アナログ半導体とは? デジタルと何が違い、どこで使われる?
アナログ半導体は、音・光・温度のように連続して変わる量を、電圧や電流のまま扱う半導体です。小さな信号を大きくする、数字に変える・数字から戻す、電源の電圧を整える、時計の合図を作る、といった仕事をします。0と1で計算するデジタルのチップと、現実の世界とをつなぐ役目です。
この記事でわかること
- 「アナログ」と「デジタル」の違いと、両方が必要な理由
- 信号を大きくする・数字に変える回路のしくみと、「16ビット・44.1kHz」の意味
- アナログの設計が難しい理由と、最先端の工場で作らない理由
- ニュースに出てくるアナログ半導体の業界の特徴
前提知識: 特にありません。コンピュータが数を0と1で表すことを知っていると読みやすくなります(「コンピュータは0と1でどう計算するの?」)。
身近なところでは: ニュースの「アナログ半導体」
「アナログ半導体」という言葉は、経済のニュースで見かけます。米国のTexas Instruments(TI)などの決算の記事です。CPUやメモリほど有名ではありませんが、ほとんどの電子機器に入っています。
スマホで話すと、マイクが声を電気の波に変えます。体温計は、温度で変わる電圧を測っています。どれも、最初に受け取るのは連続して変わる信号で、それを受け取るのがアナログ半導体です。
アナログとデジタルの違い
音は、空気の圧力の揺れです。その強さは、途中の値をいくらでも取りながら、なめらかに変わります。光の明るさや温度も同じです。このように連続して変わる量や、それをそのまま表した信号を、アナログと呼びます。
一方、コンピュータは、数を0と1の並びで表し、とびとびの値だけを扱います。これをデジタルと呼びます。0と1の2つだけなら、電圧が少し揺れても読み違えにくいので、正確な計算や保存に向いています。
ところが、現実の世界の情報は、0と1の形では届きません。センサが受け取った量は、まず連続して変わる電圧として現れます。この電圧をそのままの形で扱うチップが、アナログ半導体です。
なお、業界の統計では、電源の電圧を整える集積回路(IC)も「アナログ」に数えます。大きな電力を切り替えるパワー半導体の多くは、単体の部品として別に数えます(「パワー半導体とは?」)。
下の図は、声を録音して再生するまでの流れです。アナログの回路は、デジタルの回路の入口と出口にいます。
しくみ① 小さな信号を大きくする
マイクやセンサが出す電圧は、とても小さいことがよくあります。そのままでは、数字に変える回路が細かな違いを読み取れません。そこで最初に、信号の形を保ったまま大きくします。この働きを増幅と呼び、そのための回路を増幅器(アンプ)と呼びます。
増幅器の部品として広く使われるのが、オペアンプというICです。2つの入力の電圧の差を、とても大きな倍率で大きくします。広く使われる製品の例では、約20万倍です。
ただ、倍率が大きすぎて、そのままでは扱いにくいのです。そこで、出力の一部を入力に戻すようにつなぎます。こうすると、全体の倍率を、外につないだ2つの抵抗の値の比で決められます。抵抗の値は正確に作りやすいので、倍率も正確になります。このつなぎ方を負帰還と呼びます。抵抗の値と倍率の関係は、オペアンプの増幅率の計算ツールで試せます。
しくみ② 要らない成分を取り除く
信号には、欲しい成分のほかに、要らない成分も混ざります。電源から入りこむ「ブーン」という低い音や、ほかの回路から入る細かな揺れなどです。成分の違いは、波が1秒間に揺れる回数で見分けます。この回数を周波数と呼び、単位はHz(ヘルツ)です。
決まった範囲の周波数だけを通し、ほかを弱める回路を、フィルタと呼びます。抵抗やコンデンサ(電気を一時的にためる部品)、オペアンプを組み合わせて作ります。
しくみ③ 数字に変える: ADコンバータ
整えた電圧を、コンピュータが扱える数字に変える回路を、ADコンバータ(ADC)と呼びます。AはAnalog、DはDigitalの頭文字です。ADCは、2つの手順で電圧を数字にします。
1つ目は、決まった時間の間隔で、電圧を測ることです。間の時刻の値は捨て、測った時刻の値だけを残します。この手順を標本化(サンプリング)と呼びます。
2つ目は、測った値を、決まった段のどれかに丸めることです。この手順を量子化と呼びます。段の数は、数字に使うビット(0か1かの桁)の数で決まります。3ビットなら8段、16ビットなら65,536段です。
図の点は、元の曲線と少しずつずれています。段に丸めるときに生まれるこのずれを、量子化誤差と呼びます。段を細かくするほど、ずれは小さくなります。
音楽CDの「16ビット・44.1kHz」
音楽CDの規格では、音の電圧を1秒間に44,100回測ります。1秒間に測る回数をサンプリング周波数と呼び、CDでは44.1kHz(キロヘルツ)です。1回の値は16ビット、つまり65,536段で記録します。左右の2チャンネル分です。この形式は、国際規格IEC 60908に定められています。
