アナログ半導体とは? デジタルと何が違い、どこで使われる?

約13分 · 更新: 2026年10月23日

アナログ半導体は、音・光・温度のように連続して変わる量を、電圧や電流のまま扱う半導体です。小さな信号を大きくする、数字に変える・数字から戻す、電源の電圧を整える、時計の合図を作る、といった仕事をします。0と1で計算するデジタルのチップと、現実の世界とをつなぐ役目です。

この記事でわかること

  • 「アナログ」と「デジタル」の違いと、両方が必要な理由
  • 信号を大きくする・数字に変える回路のしくみと、「16ビット・44.1kHz」の意味
  • アナログの設計が難しい理由と、最先端の工場で作らない理由
  • ニュースに出てくるアナログ半導体の業界の特徴

前提知識: 特にありません。コンピュータが数を0と1で表すことを知っていると読みやすくなります(「コンピュータは0と1でどう計算するの?」)。

身近なところでは: ニュースの「アナログ半導体」

「アナログ半導体」という言葉は、経済のニュースで見かけます。米国のTexas Instruments(TI)などの決算の記事です。CPUやメモリほど有名ではありませんが、ほとんどの電子機器に入っています。

スマホで話すと、マイクが声を電気の波に変えます。体温計は、温度で変わる電圧を測っています。どれも、最初に受け取るのは連続して変わる信号で、それを受け取るのがアナログ半導体です。

アナログとデジタルの違い

音は、空気の圧力の揺れです。その強さは、途中の値をいくらでも取りながら、なめらかに変わります。光の明るさや温度も同じです。このように連続して変わる量や、それをそのまま表した信号を、アナログと呼びます。

一方、コンピュータは、数を0と1の並びで表し、とびとびの値だけを扱います。これをデジタルと呼びます。0と1の2つだけなら、電圧が少し揺れても読み違えにくいので、正確な計算や保存に向いています。

ところが、現実の世界の情報は、0と1の形では届きません。センサが受け取った量は、まず連続して変わる電圧として現れます。この電圧をそのままの形で扱うチップが、アナログ半導体です。

なお、業界の統計では、電源の電圧を整える集積回路(IC)も「アナログ」に数えます。大きな電力を切り替えるパワー半導体の多くは、単体の部品として別に数えます(「パワー半導体とは?」)。

下の図は、声を録音して再生するまでの流れです。アナログの回路は、デジタルの回路の入口と出口にいます。

声を録音して再生するまでの流れ: マイク、増幅、フィルタ、ADC、デジタル処理、DAC、増幅、スピーカー 録音して、また鳴らすまで マイク 音 → 電圧 増幅 小さな電圧を大きく フィルタ 要らない成分を除く ADC 電圧 → 数字 デジタル処理 0と1で計算・保存 DAC 数字 → 電圧 増幅 スピーカーを動かす スピーカー 電圧 → 音
灰色の箱がデジタルの回路。増幅とフィルタはアナログの回路で、ADCとDACは両方の境目にいる。省略していること: すべての回路に電気を配る電源の回路、回路の動く速さを決める時計(クロック)の回路。

しくみ① 小さな信号を大きくする

マイクやセンサが出す電圧は、とても小さいことがよくあります。そのままでは、数字に変える回路が細かな違いを読み取れません。そこで最初に、信号の形を保ったまま大きくします。この働きを増幅と呼び、そのための回路を増幅器(アンプ)と呼びます。

増幅器の部品として広く使われるのが、オペアンプというICです。2つの入力の電圧の差を、とても大きな倍率で大きくします。広く使われる製品の例では、約20万倍です。

ただ、倍率が大きすぎて、そのままでは扱いにくいのです。そこで、出力の一部を入力に戻すようにつなぎます。こうすると、全体の倍率を、外につないだ2つの抵抗の値の比で決められます。抵抗の値は正確に作りやすいので、倍率も正確になります。このつなぎ方を負帰還と呼びます。抵抗の値と倍率の関係は、オペアンプの増幅率の計算ツールで試せます。

しくみ② 要らない成分を取り除く

信号には、欲しい成分のほかに、要らない成分も混ざります。電源から入りこむ「ブーン」という低い音や、ほかの回路から入る細かな揺れなどです。成分の違いは、波が1秒間に揺れる回数で見分けます。この回数を周波数と呼び、単位はHz(ヘルツ)です。

