「2nm」「3nm」は何の長さ? 半導体の世代の数字の読み方
「2nm」「3nm」は、半導体のチップを作る技術の世代につけた名前です。チップの中に、長さが2nmの部分があるわけではありません。昔は数字が回路の寸法とほぼ同じでした。1990年代半ばごろからずれ始め、いまは「前の世代より細かく詰め込めるようになった」ことを表す呼び名です。
この記事でわかること
- 1nm(ナノメートル)がどのくらい小さいか
- 世代の数字は昔は何の長さで、なぜ寸法とずれたのか
- 世代が進むと、実際には何が小さくなっているのか
- 会社が違うと「◯nm」をそのまま比べられない理由
- 「2nm級」の世代で使われるトランジスタの形(GAA)
前提知識: トランジスタが「ゲートに電圧をかけてオン・オフするスイッチ」だと知っていると読みやすくなります。くわしくは「トランジスタとは?」で説明しています。
身近なところでは: ニュースの「2nm」
「TSMCが2nmの量産を始めた」「ラピダスが北海道で2nmの試作を進めている」。2025年ごろから、こうしたニュースをよく見かけます。Appleも2023年、iPhone 15 Pro用のチップ「A17 Pro」を「業界初の3ナノメートルのチップ」と紹介しました。
この「2nm」「3nm」は、チップを作る技術(製造プロセス)の世代を表す数字です。業界では、この世代のことを「プロセスノード」、略して「ノード」と呼びます。ふつうは、数字が小さいほど新しい世代です。
では、2nmは何の長さなのでしょうか。答えを先に言うと、いまはどこか特定の場所の長さではありません。この記事では、そうなった理由と、数字の正しい読み方を順に説明します。
1nmはどのくらい小さい?
nm(ナノメートル)は長さの単位です。1nmは1mの10億分の1、1mmの100万分の1です。アメリカ政府のナノテクノロジーの計画(NNI)は、「1nmは、指の爪が1秒間に伸びる長さくらい」と紹介しています。
同じ資料によると、髪の毛の太さは8万〜10万nm、紙の厚さは約10万nmです。髪の毛1本の太さに、1nmが10万個近く並ぶ計算です。
原子とも比べてみましょう。チップの材料のシリコンは、原子が規則正しく並んだ結晶です。となりの原子の中心どうしの間隔は約0.235nmです。つまり、2nmは原子の間隔の8〜9個分しかありません。結晶は立体的に並んでいるので、ここでの数え方は大まかな目安です。
昔は、数字が本当の長さだった
トランジスタには、オン・オフを切り替える「ゲート」という部分があります。電子が流れる向きに測ったゲートの長さを、ゲート長と呼びます。ゲート長が短いほど、トランジスタは小さく、速く切り替えられるようになります。
チップの中には、配線などの同じ形がくり返し並んでいます。「線1本と、となりの線までのすき間1つ」を合わせた幅を、ピッチと呼びます。その半分はハーフピッチと呼ばれ、線とすき間が同じ幅なら、線1本の幅にあたります。
1970〜80年代は、世代の名前の数字が、ゲート長やハーフピッチとほぼ同じ値でした。数字は「その世代で作れるいちばん細い線の幅」の目安だったのです。世代が1つ進むたびに、数字はおよそ0.7倍になりました。
なぜ0.7倍なのでしょうか。縦と横の両方を0.7倍にすると、面積は0.7×0.7で約0.5倍になります。つまり「同じ回路を約半分の面積で作れる」という目安でした。その後の名前の並び(0.35µm、0.25µm、0.18µm、0.13µm、90nm、65nm、45nm…)も、このきまりに沿っています。µm(マイクロメートル)はnmの1000倍の単位で、0.35µmは350nmです。
数字と寸法がずれ始めた理由
電気・電子の学会IEEEの雑誌に、IEEE Spectrumがあります。その2020年の記事によると、1990年代半ばから、ゲート長と配線の寸法が別々に進み始めました。速く切り替えるために、各社がゲート長だけを特に速く短くしたからです。たとえば「130nm」と呼ばれた世代では、ゲート長は70nmでした。インテルも2021年の発表で、名前とゲート長が一致しなくなったのは1997年だと説明しています。
それでも業界は、数字を0.7倍ずつ進める名前の付け方を続けました。こうして、世代の名前は、どこか1か所の寸法を表すものではなくなっていきます。
2010年代には、ずれがさらに大きくなりました。平らなトランジスタを小さくしすぎると、ゲートでオフにしても電流が漏れやすくなります。そこで、電子の通り道を薄い板のように縦に立て、ゲートで3方向から囲む形が生まれました。これをFinFETと呼びます。インテルが2011年に発表し、22nm世代で初めて量産に使いました。
板を縦に立てると、チップを上から見た面積を増やさずに、ゲートが電流を操る面を広くできます。ほかにも、部品の並べ方や配線の工夫で、同じ回路をより狭い面積に詰め込めるようになりました。どこか1つの寸法を0.7倍にしなくても、全体の密度は上げられるのです。各社は、こうした改良で十分に進歩したと考えた世代に、次の数字の名前をつけてきました。
