CMP(化学機械研磨)とは? 半導体を平らに磨く理由としくみ
CMP(化学機械研磨)は、ウエハの表面を平らに磨く工程です。薬液で表面をごく薄く柔らかくし、細かい粒を含む液とパッドでこすって、出っ張った所から削ります。凹凸が残ると次の層の模様を写すときにピントが合わないので、層を重ねるたびに行います。銅の配線を形づくるのにも使います。
この記事でわかること
- チップを作る途中で、表面を平らにしなければならない理由
- CMPの装置のしくみと、「化学」と「機械」の役割の分担
- 銅の配線を「埋めて、磨いて」作る方法
- 削りすぎの不良(ディッシング・エロージョン)と、止めどきの見つけ方
- 磨いたあとの洗浄、CMPの始まり、装置や材料を作る会社
前提知識: チップは、円い板(ウエハ)の上で膜をつけ、模様を写し、削ってくり返し作ります。この流れを知っていると読みやすくなります(「半導体チップはどうやって作られる?」)。
身近なところでは
スマホの中のチップは、平らな1枚の回路ではありません。トランジスタという小さなスイッチの上に、それらをつなぐ配線の層が何層も重なっています。たとえばIntelは、2022年に発表した製造技術「Intel 4」で、配線を16層重ねると説明しています。
層を1枚重ねるたびに、その表面はでこぼこになります。そのまま次の層を重ねると、でこぼこはどんどん大きくなります。そこで、層を重ねるたびに表面を磨いて平らに戻します。この磨く工程がCMPです。
CMPは Chemical Mechanical Polishing の略で、日本語では化学機械研磨と呼びます。Planarization(平坦化)の略とされることもあります。
なぜ平らでなければならないのか
理由の1つ目は、回路の模様を写す露光という作業にあります。露光装置は、レンズや鏡で回路の模様を縮めて、ウエハの表面に映します。このとき、模様がくっきり写るのは、ある高さの狭い範囲だけです。カメラで近くを撮るとき、少し前後した物がぼやけるのと同じです。
このピントが合う高さの範囲を焦点深度と呼びます。細かい模様を写せる露光装置ほど、この範囲は狭くなります。表面にでこぼこが残っていると、低い所や高い所だけピントが外れ、模様がぼやけてしまいます。ピントのしくみは「EUV露光とは?」でも説明しています。
理由の2つ目は、配線の層を重ねることです。何十億個ものトランジスタをつなぐには、配線を何層も積み上げる必要があります。こうした構造を多層配線と呼びます。下の層のでこぼこが残ると、上に重ねるほど段差が大きくなり、配線が切れたりつながったりする原因にもなります。
CMP装置を作る荏原製作所の説明では、CMPのあとの表面の高低差は10〜20 nmです。nm(ナノメートル)は、100万分の1 mmです。ウエハの平らさそのものの話は「シリコンウエハとは?」にあります。
CMPのしくみ: 下向きに押し付けて回す
CMPの装置の中心は、回転する大きな円い台です。この台を定盤(じょうばん)と呼び、表面に研磨用のパッドを貼ってあります。パッドは樹脂でできていて、表面には細かい穴がたくさんあります。
ウエハは、回路を作る面を下に向けて、研磨ヘッドという部品に取り付けます。ヘッドはウエハをパッドに押し付けながら回り、下の定盤も回ります。そこへ、磨くための液を上から流し続けます。
流す液をスラリーと呼びます。水に、ナノメートルの大きさの細かい粒と、表面と反応する薬品を混ぜたものです。粒には、ガラスと同じ成分のシリカ(二酸化ケイ素)などが使われます。磨く膜の種類ごとに、粒と薬品の組み合わせを変えた専用のスラリーがあります。
パッドは、磨くうちに表面が目詰まりして、つるつるになってきます。そこで、ダイヤモンドの粒をつけた工具でパッドの表面を少しずつ削り、ざらざらの状態に戻します。この手入れをパッドコンディショニングと呼びます。パッドの状態がそろっていないと、削れる速さが変わってしまうからです。
「化学」がゆるめ、「機械」が取り除く
CMPの名前にある「化学」と「機械」は、役割を分けて働いています。まず、スラリーの薬品が、膜の表面のごく薄い層と反応します。反応した層は、もとの膜より柔らかく、はがれやすい状態になります。金属の膜なら、表面が薄くさびたような状態になります。
次に、スラリーの粒とパッドが、その柔らかくなった層だけをこすり取ります。すると、下から新しい面が現れ、また薬品と反応します。この「ゆるめる」と「取り除く」を、ごく薄い単位で休みなくくり返して、表面を少しずつ削っていきます。
2つを組み合わせるのには理由があります。薬品だけだと、出っ張りも、へこみも、同じように溶けてしまい、平らになりません。粒でこするだけだと、硬い膜はなかなか削れず、強くこすれば傷がつきます。組み合わせると、細かい粒でも、傷を抑えながら速く削れます。
では、なぜ出っ張った所から削れるのでしょうか。ウエハをパッドに押し付けると、パッドは表面の高い所に強く当たります。押す力が強い所ほど速く削れるので、高い所が先に低くなります。高い所と低い所の差が縮むと、やがて表面全体が平らになります。
銅の配線は「埋めて、磨いて」作る