決まった範囲の周波数だけを通し、ほかを弱める回路を、フィルタと呼びます。抵抗やコンデンサ(電気を一時的にためる部品)、オペアンプを組み合わせて作ります。

しくみ③ 数字に変える: ADコンバータ

整えた電圧を、コンピュータが扱える数字に変える回路を、ADコンバータ(ADC)と呼びます。AはAnalog、DはDigitalの頭文字です。ADCは、2つの手順で電圧を数字にします。

1つ目は、決まった時間の間隔で、電圧を測ることです。間の時刻の値は捨て、測った時刻の値だけを残します。この手順を標本化(サンプリング)と呼びます。

2つ目は、測った値を、決まった段のどれかに丸めることです。この手順を量子化と呼びます。段の数は、数字に使うビット(0か1かの桁)の数で決まります。3ビットなら8段、16ビットなら65,536段です。

標本化と量子化: 決まった時刻に測り、3ビットの8段のどれかに丸める 3ビット(8段)で測る例 7 5 3 1 0 時間 → 点線: 測る時刻(標本化) 点: 近い段に丸めた値(量子化)
曲線が元の電圧、点がADCの出す数字(0〜7)。横の線が0〜7の8つの段で、目盛りの数字は1つおきに書いている。省略していること: 実際の段の細かさ(16ビットなら65,536段)、測る間隔の短さ。

図の点は、元の曲線と少しずつずれています。段に丸めるときに生まれるこのずれを、量子化誤差と呼びます。段を細かくするほど、ずれは小さくなります。

音楽CDの「16ビット・44.1kHz」

音楽CDの規格では、音の電圧を1秒間に44,100回測ります。1秒間に測る回数をサンプリング周波数と呼び、CDでは44.1kHz(キロヘルツ)です。1回の値は16ビット、つまり65,536段で記録します。左右の2チャンネル分です。この形式は、国際規格IEC 60908に定められています。

どれくらい速く測ればよいのか

速く揺れる波を記録するには、それだけ速く測る必要があります。目安は、記録したい波のいちばん高い周波数の、2倍より多い回数で測ることです。こうすれば、理論上は、測った点から元の波を戻せます。この決まりをサンプリング定理と呼びます。

言いかえると、サンプリング周波数の半分が、記録できる周波数の上限です。この上限をナイキスト周波数と呼びます。CDでは、44,100の半分の22,050Hzです。人の耳に聞こえる高さの上限は、おおよそ20,000Hz(20kHz)です。CDは、その少し上まで記録できる設計です。

上限より速い揺れが混ざったまま測ると、測った点をつないだとき、実際にはない遅い波が現れます。この現象をエイリアシング(折り返し)と呼びます。そのため、ADCの手前には、上限より速い成分を取り除くフィルタを置くのがふつうです。

エイリアシング: 測る間隔が広すぎると、速い波が遅い波に見える 測る間隔が広すぎると 時間 → 細い線: 本当の速い波 点: 測った値 太い線: 点をつないだ波
速い波が1回揺れるより、測る間隔のほうが長い例。点だけを見ると、ゆっくりした太い線の波と区別がつかない。省略していること: ADCの手前で速い成分を取り除くフィルタ、量子化。

ADCには、速さ重視や細かさ重視など、いくつかの方式があります。違いは「SAR・ΔΣ・パイプライン・フラッシュADCの違い」で表にしています。

しくみ④ 数字から戻す: DAコンバータ

反対に、数字を電圧に戻す回路を、DAコンバータ(DAC)と呼びます。DACが出す電圧は、数字ごとの段が並んだ、階段のような形です。これをフィルタでなめらかにし、増幅器で強めて、スピーカーを動かします。

しくみ⑤ 電源を整える

チップの中の回路は、決まった電圧の電気を、安定して受け取る必要があります。電池の電圧は、残りの量で変わります。そこで、入ってくる電圧から、必要な電圧を作って一定に保つ回路を使います。この回路をレギュレータと呼びます。

主な方式は2つです。1つは、余った電圧を熱にして捨てる方式です。よく使われる型をLDOと呼びます。むだは多めですが、出力の電圧の細かな揺れが小さいのが長所です。もう1つは、電気を速くオン・オフして電圧を変える、スイッチング方式です。効率が高い代わりに、細かな揺れが出ます。使い分けは「LDOとスイッチングレギュレータの違い」で表にしています。

パワー半導体との違いは、扱う電力の大きさと置き場所です。パワー半導体は、モーターや充電器を流れる大きな電力を切り替えます。レギュレータの多くは、部品を載せた板(基板)の上で、チップに配る小さめの電力を整えるICです。スマホでは、たくさんのレギュレータをまとめたPMIC(電源管理IC)が働いています。

