トランジスタとは? スマホに100億個以上ある小さなスイッチ

約13分 · 更新: 2026年10月23日

トランジスタは、電気の流れを、別の電気の信号でオン・オフする小さなスイッチです。高性能なスマホのチップには、これが100億個以上入っています。オンとオフを「1」と「0」に見立て、その組み合わせで計算しています。

この記事でわかること

  • トランジスタの2つの役目(スイッチと増幅)
  • チップの中のトランジスタ(MOSFET)が、ゲートの電圧で電子の通り道をつくるしくみ
  • nMOSとpMOSを組み合わせたCMOSが、電力を節約できる理由
  • スイッチが0と1の計算につながる流れと、トランジスタの歴史

前提知識: とくになし。「半導体とは?」の記事を先に読むと、n型・p型の話がわかりやすくなります。

身近なところでは: スマホのチップに190億個

スマホの中心には、計算や画像の処理をまとめて受け持つチップがあります。たとえば、Appleが2023年に発表したiPhone 15 Pro用のチップ「A17 Pro」です。Appleは発表会で、トランジスタが約190億個入っていると説明しました。2023年の世界の人口(約80億人)の2倍以上です。

このチップのように、たくさんの部品を1つの小さな板にまとめた電子回路を、集積回路(IC)と呼びます。スマホやパソコンだけでなく、テレビや車、炊飯器にも入っています。計算をする集積回路の中で働く部品の大部分が、トランジスタです。

では、トランジスタは何をする部品なのでしょうか。ひとことで言えば「電気で動かすスイッチ」です。

トランジスタは「電気で切り替えるスイッチ」

部屋の照明のスイッチは、指で押して電気の流れをオン・オフします。トランジスタも電気の流れをオン・オフしますが、指の代わりに別の電気の信号で切り替えます。動く部品がないので、とても小さく作れて、人の手では追いつかない速さで切り替えられます。

トランジスタには、もう一つの役目があります。入ってきた小さな信号の変化に合わせて、大きな電流を強めたり弱めたりする働きです。これを増幅と呼びます。ラジオやオーディオ、マイクの弱い信号を大きくするのに使われています。

スマホのチップのように、0と1で計算する回路では、主にスイッチの役目を使います。この記事でも、ここからはスイッチとしての働きを中心に説明します。

チップの中のトランジスタ: MOSFET

トランジスタには、いくつかの種類があります。いまのチップに入っているトランジスタのほとんどは、MOSFET(モスフェット)という種類です。名前の意味は、しくみを見たあとで説明します。

MOSFETには、大事な場所が3つあります。どれも英語の名前で、意味を知ると役割がわかります。

  • ソース(source=源): 流れる電子が出てくる側
  • ドレイン(drain=排水口): 電子が出ていく側
  • ゲート(gate=門): ソースとドレインの間の上にあり、かける電圧でオン・オフを決める
MOSFETの断面: ゲートの電圧で電子の通り道ができる ゲートに電圧なし → オフ ゲート 絶縁膜 ソース n型 ドレイン n型 × 電子の通り道がない 電流は流れない p型 ゲートに+の電圧 → オン ゲート + ソース ドレイン 電子の通り道(チャネル) 電子がソースからドレインへ p型
nMOS(あとで説明)を縦に切った断面のイメージ。上はゲートに電圧がないとき、下は+の電圧をかけたとき。省略していること: 配線、ソースとドレインの間にかける電圧、実際の寸法の比率。最新のチップのトランジスタは、このような平らな形ではなく立体的な形です。

図は、MOSFETを縦に切った断面を、とても単純にしたものです。ソースとドレインは、少し離して作られています。ゲートは、その間の上に、とても薄い絶縁膜(電気を通さない膜)をはさんで置かれています。つまり、ゲートは下の半導体に直接ふれていません。

ゲートの電圧で「電子の通り道」ができる

ここで、前の記事「半導体とは?」の話を少し思い出してください。半導体は、混ぜる物質によって2つのタイプに作り分けられます。自由に動ける電子が多いn型と、電子が抜けた穴(正孔)が多いp型です。正孔は、+の電気をもつ粒のようにふるまいます。

