スマートウォッチはどうやって心拍数を測る? 光で血流を読むしくみ

約13分 · 更新: 2026年10月23日

スマートウォッチの多くは、裏側のLEDで手首に光を当て、はね返ってきた光の量を光センサーで測っています。心臓が打つたびに皮膚の中の血がわずかに増えて光が多く吸われるので、その増減の回数から1分あたりの心拍数を計算します。表示される心拍数は健康管理の目安で、それだけで病気かどうかはわかりません。医療機器として承認された心電図などの機能も、医師の診断の代わりにはなりません。

この記事でわかること

  • 光で血の流れの変化を読みとるしくみと、緑の光を使う理由
  • 波のような信号を「1分に何回」に変える方法と、腕の動きの取り除き方
  • 数字がずれる理由(着け方・動き・寒さ・タトゥー)
  • 心電図と血中酸素の機能は、心拍数の測り方と何が違うのか
  • 中に入っているチップと、小さな電池で動かす工夫

前提知識: 特にありません。「LEDはなぜ光る?」と「イメージセンサとは?」を先に読むと、光と電気の話がわかりやすくなります。

身近なところでは

スマートウォッチを外して裏返すと、緑色の光がちらちらしていることがあります。走っている間に画面の心拍数が上がったり、眠っている間の心拍数がグラフになったりします。機種によっては、心電図をとる機能や、血液中の酸素の割合を測る機能もあります。どれも、手首に触れる小さなセンサーと、それを動かす半導体のチップで実現しています。

しくみ① 光で「血の量の変化」を見る

心臓は、縮むたびに血液を全身へ押し出します。そのたびに手首の皮膚の細い血管にも血が届き、血の量がわずかに増えます。Appleは、血が赤く見えるのは赤い光を返して緑の光を吸うからだ、と説明しています。つまり血が多い瞬間ほど、皮膚の中で吸われる緑の光が増えます。

時計の裏には、光を出すLEDと、届いた光の量を電気に変える部品が並んでいます。この部品をフォトダイオードと呼びます。LEDの光は皮膚の中で散らばり、一部が血に吸われ、残りがはね返ってフォトダイオードに届きます。届く光は、心臓が打つたびに少し減り、次の拍動までに戻ります。

時計の裏のLEDが皮膚に光を当てる。光は皮膚の中で散らばり、一部は血管の血に吸われ、残りがはね返って隣のフォトダイオードに届く 時計の裏側 LED フォトダイオード 皮膚 血管 拍動で血が増える
緑の線は光の通り道の模式図です。光の一部は血管の血に吸われ(短い線)、残りがはね返って届きます。拍動で血が増えると(点線)、届く光が少し減ります。省略していること: 実際の光は四方に散らばること、LEDとフォトダイオードの数と配置、皮膚の層の構造。縮尺は正確ではありません。

この増減を読みとる方法を、光電式容積脈波記録法(PPG)と呼びます。届く光の大部分は、皮膚や骨などからはね返る、ほぼ一定の光です。PPGの解説論文としてよく読まれるAllen(2007年)も、信号を2つに分けています。「拍動ごとに変わる小さな部分」と「ゆっくりしか変わらない大きな部分」です。大きな光の中の小さな変化を、正確に拾うことが大切です。

なぜ緑の光なのか

緑の光は、血の赤い色素によく吸われるので、拍動による変化が大きく出ます。この色素をヘモグロビンと呼びます。Tamuraらが2014年に研究をまとめた論文によると、明るい緑のLEDの実用化で、身につける心拍計が広まりました。

緑の光は、動きの影響も受けにくいという研究があります。日本の研究チーム(前田・関根・田村、2011年)は、跳んだり腕を振ったりする実験をしました。緑の光で測った脈の方が、赤外線よりも心電図とよく一致しました。一方、目に見えない赤外線も使われます。Appleによると、どの光を使うかは、機種や、運動中か眠っているかなどで変わります。

しくみ② 光を数字に変えるチップ

フォトダイオードは、届いた光が多いほど多くの電流を流します(しくみは「ダイオードとは?」と「イメージセンサとは?」)。ただ、その電流はとても小さく、そのままでは計算に使えません。そこで、小さな電流を扱いやすい電圧に変えて大きくする回路を通します。これをトランスインピーダンスアンプと呼びます。

電圧になった信号は、1秒に数十回から数百回、数字に変えます。この回路をADコンバータと呼びます(くわしくは「アナログ半導体とは?」)。手首のすき間からは、日光や部屋の明かりも入りこみます。そこで、LEDを消している瞬間の光も測り、点けているときの値から差し引きます。

LEDを光らせる回路から数字にする回路までを、1つにまとめたチップがあります。これをアナログフロントエンド(AFE)と呼び、センサーのすぐ後ろで最初の処理を受け持ちます。例として、テキサス・インスツルメンツ(TI)の「AFE4404」があります。その資料は、周りの光だけを測る時間を設け、その分を引く方式を説明しています。