CMPには、平らにするほかに、もう1つ大事な役目があります。銅の配線を形づくることです。チップの配線の金属は、長くアルミニウムでした。1997年、IBMは銅の配線を使ったチップを発表しました。銅のほうが電気を通しやすく、信号の遅れや熱を減らせるからです(「抵抗とは?」)。
ただし銅は、膜を全面につけてから、いらない部分をガスで削って形を作るのが難しい金属です。銅がガスと反応してできるものは、気体になりにくく、表面に残ってしまうからです。そこで、作る順番を逆にしました。
まず、電気を通さない膜(絶縁膜)に、配線の形の溝を掘ります。次に、溝からあふれるほど銅をつけます。最後に、CMPで溝の外にあふれた銅を磨き取ります。すると、溝の中にだけ銅が残り、1本1本の配線ができあがります。この作り方をダマシン法と呼びます。
名前は、金属の表面に溝を彫って別の金属をはめ込む、象嵌(ぞうがん)という工芸の技法に由来します。銅を溝に埋める前には、銅がまわりにしみ出すのを防ぐ、別の金属の薄い膜をつけます(バリアメタル)。CMPでは、溝の外のこの膜も一緒に取り除きます。アルミニウムのように、ガスで削って形を作る方法との違いは「ダマシン法とエッチングで形づくる配線の違い」で比べられます。
実際には、溝と、下の層とつながる縦の穴を両方作っておき、1回で銅を埋めて磨く方法がよく使われます。銅を溝に埋めるめっきの工程や、膜のつけ方そのものは、ここでは省きます。
削りすぎを防ぐ: くぼみと止めどき
銅のCMPでは、柔らかい銅のほうが、まわりの絶縁膜より削れやすい性質があります。パッドは少したわむので、幅の広い配線では、真ん中の銅が皿のようにくぼみます。これをディッシングと呼びます。配線の幅が広いほど、くぼみは深くなります。
細い配線がぎっしり並んだ場所では、別のことが起きます。銅と一緒に、間の絶縁膜まで削られ、その場所全体が周りより低くなるのです。これをエロージョンと呼び、配線が密に並ぶほど大きくなります。どちらも、配線が薄くなって電気が通りにくくなり、次の層の平らさも損ないます。
そこで、チップを設計する段階から手を打ちます。配線の幅に上限を決めたり、配線の少ない場所に、電気的には使わない「ダミー」の模様を入れたりします。チップのどこでも配線の混み具合が近くなり、削れ方がそろうからです。このように、CMPは製造だけでなく、設計のルールにも関わります。
もう1つ大事なのが、止めどきです。削り足りなければ配線どうしがつながったままになり、削りすぎればくぼみが増えます。そこで、磨いている最中に表面の様子を測り、目的の膜が現れた時点を見つけます。これを終点検出と呼びます。
たとえば、ウエハに光を当て、はね返る光の色合いの変化から、膜の残りの厚さを見積もる方法があります。金属の膜なら、磁気を使ったセンサで、金属がどれだけ残っているかを調べる方法もあります。
磨いたあとは、すぐに洗う
磨き終えたウエハの表面には、スラリーの粒や削りくず、薬品が残っています。これらが残ったまま次の工程に進むと、不良の原因になります。そこで、CMPのすぐあとに洗浄を行います。
代表的なのは、柔らかいスポンジのようなブラシでウエハをこすりながら、洗浄液をかける方法です。大事なのは、ウエハを乾かさないまま洗うことです。スラリーがいったん乾くと、粒が表面にこびりつき、落としにくくなるからです。
粒やくずが出る研磨は、もともと、ほこりを嫌う部屋(クリーンルーム)には向かない作業です。1990年代前半、荏原製作所は、磨いて洗って乾かすまでを1台の中で行う装置を開発しました。これで、CMPの装置をクリーンルームの中に置けるようになりました。今の主なCMP装置も、研磨・洗浄・乾燥を1台で行います(「クリーンルームとは?」)。
CMPはどこから来たのか
ガラスやレンズを、細かい粒の入った液で鏡のように磨く技術は、昔からありました。シリコンウエハも、出荷の前に、粒と薬液で鏡のように磨かれています。ただ、回路を作っている途中のウエハを磨くのは、別の難しさがありました。いろいろな材料の膜が混ざった表面を、決まった層で止まるように磨く必要があるからです。
これを半導体の工程として実用にしたのが、1980年代のIBMです。当時、配線の層を増やすと凹凸が大きくなり、露光のピントの範囲に収まらなくなることが壁になっていました。
1990年代に入ると、装置メーカーがCMPの装置を売り出し、各社の工場に広がりました。荏原製作所は、1992年にCMP装置の1号機を納入しています。さらに1997年に銅の配線が登場すると、CMPは、平らにするだけでなく、配線を形づくる工程としても欠かせなくなりました。
最近は、チップを重ねて貼り合わせる技術でも、CMPが使われます。貼り合わせる面がわずかでも平らでないと、すき間ができてうまくつながらないからです。貼り合わせの方法の違いは「ハイブリッドボンディングとマイクロバンプの違い」で比べられます。
チップを包んで基板とつなぐ部分を、パッケージと呼びます。荏原製作所は2025年9月、次世代のパッケージを共同で開発する団体に加わりました。大きな四角いパネルを磨くCMP装置の技術を高めるためと説明しています。
だれが作っている?
