プラズマとは? 半導体の加工に欠かせない「第4の状態」

約14分 · 更新: 2026年10月23日

プラズマは、気体の原子や分子の一部から電子がはがれ、電子とプラスの電気を帯びた粒などが混ざり合った状態です。半導体の工場では、空気を抜いた容器の中のガスに電気でエネルギーを与えて作ります。回路の模様を削る・膜をつける・不要なものを取り除く工程に欠かせません。工場のプラズマは電子だけが勢いよく動き、ガスは室温に近いので、ウエハを溶かさずに加工できます。

この記事でわかること

  • プラズマの中身(電子・イオン・ラジカル)と、「第4の状態」という呼び方の意味
  • 蛍光灯・雷・オーロラ・太陽など、身近なプラズマ
  • 工場でプラズマを作るしくみと、ウエハが溶けない理由
  • ウエハの手前にできる「シース」と、まっすぐ下に削れるしくみ
  • 削る・膜をつける・取り除く、の3つの使い道

前提知識: 「原子は、中心の原子核とそのまわりの電子でできている」という中学理科の知識。チップの作り方の全体は「半導体チップはどうやって作られる?」で説明しています。

身近なところでは

プラズマという言葉は、理科の教科書や家電の宣伝などで目にします。実は、身の回りにも光るプラズマがあります。

  • 蛍光灯: 管の中には、少しの水銀の蒸気とガスが入っています。電極から出た電子が水銀の原子にぶつかると、目に見えない紫外線が出ます。管の内側に塗った蛍光体が、それを白い光に変えます。電子が飛び交う管の中のガスが、プラズマです。
  • ネオンサイン: 管に閉じ込めたネオンのガスに電気を流すと、赤みのある橙色に光ります。ほかの色は、別のガスや管の内側の塗料で出しています。
  • 雷: 空気の中を一瞬で大きな電気が流れ、通り道の空気がプラズマになります。米国の国立気象局によると、通り道の空気は約2万8,000 ℃(華氏5万度)にもなります。
  • オーロラ: 宇宙から、地球の磁場に沿って電子が降りてきます。米国海洋大気庁によると、電子は高さ約80〜500 kmで酸素や窒素にぶつかり、それらが光ります。降りてくる電子は、地球のまわりの宇宙にあるプラズマから来ています。
  • 太陽: 太陽は、全体がプラズマでできた巨大な球です。NASAによると、目に見える表面でも約5,500 ℃あります。

どれも「光る」点が共通しています。一方で、熱いものばかりではありません。蛍光灯の管は、触れないほど熱くはなりません。この2点が、工場のプラズマを理解する手がかりになります。

プラズマとは: 電子がはがれた気体

原子は、プラスの電気をもつ原子核と、そのまわりのマイナスの電気をもつ電子でできています。ふだんはプラスとマイナスがつり合い、原子全体は電気を帯びていません。気体は、こうした原子や分子がばらばらに飛び回っている状態です。

気体に強いエネルギーを与えると、一部の原子や分子から電子がはがれます。電子を失った残りは、プラスの電気を帯びた粒になります。この粒を「イオン」と呼びます。

こうして、気体の一部が自由な電子とプラスのイオンに分かれ、それらが飛び回っている状態をプラズマと呼びます。電子のマイナスとイオンのプラスはほぼ同じ数だけあるので、全体としては電気を帯びていません。

原子がいくつかつながった分子の気体では、もう1つのことが起きます。電子がぶつかって、分子を断片に割るのです。断片は電気を帯びていませんが、相手を見つけてすぐに結びつこうとする、とても反応しやすい粒です。この粒をラジカルと呼びます。

プラズマの中身: 大部分は普通の分子で、そこに電子・イオン・ラジカルが混ざっている プラズマの中身のイメージ + + 普通の分子(大部分) ラジカル(反応しやすい) + イオン(プラスの電気) 電子(マイナスの電気) プラスとマイナスの数はつり合う
工場で使うプラズマの中身を模式的に描いた図。省略していること: 実際のイオンと電子の割合は、図よりずっと少ない(本文の例では分子1万個に数個)。マイナスの電気を帯びたイオンができるガスもある。粒の大きさは実際の比率ではない。

