イオン注入とは? 半導体に不純物を打ち込むしくみと装置

約13分 · 更新: 2026年10月23日

イオン注入は、ホウ素やリンなどの不純物の原子を、電気を帯びた粒(イオン)にして加速し、シリコンに打ち込む工程です。打ち込む数は電流で数え、深さは加速の強さで決めるので、「どこに・どれだけ・どの深さに」を正確に決められます。打ち込んだあとは、熱を加えて結晶の傷を直します。

この記事でわかること

  • シリコンに不純物を入れる理由(ひとことで)
  • イオン注入装置の中で起きる4つの段階
  • 入れる量(ドーズ量)と深さの決まり方
  • レジストで、入れる場所を決めるしくみ
  • 結晶の傷とアニール、深く入りすぎる「チャネリング」
  • 熱拡散から置き換わった理由と、装置の種類・主なメーカー

前提知識: n型・p型のおおまかな意味(「半導体とは?」)と、チップがウエハの上で「膜をつける・模様を写す・削る」をくり返して作られること(「半導体チップはどうやって作られる?」)。

身近なところでは

高性能なスマホのチップには、トランジスタという小さなスイッチが100億個以上入っています(「トランジスタとは?」)。どのトランジスタにも、電気の運ばれ方が違う小さな区域が、決まった形で並んでいます。

この区域は、シリコンのごく一部に、ほかの元素をほんの少しだけ混ぜて作ります。混ぜる量は、例えばシリコンの原子500万個に1個といった、ごくわずかな割合です(「半導体とは?」の例)。この「ほんの少しを、狙った場所に」入れる作業の中心が、イオン注入です。

工場では、1枚のウエハ(チップを作るシリコンの円板)に、入れる元素や場所を変えて、イオン注入を何回も行います。チップ作りの工程の中では、「膜をつける・模様を写す・削る」と並ぶ、基本の作業の1つです。

なぜ不純物を入れるの?

純粋なシリコンは、電気をあまり通しません。リンやヒ素を少し混ぜると、動ける電子が増えて「n型」になります。ホウ素を混ぜると、電子の抜けた穴(正孔)が電気を運ぶ「p型」になります。n型とp型の境目は、ダイオードやトランジスタが働くための要です。しくみは「半導体とは?」で説明しています(表で見るなら「n型とp型の違い」)。

トランジスタを狙いどおりに働かせるには、不純物の入れ方を正確に決める必要があります。決めるのは「どの場所に・どれだけの数を・どの深さに」の3つです。イオン注入は、この3つを別々に決められる方法です。

しくみ1: 装置の中で起きる4つのこと

原子は、ふつうは電気を帯びていません。原子から電子を1個はがすと、プラスの電気を帯びた粒になります。これをイオンと呼びます。電気を帯びているので、電圧や磁石の力で、押したり曲げたりできます。装置の中では、イオンが次の4つの段階を通ります。ここでは、よくある順番で説明します。

① 装置の入り口では、不純物を含むガスに電子をぶつけて、イオンを作ります。この部分をイオン源と呼びます。例えばホウ素なら、三フッ化ホウ素(BF3)というガスが使われます。できたイオンは、電圧をかけて装置の中へ引き出します。

② ガスからできるイオンは、1種類ではありません。三フッ化ホウ素からは、ホウ素だけのイオンのほか、フッ素がついたままのイオンもできます。そこで、イオンの通り道を磁石で曲げます。同じ電圧で引き出した、電気の量が同じイオンなら、重いものほど曲がりにくくなります。狙った重さのイオンだけが、出口のすき間を通り抜けます。この選別を、質量分析と呼びます。

③ 選んだイオンを、さらに電圧で加速して、狙いの勢いにそろえます。イオンが得る勢い(エネルギー)は、かけた電圧とイオンの電気の量で決まります。単位にはkeV(キロ電子ボルト)を使います。電子1個分の電気をもつイオンを1万ボルトで加速すると、10 keVです。なお、装置によっては選別の前に加速するなど、順番が違います。

