チップの冷却とは? 熱を逃がすしくみと限界
チップは、使った電気のほとんどを最後は熱に変えます。熱がたまると速さが落ち、寿命も縮むため、熱を外へ捨て続ける必要があります。熱はチップから金属のふた、ヒートシンク、空気や液体へと順に受け渡され、その通りにくさで温度が決まります。
この記事でわかること
- チップが熱くなる理由と、「消費電力は発熱と同じ」の意味
- 熱がチップから空気まで逃げる道すじ
- 熱抵抗(℃/W)を使った、チップの温度の見積もり方
- ヒートパイプとベイパーチャンバーのしくみ
- スマホ・パソコン・データセンターの冷やし方の違い
前提知識: 特にありません。チップの中に小さなスイッチ(トランジスタ)がたくさんあると知っていると読みやすくなります(「トランジスタとは?」)。
身近なところでは
スマホでゲームを続けると、本体が温かくなります。しばらくすると、動きが少し重く感じることもあります。ノートパソコンでは、重い作業を始めるとファンの音が大きくなります。
どれも、中のチップが出す熱と、それを捨てるしくみが関係しています。ニュースで聞く「データセンターの電気と冷房」も、同じ話の大きな版です。この記事では、熱がどこで生まれ、どこを通って捨てられるのかを順に見ていきます。
チップはなぜ熱くなるのか
チップの中では、何十億個ものトランジスタが0と1を切り替えています。切り替えるたびに、配線にわずかな電気をため、また逃がします。電気が細い通り道を流れると、通り道の抵抗で電気のエネルギーが熱に変わります。電気ストーブが温かくなるのと同じしくみです。
この「切り替えのたびに使う電力」を、動的消費電力と呼びます。速く切り替えるほど、また一度にたくさん切り替えるほど、熱は増えます。
切り替えていないときも、熱は出ます。オフのはずのトランジスタから、ほんの少し電気が漏れ続けるからです。この漏れで使う電力を静的消費電力と呼びます。漏れは温度が上がるほど急に増えるので、熱いチップはさらに熱を出しやすくなります。
チップは計算をしても、物を動かしたり光を出したりはほとんどしません。そのため、入ってきた電気のエネルギーは、ほぼすべてが最後は熱になります。「消費電力100ワットのチップ」は「1秒ごとに100ジュールの熱を出すチップ」とほぼ同じ意味です。ジュールはエネルギーの量の単位で、ワットは1秒あたりのジュールです。ここでは、信号として外へ出ていくわずかな電気は省いています。
熱いと何が困るのか
チップには、超えてはいけない温度があります。いちばん熱くなるのは、トランジスタが並ぶ部分です。この部分の温度を「接合温度」と呼び、上限は製品ごとに決まっています。Intelの説明では、同社のプロセッサの多くで100〜110 ℃です。
上限に近づくと、チップは自分で動く速さ(周波数)と電圧を下げ、出す熱を減らします。この働きをサーマルスロットリングと呼びます。それでも温度が下がらなければ、壊れないように電源を自動で切ります。冷やす力が足りないと、チップは本来の速さを出せません。
もう一つは寿命です。高い温度では、配線の金属が少しずつ動くなどの劣化が速く進みます。温度と劣化の速さの関係は、「アレニウスの式とは?」で詳しく説明しています。よく聞く「10 ℃上がると寿命が半分」は、条件で変わる目安にすぎません。
熱の通り道: チップから空気まで
パソコンのCPUを例に、熱の道すじを見てみます。CPUの本体は、シリコンの円い板(ウエハ)から切り出した小さな板です。この板を「ダイ」と呼びます。ダイは、配線の通った小さな板(基板)の上に、裏返して載せてあります。そのため、ダイの背中が上を向いています。
ダイの背中には、金属のふたが載っています。ふたは、小さなダイの熱を広い面に広げる役目を持つので、ヒートスプレッダとも呼びます。その上に、金属のひれが並んだヒートシンクを押し当てます。熱は、ダイ → ふた → ヒートシンク → 空気と、順に受け渡されていきます。
図の中の「TIM」は、すき間を埋める材料です。金属の面は平らに見えても、細かく見ると凸凹で、重ねると小さなすき間に空気が残ります。空気は熱をとても伝えにくく、銅の1万分の1以下しか伝えません。そこで、熱を伝えやすいグリスなどをすき間に入れます。この材料をTIM(サーマル・インターフェース・マテリアル、熱をつなぐ材料)と呼びます。
ヒートシンクにひれが並んでいるのは、空気にふれる面を広くするためです。熱が空気へ移るのは、金属の表面だけだからです。チップを包むパッケージの役目は「半導体パッケージとは?」で説明しています。