どれくらい速く測ればよいのか
速く揺れる波を記録するには、それだけ速く測る必要があります。目安は、記録したい波のいちばん高い周波数の、2倍より多い回数で測ることです。こうすれば、理論上は、測った点から元の波を戻せます。この決まりをサンプリング定理と呼びます。
言いかえると、サンプリング周波数の半分が、記録できる周波数の上限です。この上限をナイキスト周波数と呼びます。CDでは、44,100の半分の22,050Hzです。人の耳に聞こえる高さの上限は、おおよそ20,000Hz(20kHz)です。CDは、その少し上まで記録できる設計です。
上限より速い揺れが混ざったまま測ると、測った点をつないだとき、実際にはない遅い波が現れます。この現象をエイリアシング(折り返し)と呼びます。そのため、ADCの手前には、上限より速い成分を取り除くフィルタを置くのがふつうです。
ADCには、速さ重視や細かさ重視など、いくつかの方式があります。違いは「SAR・ΔΣ・パイプライン・フラッシュADCの違い」で表にしています。
しくみ④ 数字から戻す: DAコンバータ
反対に、数字を電圧に戻す回路を、DAコンバータ(DAC)と呼びます。DACが出す電圧は、数字ごとの段が並んだ、階段のような形です。これをフィルタでなめらかにし、増幅器で強めて、スピーカーを動かします。
しくみ⑤ 電源を整える
チップの中の回路は、決まった電圧の電気を、安定して受け取る必要があります。電池の電圧は、残りの量で変わります。そこで、入ってくる電圧から、必要な電圧を作って一定に保つ回路を使います。この回路をレギュレータと呼びます。
主な方式は2つです。1つは、余った電圧を熱にして捨てる方式です。よく使われる型をLDOと呼びます。むだは多めですが、出力の電圧の細かな揺れが小さいのが長所です。もう1つは、電気を速くオン・オフして電圧を変える、スイッチング方式です。効率が高い代わりに、細かな揺れが出ます。使い分けは「LDOとスイッチングレギュレータの違い」で表にしています。
パワー半導体との違いは、扱う電力の大きさと置き場所です。パワー半導体は、モーターや充電器を流れる大きな電力を切り替えます。レギュレータの多くは、部品を載せた板(基板)の上で、チップに配る小さめの電力を整えるICです。スマホでは、たくさんのレギュレータをまとめたPMIC(電源管理IC)が働いています。
しくみ⑥ 電波と時計の合図
スマホの電波を送り受けする部品も、アナログの回路です。届いたごく弱い電波を、雑音をなるべく足さずに強める増幅器などです(「スマホの中にはどんな半導体が入っている?」)。
デジタルの回路は、一定の間隔で届く合図に合わせて、一歩ずつ動きます。この合図をクロックと呼びます。
クロックの元になる、決まった速さで揺れる信号を作る回路が、発振器です。多くの機器では、電圧をかけると決まった速さで振動する水晶を使います。クオーツ時計と同じしくみです。
水晶で直接作れる周波数は、CPUが動く速さよりずっと低いものです。そこで、安定した遅い合図を元に、何十倍から何百倍も速い合図を作る回路を使います。この回路をPLL(位相同期回路)と呼びます。
アナログの設計が難しい理由
デジタルの回路では、電圧が少し揺れても、0か1かを読み違えなければ答えは変わりません。アナログの回路では、電圧のわずかな揺れが、そのまま信号の誤差になります。主な乱れを4つ挙げます。
- 雑音: 部品の中の電子は、熱のために、ばらばらに揺れ動いています。この動きは、避けられない小さな電圧の揺れを生みます。これを熱雑音と呼びます。ほかの回路や電源から入りこむ雑音もあります。
- 温度による変化: 部品の性質は、温度で少しずつ変わります。冬の屋外でも夏の車の中でも、同じ値を出す工夫が要ります。
- 部品のばらつき: 同じ形に作った2つのトランジスタでも、性質はわずかに違います。差を大きくするオペアンプでは、この違いがそのまま誤差になります。Pelgromらが1989年に示した目安では、トランジスタの面積を4倍にすると、ばらつきは半分になります。
- 配置: 対になる部品を対称に並べる、デジタルの回路から離す、といった工夫で性能が変わります。
デジタルの回路では、部品の配置の多くを設計の道具が自動で決めます。アナログの回路では、配置で性能が大きく変わるので、設計者が考える部分が多く残ります。1991年に出た、Jim Williams編のアナログ設計の本があります。その題には、科学(Science)と並んで「アート(Art)」の語が入っています。経験による工夫が大きくものを言う分野なのです。
なぜ最先端の工場で作らないのか