④ イオンの流れ(ビーム)は、ウエハ全体を一度に覆えるほど太くありません。そこで、ビームを左右に振ったり、ウエハを動かしたりして、全面にむらなく当てます。途中でイオンが空気の分子にぶつからないよう、通り道は空気を抜いた真空に保ちます。

イオン注入装置の中でイオンが通る4つの段階: イオンを作る、磁石で重さを選ぶ、電圧で加速する、ビームを振ってウエハ全体に当てる ① イオンを作る ガスの原子から 電子をはがす 軽い 重い ② 磁石で選ぶ 重さで変わる 曲がり方を使う ③ 加速する 電圧で勢いを つける ④ 振って当てる ウエハの全面に むらなく
イオン注入装置の中で、イオンが通る順番のイメージ。②では、すき間を通る線が狙いのイオンです。重さの違うほかの2本は、すき間を通れません。④の線は、ビームがウエハの上をなぞる道すじの例です。省略していること: 縮尺、全体を包む真空の容器、量を数える部品。装置によっては、選別の前に加速するなど、順番や部品が違います。

しくみ2: 入れる量と深さは、別々に決められる

1 cm²あたりに打ち込むイオンの数を、ドーズ量と呼びます。使われる量は、1 cm²あたり1000億個(10¹¹)から1京個(10¹⁶)ほどです(スタンフォード大学の講義資料)。少ないときと多いときで、10万倍もの幅があります。

数は、ウエハに届いたイオンの電流で数えます。電流は、1秒に流れる電気の量です。イオン1個の電気の量で割れば、届いた数がわかります。例えば1 mA(ミリアンペア。1000分の1アンペア)は、電子1個分の電気をもつイオンが、1秒に約6×10¹⁵個届く量です。この電流を受けて測る部品を、ファラデーカップと呼びます。

深さを決めるのは、加速の勢いです。イオンは、シリコンの原子にぶつかるたびに勢いを失い、やがて止まります。速く飛び込んだイオンほど、止まるまでに深く進みます。同じ勢いなら、軽いイオンほど深く入ります。例えば100 keVのホウ素は、平均して約0.3 µm(0.0003 mm)で止まります(香港城市大学の講義資料)。

イオン1個1個は、でたらめにぶつかりながら止まるので、止まる深さは少しずつ違います。全体では、表面より少し奥に、濃さの山ができます。止まる深さの平均を、投影飛程と呼びます。

同じ数のイオンを2つの勢いで打ち込んだときの、深さ方向の不純物の濃さ。勢いが強いほど山は深く、低く、広くなる 不純物の濃さ どちらも同じ数 弱い勢い 強い勢い 表面 ↑平均の深さ 表面からの深さ →
同じ数のイオンを、弱い勢いと強い勢いで打ち込んだときの、深さ方向の濃さのイメージ。点線は、それぞれの止まる深さの平均(投影飛程)です。2つの山の面積は同じにしてあります。省略していること: 縮尺、縦の目盛り(ふつうは対数で描く)、山の左右の非対称、チャネリングで奥に伸びる裾。

しくみ3: 入れる場所は、レジストの型で決まる

模様を写すときに使う、光で性質が変わる薬剤の膜を、フォトレジスト(略してレジスト)と呼びます。イオン注入では、このレジストを「入れない場所のふた」として使います。模様の写し方は「EUV露光とは?」で説明しています。

レジストに当たったイオンは、レジストの中で止まり、下のシリコンには届きません。むき出しの所にだけイオンが入るので、模様どおりの場所に不純物の区域ができます。終わったら、レジストは取り除きます。

