EUV露光とは? 13.5nmの光で回路を描くしくみ
EUV露光は、波長13.5nmというとても短い「光」(極端紫外線)で、チップの回路の模様を写す技術です。波長が短いほど細かい模様を写せるので、最先端のチップの、いちばん細かい層に使われます。この光は空気にも吸収されるため、装置の中を真空にし、レンズの代わりに鏡で光を運びます。
この記事でわかること
- 露光で何をしているのか(レジストとマスクの役目)
- 波長の短い光ほど、細かい模様を写せる理由
- 波長193nmの光から、13.5nmのEUVへ進んだ流れ
- EUVに鏡と真空が必要な理由と、スズで光を作るしくみ
- 量産の課題、High-NA EUV、装置をASMLだけが作っている理由
前提知識: チップが、膜をつけて模様を写し、削る作業をくり返して作られることを知っていると読みやすくなります。くわしくは「半導体チップはどうやって作られる?」で説明しています。
身近なところでは: ニュースの「EUV」
「ラピダスが北海道の工場にEUV露光装置を入れた」「オランダのASMLの装置がないと、最先端のチップは作れない」。こうしたニュースを見たことがあるかもしれません。ラピダスは2024年12月、量産向けのEUV露光装置を千歳市の工場に搬入したと発表しました。日本で量産に使うEUV露光装置は、これが初めてだとしています。
EUV露光は、「2nm」などと呼ばれる最先端の世代のチップを作るのに欠かせない技術です。ただし、チップを作る数多くの工程のうちの一つにすぎません。この記事では、EUV露光が何をする技術で、なぜこれほど特別な装置が必要なのかを、順に説明します。
露光とは: 光で模様を写す作業
チップの回路は、シリコンの円い板(ウエハ)の上に膜をつけ、削る作業をくり返して作ります。どこを削り、どこを残すかを決めるのが「露光」です。光で模様を写す一連の作業は、リソグラフィとも呼ばれます。
まず、ウエハの表面に、光が当たると性質が変わる薬剤を薄く塗ります。この薬剤をフォトレジスト(略してレジスト)と呼びます。多くの場合、光が当たった部分だけが、あとで薬液に溶けるようになります。反対に、当たらなかった部分が溶ける種類もあります。
次に、回路の模様を描いた原版を通して光を当てます。この原版をマスクと呼びます。露光装置は、マスクの模様をふつう4分の1に縮めて、ウエハの上に写します。一度に写せるのはウエハの一部なので、少しずつずらしながら全面に写していきます。
光を当てたあと、薬液でレジストの一部を溶かすと、レジストに模様が残ります。レジストで守られていない部分を削れば、膜に回路の形ができます。この流れは「半導体チップはどうやって作られる?」の図でも確かめられます。
波長の短い光ほど、細かく写せる
光は波の性質を持っています。波の山から次の山までの長さを、波長と呼びます。目に見える光の波長は、およそ400〜700nmです。nm(ナノメートル)は、1mmの100万分の1の長さです。
光には、細いすき間を通ると、その先で広がって回り込む性質があります。この性質を回折(かいせつ)と呼びます。マスクの模様が細かいほど、通った光は大きく広がり、像がぼやけます。模様が細かくなりすぎると、となりの線と区別がつかなくなります。
光の広がり方は、波長が短いほど小さくなります。そのため、より細かい模様を写すには、より波長の短い光が必要です。実際に露光の光は、水銀ランプの436nmや365nmから、レーザーの248nm、193nmへと短くなってきました。
写せる細さは、波長だけでは決まりません。レンズや鏡が、どれだけ広い角度から光を集められるかも効きます。この広さを表す数字を開口数(NA)と呼び、大きいほど細かく写せます。マスクの形や照らし方を工夫して、限界に近づけることもできます。
写せる細さを、解像度とも呼びます。解像度は「波長に比例し、NAに反比例する」とまとめられます。式では「解像度 = k1 × 波長 ÷ NA」と書き、レイリーの式と呼びます。k1は、照らし方やマスク、レジストの工夫で決まる係数です。小さいほど難しい条件で、1回の露光では理論上0.25より小さくできません。露光の解像度の計算ツールで、数字を変えて試せます。
193nmの光からEUVへ
2000年代から主力になったのは、波長193nmの紫外線を出すレーザーです。アルゴンとフッ素のガスを使うので、元素記号からArF(アルゴン・フッ素)のレーザーと呼ばれます。この光を使う露光装置は、今もチップの多くの層で使われています。
193nmの光でさらに細かく写すために、レンズとウエハの間を水で満たす方法が生まれました。水の中では、光の波長が空気中より短くなります。この効果で、NAを1より大きくできます。この方法を液浸露光と呼びます。ASMLの液浸の装置は、NA 1.35で、38nmの細さまで写せるとしています。