スマホの計算の中心になるチップ(SoC)は、「3nm」のような最先端の世代で作られます(世代の名前の意味は「「2nm」「3nm」は何の長さ?」)。一方、アナログ半導体の多くは、何世代も前の、実績のある世代で作られます。それで困らない理由は、主に3つです。
- 高い電圧を扱う: 最先端のトランジスタは、1ボルト前後の低い電圧で動くように作られています。アナログのICは、電池やアダプタから来る、それより高い電圧を受けることがよくあります。高い電圧に耐える、丈夫なトランジスタが必要です。
- 小さくしても得が少ない: 前の節のとおり、精度を出すには面積が要ります。TSMCが2020年に示した数字では、3nm世代は5nm世代と比べ、同じ面積に入るデジタルの回路が約1.7倍です。アナログの回路は、約1.1倍にとどまります。
- 費用: 最先端の世代ほど、製造も設計も高くつきます。小さくならない回路には割に合いません。
代わりに費用を下げる方法の一つが、ウエハ(チップを作るシリコンの円い板)を大きくすることです。TIの2024年度の年次報告書によると、直径300mmのウエハで作ると、200mmより有利です。ケースに入れる前のチップ1個あたりの費用が、約40%低くなります。
アナログ半導体の業界
業界団体WSTSは、集積回路をアナログやメモリなどの種類に分けて集計しています。WSTSの集計では、2025年のアナログの市場は約865億ドルで、半導体全体(約7,956億ドル)の約1割でした。
- 品種がとても多い: 測るもの、電圧、速さ、精度の組み合わせごとに、向いた製品が違います。TIの公式サイトによると、同社の製品は8万品種を超えます。
- 長く売れ続ける: 工場の機械や車は、同じ部品を長い年月使い続けます。TIは2009年度の年次報告書で、高性能のアナログ製品は10年を超えて売れ続けることが多いと述べています。
アナログ半導体を主力とする大手には、米国のTIとAnalog Devices(ADI)があります。ADIは2021年8月、アナログの大手だったMaxim Integratedを買収しました。欧州のInfineonやSTMicroelectronics、日本のルネサスやロームなども手がけています。
最初に広く使われたアナログのICは、1964年のオペアンプ「μA702」です。米国のフェアチャイルド社の製品でした(計算機歴史博物館による)。
よくある誤解
誤解: アナログは古い技術で、デジタルに置き換えられた
実際は、置き換わったのは、主に情報を記録したり運んだりする方法です。音を拾う、スピーカーを鳴らす、電波を出す、電源を整えるといった仕事は、今もアナログの回路が受け持ちます。デジタルの機器が増えるほど、入口と出口のアナログ回路も増えます。「アナログ放送」のように、古い方式を指す言葉として使われるので誤解されやすいのです。
誤解: ADCは、ビット数が多いほど必ずよい結果になる
実際は、ビット数は、段の細かさの上限にすぎません。雑音やゆがみ(波の形の崩れ)が段より大きければ、下の桁は揺れるだけで、意味のある数字になりません。雑音とゆがみまで含めて、実際に使える桁数を表す値をENOB(有効ビット数)と呼びます。部品の説明書(データシート)に載るENOBは、名前のビット数より小さい値です。
誤解: アナログ半導体も、最新の「nm」の工場で作るほど高性能になる
実際は、多くのアナログのICは、高い電圧に耐えることや精度を優先して、実績のある世代を選びます。ただし、最先端のSoCの中にも、PLLのようなアナログ回路はあります。その場合は、まわりのデジタルの回路に合わせて最新の世代で作り、設計の工夫で精度を保ちます。半導体の話題は微細化の競争として語られやすいので、誤解が生まれます。
数字で見る
| 項目 | 数字 | ひとこと |
|---|---|---|
| 16ビットの段 | 65,536段 | 音楽CD |
| CDのサンプリング周波数 | 44.1kHz | 記録できる上限は22.05kHz |
| CDの1秒分のデータ | 1,411,200ビット | 44,100回×16ビット×2チャンネル(当サイトの計算) |
| アナログの市場(WSTS) | 約865億ドル | 2025年。半導体全体の約1割 |
| TIの製品の数 | 8万品種超 | 2026年時点の公式サイト |
データ量の計算は、画像・音声・動画のデータ量の計算ツールで試せます。
もっと詳しく学ぶ
- 違いを表で見る: オペアンプとコンパレータの違い、A級・AB級・D級アンプの違い、PLLとDLLの違い、シングルエンドと差動信号の違い
- 次の一歩の用語: 逐次比較型ADC、オーバーサンプリング
- 数字で試す: ADCのSN比・ENOBの計算ツール(ビット数と雑音の関係)、dB・dBmの換算ツール
- 関連する記事: 「マイコンとは?」(ADCを内蔵したマイコン)、「イメージセンサとは?」(光を数字にするまで)