レジストで覆った所ではイオンがレジストの中で止まり、むき出しの所だけシリコンに不純物が入る イオン ↑ここだけに入る レジスト シリコン(p型) 不純物が入った所(n型)
p型のシリコンの一部に、レジストの型を使ってリンなどを打ち込む場面の断面のイメージ。点は、止まったイオンです。省略していること: 縮尺、イオンがわずかに横へ広がってマスクの下に入ること、アニールの前で結晶が傷ついていること。

レジストをふたに使えるのは、注入を室温に近い温度で行えるからです(UCバークレーの講義資料)。レジストは熱に弱いので、高温で不純物をしみ込ませる方法では、ふたにできません。

チップの多くは、正反対の性質をもつ2種類のトランジスタを、隣り合わせに並べて作ります(「CMOSとは?」)。そのため、n型にしたい所とp型にしたい所で、別々の型を使って注入をくり返します。

しくみ4: 打ち込むと、結晶が傷つく

シリコンの原子は、結晶の中で規則正しく並んでいます。飛び込んだイオンは、止まるまでに多くの原子をはじき飛ばし、並びを乱します。量が多いと、表面近くの並びがすっかり崩れることもあります(スタンフォード大学の講義資料)。

しかも、止まったばかりの不純物の多くは、結晶の決まった位置に収まっていません。そのままでは、n型やp型の性質をほとんど生みません。

そこで注入のあと、ウエハを高温に熱して、並びを直し、不純物を結晶の位置に収めます。この熱処理をアニールと呼びます。ただ、熱すると不純物が広がるので、ごく短い時間だけ熱する工夫が進みました。そのしくみは「拡散とは?」で、方法の違いは「炉アニール・RTA・レーザーアニールの違い」で説明しています。

まっすぐな「すき間」を抜けてしまう: チャネリング

結晶の原子は規則正しく並んでいるので、決まった向きから見ると、原子の列の間にまっすぐなすき間が通っています。イオンがこのすき間に沿って入ると、原子にあまりぶつからず、予想よりずっと深くまで進みます。この現象をチャネリングと呼びます。

深さがばらつくと、狙いの形になりません。そこで、ウエハを7°ほど傾けて、すき間の向きから外して打つのが一般的です(香港城市大学の講義資料)。傾けても完全には防げないため、先に表面の並びをわざと崩す方法もあります(プリアモルファス化注入(PAI))。

なぜ熱拡散から置き換わったのか

イオン注入が広まる前は、不純物を含むガスの中でシリコンを高温に熱し、表面からしみ込ませる方法が中心でした。これを熱拡散と呼びます。日本半導体歴史館の資料によると、1970年代から、この方法の多くがイオン注入に置き換わりました。

大きな理由は、量と深さを正確に、いつも同じように決められることです。量は電流で数え、深さは加速の電圧で決まります。UCバークレーの講義資料は、狙った量からのずれの目安を示しています。注入では数%、高温で表面から入れる方法では20〜30%です。レジストをふたにできることも、利点の1つです。

ただし、熱拡散がなくなったわけではありません。深い区域を作る工程や、太陽電池などでは今も使われます。2つの方法は「熱拡散とイオン注入の違い」の表で比べられます。

装置の3つの種類

装置は、得意とする量と勢いによって、大きく3つに分けられます。例えばアクセリスは、年次報告書で、3種類の装置をそろえていると説明しています。

  • 高電流(大電流)の装置: 強い電流で、多くのイオンを短い時間に打ち込みます。トランジスタの電流の出入り口(ソースとドレイン)のように、量の多い注入に使います。
  • 中電流の装置: 少なめから中くらいの量を、正確に打ち込みます。トランジスタがオンになり始める電圧(しきい値電圧)の調整などに使います。
  • 高エネルギーの装置: 数百keVから、MeV(メガ電子ボルト。1 MeVは1000 keV)の単位までの勢いで、深い所に打ち込みます。トランジスタの土台になる深い区域や、カメラのセンサ(「イメージセンサとは?」)に使います。