図のMOSFETでは、ソースとドレインがn型で、その間と下の土台がp型です。ゲートに電圧がないと、p型の部分が「壁」になり、ソースの電子はドレインまで通れません。そのため、電流は流れません。これがオフの状態です。

壁ができる本当のしくみは、n型とp型の境目にあります。ソースからドレインまでは、n型・p型・n型と並んでいます。ここでは「境目が2か所あるので、どちら向きにも電流が流れにくい」とだけ考えてください。

次に、ゲートに+の電圧をかけます。すると、+に引き寄せられて、絶縁膜のすぐ下に電子が集まります。反対に、+の性質をもつ正孔は押しのけられます。電圧を上げていくと、集まった電子が、ソースとドレインをつなぐ薄い層になります。

この電子の層が、電流の通り道です。これをチャネル(英語で「水路」)と呼びます。チャネルができると、電子がソースからドレインへ流れ、スイッチはオンになります。ゲートの電圧を下げると、チャネルは消えてオフに戻ります。

オンとオフの境目になるゲートの電圧を、しきい値電圧と呼びます。ゲートは絶縁膜で隔てられているので、ゲートにはほとんど電流が流れ込みません。電圧をかけるだけで、その下に電子の道をつくったり消したりできる。これがMOSFETの大きな特徴です。

MOSFETという名前も、この構造から来ています。金属(Metal)のゲート、酸化膜(Oxide)の絶縁膜、半導体(Semiconductor)の土台を重ねた形がMOSです。いまはゲートや絶縁膜の材料が変わりましたが、名前はそのまま使われています。FETは「電界効果トランジスタ」の略で、電圧が生む電気の力(電界)で電流を操ることを表します。

ここまでの説明は、わかりやすさのためにかなり単純にしています。たとえば、電子が実際に流れるには、ソースとドレインの間にも電圧が必要です。また、電流の向きは、決まりとして電子が動く向きと逆に数えます。

nMOSとpMOS: 正反対の2種類

ここまで説明したのは、ソースとドレインがn型で、電子が通り道をつくるMOSFETです。これをnMOS(nチャネルMOSFET)と呼びます。nMOSは、ゲートの電圧が高いとオンになり、低いとオフになります。

n型とp型を入れ替えたMOSFETもあり、これをpMOSと呼びます。pMOSでは、正孔が通り道をつくって電流を運びます。動きも正反対で、ふつうの使い方では、ゲートの電圧が低いとオンに、高いとオフになります。2つの違いは、比較ページ「nMOSとpMOSの違い」の表で確かめられます。

2つを組み合わせると電力を節約できる: CMOS

nMOSとpMOSを1つずつ組み合わせた、いちばん簡単な回路が下の図です。上のpMOSは電源の+側に、下のnMOSは0 Vの側につながっています。2つのゲートには、同じ入力の信号が入ります。

nMOSとpMOSを組み合わせたCMOSの回路(NOTゲート) 電源の+側 pMOS 出力 nMOS 0 V 入力 入力0: pMOSがオン → 出力は1 入力1: nMOSがオン → 出力は0
nMOSとpMOSを1つずつ使った、いちばん簡単なCMOSの回路。入力が0でも1でも、どちらか片方は必ずオフです。省略していること: 実際の回路記号、チップの中での並び方、切り替わる途中の動き。

入力の電圧が高いときは、下のnMOSがオン、上のpMOSがオフになります。出力はnMOSを通って0 Vの側とつながり、低い電圧になります。入力が低いときはその逆で、出力は電源の+側とつながり、高い電圧になります。

このように、nMOSとpMOSが補い合って動く回路の方式を、CMOS(シーモス)と呼びます。頭のCは、英語のComplementary(相補型)、つまり「互いに補い合う」という意味です。

CMOSのよいところは、どちらの状態でも、片方のトランジスタが必ずオフになることです。電源の+側から0 Vの側へ、電流がまっすぐ流れ抜ける道ができません。そのため、出力を保っている間は、電力をほとんど使いません。電力を使うのは、主にオンとオフが切り替わるときです。

