「集積回路(IC)とは?」で説明しています。

SoCに入っている主な回路は、次のとおりです。

  • CPU: アプリの命令を1つずつ実行する部分です(「CPUとは?」)。命令を実行するひとそろいの回路を「コア」と呼びます。
  • GPU: 画面に表示する絵を描く回路です。同じ計算をたくさん同時に進めるのが得意です。
  • NPU: AIの計算に向けた回路です。写真に写った物を見分ける、といった処理を少ない電力で進めます。
  • ISP(画像信号処理プロセッサ): カメラのセンサから届いた数字の並びを、写真に仕上げる回路です。
  • モデム: 携帯電話の電波で送る信号と、0と1のデータの間を変換する部分です(後で説明します)。

何をSoCに入れるかは、メーカーや機種で違います。たとえばQualcommのSoC「Snapdragon 8 Gen 3」(2023年発表)は、モデムを中に持っています。一方、2024年発売のiPhone 16 Proでは、分解調査によると、モデムはQualcomm製の別のチップです。

iPhone 16 ProのSoCは「A18 Pro」です。Appleの仕様では、CPUは6コア(高性能2つと高効率4つ)です。作る技術の世代は、Appleによると「第2世代の3ナノメートル」です。

メモリとストレージ: 作業する場所としまう場所

スマホにも、作業中のデータを置くメモリと、写真やアプリをしまうストレージがあります。違いは「メモリとストレージの違いは?」で説明しています。ここでは、スマホならではの点を見ます。

スマホのメモリには、電力を少なくする工夫をした作業用メモリ(DRAM)が使われます。この規格をLPDDRと呼び、LPは「Low Power(低い電力)」の略です。iPhone 16 Proの分解調査では、Micron製で容量8GBのものが見つかっています。

iPhone 16 Proでは、このメモリをSoCの真上に重ねて載せています。チップどうしが近いほど、データを速く、少ない電力でやり取りできます。基板の面積も節約できます。

ストレージには、電源を切ってもデータが残るフラッシュメモリのチップが使われます。スマホ向けの代表的な規格は「UFS」で、業界団体JEDECが定めています。

電波を扱うチップ: モデムからアンテナまで

電話やモバイル通信のデータは、携帯電話会社の基地局(ビルの屋上などにあるアンテナ設備)と電波でやり取りします。スマホの中では、データが電波になるまでに、いくつものチップを通ります。

最初の段は、0と1のデータを、電波に乗せられる信号の形に置き換える回路です。受け取るときは逆に、信号からデータを取り出します。この回路をモデム、またはベースバンドと呼びます。データを波の形に置き換える考え方は「Wi-Fiのしくみとは?」でも説明しています。

次の段は、信号を、実際に飛ばす電波の高さに移す回路です。電波の高さは、波が1秒間に振動する回数で表し、これを周波数と呼びます。スマホの電波は、主に1秒間に数億回から数十億回振動します。周波数を移す回路は、トランシーバと呼ばれます。

アンテナのすぐ手前には、電波を直接扱う部品が集まっています。送る電波を強める増幅器、要らない周波数を取り除くフィルタ、使う道を切り替えるスイッチなどです。これらをまとめて「RFフロントエンド」と呼びます。RFは、無線で使う周波数(Radio Frequency)の略です。

電波とデータの通り道: アンテナ、スイッチ、フィルタ、増幅器、トランシーバ、モデム 電波とデータの通り道 アンテナ 電波を出し入れ スイッチ 使う道を選ぶ フィルタ 要る周波数だけ 増幅器 電波を強める RFフロントエンド トランシーバ 周波数を移す モデム 信号⇔0と1 上へ: 送るとき 下へ: 受けるとき
実際には、送ると受けるで別の増幅器を使い、バンド(後で説明)ごとに道が分かれる。省略していること: 何本もあるアンテナ、電波の強さを調整する回路、Wi-FiやGPSの部品。

送る電波を強める増幅器には、シリコンではなく、ガリウムヒ素という材料のチップが多く使われています。高い周波数で、大きな出力を効率よく出しやすいからです(2026年の国際学会IMSの発表要旨による)。受け取る側では逆に、ごく弱い電波を、雑音をなるべく足さずに強める増幅器が働きます。