CMPの装置の主なメーカーは、米国のアプライド・マテリアルズと、日本の荏原製作所です。ほかの製造装置との関係は「半導体製造装置とは?」で紹介しています。
スラリーやパッドは、別の材料メーカーが作っています。日本のフジミインコーポレーテッドやレゾナック、米国のEntegrisやQnity Electronicsなどです。この分野は統合や分離が多く、古い資料とは社名が違うことがあります。レゾナックは2023年1月に、昭和電工と旧日立化成の会社が統合してできました。Qnityは2025年11月にDuPontから分かれました。Entegrisは2022年7月に、CMPの材料を作るCMC Materialsを買収しています。
よくある誤解
誤解: CMPは、紙やすりでゴシゴシ削るようなもの
実際は、薬品で表面をごく薄く柔らかくしながら、ナノメートルの大きさの粒で少しずつ取り除きます。目標は、ナノメートル単位の平らさと、傷のない表面です。大きな傷は、それだけでチップの不良につながります。「研磨」という言葉から、木工のやすりがけを思い浮かべやすいために生まれる誤解です。
誤解: ウエハは最初に一度磨けば、あとは平らなまま
実際は、層を重ねるたびに新しい凹凸ができるので、チップを作るあいだに何度もCMPを行います。トランジスタどうしを仕切る部分、縦の配線、銅の配線の層ごとなど、場所ごとに専用のスラリーで磨きます。出荷前のウエハの鏡面研磨と、作る途中のCMPが、同じ「磨く」でまとめて語られるために生まれる誤解です。
誤解: 長く磨くほど、平らできれいになる
実際は、磨きすぎると、幅の広い配線がくぼんだり(ディッシング)、配線の密な所が低くなったり(エロージョン)します。目的の膜が現れたところで止めるのが大事で、そのために磨きながら表面を測っています。「平らにする」ことと「削る量を増やす」ことが、同じだと思われやすいのです。
数字で見る
| 数字 | 何の数字か |
|---|---|
| 10〜20 nm | CMPのあとの、ウエハ表面の高低差(荏原製作所の説明) |
| 約0.5 mm | 荏原製作所のたとえ。直径30 cmのウエハを山手線の内側(荏原は平均直径約10 kmとする)まで広げたときの、上の高低差 |
| 16層 | Intelの製造技術「Intel 4」の配線の層の数(2022年の論文) |
| 1980年代 | IBMが、CMPを半導体の工程として実用にした時期 |
| 1992年 | 荏原製作所が、CMP装置の1号機を納入した年 |
| 1997年 | IBMが、銅の配線を使ったチップを発表した年。銅の配線はCMPで形づくる |
荏原製作所のたとえを使うと、CMPの難しさが見えてきます。山手線の内側ほどの広さの土地を、高低差0.5 mmほどにならすような平らさです。しかもその表面には、硬さの違う銅と絶縁膜が細かい模様で混ざっていて、層を重ねるたびに磨き直すのです。
もっと詳しく学ぶ
- 工程の全体の中での位置: 「半導体チップはどうやって作られる?」「半導体製造装置とは?」
- 違いを表で見る: ダマシン法とエッチングで形づくる配線の違い、銅・コバルト・ルテニウム配線の違い(細い配線の金属)、STIとLOCOSの違い(CMPを使うトランジスタの仕切り方)
- 数字で試す: 露光の解像度の計算ツールで、細かく写すほどピントの合う範囲(焦点深度)が狭くなる様子を計算できます。配線のRC遅延の計算ツールでは、配線が薄くなると信号の遅れがどう変わるかを試せます。
- 図で見る: CMP装置の構成やダマシン法の流れの図は図解の一覧にあります。