熱抵抗: 熱の通りにくさを数字にする
熱の道すじの一つひとつには、「熱の通りにくさ」があります。これを熱抵抗と呼びます。単位は「℃/W」で、1ワットの熱を通すと、入口と出口に何℃の温度差ができるかを表します。数字が小さいほど、熱がよく通ります。
温度差は、熱の量と熱抵抗の掛け算で決まります。たとえば、ヒートシンクから空気までの熱抵抗が0.3 ℃/Wだとします。100ワットの熱を通すと、100 × 0.3 = 30 ℃の差ができます。部屋の空気が25 ℃なら、ヒートシンクは約55 ℃です。
ダイからヒートシンクまでの部分にも熱抵抗があります。ダイ・TIM・ふた・グリスを合わせて0.2 ℃/Wとすると、さらに20 ℃の差ができます。道すじの熱抵抗は足し算なので、ダイの温度は25 + 30 + 20 = 75 ℃です。上限の100 ℃まで、まだ余裕があります。ここでの数字は説明用の例で、実際の値は製品や取り付け方で変わります。
ファンが止まると、ヒートシンクから空気への熱抵抗が、例えば1.0 ℃/Wに増えます。すると、ダイの温度は25 + 100 + 20 = 145 ℃となり、上限を超えてしまいます。実際には、その前にサーマルスロットリングが働き、熱が減るまで速さを落とします。消費電力と熱抵抗からの計算は、接合温度の計算ツールで試せます。
ファンとヒートパイプ
ファンは、ヒートシンクのまわりの空気を入れ替えます。ひれの表面で温まった空気がすぐ流れ去り、冷たい空気がふれ続けるので、熱が空気へ移りやすくなります。つまり、ヒートシンクから空気への熱抵抗を下げる道具です。そのかわり、回すほど音が大きくなります。
ノートパソコンでは、チップとファンが離れた場所にあることが多くあります。そこで、熱を遠くへ運ぶ銅の細い管を使います。これをヒートパイプと呼びます。管の中は空気を抜いてあり、少しの液体(多くは水)が入っています。
熱い側では、液体が蒸発して気体になります。気体は管の中を冷たい側へ移り、そこで冷えて液体に戻ります。液体に戻るとき、運んできた熱をひれへ放します。液体は、内壁の細かい溝や網にしみ込み、熱い側へ吸い戻されます。ティッシュの端を水につけると、水が上へ吸い上がるのと同じ力です。
この方法がよく熱を運べるのは、液体が気体になるときに、たくさんの熱を吸うからです。汗が乾くときに体が冷えるのと同じです。管の中は空気を抜いて圧力を低くしてあるので、水は100 ℃より低い温度でも盛んに蒸発します。液を戻すのは重力ではなく内壁の吸い上げる力なので、向きを変えても働きます。ただし、向きによって運べる熱の量は変わります。
スマホ: ファンなしで冷やす
多くのスマホには、ファンもひれもありません。薄い本体に入らず、水やほこりを防ぐために穴も開けにくいからです。そこで、チップの熱を薄い板やシートで本体全体に広げ、本体の表面から少しずつ空気へ逃がします。
熱を広げる部品の一つが、平たい形のヒートパイプです。これをベイパーチャンバーと呼びます。細い管が熱を一方向へ運ぶのに対し、板の形なので、熱を面全体に広げられます。例えば、Appleは2025年9月にiPhone 17 Proを発表しました。水を封じたベイパーチャンバーを、アルミの本体に溶接したと説明しています。
それでも、スマホの冷やす力には限界があります。表面は、人が手で持てる温度より熱くできないからです。ゲームを長く続けると、サーマルスロットリングで速さを落とし、熱を出す量を減らします。Appleのサポートの説明でも、温度が上がりすぎると動作を変えて温度を調整し、さらに上がると警告の画面を出します。
パソコンとGPU: 数百ワットの熱
パソコンのCPUやGPUは、スマホのチップよりずっと多くの熱を出します。冷やす装置は、チップが重い仕事を続けたときの発熱の目安を基準に設計します。この目安をTDPと呼びます。Intelは第12世代のCoreから、この値を「Processor Base Power(基本の電力)」と呼んでいます。
例えば、2023年に出たIntelのCore i9-14900Kは、基本の電力が125ワットです。速さを上げて動くときは、最大で253ワットまで使います。上限の接合温度は100 ℃です。
グラフィックスやAIの計算に使うGPUは、さらに大きな熱を出します。NVIDIAが2025年に発売したGeForce RTX 5090は、カード全体で使える電力の上限が575ワットです。2022年のRTX 4090は450ワットでした。重い仕事をしていないときは、これより少ない電力で動きます。こうしたカードは、大きなヒートシンクにヒートパイプやベイパーチャンバーを組み合わせ、複数のファンで冷やします。GPUがなぜAIに使われるかは「なぜAIにGPUが使われるの?」で説明しています。
