ACアダプターのしくみ: 充電器はどう100Vを5Vにする?

約14分 · 更新: 2026年10月23日

ACアダプター(充電器)は、コンセントの交流100ボルトを、スマホなどが使う5ボルト前後の直流に変える装置です。今の多くは「スイッチング電源」です。交流をいったん直流にし、1秒に数万回以上オン・オフしてから、小さな変圧器で電圧を下げます。速く切り替えるほど変圧器を小さくできるので、昔の重い箱より小さく軽くなりました。

この記事でわかること

  • スマホやパソコンが「低い電圧の直流」を必要とする理由
  • 昔の重いアダプターと、今の小さな充電器の違い
  • 中で起きている5つの段階(整流、速いオン・オフ、小さな変圧器、もう一度の整流、見張りと調整)
  • 速く切り替えるほど部品が小さくなる理由と、その代わりに増える熱
  • コンセント側と出力側を電線でつながない「絶縁」の意味

前提知識: 直流と交流の大まかな違い(「交流と直流の違いとは?」)。変圧器を「2つのコイルで交流の電圧を上げ下げする部品」と知っていると読みやすくなります。

身近なところでは: 重い箱から手のひらサイズへ

スマホの充電器、ノートパソコンの電源、Wi-Fiのルーターやゲーム機の電源。家の中には、コンセントに挿す小さな箱がたくさんあります。どれも、コンセントの電気を機器に合う形に変える役目をしています。

少し前まで、家電に付いてくるアダプターは、ずっしり重い四角い箱でした。今のスマホ用の充電器は、同じくらいの電力を、ずっと小さく軽い箱で送り出せます。中身のしくみが、根本から変わったからです。

この記事では、今の充電器の中で何が起きているかを、5つの段階に分けて見ていきます。

なぜ「低い電圧の直流」が必要なのか

コンセントの電気は、1秒に50回か60回、向きが行ったり来たりする交流です。電圧は、山のところで約141ボルトに達します(くわしくは「交流と直流の違いとは?」)。一方、スマホやパソコンの中の回路は、向きが一定の直流で動きます。

必要な電圧も、ずっと低いのが特徴です。スマホのリチウムイオン電池は、1つ(1セル)あたり3.6ボルトほどです(Battery University)。パソコンのメモリの規格DDR5では、電源の電圧は1.1ボルトです(JEDEC、2020年)。チップの中のとても小さなトランジスタは、高い電圧に耐えられないのです。

そこで、まずACアダプターが、100ボルトの交流を、多くは5〜20ボルトほどの直流にします。機器の中では、さらに小さな電源の回路が、チップごとに合った電圧へ細かく分けます(「スマホの中にはどんな半導体が入っている?」)。ACアダプターは、この長い道のりの最初の、いちばん大きな一段を受け持っています。

昔のアダプター: 大きな変圧器で直接下げる

昔のアダプターの中身は、とても単純でした。コンセントの交流を、そのまま変圧器に通して電圧を下げます。次に、電流を一方向にだけ通すダイオードで向きをそろえ、コンデンサでならして直流にしていました(「ダイオードとは?」)。

重さのもとは、この変圧器です。1秒に50回か60回というゆっくりした変化を扱うには、太い鉄の芯と、たくさん巻いた銅の線が要ります。芯は、薄い鉄の板を何枚も重ねて作ります(OpenStaxの物理の教科書)。

この方式には、ほかにも弱点がありました。電圧は巻き数の比で決まるので、入力が2倍の国で使うと、出力もほぼ2倍になります。そのまま使えば、機器を壊すおそれがあります。つなぐ機器が電気をあまり使わないと、表示より高い電圧が出ることもありました。例えば、交流9ボルトと表示された変圧器式の製品があります。何もつながないときは、11.6ボルト近くまで上がりえます(Triad Magnetics)。

むだも多めでした。米国のENERGY STARの資料では、変圧器式の電源の効率を測ると、20〜75%でした。効率は、受け取った電力のうち、送り出せた割合です。残りは熱になり、箱を温めていました。

