NFCとは? Suicaやタッチ決済がかざすだけで使えるしくみ

約13分 · 更新: 2026年10月23日

NFCは、数センチまで近づけたときだけ使う無線のしくみで、13.56 MHzの磁界を使います。Suicaなどのカードに電池がいらないのは、読み取り機の磁界がカードのコイルに電気を生み、それでチップが動くからです。Suicaが使うFeliCaも、タッチ決済のカードが使う国際的な方式も、NFCの方式の1つです。

この記事でわかること

  • NFCとは何か、届く距離が短いことがなぜ長所になるのか
  • 電池のないカードが、読み取り機の磁界で動いて返事をするしくみ
  • Suica(FeliCa)とタッチ決済のクレジットカードの方式の違い
  • 改札の処理が速い理由と、かざして払うときの安全のしくみ
  • スマホがカードの代わりになるしくみと、NFCタグなどのほかの使いみち

前提知識: 特にありません。「ワイヤレス充電とは?」を先に読むと、磁界で電気を送る話がわかりやすくなります。

身近なところでは

朝、駅の改札にSuicaをタッチして通る。コンビニで、クレジットカードやスマホを読み取り機にかざして払う。会社の入口で、社員証をかざして扉を開ける。こうした「かざすだけ」の場面の多くで、NFCという無線のしくみが使われています。

ふしぎなのは、カードに電池がないことです。それでもカードの中のチップは、計算をして、読み取り機と暗号でやり取りしています。この記事では、その電気がどこから来るのか、なぜ近づけないと動かないのかを見ていきます。

NFCとは: 数センチだけで使う無線

NFCは、英語のNear Field Communicationの頭文字で、「近い距離の通信」という意味です。業界団体のNFC Forumは、数センチの距離にある機器どうしがやり取りする無線の技術だと説明しています。使う周波数は13.56 MHzです。磁界の向きが、1秒に1356万回往復するという意味です。

NFC Forumは、2004年にノキア、フィリップス、ソニーが作った団体です。通信のしかたは国際規格(ISO/IEC 18092など)で決まっているので、違う会社の機器どうしでも話せます。

届く距離が短いことは長所

Wi-FiやBluetoothは、数メートルから数十メートル先まで届きます(「Bluetoothとは?」)。NFCは、わざと届く距離を短くしてあります。理由は主に3つです。

1つめは、「かざす」という動作が、そのまま「この相手と通信します」という意思の表れになることです。2つめは、遠くから盗み聞きしにくいことです(NFC Forum)。3つめは、改札の前に人が並んでいても、読み取り機の上にある1枚とだけ話せることです。

しくみ1: 電池のないカードが動く理由

カードの中には、細い電線をカードのふちに沿って何回か巻いた部品が入っています。電線を巻いたこの部品をコイルと呼びます。コイルの両はしは、小さなチップにつながっています。

読み取り機の中にもコイルがあり、向きがすばやく入れ替わる電流を流して、変わり続ける磁界を作ります。磁界が変わると、近くのコイルには電圧が生まれます。これが電磁誘導で、ワイヤレス充電と同じ原理です(くわしくは「ワイヤレス充電とは?」)。

カードのコイルには、電気を一時的にためる部品(コンデンサ)が組み合わされています。こうすると、13.56 MHzの近くでよく応えるようになります。この「ある周波数でだけ強く応える」性質を共振と呼びます(共振回路)。STマイクロエレクトロニクスの資料によると、共振を読み取り機の周波数に合わせるほど、チップに届く電気が多くなります。

チップは、受け取った電気を自分の電源にして動きます。コイルの作る磁界は、離れると急に弱まります。数センチより離すと動かないのは、チップを動かすのに足りる電気が届かなくなるからです。

読み取り機のコイルが変化する磁界を出し、カードのコイルに電流が生まれてチップが動く。カードは電気の受け取り方を変えて返事をする 読み取り機 変化する磁界 1秒に1356万往復 返事 チップ カード(電池なし) ① 磁界でコイルに電流が生まれる ② その電気でチップが動く ③ 受け取り方を変えて返事をする
カードは上から見た形で描いた。ふちに沿って巻いた線がコイルで、両はしがチップにつながる。左の上向きの矢印が、カードからの返事。省略していること: コイルに組み合わせるコンデンサ、電気の向きをそろえる回路、実際の巻き数。大きさと距離の縮尺は正確ではない。

しくみ2: 返事は「受け取り方」を変えて伝える

カードには電池がないので、自分で信号を送り出す力はありません。そこで返事は、読み取り機の磁界から受け取る電気の量を、細かく変えて伝えます。すると、読み取り機のコイルを流れる電流が、わずかに揺れます。読み取り機はこの揺れを読み取り、0と1のデータに戻します(STマイクロエレクトロニクス)。