しくみ⑥ 電波と時計の合図

スマホの電波を送り受けする部品も、アナログの回路です。届いたごく弱い電波を、雑音をなるべく足さずに強める増幅器などです(「スマホの中にはどんな半導体が入っている?」)。

デジタルの回路は、一定の間隔で届く合図に合わせて、一歩ずつ動きます。この合図をクロックと呼びます。

クロックの元になる、決まった速さで揺れる信号を作る回路が、発振器です。多くの機器では、電圧をかけると決まった速さで振動する水晶を使います。クオーツ時計と同じしくみです。

水晶で直接作れる周波数は、CPUが動く速さよりずっと低いものです。そこで、安定した遅い合図を元に、何十倍から何百倍も速い合図を作る回路を使います。この回路をPLL(位相同期回路)と呼びます。

アナログの設計が難しい理由

デジタルの回路では、電圧が少し揺れても、0か1かを読み違えなければ答えは変わりません。アナログの回路では、電圧のわずかな揺れが、そのまま信号の誤差になります。主な乱れを4つ挙げます。

  • 雑音: 部品の中の電子は、熱のために、ばらばらに揺れ動いています。この動きは、避けられない小さな電圧の揺れを生みます。これを熱雑音と呼びます。ほかの回路や電源から入りこむ雑音もあります。
  • 温度による変化: 部品の性質は、温度で少しずつ変わります。冬の屋外でも夏の車の中でも、同じ値を出す工夫が要ります。
  • 部品のばらつき: 同じ形に作った2つのトランジスタでも、性質はわずかに違います。差を大きくするオペアンプでは、この違いがそのまま誤差になります。Pelgromらが1989年に示した目安では、トランジスタの面積を4倍にすると、ばらつきは半分になります。
  • 配置: 対になる部品を対称に並べる、デジタルの回路から離す、といった工夫で性能が変わります。

デジタルの回路では、部品の配置の多くを設計の道具が自動で決めます。アナログの回路では、配置で性能が大きく変わるので、設計者が考える部分が多く残ります。1991年に出た、Jim Williams編のアナログ設計の本があります。その題には、科学(Science)と並んで「アート(Art)」の語が入っています。経験による工夫が大きくものを言う分野なのです。

なぜ最先端の工場で作らないのか

スマホの計算の中心になるチップ(SoC)は、「3nm」のような最先端の世代で作られます(世代の名前の意味は「「2nm」「3nm」は何の長さ?」)。一方、アナログ半導体の多くは、何世代も前の、実績のある世代で作られます。それで困らない理由は、主に3つです。

  1. 高い電圧を扱う: 最先端のトランジスタは、1ボルト前後の低い電圧で動くように作られています。アナログのICは、電池やアダプタから来る、それより高い電圧を受けることがよくあります。高い電圧に耐える、丈夫なトランジスタが必要です。
  2. 小さくしても得が少ない: 前の節のとおり、精度を出すには面積が要ります。TSMCが2020年に示した数字では、3nm世代は5nm世代と比べ、同じ面積に入るデジタルの回路が約1.7倍です。アナログの回路は、約1.1倍にとどまります。
  3. 費用: 最先端の世代ほど、製造も設計も高くつきます。小さくならない回路には割に合いません。

代わりに費用を下げる方法の一つが、ウエハ(チップを作るシリコンの円い板)を大きくすることです。TIの2024年度の年次報告書によると、直径300mmのウエハで作ると、200mmより有利です。ケースに入れる前のチップ1個あたりの費用が、約40%低くなります。

アナログ半導体の業界

業界団体WSTSは、集積回路をアナログやメモリなどの種類に分けて集計しています。WSTSの集計では、2025年のアナログの市場は約865億ドルで、半導体全体(約7,956億ドル)の約1割でした。

  • 品種がとても多い: 測るもの、電圧、速さ、精度の組み合わせごとに、向いた製品が違います。TIの公式サイトによると、同社の製品は8万品種を超えます。
  • 長く売れ続ける: 工場の機械や車は、同じ部品を長い年月使い続けます。TIは2009年度の年次報告書で、高性能のアナログ製品は10年を超えて売れ続けることが多いと述べています。

アナログ半導体を主力とする大手には、米国のTIとAnalog Devices(ADI)があります。ADIは2021年8月、アナログの大手だったMaxim Integratedを買収しました。欧州のInfineonやSTMicroelectronics、日本のルネサスやロームなども手がけています。