なぜフィルタがたくさん要るのか

携帯電話で使う周波数の範囲は、国や携帯電話会社、4Gや5Gといった世代ごとに決められています。この範囲の一つ一つを「バンド」と呼びます。海外でも使えるように、1台のスマホは多くのバンドに対応しています。iPhone 16 Proの仕様表には、4Gと5Gで数十のバンドが並びます。

フィルタは、決まった範囲の周波数だけを通し、ほかを止める部品です。バンドが違えば、必要なフィルタも違います。送ると受けるで別の周波数を使うバンドでは、2つを同時に分けるフィルタの組も要ります。2017年の論文(Mahon)によると、当時の先端のスマホには60個を超えるフィルタが入っていました。

フィルタは、たくさんのバンドの中から1つのバンドの範囲だけを通す アンテナに届く電波 バンドA バンドB バンドC フィルタAを通したあと バンドA 周波数 →
点線の枠が、フィルタAが通す周波数の範囲。対応するバンドが多いほど、フィルタも多く要る。省略していること: 実際のバンドの幅と間隔、フィルタの通し方の形(境目はなだらかになる)。

スマホのフィルタの多くは、電気の信号を、いったんごく小さな振動に変えて選り分けます。使うのは、電圧をかけるとわずかに伸び縮みする「圧電」という性質の材料です。決まった周波数の振動だけがよく伝わる形に作るので、ほかの周波数は通りにくくなります。

振動が材料の表面を伝わる方式を、SAW(表面弾性波)フィルタと呼びます。おおよその目安で、2GHz(1秒間に20億回の振動)くらいまでで使われます。

もう一つは、薄い膜を厚さの方向に振動させる方式で、BAW(バルク弾性波)フィルタと呼びます。こちらは、より高い周波数に向いています。使い分けの境目は資料によって幅があり、1.5〜2.5GHzほどです。

Wi-Fi・Bluetooth・位置情報

家のWi-Fiや、ワイヤレスイヤホンのBluetoothは、携帯電話とは別の周波数と方式を使います。これらは、モデムとは別のチップが受け持つことが多くあります。使い分けは「Wi-Fi・Bluetooth・LPWAの違い」で表にしています。地図アプリで現在地がわかるのも、GPSなどの人工衛星の電波を受け取る回路があるからです。

電源を整えるチップ: PMICと充電

SoCの中の回路は、1ボルト前後かそれより低い電圧で動きます。電池の電圧はそれより高く、残りの量でも変わります。ほかのチップにも、それぞれ別の電圧が必要です。しかも、CPUが急に忙しくなっても、電圧が大きく揺れてはいけません。

こうした電圧を電池から作り分けるのが、PMIC(電源管理IC)です。電圧を変える回路をいくつも1つのチップにまとめ、どの回路にいつ電気を送るかも管理します。電圧を変える主な方法は、電気をとても速くオン・オフして平均の電圧を整えるものです。「パワー半導体とは?」で説明したしくみを、小さな電力向けにしたものです。

電池への充電を管理するチップもあります。Texas Instrumentsの解説によると、リチウムイオン電池は、はじめは決まった電流で充電します。満充電に近づくと、電圧を一定に保ちながら電流を絞っていきます。

画面・カメラ・音のチップ

画面は、たくさんの小さな点(画素)の明るさを、短い間隔で描き直しています。iPhone 16 Proの画面には約316万個の画素があります。Appleの仕様では、最大で1秒間に120回描き直します。どの画素をどれだけ光らせるかの信号を送るのが、ディスプレイドライバICです。

指で画面に触れると、画面に張りめぐらせた細い電極の間で、電気のたまり方がわずかに変わります。その変化から指の位置を割り出すのが、タッチコントローラというチップです。

カメラでは、光を電気に変えるイメージセンサが画素ごとの数字を作ります(「イメージセンサとは?」)。その数字を、色を計算したり、ざらつきを減らしたりして写真に仕上げるのが、SoCの中のISPです。

音では、マイクが拾った音の電気の波を0と1の数字に変え、音楽の数字を電気の波に戻す回路が働きます。この回路を、オーディオコーデックと呼びます。スピーカーを鳴らすには、さらにアンプ(増幅器)で電気の波を強めます。