プラズマが光るのは、電子にぶつかられた原子や分子が、もらったエネルギーを光として出すからです。どの色の光が出るかは、ガスの種類で決まります。ネオンが橙色に光るのも、このためです。

「第4の状態」とは

氷を温めると水になり、さらに温めると水蒸気になります。物質のこの3つの姿を、固体・液体・気体と呼びます。気体にさらにエネルギーを与えると電子がはがれてプラズマになるので、プラズマは「物質の第4の状態」とも呼ばれます。

この呼び方は、19世紀の英国の科学者クルックスが、放電管の中のごく薄い気体を「第4の状態」と呼んだことにさかのぼります。「プラズマ」という名前は、1928年に米国の科学者ラングミュアが論文で使い始めました。

ただし、これはわかりやすくするための単純化です。氷が0 ℃で溶けるような、はっきりした境目はありません。電子がはがれた粒の割合が、少しずつ増えていくだけです。あとで見るように、工場のプラズマの中身は、大部分が普通の分子のままです。

工場ではどうやってプラズマを作る?

工場では、ウエハを入れた金属の容器から、まずポンプで空気を抜きます。そこへ、加工に使うガスを少しだけ流し込みます。中の圧力は、削る装置ならおよそ0.1〜数十 Pa(パスカル)です。1 Paは、地上の大気の圧力の約10万分の1です。

次に、容器の中に高周波の電気をかけます。高周波とは、向きが1秒間に何百万回も入れ替わる電気のことです。多くの装置は、工業・科学・医療用に割り当てられた13.56 MHz(1秒間に1,356万回)を使います。この周波数なら、外に漏れる電波の決まりが比較的ゆるいためです。

電気の力で、ガスの中にわずかにある電子が加速されます。勢いのついた電子が分子にぶつかると、分子から新しい電子がはがれたり、分子が割れてラジカルになったりします。はがれた電子もまた加速され、次の分子にぶつかります。壁に当たって消える電子もあるので、増える数と消える数がつり合ったところで、プラズマが保たれます。

意外なことに、電子がはがれた分子はほんのわずかです。例えば1 Pa・室温のガスには、1 cm³に約240兆個の分子があります。密度の高い装置で、電子が1 cm³に1,000億個とします。割り算すると、電子がはがれているのは分子1万個に4個ほどです(計算による目安)。

圧力を下げるのにも理由があります。分子が少ないと、電子はぶつかるまでに長い距離を走れるので、大きな勢いをつけられます。イオンも途中でほかの分子にぶつからず、まっすぐ飛べます。

電子は熱く、ガスはぬるい

粒の「温度」とは、粒が飛び回る勢いの平均のことです。プラズマでは、電子とそれ以外の粒の温度が大きく違います。加工用の低い圧力のプラズマでは、電子の温度は約2万〜6万度に当たります。一方、イオンやガスの温度は室温に近く、高くても数百度ほどです。

理由は、電子がとても軽いことです。電子の重さは、いちばん軽い水素の原子の約1,840分の1しかありません。軽い粒が重い粒にぶつかっても、はね返されるだけで、相手をほとんど動かせません。そのため、電気の力で加速された電子だけが勢いをため込み、ガス全体は熱くなりません。

しかも電子は分子よりずっと数が少ないので、全部の電子がもつ熱の量はわずかです。だからウエハは、電子の温度で溶けたりしません。ウエハを載せる台は温度を管理していて、イオンが当たって温まる分は冷やしています。

この性質が、プラズマが加工に向いている大きな理由です。本来は数百 ℃以上に熱しないと起きない化学反応を、勢いのある電子に分子を割らせることで、低い温度のまま起こせます。チップの上には熱に弱い材料もあるので、この点はとても大切です。

