リチウムイオン電池とは? 充電・放電のしくみと安全
リチウムイオン電池は、エネルギーを化学の形でたくわえ、使うときに電子を外の回路へ送り出す、くり返し使える電池です。中では、リチウムイオンが黒鉛の負極と金属酸化物の正極の間を、液体を通って行き来します。軽くて多くためられる反面、傷や熱で発火することがあるため、チップが休まず見張っています。
この記事でわかること
- 電池が何をしているのか、リチウムイオン電池の中で起きていること
- 軽くてたくさんためられる理由と、mAhとWhの違い
- 充電の手順(電流一定→電圧一定)と、電池を見張るチップの役割
- 電池が劣化する理由と、熱暴走を防ぐための使い方
前提知識: 電圧と電流の大まかな意味(中学校の理科の程度)。式は掛け算1つだけです。
身近なところでは
スマホ、ノートパソコン、ワイヤレスイヤホン、電気自動車。充電して何度も使う電池の多くは、リチウムイオン電池です。モバイルバッテリーの中身も、同じ種類です。
ニュースでは、モバイルバッテリーの発火や、飛行機に持ち込むときのルールがよく話題になります。便利さと危うさの両方を知るには、中のしくみから見るのが近道です。
電池は何をしているのか
電池は、電気そのものを箱に詰めているわけではありません。中の物質が化学反応を起こすときのエネルギーを、電気の形で取り出す装置です。反応が進むと、電子が電池の外の回路を通って流れます。この電子の流れが、スマホを動かす電流です。
乾電池のように、使い切ったら終わりの電池を一次電池と呼びます。反対向きに電気を流すと反応を元に戻せて、くり返し使える電池は二次電池(充電池)と呼びます。リチウムイオン電池は二次電池の一つです。電気を取り出すことを放電、ため直すことを充電と言います。
似た部品のコンデンサは、化学反応を使わず、向かい合う板に電気を分けて置くだけです(「コンデンサとは?」)。一瞬で出し入れできますが、ためられるエネルギーは電池のほうがずっと大きいです。
しくみ① 中に入っている4つのもの
電池の中には、電気の出入り口になる板(電極)が2枚あります。マイナス側を負極、プラス側を正極と呼びます。負極には、ふつう黒鉛を使います。黒鉛は鉛筆の芯にも使われる炭素の仲間で、薄い層が積み重なった形をしています。
正極には、リチウムを含む金属の化合物を使います。代表は、コバルトやニッケルなどの金属に、酸素とリチウムが結びついた金属酸化物です。鉄とリンを使う、リン酸鉄リチウムという材料もあります。
2枚の電極の間は、電解液という液体で満たされています。電解液は、リチウムイオンは通しますが、電子は通しません。中身は、有機溶媒という燃えやすい液体に、リチウムの塩を溶かしたものです(製品の安全を調べる国の機関NITEの資料)。
電極どうしが触れると、電池の中でショート(電気の近道)が起きてしまいます。これを防ぐのが、セパレータという薄いプラスチックの膜です。目に見えないほど細かい穴があいていて、イオンは通り抜けられます。
しくみ② 放電と充電で起きていること
充電が終わった電池では、リチウムの多くが、負極の黒鉛の層のすき間に入っています。リチウムにとって、ここは無理をして押し込まれた場所です。正極の側へ移るほうが、エネルギーが低くなって落ち着きます。
スマホにつなぐと、負極のリチウムは電子を1個手放して、リチウムイオンになります。イオンは電解液とセパレータを通って、正極へ移ります。手放された電子は電解液を通れないので、外の回路を回って正極へ向かいます。この電子の流れで、スマホが動きます。
正極に着いたイオンは金属酸化物のすき間に入り、外を回ってきた電子も金属酸化物が受け取ります。イオンは中の近道を、電子は外の遠回りを通るのがポイントです。もし電子が中を通れたら、外に電流を取り出せません。
充電では、充電器が外から電圧をかけて、この流れを逆向きに押し戻します。リチウムイオンは正極から負極へ戻り、電子も外の回路を通って負極へ戻ります。理想的には、リチウムは減らずに両側を行き来するだけです。