しくみ① 今の充電器の全体の流れ

今の充電器の多くは、スイッチング電源と呼ばれる方式です。電気を細かく「切り替える(スイッチする)」ことから、この名前があります。電気が通る順番は、下の図のようになります。

スイッチング方式のACアダプターの中で、電気が通る順番。交流をまず直流にし、速くオン・オフして小さな変圧器で電圧を下げ、もう一度直流にするコンセント① 整流してならすダイオード・コンデンサ② 速くオン・オフパワートランジスタ③ 小さな変圧器電圧を下げる④ 整流してならすダイオードなどUSBの出力交流100V約140Vの直流1秒に数万回〜↑コンセント側↓出力側約5Vの直流
図1 色の箱のうち、上の3つはコンセント側、下の2つは出力側。枠だけの変圧器は境目をまたぐ。点線は2つの側の境目で、電線は通らない。右は各段階の電圧の形のイメージで、高さの縮尺は正確ではない。省略していること: 出力を見張って調整するしくみ(図2)、雑音を抑える部品、保護の回路。

一見すると、遠回りに見えます。交流をわざわざ直流にして、また細かく刻んで変圧器に通すからです。けれども、この遠回りのおかげで、変圧器を手のひらに収まる大きさにできます。順に見ていきましょう。

しくみ② まず直流にして、高い電圧のまま蓄える

最初の段階では、コンセントの交流を、4個のダイオードを組にした回路で一方向にそろえます。これを整流と呼びます。そのあと、大きなコンデンサが電気をためては少しずつ出し、波打ちをならします。

ここでは、電圧はまだ下げていません。100ボルトのコンセントなら、山の高さに近い約140ボルトの直流になります(ローム)。240ボルトの国なら、約340ボルトです(当サイトの計算)。

このコンデンサには、高い電圧に耐えるものが必要です(ローム)。役目は、1秒に100回か120回来るコンセントの波の谷間をしのぐことです。大きさは、この谷間の長さと、コンセントの電圧が低めのときを基準に決まります(米国のTI社の資料)。切り替えの速さとは関係がないので、あとで見る「速く切り替える工夫」では小さくなりません。

しくみ③ パワートランジスタで、速くオン・オフする

次に、その直流を、電気の信号で操作できるスイッチで細かく刻みます。使うのは、大きな電流と高い電圧に耐えるトランジスタです。電気を通す・止めるを、1秒に何万回も切り替えられます(「パワー半導体とは?」)。

切り替える速さは製品によって違い、例えば1秒に5万回(50キロヘルツ)ほどです(ローム)。50ヘルツのコンセントの交流が1回往復する間に、千回もオン・オフをくり返す速さです。

刻むのは、変圧器が「変化している電流」でしか働かないからです。一定の直流を通しても、反対側には電圧が生まれません。オン・オフをくり返すと、変圧器にとっては、とても速い交流と同じように働きます。

しくみ④ 小さな変圧器で電圧を下げ、もう一度直流にする

刻んだ電気を、小さな変圧器に通して電圧を下げます。小さな充電器では、オンの間に変圧器の中に磁石の力としてエネルギーをため、オフの間に出力側へ渡す方式がよく使われます。この方式をフライバック方式と呼び、100ワットくらいまでの電源で広く使われています(ローム)。

出力側に出てくるのは、まだオン・オフに合わせて脈打つ電気です。そこで、ここでも整流して、コンデンサでならします。こうして、やっと5ボルトなどの落ち着いた直流ができます。

この整流の部品には、工夫があります。ダイオードは、電流を通すたびに電圧を少し使ってしまいます。使う電圧が低いショットキーダイオードでも、0.4〜0.7ボルトほどです(東芝)。5ボルトを作るときに0.5ボルトを失えば、それだけで1割です。

そこで今の充電器では、ダイオードの代わりにトランジスタを置く方法が広く使われています(Monolithic Power Systems)。電流を通すべき瞬間にだけ、オンにするのです。これを同期整流と呼びます。