ウエハの手前にできる「シース」

プラズマと、容器の壁やウエハとの境目には、特別な薄い層ができます。電子は軽くて速いので、重いイオンより先に、壁やウエハにたどり着きます。そのため、ウエハの表面は、プラズマに比べてマイナスの状態になります。

マイナスになった表面は、次に来る電子を押し返し、プラスのイオンを引き寄せます。こうして表面のすぐ手前に、イオンを表面へ強く引っぱる薄い層ができます。この層を「シース」(英語で「さや」の意味)と呼びます。電子が少ないので光が弱く、プラズマとウエハの間の暗いすき間として見えます。

シースに入ったイオンは、表面に向かってまっすぐ加速されます。ウエハは平らなので、イオンはほぼ真上から垂直に降ってきます。削る装置では、ウエハを載せる台にも高周波の電気をかけます。すると台はさらに強いマイナスになり、電気の強さでイオンの勢いを調整できます。イオンは多くの場合、数十〜数百ボルトで加速されます。

使い道1: 模様のとおりに削る

チップを作るときは、膜の上に、光で模様を写した薬剤を残します。この薬剤をレジストと呼びます。次に、レジストで覆われていない部分の膜を削ります。

プラズマを使って削る方法を、ドライエッチングと呼びます。薬液を使わず、ガスで削るので「ドライ(乾いた)」と呼びます。ここで、ラジカルとイオンが役割を分担します。

ラジカルは、膜の原子と結びついて、気体になる物質を作ります。例えばフッ素のラジカルはシリコンと結びつき、気体のフッ化シリコンになって排気されます。ただしラジカルはあらゆる向きから飛んでくるので、それだけでは縦にも横にも同じように削れます。

イオンは、シースで加速されて真上から当たります。イオンが当たった面では、表面が乱されて、ラジカルとの反応がぐんと速く進みます。IBMのコバーンとウィンタースの実験(1979年)が有名です。フッ素を出すガスとイオンを同時に当てると、別々のときの合計の約10倍の速さでシリコンが削れました。

プラズマで削るしくみ: イオンはシースで加速されて真上から当たり、ラジカルはいろいろな向きから届く。溝は縦にまっすぐ削れる プラズマ(光る部分) ラジカル + イオン + シース イオンを加速する レジスト 削る膜 下地 底は速く、横はゆっくり削れる → 縦にまっすぐな溝ができる
削る装置の中を、ウエハの真横から見たイメージ。2本の点線の間がシース。省略していること: 縮尺(実際の溝の幅はnm〜µmで、シースよりはるかに小さい)、側面を守る薄い膜、ウエハの台と電源、削られて気体になった物質。

イオンが当たるのは、主に溝の底の水平な面です。垂直な側面には、ほとんど当たりません。そのため底は速く、横はゆっくりしか削れず、縦にまっすぐな溝や穴ができます。方向によって削れる速さが違うこの削り方を、異方性エッチングと呼びます。

横にも同じ速さで削れる削り方との違いは、「等方性エッチングと異方性エッチングの違い」で断面の形を比べられます。ラジカルとイオンを組み合わせる代表的な方法は、反応性イオンエッチング(RIE)と呼ばれます。実際の装置では、側面に薄い保護の膜をつけながら削るなどの工夫もしますが、ここでは省きます。

使い道2: 低い温度で膜をつける

膜をつける工程にも、プラズマを使います。原料のガスを反応させて、ウエハの上に膜を積もらせる方法を、CVD(化学気相成長)と呼びます。熱だけで反応させる方法では、窒化シリコンの膜なら約700〜800 ℃が必要です。

プラズマを使うと、電子が原料のガスを割ってくれるので、約300〜400 ℃で膜をつけられます。この方法をプラズマCVD(PECVD)と呼びます。配線のアルミニウムは約660 ℃で溶けるので、配線をつけたあとの工程では、低い温度で膜をつけられることが欠かせません。代わりに膜には水素が多く残り、熱だけで作る膜より密度が低めになります。2つの方法の違いは「LPCVDとPECVDの違い」で表にしています。