なぜこれほど使われるのか
第一の理由は、軽さの割に多くのエネルギーをためられることです。エネルギーの量は、Wh(ワット時)という単位で表します。1ワットの電力を1時間使える量が、1 Whです。1 kgあたり何Whためられるかを、重さあたりのエネルギー密度と呼びます。
| 電池の種類 | 1 kgあたりのエネルギー(目安) |
|---|---|
| 鉛蓄電池 | 30〜50 Wh |
| ニッケルカドミウム電池 | 45〜80 Wh |
| ニッケル水素電池 | 60〜120 Wh |
| リチウムイオン電池 | 70〜260 Wh(材料による。スマホに多い種類は150〜200 Wh) |
数字は、電池の解説サイトBattery Universityの表です(日付のない資料のため、2026年10月に確認)。電池1個(1セル)の値で、製品や年によって変わります。
第二の理由は、1セルの電圧が高いことです。ニッケル水素電池の1.2 Vに対し、リチウムイオン電池は約3.6〜3.7 Vです(製品の表示による。Battery University)。1セルでニッケル水素電池約3個ぶんの電圧が出るので、スマホは1セルで動けます。
mAhとWh: 2つの「容量」の違い
電池の仕様には、「4,000 mAh」のような数字がよく書かれています。mAh(ミリアンペア時)は、何ミリアンペアの電流を何時間流せるかを表す単位です。4,000 mAhなら、400 mAを10時間、または4,000 mAを1時間流せる量です。
ただし、mAhは流せる電気の量で、エネルギーの量そのものではありません。同じ量の電気でも、高い電圧で押し出すほど多くの仕事ができるからです。エネルギーを比べるときは、Whを使います。
換算は掛け算1つです。Ahで表した容量に電圧を掛けると、Whになります。たとえば4,000 mAh(4 Ah)で、表示の電圧が3.7 Vの電池なら、4 × 3.7 = 約15 Whです。
モバイルバッテリーで考えてみます。10,000 mAhで中のセルが3.7 Vなら、約37 Whです。15 Whのスマホなら約2.5回ぶんの計算になります。実際には、USBの5 Vに変える回路などで一部が熱になるので、回数はそれより少なくなります。mAhどうしで比べてよいのは、電圧が同じときだけです。
充電の手順: はじめは電流一定、最後は電圧一定
リチウムイオン電池は、ただ電気を流し込めばよいわけではありません。多くの場合、2つの段階で充電します。1段目は、決まった大きさの電流を流し続ける段階です。これを定電流(CC)充電と呼びます。
電流を流すと、電池の電圧は少しずつ上がります。上限の電圧(一般的なセルでは4.20 V)に着いたら、2段目に切り替えます。今度は電圧をその値に保ち、流れ込む電流が自然に減るのに任せます。これを定電圧(CV)充電と呼びます(Battery University、Texas Instruments)。
電流が十分に小さくなったら、充電を止めます。流し続けたり上限を超えて押し込んだりすると、電池が傷み、危険にもなるからです(Battery University)。
アップルも、iPhoneの電池は80 %までは速く、その先はゆっくり充電すると説明しています。「最後だけ遅い」と感じるのは、主にこの2段目のためです。
電池を見張るチップ
この手順を守り、電池の状態を見張るのは、半導体のチップです。スマホの電池のまわりでは、役割の違うチップがいくつも働いています。
保護IC: 異常のときに電気を切る
電池パックの中には、保護ICという小さなチップがあります。電圧が高すぎる、低すぎる、電流が大きすぎるといった異常を見張っています(Texas Instruments)。それぞれ、過充電、過放電、過電流と呼びます。