この返し方を、負荷変調と呼びます。負荷とは、ここでは電気を受け取って使う側のことです。受け取る量を変えて合図にするので、カードは読み取り機の磁界の中でしか返事ができません。

会話は、いつも読み取り機の側から始まります。NFC Forumの規格でも、カードとしてふるまう側は、自分からは通信を始めません。

しくみ3: 方式は1つではない

NFCには、同じ13.56 MHzを使う、いくつかの方式があります。違うのは、0と1を磁界の揺れでどう表すか、データをどう区切るか、といった決まりです。NFC Forumは、それぞれをNFC-A、NFC-B、NFC-Fと呼び、もとになる規格と対応させています。

方式もとになる規格主な使いみち
NFC-A・NFC-BISO/IEC 14443(Type A・Type B)タッチ決済のクレジットカード、多くのNFCタグ(NFC-A)
NFC-FJIS X 6319-4(FeliCa)Suicaなどの交通系ICカード、電子マネー

タッチ決済のクレジットカードは、国際的なカードの会社が共同で運営する団体、EMVCoの規格に従っています。この規格は、ISO/IEC 14443などの国際規格をもとにしています(EMVCo)。EMVの規格のチップのカードは、2022年末に世界で約128億枚ありました(差しこむ方式も含む。EMVCo)。

FeliCaは、ソニーが開発した方式です。フェリカネットワークスによると、開発は1988年に始まりました。1997年に、香港の交通カード「オクトパス」で初めて商用に使われています。日本では2001年11月18日に、JR東日本がSuicaを首都圏の424駅で始めました。

FeliCaはNFC-Fとして、NFC Forumの規格に入っています。この規格は、1台の機器で3つの方式を扱えるように作られています。多くのスマホが、方式の違うカードを読み取れるのは、このためです。

しくみ4: 改札でFeliCaが速い理由

朝の改札では、人が立ち止まらずに歩いて通ります。そのため、かざしてから扉を開けるかを決めるまでが、とても短くなければなりません。JR東日本の技術誌によると、改札機を通る人の目標値は1分に60人でした。モバイルSuicaの開発でも、0.2秒以下で処理することが「絶対条件」とされました。

カードと読み取り機は、最初におたがいが本物の相手かを確かめ合います。これを相互認証と呼びます。偽のカードや、偽の読み取り機を相手にしないための手続きです。

ソニーは、FeliCaが速い理由として、独自の効率のよい相互認証の方式と、非接触に合った通信の方式を挙げています。暗号の処理を含めても、カードと読み取り機のやり取りは約0.1秒で終わります(ソニー)。通信の速さは、1秒に21万2000ビット(212 kbps)と、その2倍の424 kbpsです。

なお、JR東日本は2023年度から、運賃の計算などを中央のコンピュータで行う方式に、順に切り替えています。それまでは、この計算を改札機の中で行っていました。

しくみ5: かざして払うときの安全のしくみ

秘密をしまう、守りの固いチップ

カードの番号や暗号の鍵は、中の秘密を外から読み出せないように作った、専用のチップにしまわれます。このチップをセキュアエレメントと呼びます。

こうしたチップは、開けたり探針を当てたりする攻撃に耐え、異常に気づくと鍵を消すなどして秘密を守ります。この性質を耐タンパ性と呼びます。鍵をしまう部品どうしの違いは、「TPM・HSM・セキュアエレメントの違い」で比べています。

暗号と、1回きりのコード

カードと読み取り機のやり取りは、暗号で守られています。FeliCaでは、相互認証と暗号の通信に、DESという暗号の方式を使います。2011年に発表されたチップからは、より新しいAESも使えます(ソニー)。暗号のしくみは「暗号とは?」で説明しています。

タッチ決済のカードのチップは、支払いのたびに、その1回だけに使えるセキュリティコードを暗号で作ります(EMVCo)。カードの会社は、このコードでカードが本物かを確かめます。コードは毎回変わるので、盗み取っても次の支払いには使えません(Visa)。

遠くから読み取るのが難しい理由

カードの情報を、本人に気づかれずに読み取る手口を、スキミングと呼びます。電池のないカードは強い磁界の中でしか動かないので、離れた場所から読むのは難しくなります。読めたとしても、手に入るのは1回きりのコードです。こうした理由で、Visaは、スキミングは起きにくく、被害の範囲も限られると説明しています。