実際に小さくなっているもの: 並べる間隔
では、世代が進むと、実際には何が小さくなっているのでしょうか。チップの密度を大きく左右するのは、部品を並べる間隔です。主な目安は次の3つです。
- ゲートの間隔: 横に並ぶゲートどうしの間隔。専門的には「コンタクテッド・ゲートピッチ」と呼びます
- 配線の間隔: いちばん細い金属の配線どうしの間隔(メタルピッチ)
- セルの高さ: 回路を組み立てるときに使う、形の決まった基本の部品(スタンダードセル)の高さ。配線を何本通せるかで決まります
セルの面積は「高さ×横幅」で、横幅はゲートの間隔の何個分かで決まります。そのため、ゲートの間隔とセルの高さが小さくなるほど、同じ面積に多くのトランジスタを並べられます。
実際の数字を見てみましょう。2nm級の世代については、各社がこうした寸法をくわしく公表していません。そこで、メーカーが公表した少し前の例を使います。インテルは2017年、「10nm」世代のゲートの間隔は54nm、いちばん細い配線の間隔は36nmだと発表しました。名前は10nmでも、主な間隔は数十nmあります。
原子の大きさとも比べてみます。54nmは、シリコン原子の間隔(約0.235nm)の約230倍です。名前の数字だけを見ると原子に近づいているように思えますが、ゲートを並べる間隔は、まだ原子200個分以上あるのです。
会社が違うと、同じ「◯nm」でも比べられない
世代の名前は、それぞれの会社が自分で決めています。そのため、同じ数字でも、会社によって実際の密度が違います。インテルの技術者マーク・ボーアは2017年、「密度がほとんど上がらなくても名前の数字を進める会社がある」と指摘しました。そして、名前は世代を比べる目安として役に立たなくなった、と書いています。
はっきりした例が、インテル自身の改名です。インテルは2021年7月、「10nm Enhanced SuperFin」と呼んでいた世代を「Intel 7」に改めました。業界全体で世代をより正確に比べられるようにするため、と説明しています。寸法を変えたわけではなく、名前だけを変えたのです。
このときインテルは、名前から「nm」も外しました。その後の世代の名前は「Intel 4」「Intel 3」「Intel 18A」などです。Aは長さの単位オングストローム(1Å=0.1nm)の頭文字です。18Aは18Å、つまり1.8nmにあたる名前です。
トランジスタの形を変える時期も、会社ごとに違います。あとで説明するGAAという形を、サムスンは2022年に「3nm」世代で使い始めました。TSMCとインテルは、2025年に量産を始めた「2nm級」の世代から使っています。同じ数字の世代でも、中身はそろっていないのです。
よりよい物差し: トランジスタの密度
世代を比べるには、名前より、1mm²(1mm四方)にトランジスタが何個入るかという「トランジスタ密度」のほうが役に立ちます。単位は、100万個を表すMTrを使って「MTr/mm²」と書きます。インテルは2017年、10nm世代の密度を100.8MTr/mm²(1mm²あたり約1億個)と発表しました。
ただし、密度の数字にも注意が必要です。この値は、よく使う2種類の基本の部品を、決まった割合で並べたと考えて計算したものです。実際のチップには、外とつなぐ回路やすき間もあるので、チップ全体の密度は、多くの場合これより低くなります。数え方を会社どうしでそろえる決まりもありません。
研究者からは、複数の数字を並べて比べる方法も提案されています(IEEE Spectrum、2020年)。計算の回路の密度、メモリの密度、その2つをつなぐ配線の密度の3つです。1つの数字だけでは、技術の進み具合を表しきれない、という考え方です。
「2nm級」のトランジスタ: GAAとナノシート
FinFETでは、ゲートが電子の通り道を3方向から囲みます。さらに小さくすると、3方向から囲んでも電流を抑えきれなくなってきました。そこで、通り道のまわりを全部ゲートで囲む形が使われ始めています。これをGAA(ゲート・オール・アラウンド)と呼びます。
いま主に使われているGAAは、厚さ数nmの薄いシリコンの板を、すき間をあけて数枚重ねた形です。板の1枚1枚を、ゲートが包みます。この板をナノシートと呼びます。板の幅を変えると、流せる電流の大きさを調節できます。
主な会社の動きは次のとおりです(2026年10月時点で確認できた各社の発表による)。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2021年5月 | IBMが、ナノシートを使った「2nm」の試作チップを発表(ゲート長は12nm) |
| 2022年6月 | サムスンが「3nm」世代で、GAAを使ったチップの生産を始めたと発表(GAAでの生産は世界初とした) |