しくみ③ 波から「1分に何回」を求める

数字の列には、心拍以外のゆれも混ざっています。息をする動きや、時計の押しつけ方の変化は、ゆっくりした大きなゆれになります。回路や光の細かいざわつきは、速くて小さなゆれです。心拍のリズムだけを残すために、計算で要らないゆれを取り除きます。

いちばん簡単な取り除き方は、直近のいくつかの値を平均することです。速いざわつきは平均すると打ち消し合い、なだらかな波が残ります。この計算を移動平均フィルタと呼びます。実際の製品はもっと工夫した計算を組み合わせており、Garminは自社の計算を独自のものとしています。

整った波から、谷と次の谷の間の時間を測ります。間が1秒なら、1分(60秒)で60回です。間が0.75秒なら、60を0.75で割って、1分あたり80回になります。ここでは話を簡単にするため1拍だけで計算しましたが、実際には何拍か分をならして表示します。

フォトダイオードに届く光の量は、拍動のたびに少し下がる。谷と谷の間が0.75秒なら、1分あたり80回になる 届く光の量 0.75秒 時間 → 60 ÷ 0.75 = 1分に80回
谷のところが、拍動で血が増えて光が多く吸われた瞬間です。省略していること: 信号の大部分を占める一定の光、ゆっくりしたゆれと細かいざわつき、本物の脈の波の細かい形。変化の大きさは誇張しています。

しくみ④ 腕の動きを見分ける

走ったり腕を振ったりすると、時計が皮膚の上で少しずれ、押しつける強さも変わります。すると、はね返る光の量も変わり、心拍とよく似た波ができてしまいます。これが、光で測る心拍計のいちばんの悩みです。Garminも、汗や振動、温度、姿勢、皮膚との距離の変化を、信号を乱す原因に挙げています。

そこで、時計の中の加速度センサーを使います。腕がどんなリズムで動いているかを測る小さな部品です(しくみは「MEMSとは?」)。考え方を単純にすると、光の波の中に腕の振りと同じリズムがあれば、動きによるものとみなして外します。残ったリズムを、心拍として追いかけます。雑音を別に測って差し引く考え方は、「ノイズキャンセリングとは?」とも共通します。

腕の振りのリズムが心拍に近いと、見分けは難しくなります。ある研究では、加速度も使う計算で、最高で時速15 kmまで走る12人の心拍を追いました(Zhangら、2015年)。誤差は平均で1分あたり約2.3回でした。ただし、これは決まった条件での研究の結果で、製品の精度を示すものではありません。

数字がずれることがある理由

各社の公式の説明をまとめると、ずれの主な原因は次の4つです。

  • 着け方: ゆるいと、すき間から光がもれたり、動くたびにずれたりします。Fitbitは、運動中は手首の骨から指2〜3本分上に、きつすぎないように着けるよう勧めています。
  • 動き: Appleによると、ランニングや自転車のような規則正しい動きの方が、テニスやボクシングより良い結果になります。
  • 寒さ: 寒いと皮膚を流れる血が減り、変化が小さくなります。Garminは、寒い場所では屋内で体を温めてから始めるよう勧めています。
  • タトゥー: Appleによると、インクの色や模様、濃さによっては、センサーの光がさえぎられます。

肌の色の影響は、まだ議論が続いています。米デューク大学などの2020年の研究は、53人で6機種の心拍数を調べました。肌の色による誤差の差は、偶然とは言えないほどの大きさ(統計的に意味のある差)では見られませんでした。一方、運動中の誤差は安静時より平均で約3割大きく、機種による差もありました。

この結果には、人数の少なさや、見た目で肌の色を分ける尺度の問題を挙げて、注意を促す意見が出ています。元の研究者も、1つの研究で「差がない」とは言い切れず、さらに調べる必要があると答えています。Appleは2022年の資料で、肌の色素は時計の使う光をよく吸うと書いています。そのため、LEDの電流や受け取る側の増幅を調整するそうです。

Appleによると、信号が弱いときは、LEDを明るくし、測る回数を増やして補います。手首での測定が安定しないときは、Bluetoothでつなぐ胸ベルト型の心拍計を使う方法も案内しています。Apple・Fitbit・Garminはどれも、正しく測るための工夫として、まず着け方を挙げています。

心電図(ECG): 光ではなく電気を測る

心臓の筋肉は、電気の合図で縮みます。この合図は体の表面にもわずかな電圧として伝わり、それを記録したものが心電図(ECG)です。PPGが「拍動の結果として増える血」を見るのに対し、心電図は「拍動を起こす電気」そのものを見ます。

Apple Watchでは、裏面と横のつまみ(デジタルクラウン)に、電気を受け取る金属の部分(電極)があります。反対の手の指でつまみに触れると、心臓をはさんだ左右の腕の間の電圧を測れます。この状態で30秒間記録します。Appleは、記録の間は腕を机やひざに置き、動かさないよう案内しています。

