炉アニール・RTA・レーザーアニールの違い:加熱時間・拡散・活性化・用途を比較

イオン注入のあとは、結晶の損傷を回復させ、不純物を格子位置に入れて電気的に働かせる(活性化する)ために、アニール(熱処理)を行います。ただし、高温に長くさらすほど不純物は拡散し、接合が深くなります。炉アニールは、多数のウエハを炉の中で数十分から数時間かけて加熱する方法です。RTA(急速熱アニール)は、ランプでウエハを1枚ずつ数秒程度だけ高温にする方法で、高温にほとんど保持しないスパイクアニールもこの仲間です。レーザーアニールやフラッシュランプアニールは、ウエハの表面付近だけをミリ秒以下の時間で加熱します。加熱時間が短いほど拡散を抑えられるため、トランジスタの微細化とともに、より短い時間の方法が使われるようになってきました。

項目炉アニールRTA・スパイクアニールレーザー・フラッシュランプアニール
加熱の時間数十分〜数時間数秒〜数十秒。スパイクアニールでは、最高温度の付近にいる時間が目安として1〜2秒程度ミリ秒以下。フラッシュランプは一般にミリ秒程度、レーザーは方式によってミリ秒〜ナノ秒
昇温・降温の速さ遅い。一般に毎分数℃〜十数℃程度速い。一般に毎秒数十〜数百℃表面だけが極めて速く昇温し、熱がウエハの内部へ逃げることで急に冷える
処理の単位多数のウエハをまとめて処理する(バッチ式)1枚ずつ処理する(枚葉式)1枚ずつ。フラッシュランプはウエハの全面を一度に、レーザーはビームを走査して加熱する
加熱される範囲炉の中のウエハ全体がほぼ均一な温度になるウエハの厚さ方向の全体がほぼ同じ温度になる表面付近の薄い層だけが最高温度になる。内部は低い温度(フラッシュランプでは予熱の温度)のままで、熱を逃がす役目をする
サーマルバジェット大きい中くらい。炉アニールよりはるかに小さい非常に小さい
不純物の拡散大きい。接合が深くなり、過渡増速拡散(TED)の影響も受けやすい抑えられる。浅い接合をつくれるが、拡散はある程度残るほとんど起こらない。注入したときの分布をほぼ保てる
活性化その温度での固溶度が上限の目安。温度を上げると拡散も大きくなる高い温度にできるので、高い活性化が得られる非常に高い温度を短時間かけるので、高い活性化が得られる。平衡の固溶度を超える準安定な活性化もできるが、その後の熱処理で一部が不活性化しやすい
結晶欠陥の回復時間をかけるので回復させやすい多くの欠陥を回復できる時間が短いため、欠陥が残ることがある。スパイクアニールと組み合わせることが多い
主な用途ウェルの押し込み拡散、膜の緻密化、比較的低温のフォーミングガスアニールなど。同じ形の炉は熱酸化やLPCVDにも使うソース・ドレインの活性化、シリサイドの形成、薄い酸化膜の形成や窒化先端のロジックの浅いソース・ドレインやエクステンションの活性化(スパイクアニールと組み合わせる)、下の層を加熱したくない工程(IGBTの裏面など)

数値は代表的な目安で、世代や製品によって異なります。

どんなときに使うか

炉アニール
深いウェルの形成のように不純物を十分に拡散させたいときや、多数のウエハを均一にゆっくり処理したいときに向きます。浅い接合の活性化には、拡散が大きすぎるため使われなくなりました。
RTA・スパイクアニール
ソース・ドレインの活性化の標準的な方法です。高い温度で活性化しながら、加熱時間を秒の単位に抑えて拡散を小さくします。シリサイドの形成などにも使われます。
レーザー・フラッシュランプアニール
接合を非常に浅く保ちたい先端のトランジスタで、拡散をほとんど起こさずに活性化したいときに使います。表面だけを加熱するので、下の層や裏面の構造を傷めたくない工程にも向きます。

よくある質問

サーマルバジェットとは何ですか?

ウエハが受ける熱の量を、温度と時間の組み合わせで表した考え方です。不純物の拡散距離は、おおよそ拡散係数と時間の積の平方根(√(Dt))で決まり、拡散係数は温度とともに指数関数的に大きくなります。そのため、温度が同じなら時間が短いほど、時間が同じなら温度が低いほど、拡散は小さくなります。

RTAとRTPは同じですか?

RTP(急速熱処理)は、ランプなどでウエハを1枚ずつ短時間で加熱する熱処理の総称です。そのうち、イオン注入後の活性化など、アニールを目的とするものをRTA(急速熱アニール)と呼びます。同じ種類の装置で薄い酸化膜をつくる処理はRTOと呼ばれます。

スパイクアニールは普通のRTAとどう違いますか?