データセンター: 空気から液体へ
データセンターでは、こうしたチップを積んだサーバが、何千台も並びます。サーバは、ラックと呼ぶ背の高い棚に積み重ねて置きます。AI用のGPUを詰め込んだラックでは、空気だけでは熱を運びきれなくなってきました。建物全体の冷やし方は「データセンターとは?」で説明しています。
そこで増えているのが、液体で熱を運ぶ方法です。同じ体積で比べると、水は空気の約3,500倍の熱をためられます。よく使われるのは、チップのすぐ上に、中を液体が流れる金属の板を当てる方法です。板で受け取った熱は、液体と一緒に配管でサーバの外へ運ばれます。
サーバを、電気を通さない液体にまるごと沈める方法もあります。これを液浸冷却と呼びます。Microsoftは2021年、約50 ℃で沸く液体にサーバを沈める方式を使い始めたと発表しました。チップの熱で液が沸き、蒸気は容器のふたで冷やされて液に戻り、また落ちてきます。ヒートパイプと同じ「蒸発して、凝縮して戻る」しくみを、容器ごと使う方法です。
よくある誤解
誤解: ファンを増やせば増やすほど、チップはよく冷える
実際は、ファンが下げられるのは、ヒートシンクから空気までの熱抵抗だけです。上の例では、ダイからヒートシンクまでの0.2 ℃/Wはファンでは変わらず、100ワットなら20 ℃の差が必ず残ります。また、温まった空気が外へ出ていく道がないと、ファンは同じ空気をかき回すだけになります。大事なのは数より、冷たい空気が入り、温まった空気が出ていく流れです。
誤解: 本体が熱くなるのは、壊れているしるし
実際は、チップの中は100 ℃近くまで使えるように作られており、外側が温かくなるのは普通です。Appleも、ゲームやワイヤレス充電のときにiPhoneが温かくなるのは、よくあることとして説明しています。チップには、熱くなりすぎると速さを落としたり、電源を切ったりする守りのしくみもあります。ただし、温度の警告が出たり、何もしていないのに熱かったりするときは、使うのをやめて冷まし、続くようなら点検を受けます。
誤解: 放熱グリスは、厚く塗るほどよく冷える
実際は、グリスは空気よりずっと熱を伝えやすいものの、銅などの金属よりはずっと伝えにくい材料です。役目は、金属どうしのすき間の空気を追い出すことです。厚く塗ると、熱が伝えにくい層を長く通ることになり、熱抵抗が増えます。Intelも、ふたの中央に米粒から豆粒ほどの少量を置けばよいと案内しています。
数字で見る
| 項目 | 数字 | 補足 |
|---|---|---|
| Intelのプロセッサの接合温度の上限 | 多くは100〜110 ℃ | 製品ごとに決まる(Intel) |
| Core i9-14900K(2023年) | 基本125 W、最大253 W | 上限の接合温度は100 ℃(Intel) |
| GeForce RTX 4090(2022年) | 450 W | カード全体の電力の上限(NVIDIA) |
| GeForce RTX 5090(2025年) | 575 W | カード全体の電力の上限(NVIDIA) |
| 説明用の例: 100 Wを0.3 ℃/Wに通す | 30 ℃の温度差 | 熱の量 × 熱抵抗 |
| 熱の伝えやすさ: 銅と空気 | 約400 対 約0.026 | 熱の伝えやすさの単位W/(m·K)で比べた値。1万倍以上の差 |
| 同じ体積でためられる熱: 水と空気 | 約3,500倍 | 25 ℃付近の性質からの計算 |
| iPhoneが想定する周りの温度 | 0〜35 ℃ | Appleのサポートの説明 |
チップの電力の数字は、新しい世代が出るたびに変わります。上の製品の数字は、それぞれの発売時点の仕様です。
もっと詳しく学ぶ
- 計算で試す: 接合温度の計算ツール(消費電力と熱抵抗から、チップの温度と余裕を求める)、CMOSの消費電力の計算ツール(切り替えと漏れの電力を求める)
- 違いを表で見る: BGA・QFP・QFNの違い(形によって熱の逃がし方も変わる)、ワイヤボンディングとフリップチップの違い
- 図で見る: 図解の一覧(熱抵抗をつないだモデルの図など)
- 次の一歩の用語: DVFS(動的電圧・周波数制御)(仕事の量に合わせて電圧と速さを変える)、パワーキャップ(電力に上限を決めて抑える)
- 関連する記事: 「スマホの中の半導体」「パワー半導体とは?」