どの種類も、しくみ1の4つの段階は同じです。違うのは、作れる電流の強さと、加速の強さです。

主なメーカー

イオン注入装置の主なメーカーには、次の4社があります。ここに書くのは、各社が自社の発表やサイトで説明している内容です(2026年10月時点)。

  • アプライド・マテリアルズ(米国): 2011年11月に、イオン注入装置のメーカーだったバリアン・セミコンダクターの買収を終えました。中電流の装置「VIISta 900XP」などを出しています。
  • アクセリス・テクノロジーズ(米国): 事業の始まりは1978年で、2000年にイートンから独立した会社です。高電流・中電流・高エネルギーの装置を、共通の土台「Purion」でそろえています。2022年には、最大15 MeVの装置がイメージセンサの量産向けに認められたと発表しました。
  • 住友重機械マテリアルソリューションズ(日本): 2026年1月に、住友重機械イオンテクノロジーから社名を変えました。2025年1月にレーザーアニール装置の事業を統合し、イオン注入装置とあわせて手がけています。
  • 日新イオン機器(日本): 1999年に、日新電機のグループの中で、イオン注入装置の会社として設けられました。中電流の装置や、パワー半導体向けの装置を出しています。

製造装置の全体の地図は「半導体製造装置とは?」にまとめています。

原料のガスと安全

リンやヒ素の原料に使われるホスフィンやアルシンは、毒性がとても強い気体です。米国の疾病対策センターの資料では、アルシンのにおいに気づく濃さは、働く人に許される濃さの約10倍です。つまり、においに気づいたときには、もう危険な濃さです。そのため工場では、厳しく管理された設備の中で扱われています。

よくある誤解

誤解: 打ち込んだ時点で、n型やp型の区域ができあがる

実際は、打ち込んだ直後の不純物の多くは結晶の決まった位置になく、結晶も傷ついています。アニールで並びを直し、不純物を結晶の位置に収めて、初めてn型やp型として働きます。「打ち込む」という言葉から、入れれば終わりと考えやすいため生まれる誤解です。

誤解: 勢い(エネルギー)を上げると、入る不純物の量も増える

実際は、量はドーズ量(電流と時間)で、深さはエネルギーで決まり、2つは別々のつまみです。同じ量のまま勢いを上げると、濃さの山が奥へ移り、低く広くなります。量と深さが両方「強さ」に聞こえることから生まれやすい誤解です。

誤解: 不純物は表面に積もり、表面がいちばん濃くなる

実際は、イオンはシリコンの中にもぐり込み、表面より少し奥に濃さの山ができます。表面からしみ込ませる熱拡散では表面がいちばん濃くなるので、そのイメージと混ざりやすい点です。山の位置を勢いで動かせることが、イオン注入の強みです。

数字で見る

数字何の数字か
10¹¹〜10¹⁶個1 cm²あたりに打ち込むイオンの数の範囲(スタンフォード大学の講義資料)
約6×10¹⁵個1 mAの電流で1秒に届く、電子1個分の電気をもつイオンの数(計算)
約0.3 µm100 keVのホウ素が止まる平均の深さ(香港城市大学の講義資料)
約7°チャネリングを避けるために、ウエハを傾ける角度の例(同)
数%と20〜30%狙った量からのずれの目安。前がイオン注入、後が高温で表面から入れる方法(UCバークレーの講義資料)
最大15 MeVアクセリスの高エネルギー装置が出せるとする勢い(同社の発表、2022年)

例として、直径300 mmのウエハの全面に、1 cm²あたり10¹⁵個のホウ素を入れる場合を計算します。ウエハの面積は約707 cm²なので、イオンは約7×10¹⁷個です。重さにすると約13 µg(1グラムの約8万分の1)にすぎません。

1 mAのビームなら、約2分で打ち終わる計算です。ここでは話を簡単にするため、ビームがいつもウエハに当たっているとしています。数としては大きく見えても、量は目に見えないほどわずかで、それを数%の精度で数えているのです。

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