| 2025年7月 | ラピダスが、北海道千歳市の工場で試作した2nmのGAAトランジスタで、電気的な特性を確かめたと発表 |
| 2025年後半 | インテルが、GAA(同社の呼び名はRibbonFET)を使う「Intel 18A」の大量生産を始めた(同社の年次報告による) |
| 2025年10〜12月 | TSMCが、同社で初めてナノシートを使う「N2」(2nm世代)の量産を始めた(同社のウェブサイトによる) |
各社の量産の状況や計画は変わりやすいので、最新の情報は各社の発表で確かめてください。
それでも小さくする理由と、その限界
名前と寸法がずれても、細かく作ることには大きな意味があります。1つ目は、同じ面積に多くのトランジスタを入れられることです。同じ大きさのチップに、より多くの計算の回路やメモリを載せられます。
2つ目は、電力です。トランジスタや配線が小さくなると、1回のオン・オフで動かす電気の量が減ります。たとえばTSMCは2022年、N2は1つ前の3nm世代と同じ速さなら、消費電力を25〜30%減らせる見込みだと発表しました。
一方で、限界も見えています。チップの細かい模様は、光で回路の形を焼き付ける工程(露光)で描きます。いちばん細かい模様には、波長13.5nmの光を使うEUV露光が必要で、その装置はとても高価です。世代が進むほど工程の数も増えるため、トランジスタ1個あたりの製造費は、昔ほど下がらなくなっています。
熱も問題です。2000年代半ばまでは、小さくするほど電源の電圧も下げられ、面積あたりの電力を増やさずにすみました。いまは電圧を下げにくいため、狭い場所に詰め込むほど、熱を逃がすのが難しくなります。そこで、チップを積み重ねるなど、小さくする以外の工夫も進んでいます。こうした方向は「微細化の先へ」で整理しています。
よくある誤解
誤解: 「2nm」は、トランジスタの大きさが2nmという意味
実際は、世代を区別するための名前です。IBMの「2nm」の試作でもゲート長は12nm、インテルの「10nm」世代ではゲートの間隔が54nmでした。トランジスタ1個が占める場所は、縦も横も2nmよりずっと大きいのです。昔は数字と寸法がほぼ一致していたので、この誤解が生まれました。
誤解: 数字が小さいほど、必ず性能のよいチップになる
実際は、名前の付け方が会社ごとに違うので、別の会社の数字は比べられません。また、チップの性能は、回路の設計や、どのくらいの電力で動かすかでも大きく変わります。車や家電を制御するチップやセンサーなどは、作る費用が安く実績のある前の世代で作られることが多いです。用途に合った世代を選ぶことが大事なのです。
誤解: もうすぐ原子1個の大きさになり、小さくできなくなる
実際は、名前の数字は寸法ではないので、1nmより小さい名前も使えます。TSMCは2024年、2nm世代より後の世代を「A16」(1.6nm級)と名づけて発表しました。ただし、すでにとても薄い部分もあります。IBMの2nmの試作(2021年)では、ナノシート1枚の厚さは約5nmでした。シリコン原子の間隔の約20倍しかありません。そこを薄くし続けるのは難しいため、部品を縦に重ねるなど、形を変える方向の開発が進んでいます。
数字で見る
| もの | 長さ |
|---|---|
| 髪の毛の太さ | 8万〜10万nm |
| 「130nm」世代のゲート長(IEEE Spectrum、2020年) | 70nm |
| インテル「10nm」世代のゲートの間隔(2017年発表) | 54nm |
| 同じ世代の、いちばん細い配線の間隔 | 36nm |
| EUV露光に使う光の波長 | 13.5nm |
| IBM「2nm」試作のゲート長(2021年) | 12nm |
| 指の爪が1秒間に伸びる長さ(NNIの説明) | 約1nm |
| シリコンのとなりの原子の間隔 | 約0.235nm |
表のうち、ゲート長と間隔の4つが、チップの中の実際の寸法です。「130nm」世代のゲート長は名前の数字より小さく、「10nm」や「2nm」では名前よりずっと大きくなっています。名前の数字と実際の寸法の間に、決まった関係はないのです。
もっと詳しく学ぶ
- トランジスタの形の変わり方を表で見る: 「プレーナ型MOSFETとFinFETの違い」「FinFETとGAAトランジスタの違い」へ。
- 細かい模様を光で描く工程(リソグラフィ): 露光の解像度の計算ツールで、光の波長を変えると描ける線の細さがどう変わるか試せます。EUVとそれより前の方式の違いは「EUVとDUV露光の違い」で比べられます。
- ニュースに出てくる会社の役割: 製造を請け負うファウンドリなどの意味は、用語集で読めます。
- 小さくする以外の方法: 「微細化の先へ」で、3D実装や新しい材料までまとめて読めます。
- 土台から読み直すなら: 「半導体とは?」(シリコンの結晶)、「トランジスタとは?」(ゲートとチャネル、ムーアの法則)。