異常を見つけると、電気の通り道にある2つのスイッチを切ります。スイッチには、電圧をかけるだけで電流をオン・オフできるトランジスタ(パワーMOSFET)を使います。1つは充電の向き、もう1つは放電の向きの電流を止める役です(保護ICメーカーのABLIC)。
残量計IC: 残りを推定する
画面の「残り63 %」のような数字は、残量計ICが計算しています。英語ではfuel gauge(燃料計)と呼びます。電池に出入りした電流を、時間とともに足し引きして数えるのが基本です。これだけでは誤差が積み重なるので、電池が休んでいるときの電圧で補正します(Texas Instruments)。
充電IC: 充電の手順を守る
充電ICは、USBなどから入ってきた電気を、電池に合った電流と電圧に整えます。そして、さきほどの2段階の手順で充電します。熱いときに充電を弱めたり止めたりするものも多くあります。
電気を配るチップと、電気自動車のBMS
電池から出た電気を、チップごとに必要な電圧に変えて配るのは、PMIC(電源管理IC)です。スマホ全体の電源の流れは、「スマホの中にはどんな半導体が入っている?」で説明しています。
電気自動車は、たくさんのセルをつないだ電池を積んでいます。セルごとの電圧と温度を見張り、残量のばらつきをそろえる仕組みが必要です。これをBMS(バッテリー管理システム)と呼びます(Texas Instruments)。
なぜ電池は劣化するのか
何年も使ったスマホは、満充電しても前ほどもちません。電池の中では、充電と放電のたびに、電極の表面で目的以外の反応がわずかに起きます。その結果、行き来できるリチウムが減り、電気の流れにくさも増えていきます(Battery University)。ここでは話を簡単にしていますが、劣化を速める主な条件は次の3つです。
1. 充電と放電の回数
アップルは、容量の100 %ぶんを使うごとに1回と数え、これを充電サイクルと呼びます。50 %ずつ2回使えば、1回です。iPhone 14以前は500回、iPhone 15のシリーズは1,000回のあとも、容量の80 %を保つ設計です。理想的な条件での値で、1,000回は2024年に公表されました。
2. 熱
アップルによると、iPhoneなどに理想的な周りの温度は16〜22 °Cです。35 °Cを超える場所に置くと、容量が戻らないほど傷むおそれがあります。NITEも、夏は高温になる場所に電池を置かないよう呼びかけています。
3. 満充電のまま長く置くこと
電圧が上限に近い状態が長く続くほど、電池は傷みやすくなります。熱が加わると、さらに速く進みます(Battery University)。iPhoneの「バッテリー充電の最適化」は、長くつながれると予測したとき、80 %で待って外す頃に100 %にします。満充電で過ごす時間を短くする工夫です(アップル)。
安全: 熱暴走とは
電池が発火するときには、熱暴走という現象が起きています。電池の中で熱が生まれる速さが、外へ逃げる速さを上回り、温度が上がり続ける状態です。温度が上がると反応が進み、さらに熱が出る悪循環です(米国の安全研究機関ULRI)。
ULRIの資料では、熱暴走で300 °Cを超えることがあり、ガスや煙が噴き出し、火が出ることもあります。中の電解液は燃えやすい液体なので、燃え始めると止めにくくなります。大きな電池では、一つのセルの熱が隣のセルに伝わって、次々に広がることもあります。
きっかけの代表は、電池の中のショートです。強くぶつけたり、押しつぶしたり、穴をあけたりすると、セパレータが破れて正極と負極が直接触れます。すると、ためたエネルギーが一気に熱になって出ていきます。外から熱されることや、上限を超えて充電されることも、きっかけになります(ULRI)。
NITEは、強い衝撃や力を加えないこと、高温の場所で使ったり置いたりしないことを呼びかけています。ふくらんだ電池は、押して戻そうとしてはいけません。強い力を加えて出火した事故があります(仙台市消費生活センター)。異常に気づいたら使うのも充電するのもやめ、販売店やメーカーに相談します。