それより細かい模様は、1つの模様を何回かに分けて写し、重ね合わせて作ってきました。この方法をマルチパターニングと呼びます。ただし、露光と削る作業の回数が増えるので、時間と費用がかかり、位置ずれも起きやすくなります。
そこで実用化されたのが、波長13.5nmの光を使うEUV露光です。EUVは「極端紫外線(Extreme Ultraviolet)」の略です。波長は193nmの約14分の1で、細かい模様を1回の露光で写せます。TSMCは2019年、EUVを使った世代(N7+)の製品を量産で出荷していると発表しました。
なぜ鏡と真空が必要なのか
EUVの光には、やっかいな性質があります。ガラスも空気も含め、ほとんどすべての物質に吸収されてしまうのです。ASMLも、EUVは空気にさえ吸収されると説明しています。そのため、光源からウエハまで、光の通り道の全体を真空にします。
ガラスを通れないので、ふつうのレンズも使えません。代わりに、光を跳ね返す鏡だけで光を集め、模様を縮めます。マスクも同じで、光を通す型ではなく、模様の形に光を反射する「鏡のマスク」を使います。
ただし、ふつうの鏡では、EUVはほとんど反射しません。そこで、金属のモリブデンとシリコンのごく薄い膜を、何十層も交互に重ねた鏡を使います。層の境目ごとに少しずつ反射した光が、波の山をそろえて強め合うのです。こうした鏡を、多層膜ミラーと呼びます。
それでも、鏡1枚で反射できるのは最大でも約7割で、残りは鏡に吸収されます。例えば鏡を10枚通ると、0.7を10回かけて、届く光ははじめの約3%です(わかりやすくするための計算の例です)。EUVの装置に、とても強い光源が必要な理由の一つです。
鏡の表面も、極端になめらかでなければなりません。鏡を作っているのは、ドイツのZEISS(ツァイス)です。ZEISSは、鏡をドイツの国土の大きさに広げても、最大のでこぼこは0.1mmほどだと説明しています。
光のつくり方: スズの滴をレーザーで撃つ
13.5nmの光は、電球やふつうのレーザーでは作れません。EUV露光装置は、金属のスズの、とても小さな滴から光を作ります。溶かしたスズの滴を、真空の容器の中に1秒間に約5万個のペースで飛ばします(ASMLの説明)。
飛んでいる滴の1つ1つに、強力な炭酸ガス(CO2)レーザーを当てます。まず弱い光を一瞬当てて滴を平たくつぶし、次に強い光で一気に熱します。スズは、原子から電子がはがれた、とても熱い気体になります。この状態をプラズマと呼びます。
スズのプラズマは、ちょうど13.5nm付近の光を強く出します。この波長は、モリブデンとシリコンの多層膜ミラーがよく反射できる波長とも重なります。13.5nmという半端に見える数字は、光源と鏡の相性で選ばれた波長なのです。
出てきた光は、プラズマを囲む大きな鏡(集光鏡)で集めて、装置の奥へ送ります。そこから何枚もの鏡でマスクを照らし、マスクで反射した模様を縮めてウエハに写します。
量産の壁: 光の明るさと、偶然の欠陥
工場で使うには、細かく写せるだけでは足りません。1時間に何枚のウエハを処理できるかが、チップの値段を大きく左右します。この処理の速さを、業界ではスループットと呼びます。
光が弱いと、レジストを十分に反応させるのに時間がかかり、スループットが下がります。鏡で光が減ることもあり、光源を明るくすることが長い間の課題でした。2024年に出荷が始まった装置(NXE:3800E)では、1時間に最大220枚です(ASMLの2024年の年次報告)。
もう一つの壁は、光の粒の数です。光は、エネルギーの小さなかたまりの集まりとしても振る舞います。このかたまりを光子(こうし)と呼びます。EUVの光子1個のエネルギーは193nmの光の約14倍なので、同じエネルギーを当てても、光子の数は約14分の1です。
光子が少ないと、ある場所には多く、ある場所には少なく届く、という偶然のむらが目立ちます。届く数が少ないほど、平均からのずれの割合が大きくなるためです。その結果、線のふちがぎざぎざになったり、小さな穴がまれに開かなかったりします。光を多く当てればむらは減りますが、1枚に時間がかかり、スループットが下がります。この確率で起きる欠陥を減らすことが、EUVの大きな課題です。
マスクのごみ対策も難しくなります。マスクに小さなごみが付くと、そのマスクで写したすべてのチップに同じ不良が出ます。そこで、マスクの少し上に薄い膜を張って、ごみが直接付かないようにします。この膜をペリクルと呼びます。
EUVでは、ペリクルも光を吸収してしまいます。鏡のマスクでは、光が膜を行きと帰りの2回通るので、損失も2回分です。2021年の報道では、ASMLは光の約90%を通すペリクルを開発し、量産を目指していました。膜をごく薄くしながら、強い光の熱に耐えさせる必要があります。
High-NA EUV: 開口数を上げて、さらに細かく
波長をさらに短くするには、光源も鏡も作り直す必要があり、簡単ではありません。そこで次に進められたのが、NAを大きくする方法です。より大きな鏡で、広い角度から光を集めます。これをHigh-NA EUVと呼びます。