普通のRTAは最高温度で数秒から数十秒保持しますが、スパイクアニールは最高温度に達したらすぐに温度を下げ、ほとんど保持しません。高い温度で活性化しながら、高温にいる時間を短くして拡散を抑えるための方法です。

なぜレーザーアニールだけで済ませないのですか?

加熱時間が非常に短いため、注入で生じた結晶欠陥が十分に回復しないことがあり、平衡の固溶度を超えて活性化した不純物も、その後の熱処理で一部が不活性化しやすいからです。また、パターンによって光の吸収が変わり、場所によって温度がばらつくこともあります。そのため、スパイクアニールと組み合わせたり、後の工程の温度を抑えたりして使います。

理解度チェック

イオン注入後にアニール(熱処理)を行う主な目的として正しいものはどれか。

  1. A注入した不純物を蒸発させて除去するため
  2. B結晶欠陥を回復させ、不純物を格子位置に置いて電気的に活性化させるため
  3. Cウエハ表面に厚い酸化膜を成長させるため
答えと解説を見る

正解:B. 結晶欠陥を回復させ、不純物を格子位置に置いて電気的に活性化させるため

注入されたイオンはシリコンの結晶を乱し、多くはドナーやアクセプタとして働かない格子間の位置にとどまるため、注入直後はほとんど電気的に働きません。アニールで結晶の損傷を回復させ、不純物を格子位置に置き換えて活性化させます。不純物が拡散しすぎないよう、ランプで数秒加熱するRTAや、ミリ秒以下のフラッシュランプ・レーザーアニールが使われます。

レーザーアニールの特徴として正しいものはどれか。

  1. Aウエハ全体を長時間均一に加熱する
  2. B低温でゆっくり加熱する
  3. Cウエハの表面付近だけを極めて短い時間加熱でき、拡散を抑えながら高い活性化が得られる
答えと解説を見る

正解:C. ウエハの表面付近だけを極めて短い時間加熱でき、拡散を抑えながら高い活性化が得られる

レーザーアニールでは、レーザー光で表面付近だけをマイクロ秒〜ナノ秒程度の極めて短い時間で1000 ℃以上(条件によっては融点近く)にします。不純物がほとんど拡散しないうちに高い活性化が得られるため、浅く低抵抗な接合をつくれます。熱が深くまで届かないため、IGBTの裏面の層の形成や、積層した上の層のトランジスタの形成など、下の層を傷めたくない工程にも使われます。

ランプなどでウエハを1枚ずつ、数秒程度の短時間で高温に加熱する熱処理を何と呼ぶか。

  1. Aバッチ炉アニール
  2. BRTP(急速熱処理)
  3. CCMP
答えと解説を見る

正解:B. RTP(急速熱処理)

RTPは、ハロゲンランプなどでウエハを毎秒数十〜数百℃の速さで加熱・冷却する熱処理で、1000 ℃以上の温度に数秒だけさらせます。高温での時間が短いため、不純物の拡散を抑えながら注入後の活性化アニールや薄い酸化膜の形成ができます。さらに加熱時間をミリ秒以下に縮めたフラッシュランプアニールやレーザーアニールも、先端の浅い接合の形成に使われています。

  1. イオン注入後のアニールの初期に、注入で生じた格子間シリコンの影響で、ボロンなどの拡散が一時的に速くなる現象を何と呼ぶか。
  2. アニールでドーパントを活性化させるとき、電気的に活性化できる濃度の上限を決める性質はどれか。
  3. シリコン中の不純物の拡散係数と温度の関係として正しいものはどれか。

イオン注入の練習問題へ

関連する用語の解説

アニール
熱処理のこと。イオン注入後の結晶欠陥の回復や不純物の活性化などに用いる。
RTP(急速熱処理)
ランプなどでウエハを1枚ずつ、数秒程度の短時間で高温に加熱する熱処理。不純物の余分な拡散を抑えながら、アニールや薄い酸化膜の形成ができる。
スパイクアニール
ウエハを急速に高温まで上げ、その温度にほとんど保持せずにすぐ下げる熱処理。不純物の拡散を抑えながら活性化でき、浅い接合の形成に使われる。
レーザーアニール
レーザー光でウエハの表面付近だけを極めて短い時間加熱する熱処理。拡散をほとんど起こさずに高い活性化が得られる。
過渡増速拡散(TED)
イオン注入後のアニールの初期に、注入で生じた過剰な格子間シリコンのため、ボロンなどの拡散が一時的に速くなる現象。浅い接合をつくる妨げになる。
固溶度
ある温度で、結晶の中に溶け込める不純物の最大の濃度。電気的に活性化できるドーパントの濃度の上限を決める。
イオン注入
不純物をイオン化し、加速してウエハに打ち込む技術。注入量と深さを精密に制御できる。

関連する比較