ただし、危険がまったくないわけではありません。離れたカードを、読み取り機の近くにあるように見せかける手口(リレー攻撃)が、研究で報告されています。また、一定の金額を超えると暗証番号やサインを求めるなど、被害を小さくする決まりもあります(Visa)。カードやスマホをなくしたら、すぐにカードの会社に連絡して止めてもらいましょう。

スマホがカードになるしくみ

スマホのNFCは、読み取り機としても、カードとしても働けます。カードのふりをして読み取り機と話す働きを、カードエミュレーションと呼びます。iPhoneには、NFC用のチップと、セキュアエレメントが入っています(「スマホの中にはどんな半導体が入っている?」)。

Appleによると、Apple Payにカードを登録すると、銀行などがその端末専用の番号を作ります。番号は暗号化され、セキュアエレメントに入ります。お店では、この番号と、支払いごとに変わるコードを渡します。本当のカード番号は、iPhoneからもAppleからも送られません。

支払いの前には、ふつうは顔や指紋などで本人を確かめます(「指紋認証・顔認証のしくみとは?」)。ただし、Suicaなどを「エクスプレスモード」にすると、確かめずに改札を通れます(Apple)。

Androidでは、4.4以降、セキュアエレメントを使わずに、アプリがカードのふりをする方式も使えます。この方式をHCE(ホストカードエミュレーション)と呼びます(Android Developers)。Googleは、お店で払うにはNFCとHCEに対応したスマホが必要だとしています。このときも、本当の番号の代わりに、仮の番号がお店に送られます。

日本では、2006年1月28日に、携帯電話でSuicaを使える「モバイルSuica」が始まりました。発行数は、2023年3月に2,000万枚を超えています(JR東日本)。

ほかの使いみち: タグとペアリング

NFCタグは、小さなチップとコイルだけでできた、シールやカードです。電池はなく、スマホを近づけると、スマホの磁界で動いてデータを返します。タグには、Webページのアドレスや、Wi-Fi・Bluetoothの接続情報などを入れられます(NFC Forum)。

スマホを近づけると、Bluetoothの接続(ペアリング)が始まるイヤホンやスピーカーもあります。NFCが運ぶのはつなぐための情報だけで、音そのものはBluetoothで送ります。

似たしくみのQRコードは、紙に刷るだけで作れます。NFCタグは、カメラを向けずにかざすだけで読めます。どちらでも、開いたページが本物かは、入力する前に確かめましょう。

よくある誤解

誤解: 財布にカードを入れて歩くだけで、離れた所から読まれて、お金を抜かれる

実際は、電池のないカードは、読み取り機のすぐ近くの強い磁界の中でしか動きません。支払いも、お店の側が始めないと進みません(Visa)。読み取られても、手に入るのは1回きりのコードです。ただし、リレー攻撃の研究もあり、危険がまったくないとは言えません。かざすだけで払える手軽さから、読まれるのも簡単だと思われがちです。

誤解: NFCとFeliCaは別の技術で、関係がない

実際は、FeliCaはNFC-Fとして、NFCの方式の1つに入っています。周波数も同じ13.56 MHzで、違うのは0と1の表し方やデータの区切り方です。スマホの説明では「NFC」と「FeliCa」が別々に書かれることがあるので、別物に見えやすいのです。ただし、Suicaをスマホに入れて使えるかは、機種やサービスしだいです。

誤解: かざすときは、読み取り部の上をサッと通せばよい

実際は、JR東日本は、読み取り部に1秒ほど確実にタッチするよう案内しています。上を滑らせるように通すと、反応しないことがあるためです。また、パスケースにはICカードを1枚だけ入れるよう案内しています。何枚も入っていると、改札機がエラーになることがあるからです。「かざす」という言い方から、触れずに通せばよいと思われがちです。

数字で見る

数字何の数字か
13.56 MHzNFCの周波数。磁界の向きが1秒に1356万回往復する
212 kbpsFeliCaの基本の通信の速さ。その2倍の424 kbpsにも対応(ソニー)
約0.1秒FeliCaの、暗号の処理を含むやり取りの時間(ソニー)
0.2秒以下 / 1分に60人モバイルSuicaの開発での処理の条件 / 改札機を通る人の目標値(JR東日本の技術誌)
約128億枚2022年末に世界で使われていたEMVのチップのカード(EMVCo)
2,000万枚モバイルSuicaの発行数が超えた数(2023年3月、JR東日本)

212 kbpsは、Wi-Fiよりずっと遅い速さです。1 MB(800万ビット)のデータを送ると、計算上は約38秒かかります。NFCは、大きなファイルではなく、短いデータを近くで手早くやり取りするためのしくみです。

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