動きを感じるセンサ: MEMS

画面の向きの切り替え、歩数計、手ぶれの補正には、スマホの傾きや動きを測るセンサが使われます。中には、半導体を作る技術で削り出した、ごく小さな「動く部品」が入っています。電気の回路だけでなく、機械の部品まで作り込んだこのような部品をMEMS(メムス)と呼びます。

加速度センサの中には、ばねで支えた小さなおもりがあります。スマホが動くと、おもりはその場に残ろうとして、わずかにずれます。ずれると、すぐそばの電極とのすき間が変わり、電気のたまり方が変わります。これを測って動きを知ります(Analog Devicesの資料による)。重力もおもりを引くので、止まっていても、どちらが下かがわかります。

ジャイロスコープは、回転の速さを測るセンサです。振動させておいたおもりが、回転すると横へ押される力を測ります。

かざして払う: NFCとセキュアエレメント

改札やお店でスマホをかざして払えるのは、数センチの近い距離で通信するNFCのチップがあるからです。NFC Forumによると、NFCは13.56MHzの周波数を使います。日本の交通系ICカードなどで使われるFeliCaも、同じ周波数です。

カードの番号のような大切な情報は、ふつうのアプリが動く場所とは別の、守りの固いチップにしまわれます。このチップをセキュアエレメントと呼びます。Appleの資料によると、Apple Payのカード情報は暗号化され、セキュアエレメントに保存されます。お店の読み取り機は、NFCのチップを通して、セキュアエレメントと直接やり取りします。

実際の機種では: iPhone 16 Pro(2024年)の例

下の表は、修理の情報サイトiFixitと調査会社TechInsightsが、分解して調べた結果によるものです。Appleが公表した部品表ではありません。

役割分解調査で見つかったチップ(メーカー)
計算の中心(SoC)A18 Pro(Apple)
メモリLPDDR、8GB(Micron)。SoCの上に重ねる
ストレージフラッシュメモリ(キオクシア)
モデムSDX71M(Qualcomm)
電波の部品増幅器などをまとめた部品(Skyworks、Qorvoなど)
音のアンプCirrus Logic
NFC・セキュアエレメントNXP

表のチップは、分解した個体で見つかったものです。同じ機種でも、時期などで違う会社の部品が使われることがあります。特定には推定も含まれ、メモリの世代のように資料で書き方が違う点もあります。

なぜ1つのチップにまとめないのか

スマホのすべてを、1つのチップにはできません。電波を強める増幅器はガリウムヒ素、フィルタは圧電の材料と、シリコンとは違う材料を使います。動きを測るセンサには、動く部品を作る特別な工程が要ります。

よくある誤解

誤解: スマホには「スマホのチップ」が1つ入っているだけ

実際は、SoCのほかに、メモリ、モデム、電波の部品、電源管理、センサなど、たくさんのチップが入っています。広告やニュースには「A18 Pro」「Snapdragon」のようなSoCの名前だけが出ることが多いです。そのため、1つだけのように見えるのです。

誤解: CPUのコアが多いスマホほど速い

実際は、コアの種類と使い方で速さが変わります。A18 ProのCPUは6コアですが、そのうち4つは、軽い仕事を少ない電力でこなすための高効率のコアです。また、アプリがたくさんのコアを同時に使えるとは限りません。ファンのないスマホでは、熱くなると速さを落とすこともあります。コア数は仕様表で比べやすい数字なので、それだけで判断されがちです。

誤解: SoCの「◯nm」を見れば、スマホの性能がわかる

実際は、「3nm」のような数字は作る技術の世代の名前で、会社が違えば同じ数字でも中身が違います(「「2nm」「3nm」は何の長さ?」)。性能は、回路の設計や熱の逃がし方でも大きく変わります。つながりやすさや電池の持ちは、SoC以外のチップにも左右されます。

数字で見る

数字何の数字か
約190億個A17 Pro(2023年のiPhone 15 Pro用)のトランジスタの数。Appleの発表による。A18 Proの数は公表されていない
8GBiPhone 16 Proのメモリ。分解調査による(Appleは非公表)
60個以上2017年ごろの先端のスマホのフィルタの数(Mahonの論文)

190億個のトランジスタを、1秒に1個ずつ数えると、約600年かかります。ただし、トランジスタの数も、コア数と同じく、それだけで性能を表す数字ではありません。

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