しくみ⑤ 出力を見張って、オンの長さを直す

スマホが電気を急にたくさん使うと、出力の電圧は少し下がります。コンセントの電圧も、いつも同じではありません。それでも5ボルトを保てるのは、出力をいつも見張り、ずれを直しているからです。

出力の電圧を見張り、ずれを光で知らせて、スイッチのオンの長さを直すしくみ。コンセント側と出力側は電線でつながっていないコンセント側出力側スイッチ変圧器直流に戻す出力 5V見張り役基準の電圧と比べるLEDが光るずれを光の強さに光を受けるフォトカプラの中光制御ICオンの長さを直す境目をまたぐ電線はない
図2 フォトカプラを使う充電器のしくみを単純にした図。省略していること: 変圧器に別のコイルを巻いて出力を推し量る方式、USB PDの話し合いを受け持つチップ、制御ICが自分の動く電気を得るしくみ。

出力側には、決まった基準の電圧と、今の出力の電圧を比べる部品があります(TI)。ずれがあると、その大きさを、コンセント側の制御用のチップへ知らせます。チップは、スイッチをオンにしておく時間の割合を変えて、送る電力を増やしたり減らしたりします。この割合をデューティ比と呼びます。

結果を見て操作を直すこのしくみは、フィードバック(帰還)と呼ばれます。入力が100ボルトでも240ボルトでも同じ出力が出るのも、この調整のおかげです。

急速充電の決まりUSB PDで9ボルトや20ボルトを頼まれたときは、出力側のチップが目標の電圧を切り替えます。その指示を、図と同じフォトカプラでコンセント側へ伝える製品もあります(ルネサスの製品資料。「USBとは?」)。

速く切り替えると、なぜ部品が小さくなるのか

変圧器は、片方のコイルで芯の中に磁石の力(磁束)を作り、その変化でもう片方に電圧を生みます。芯が抱えられる磁束には上限があり、芯の材料と太さで決まります。上限を超えると、変圧器はうまく働かなくなります。

同じ電圧なら、かける時間が短いほど、芯に積み上がる磁束は少なくてすみます。50ヘルツの交流では、向きが変わるまでの半周期が100分の1秒あります。5万回の切り替えなら、1回のオンは長くても5万分の1秒ほどです。積み上がる量が少なければ、芯を細くし、巻き数を減らせます(電力変換の教科書、エリクソンほか)。

ただし、千倍速くしても、変圧器が千分の1になるわけではありません。速い変化では、芯や線の中で失われる熱が増えます。そのため芯の材料も、鉄の板から、高い周波数でも損失の少ないフェライト(鉄の酸化物を主な材料に焼き固めたもの)に変わります。別のたとえを使った説明は「GaN(窒化ガリウム)とは?」にもあります。

効率と熱: 速さとのかけひき

今の充電器の効率は、昔よりずっと高くなりました。例えば、効率90%の充電器で20ワットを送り出すとします。受け取る電力は約22.2ワットで、約2.2ワットが熱になります(当サイトの計算)。

熱の出どころは、主に4つです。トランジスタがオンのときの小さな抵抗、出力側の整流、変圧器の芯と線、そして切り替えの途中に生まれる損失です。最後のものは、オンとオフが入れ替わるほんの一瞬に、電圧と電流が両方かかることで生まれます。これをスイッチング損失と呼びます。

ここに、かけひきがあります。切り替えを速くすると部品は小さくなりますが、切り替えのたびにスイッチング損失が出るので、熱が増えます。しかも小さな箱は表面が狭く、熱を逃がしにくいのです。小型化は「速く切り替えても熱が増えにくい」部品があって初めて進みます。

何もつないでいないときの電力にも、決まりがあります(2026年時点)。EUでは2020年4月から、交流を直流にする49ワット以下の外付け電源で、0.10ワット以下です(EU規則2019/1782)。米国でも2016年から、同じような範囲で0.100ワットが上限です(米国エネルギー省)。EUでは2028年12月から、より厳しい新しい規則に替わります(EU規則2025/2052)。