金属の膜をつけるときは、スパッタリングをよく使います。アルゴンのガスでプラズマを作り、そのイオンを金属の板にぶつけます。はじき出された金属の原子がウエハに積もって、膜になります。こちらは化学反応ではなく、シースで加速したイオンの勢いを使う方法です。

使い道3: 取り除く・きれいにする

削り終えると、模様を写すのに使ったレジストは不要になります。レジストは、炭素や水素でできた有機物です。酸素のプラズマで作った酸素のラジカルは、これを二酸化炭素や水に変え、気体にして取り除きます。燃やして灰にするイメージから、この工程をアッシング(灰化)と呼びます。

アッシングでは、ウエハから離れた場所でプラズマを作る装置がよく使われます。イオンは届く前に電子と結びついて消え、長持ちするラジカルだけがウエハに届きます。イオンが当たって回路が傷むのを避けるためです。同じ考え方で、表面のわずかな汚れや膜を、傷めずに取り除く使い方もあります。

使い道を、主に働く粒で整理すると次のようになります。

工程主に働く粒プラズマを使う理由
ドライエッチングラジカルとイオン模様のとおりに、縦にまっすぐ削れる
プラズマCVD電子(ガスを割る)低い温度で膜をつけられる
スパッタリングイオン金属の原子をはじき出して積もらせる
アッシングラジカル回路を傷めずにレジストを取り除ける

よくある誤解

誤解: プラズマは、何でも溶かすほどの超高温

実際は、プラズマの温度は種類によって大きく違います。雷や、EUV露光の光源で作るスズのプラズマは、本当に高温です。しかし工場で削ったり膜をつけたりするプラズマでは、熱いのは軽い電子だけで、ガスとイオンは室温に近い温度です。太陽や雷の例がよく知られていることから生まれやすい誤解です。

誤解: プラズマは、全部が電気を帯びた危ないガス

実際は、工場のプラズマで電気を帯びている粒はごく一部で、大部分は普通の分子です。プラスとマイナスもつり合っていて、全体としては電気を帯びていません。プラズマは空気を抜いた容器の中で、電気をかけている間だけ保たれ、電気を止めればすぐに消えます。注意が必要なのはむしろ有毒なガスや高い電圧で、閉じた容器や排気の処理設備で管理しています。「電気を帯びたガス」という短い説明から生まれやすい誤解です。

誤解: 「第4の状態」だから、気体とはまったく別のもの

実際は、プラズマは気体の一部の電子がはがれた状態で、気体との間にはっきりした境目はありません。工場のプラズマで電子がはがれた分子はごく一部(本文の例では1万個に4個ほど)で、「ほとんど気体」です。固体・液体・気体・プラズマと4つを並べる説明の、単純化から生まれる誤解です。

数字で見る

数字何の数字か
約10万分の11 Paと、地上の大気の圧力の比。削る装置の中は、およそ0.1〜数十 Pa
13.56 MHz多くのプラズマ装置が使う高周波の周波数(1秒間に1,356万回)
1万個に4個ほど1 Pa・室温のガスで、電子が1 cm³に1,000億個のとき、電子がはがれている分子の割合(計算による目安)
約2万〜6万度加工用の低い圧力のプラズマの、電子の温度
室温〜数百度同じプラズマの、イオンやガスの温度
約1,840分の1水素の原子と比べた電子の重さ
約10倍イオンとラジカルを同時に当てたとき、別々のときの合計と比べた削れる速さ(1979年の実験)
約300〜400 ℃プラズマCVDで膜をつける温度。熱だけで窒化シリコンの膜をつけると約700〜800 ℃
約2万8,000 ℃雷の通り道の空気の温度(米国の国立気象局)
約5,500 ℃太陽の目に見える表面の温度(NASA)

まとめると、工場では薄いガスのほんの一部の電子だけを、何万度もの勢いで走らせています。ガスは熱くしないまま、反応しやすい粒を作って加工に使っているのです。

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