飛行機に乗るとき
モバイルバッテリーや予備の電池は、預ける荷物に入れられません。2026年4月24日からは、機内に持ち込めるモバイルバッテリーは1人2個まで(1個160 Wh以下)です(国土交通省)。機内では、モバイルバッテリーを充電することも、それでスマホなどを充電することも禁止されました。ルールは変わることがあるので、乗る前に航空会社の案内を確かめてください。
ノーベル賞までの道のり
1970年代、スタンリー・ウィッティンガムが、リチウムを使う充電池の土台を作りました。1980年には、ジョン・グッドイナフが、コバルト酸リチウムの正極で約4 Vが出ることを示しました(ノーベル賞の発表)。
1985年、旭化成の吉野彰は、負極に炭素の材料を使い、正極のコバルト酸リチウムと組み合わせました。反応しやすい金属のリチウムを負極に使わずにすむ形で、今の電池の基本構造です(旭化成)。製品として初めて世に出たのは1991年で、ソニーが量産を始めました。2019年、3人は「リチウムイオン電池の開発」でノーベル化学賞を受けました。
よくある誤解
誤解: 使い切ってから充電しないと、電池の容量が減る
実際は、これはニッケルカドミウム電池で知られた「メモリー効果」の話です。継ぎ足し充電をくり返すと、使える量が減ったように見える現象で、ニッケル水素電池でも小さく起きます。リチウムイオン電池にはこの効果がなく、使い切る深い放電のほうが負担です(Battery University)。昔の充電池の常識が残った誤解です。
誤解: 一晩つないで充電すると、それだけで必ず電池が傷む
実際は、満充電になると充電ICが充電を止めるので、電気が押し込まれ続けるわけではありません。ただし、満充電に近い状態が長く続くことと熱は、劣化を速めます。そこで最近のスマホには、長く充電すると予測したとき80 %で待つ機能があります。熱がこもる布団の中などで充電しないことも大切です。
誤解: 残量の「%」は、電池の中を直接はかった数字
実際は、残量計ICが、電流の出入りと電圧から推定した数字です。電池が古くなると、満充電でためられる量そのものが減るので、計算の土台も変わります。残量計は使いながら補正しますが、数字がときどき急に変わるのは、推定だからです。
数字で見る
| 数字 | 何の数字か |
|---|---|
| 約3.6〜3.7 V / 4.20 V | 1セルの標準的な電圧 / 一般的なセルの充電の上限(Battery University) |
| 500回 / 1,000回 | 容量の80 %を保つよう設計された充電サイクルの数。iPhone 14以前 / iPhone 15のシリーズ(Apple、理想的な条件) |
| 300 °C超 | 熱暴走で達することがある温度(ULRI) |
| 160 Wh | 機内に持ち込めるモバイルバッテリー1個の上限(国土交通省、2026年4月24日からのルール) |
| 1985年 / 1991年 / 2019年 | 基本構造の完成 / 初めての製品化 / ノーベル化学賞 |
上の例のスマホの電池は、約15 Whでした。機内に持ち込める上限の160 Whは、その10個ぶんほどにあたります。
もっと詳しく学ぶ
- 関連する記事: 「パワー半導体とは?」(電気をオン・オフするスイッチ、充電器の中)、「コンデンサとは?」(電池との違い)、「スマホの中にはどんな半導体が入っている?」(PMICと充電)
- 違いを表で見る: 直列接続と並列接続の違い(電池をつないだときの電圧と容量) / LDOとスイッチングレギュレータの違い / 降圧コンバータと昇圧コンバータの違い
- 数字で試す: DC-DCコンバータの計算ツール(中級向け)
- 次の一歩の用語: DC-DCコンバータ、LDO、静止電流(電池で動く機器の待機時間を左右する)