GaNの充電器が小さくなった理由

最近の小さな充電器では、スイッチにGaN(窒化ガリウム)という材料のトランジスタを使うものが増えました。GaNのトランジスタは、1回の切り替えで失う電気がシリコンより少なくてすみます。そのため、熱をあまり増やさずに切り替えを速くでき、変圧器や出力側のコンデンサを小さくできます。

ただし、小さくなるのは、切り替えの速さで大きさが決まる部品です。しくみ②で見た入口の大きなコンデンサは、コンセントの波に合わせた部品なので、ほとんど小さくなりません。制御用のチップの改良や、部品を詰めて並べる工夫も合わさって、今の大きさになっています。

安全のための「絶縁」: 電線でつながない

しくみ①の図で、点線の上と下を見てください。コンセント側には、100ボルト以上の電気が流れています。一方、出力側のUSBの端子には、人の指が直接ふれます。そこで、この2つの間は、電線でつながないように作ります。電気を通さない材料や、すき間で隔てることを、絶縁と呼びます。

では、電気をどうやって渡しているのでしょうか。電力は、変圧器の芯の中の磁束で渡ります。2つのコイルは、電気的にはつながっていません。見張り役の情報は、光で渡す方式がよく使われます(図2)。変圧器に別のコイルを巻き、出力の電圧を推し量る方式もあります(ローム)。

光で信号を送る部品を、フォトカプラと呼びます。入口のLEDが光り、出口の部品がその光を受けて電気の信号に戻します。入口と出口が電気的に切り離されているので、両側の電圧が大きく違っても信号を送れます(東芝)。

こうした絶縁の決まりは、国際的な安全規格で定められています。パソコンやAV機器とその電源には、IEC 62368-1という規格が使われます(コーセル)。

充電器のラベルには、正方形を二重にした「回」の形のマークがよくあります。二重の絶縁などで守る「クラスII」の機器を表す記号です(IEC 60417-5172)。

日本では、ACアダプターは、国の決まりで特に安全の確認が厳しい「特定電気用品」に入ります。ひし形のPSEマークの表示が必要です(経済産業省)。マークのない製品は避けてください。また、充電器は分解しないでください。中の大きなコンデンサには、プラグを抜いたあとも、しばらく高い電圧が残ることがあります。

よくある誤解

誤解: コンセントに挿したままの充電器は、電気をまったく使わない

実際は、何もつないでいなくても、見張りの回路などがわずかに電気を使います。ただし量は小さく、EUや米国の上限は0.1ワットです(2026年時点、49ワット以下の場合)。0.1ワットを1年間使い続けると、約0.9キロワット時です(当サイトの計算)。昔の変圧器式には、何もつながなくても温かくなるものがありました。変圧器の芯に、いつも電流を流しているからです。

誤解: ワット数の大きい充電器は、いつも電気をたくさん使う

実際は、充電器のワット数は「出せる上限」です。フィードバックで、機器が使う分だけを送り出すので、小さな機器をつなげば使う電力も小さくなります。ワット数の大きさと電気代は直接は結びつきません。箱に大きく書かれた数字なので、いつもその分を使うと思われやすいのです。

誤解: 充電器が温かくなるのは、故障している証拠

実際は、効率が90%を超えても、残りは熱になります。20ワットを送り出すときに2ワットほどの熱が出るのは、設計どおりです。ただし、触れないほど熱い、焦げたにおいがする、変形している、といったときは、コンセントから抜いて使うのをやめてください。

数字で見る

項目数字ひとこと
100ボルトを整流した直流約140 V240ボルトなら約340 V
切り替えの速さの例1秒に5万回(50 kHz)コンセントの交流の千倍(ローム)
ショットキーダイオードが使う電圧0.4〜0.7 V5 Vの出力の約1割にもなる(東芝)
昔の変圧器式の効率20〜75%ENERGY STARの測定
効率90%で20 Wを送り出すときの熱約2.2 W当サイトの計算
何もつながないときの電力の上限0.10 W49 W以下。EU 2020年、米国 2016年から(2026年時点)

1秒に5万回の切り替えでは、1回のオン・オフは5万分の1秒(20マイクロ秒)です。この短い時間ごとに、変圧器は電気を受け取っては出力側へ渡しています。

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