これまでのEUV装置のNAは0.33です。High-NAの装置は、NAを0.55に上げました。ASMLによると、写せる細さは13nmから8nmになります。
ただし、よいことばかりではありません。NAを大きくすると、ピントが合う深さの範囲が浅くなります。また、1回で写せる範囲が、これまでの装置の半分になります。マスクに当たる光の角度を抑えるため、模様を縦と横で違う倍率(4分の1と8分の1)で縮めるからです。大きなチップは、2回に分けて写してつなぐなどの工夫が必要です。
なぜASMLだけが作れるのか
2026年時点で、EUV露光装置を製品として売っているのは、オランダのASMLだけです。ASMLは2025年の年次報告で、自らを「現在、EUV露光装置の世界で唯一のメーカー」と説明しています。装置を導入したラピダスも、同じように説明しています。露光装置を作るニコンやキヤノンも、EUVの装置は販売していません。
理由の一つは、開発にかかった時間とお金の大きさです。EUVは長い年月をかけて研究され、量産の工場で使われ始めたのは2019年ごろです。ASMLは2012年、インテル・TSMC・サムスンから出資を受け、開発費の一部も負担してもらう仕組みを作りました。
もう一つは、特別な部品を作る会社との強い結びつきです。ASMLは2013年、光源を作るアメリカのCymer(サイマー)を買収しました。鏡などの光学部品はドイツのZEISS、光源用の強力なCO2レーザーはドイツのTRUMPFが作っています。EUV装置は、こうした会社の技術を組み合わせて初めて成り立ちます。
チップの製造を受託するファウンドリも、最先端の世代ではEUV装置なしでは戦えません。業界の分業については「ファウンドリとは?」で説明しています。
よくある誤解
誤解: EUVで、2nmの細さの線を描いている
実際は、「2nm」は技術の世代の名前で、チップのどこかが2nmという意味ではありません。ASMLの値では、EUV装置で1回に写せる細さは13nm、High-NAでも8nmです。どちらもnmで書かれるので、2つの数字が結びつけられやすいのです。くわしくは「「2nm」「3nm」は何の長さ?」で説明しています。
誤解: 最先端のチップは、すべての層をEUVで写している
実際は、EUVを使うのは、いちばん細かい一部の層です。ほかの多くの層は、今もArFなどの光で写しています。EUVは装置も運用も高価なので、必要な層に絞って使うのです。TSMCが2019年に始めたEUVの世代でも、EUVを使ったのは重要な数層だけでした。
誤解: EUV露光は、レーザーの光で回路を描いている
実際は、レーザーはスズのプラズマを作るための「火付け役」です。模様を写すのは、プラズマから出た13.5nmの光です。また、光の点を動かして線を1本ずつ描くのではありません。マスクの模様を、帯の形の光でなぞるように縮めて写します。「レーザーで回路を焼き付ける」といった表現から生まれやすい誤解です。
数字で見る
| 数字 | 何の数字か |
|---|---|
| 13.5nm | EUV露光に使う光の波長 |
| 193nm | ArFのレーザーの光の波長(EUVの約14倍) |
| 38nm | ArF液浸の装置(NA 1.35)で写せる細さ(ASML) |
| 13nm → 8nm | EUV装置で写せる細さ。NA 0.33からNA 0.55のHigh-NAへ(ASML) |
| 約14分の1 | 同じエネルギーで届く光子の数(193nmの光と比べたEUV) |
| 約7割 | 多層膜ミラー1枚で反射できる光の割合の上限の目安 |
| 約5万個 | 光源で1秒間に飛ばすスズの滴の数(ASML・TRUMPFの説明) |
| 220枚 | NXE:3800Eが1時間に処理できるウエハの最大枚数(ASML、2024年の年次報告) |
| 0.1mm | 鏡をドイツの大きさに広げたときの、最大のでこぼこ(ZEISS) |
数字を並べると、EUV露光の難しさが見えてきます。空気にさえ吸収される光を、極端になめらかな鏡だけで運び、毎秒数万個のスズの滴から作り出します。そのうえで、1時間に200枚を超えるウエハに、13nmの細さの模様を写し続けているのです。
もっと詳しく学ぶ
- 違いを表で見る: 「EUVとDUV露光の違い」(波長・光学系・マスク・費用)、「SADP・SAQP・LELEの違い」(マルチパターニングの方法)、「レチクルとフォトマスクの違い」
- 工夫で限界に近づける方法: 「OPC・位相シフトマスク・変形照明の違い」で、k1を小さくする技術を比べられます。
- 数字で試す: 露光の解像度の計算ツールで、波長やNAを変えると、写せる細さとピントの合う深さ(焦点深度)がどう変わるかを計算できます。
- 関連する記事: 「半導体チップはどうやって作られる?」(工程の全体像)、「「2nm」「3nm」は何の長さ?」(世代の名前の読み方)、「ファウンドリとは?」(業界の分業)