最初に広く使われたアナログのICは、1964年のオペアンプ「μA702」です。米国のフェアチャイルド社の製品でした(計算機歴史博物館による)。

よくある誤解

誤解: アナログは古い技術で、デジタルに置き換えられた

実際は、置き換わったのは、主に情報を記録したり運んだりする方法です。音を拾う、スピーカーを鳴らす、電波を出す、電源を整えるといった仕事は、今もアナログの回路が受け持ちます。デジタルの機器が増えるほど、入口と出口のアナログ回路も増えます。「アナログ放送」のように、古い方式を指す言葉として使われるので誤解されやすいのです。

誤解: ADCは、ビット数が多いほど必ずよい結果になる

実際は、ビット数は、段の細かさの上限にすぎません。雑音やゆがみ(波の形の崩れ)が段より大きければ、下の桁は揺れるだけで、意味のある数字になりません。雑音とゆがみまで含めて、実際に使える桁数を表す値をENOB(有効ビット数)と呼びます。部品の説明書(データシート)に載るENOBは、名前のビット数より小さい値です。

誤解: アナログ半導体も、最新の「nm」の工場で作るほど高性能になる

実際は、多くのアナログのICは、高い電圧に耐えることや精度を優先して、実績のある世代を選びます。ただし、最先端のSoCの中にも、PLLのようなアナログ回路はあります。その場合は、まわりのデジタルの回路に合わせて最新の世代で作り、設計の工夫で精度を保ちます。半導体の話題は微細化の競争として語られやすいので、誤解が生まれます。

数字で見る

項目数字ひとこと
16ビットの段65,536段音楽CD
CDのサンプリング周波数44.1kHz記録できる上限は22.05kHz
CDの1秒分のデータ1,411,200ビット44,100回×16ビット×2チャンネル(当サイトの計算)
アナログの市場(WSTS)約865億ドル2025年。半導体全体の約1割
TIの製品の数8万品種超2026年時点の公式サイト

データ量の計算は、画像・音声・動画のデータ量の計算ツールで試せます。

もっと詳しく学ぶ

次に読む

シリーズ「身近な半導体」の記事

  1. メモリとストレージの違いは? 「8GB」と「256GB」の意味
  2. スマホの中にはどんな半導体が入っている? 主なチップと役割
  3. パワー半導体とは? 電気自動車や家電で電力を変換するしくみ
  4. イメージセンサとは? スマホのカメラが光を電気に変えるしくみ
  5. マイコンとは? 家電や車を動かす小さなコンピュータ
  6. 太陽電池はなぜ発電できる? 光を電気に変えるしくみと効率の限界
  7. LEDはなぜ光る? 半導体で電気を光に変えるしくみ
  8. タッチパネルはなぜ指に反応する? 静電容量方式のしくみ
  9. SSDとは? フラッシュメモリがデータを覚えるしくみ
  10. アナログ半導体とは? デジタルと何が違い、どこで使われる?
  11. GPSはどうやって位置がわかる? 衛星と時刻のしくみ
  12. 液晶と有機ELは何が違う? 画面が色を出すしくみ
  13. DRAMとは? データを電気でためるメモリのしくみ
  14. MEMSとは? スマホの中の小さな動く機械のしくみ
  15. リチウムイオン電池とは? 充電・放電のしくみと安全
  16. 半導体レーザーとは? LEDとの違いと光通信での使われ方
  17. GaN(窒化ガリウム)とは? 小さな充電器を作れる理由
  18. SiC(炭化ケイ素)とは? EVの電力変換を変える半導体
  19. ワイヤレス充電とは? 置くだけで充電できるしくみ
  20. インバーターとは? エアコンやEVで電気を自在に変えるしくみ
  21. USBとは? USB-Cと規格・速度の違いをやさしく
  22. ノイズキャンセリングとは? 音で音を消すしくみ
  23. チップの冷却とは? 熱を逃がすしくみと限界
  24. ACアダプターのしくみ: 充電器はどう100Vを5Vにする?
  25. 電気自動車(EV)にはどんな半導体が入っている? 主なチップと役割
  26. スマートウォッチはどうやって心拍数を測る? 光で血流を読むしくみ
  27. モバイルバッテリーのしくみ: 10000mAhで何回充電できる?
  28. NFCとは? Suicaやタッチ決済がかざすだけで使えるしくみ

この分野の問題: アナログ・電子回路

参考にした資料

やさしい解説の一覧へ