電極が受け取る電圧はとても小さく、周りの電気の雑音も乗ります。そこで心電図の回路では一般に、2つの電極の電圧の差だけを大きくし、両方に同じように乗る雑音を打ち消します。この回路を差動増幅回路と呼びます。

病院では、12通りの向きから心臓の電気を見る心電図を使います。時計の記録は、そのうちの1つの向き(第I誘導)に近いものです。米国食品医薬品局(FDA)は2018年、このアプリを、医師の処方なしで使える心電図ソフトウェアとして認めました。日本では2020年に「家庭用心電計プログラム」として厚生労働大臣の承認を受け、2021年1月から使えるようになりました。

それでも、時計の心電図は診断そのものではありません。Appleは、このアプリでは心臓発作や血のかたまり(血栓)、脳卒中はわからないとしています。そのうえで、胸の痛みなどで心臓発作かもしれないと思うときは、すぐに救急に連絡するよう案内しています。厚生労働省も2021年1月27日、これらのプログラムの「適正使用について」という通知を都道府県に出しています。

血中酸素(SpO2): 赤と赤外線を比べる

酸素と結びついたヘモグロビンと、結びついていないヘモグロビンでは、赤い光と赤外線の吸われ方が違います。そこで2種類の光を当て、拍動による変化の大きさを比べると、酸素と結びついている割合を推定できます。この割合をSpO2と呼びます。

血中酸素を測れるApple Watchの機種も、緑のほかに赤と赤外線のLEDを持ち、この方法で測ります。拍動を使って酸素の割合を測る原理は、日本光電の青柳卓雄さんが見つけ、1974年に学会で発表しました。指先に挟むパルスオキシメータにも使われている方法です。

ただし、Appleは血中酸素の機能を、医療用ではなく、フィットネスと健康管理のためのものとしています。FDAも、一般の健康用として売られる酸素の計測器は、FDAが審査していないと説明しています。FDAは、肌の色、血の巡りの悪さ、皮膚の温度、マニキュアなどが測定に影響しうることも挙げています。

中に入っているチップと、電池の工夫

部品役目くわしく
LED(緑・赤・赤外線)皮膚に光を当てるLED
フォトダイオードはね返った光を電流に変えるダイオード
アナログフロントエンドLEDを光らせ、電流を数字に変えるアナログ半導体
加速度センサー腕の動きを測るMEMS
マイコン波から心拍数を計算するマイコン
Bluetoothのチップスマホに結果を送るBluetooth
リチウムイオン電池すべてに電気を送る電池

時計の電池は小さいので、どの部品も電気をなるべく使わないように作られています。LEDは光り続けるのではなく、ごく短い時間だけ光っては消えます。アナログ・デバイセズのAFE「MAX86141」では、点灯の時間を選べます。長く光らせると届く光が増えて測りやすく、短くすると電気を節約できます。TIのAFE4404の資料では、PPGの信号をとる間の平均の電流は200マイクロアンペア(0.2ミリアンペア)未満です。

計算をするマイコンは、仕事のない間は回路を止めて眠ります。この状態をスリープモードと呼びます。スマホへ送るときも、短く送って長く休む省電力のBluetoothを使います。この方式には、心拍計の値を送るための決まりも用意されています。

よくある誤解

誤解: 緑の光で、血管の様子を写真のように見ている

実際は、フォトダイオードが測るのは、届いた光の「量」だけです。カメラのイメージセンサは、光を受ける何百万から何千万もの小さな区画(画素)で、光の分布をとらえます。心拍計の受光部は数個で、全体の明るさの変化を見ています。光で「見る」という言葉から、画像を思い浮かべやすいのです。

誤解: 心電図の機能があれば、心臓の病気がわかる

実際は、時計の心電図は1つの向きから見た記録です。日本で承認された用途も、記録した波形を分類して知らせることです。ふつうのリズムか、脈が不規則になる不整脈の一種(心房細動)を示す形かを見分けます。診断は医師が行います。病院と同じ「心電図」という名前から、同じことができると思われがちです。

誤解: 光のセンサーがあれば、針を刺さずに血糖値も測れる

実際は、FDAは2024年2月、こうした製品を血糖値の測定に使わないよう呼びかけました。針を刺さずに単体で血糖値を測れるとするスマートウォッチや指輪を、FDAは1つも認めていません。皮膚に刺す血糖測定器の値を時計に表示するアプリは、これとは別です。光で血の流れがわかるなら成分もわかるはず、と期待されやすいのです。

数字で見る

項目数字ひとこと
測れる心拍数の範囲1分に30〜210回Apple Watch(Appleのサポートページ)
心電図の記録30秒指でつまみに触れている時間
AFEのチップの平均電流(PPGを測る間)200 µA未満TIのAFE4404の例
研究での誤差の例1分あたり約2.3回12人が走る条件(Zhangら、2015年)

心拍数が1分に70回なら、1日では70 × 60 × 24で約10万回です。時計は、その1回1回で起きる光のわずかな変化を、手首の上で拾い続けています。

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