CMOSは1963年に発表され、いまではほとんどのチップがこの方式で作られています。何十億個ものトランジスタを電池で動かせるのは、この工夫が大きな理由の一つです。電力の使われ方は、比較ページ「静的消費電力と動的消費電力の違い」でくわしく読めます。

スイッチから0と1、そして計算へ

コンピュータは、電圧の高い・低いを「1」と「0」に対応させて、情報を表します。さきほどのCMOSの回路を、この0と1で見直してみましょう。入力が1なら出力は0、入力が0なら出力は1になります。

つまりこの回路は、0と1をひっくり返す働きをします。0と1を扱う回路(論理回路)の世界では、これをNOTゲート(インバータ)と呼びます。この「ゲート」は、0と1を処理する回路の1単位のことで、MOSFETのゲートとは別の意味です。入力と出力の対応を並べた表を、真理値表と呼びます。

入力出力
01
10

トランジスタの数とつなぎ方を変えると、「入力が両方とも1のときだけ1」になるANDゲートなど、別のゲートも作れます。ゲートを組み合わせれば足し算ができ、さらに組み合わせれば複雑な計算もできます。チップの中で計算を受け持つCPUは、こうした回路を膨大な数のトランジスタで組み上げたものです。CPUが何をしているかは「CPUとは?」で説明しています。

自分で試してみたい人は、論理回路シミュレーターを使ってみてください。NOTやANDのゲートを並べ、入力のスイッチを切り替えると、出力がどう変わるかをその場で確かめられます。

トランジスタの歴史: 1947年の発明から

最初のトランジスタは、1947年12月にアメリカのベル研究所で生まれました。ジョン・バーディーンとウォルター・ブラッテンが、ゲルマニウムという半導体の結晶に、2つの金の接点を近づけて当てた装置です。この装置で、信号を大きくする増幅に成功しました。形から点接触型トランジスタと呼ばれます。

2人のいた研究グループを率いたのは、ウィリアム・ショックレーです。彼は翌1948年、点接触型の弱点だった作りにくさを解決しようと、接合型トランジスタを考え出しました。3人は1956年にノーベル物理学賞を受けています。この流れをくむ種類はバイポーラトランジスタと呼ばれます。いまも、音のような連続した信号や、大きな電力を扱う回路などで使われています。

年出来事
1947年ベル研究所のバーディーンとブラッテンが、点接触型トランジスタで増幅に成功
1958年テキサス・インスツルメンツのジャック・キルビーが、1つの半導体のかけらに部品を作り、細い金の線でつないだ最初の集積回路を動かす
1959年フェアチャイルドのロバート・ノイスが、平らなシリコンの表面に配線までまとめて作る集積回路を考え、特許を出願。大量生産できる形の基礎になる
1959〜60年ベル研究所のモハメド・アタラとダウォン・カーンが、MOSFETを実現
1963年フェアチャイルドのフランク・ワンラスとC. T. サーが、CMOSを発表
1971年インテルが、計算の中心部分を1つのチップにまとめ、市販された最初のマイクロプロセッサ「4004」を発表(トランジスタ約2,300個)

集積回路が生まれたことで、トランジスタを1個ずつ作って線でつなぐ必要がなくなりました。たくさんのトランジスタを、まとめて一度に作れるようになったのです。キルビーは、集積回路の発明への貢献で2000年にノーベル物理学賞を受けました。

小さく、たくさんに: ムーアの法則

1965年、のちにインテルを共同で創業するゴードン・ムーアは、チップに載る部品の数がほぼ毎年2倍になっていると指摘しました。1975年には、そのペースを「約2年ごとに2倍」に改めています。この見通しが、のちにムーアの法則と呼ばれるようになりました。

「法則」という名前ですが、自然の決まりではありません。それまでの傾向を読み取った観察と、そこからの予測です。半導体の業界が、このペースを目標にして装置や材料を開発してきたことも、長く当たり続けた理由の一つです。

トランジスタを小さくすると、同じ広さのチップにたくさん載せられます。しかも長いあいだ、小さくするほど切り替えが速くなり、1回の切り替えに使う電力も減りました。数が増え、速く、省電力になる。これが、コンピュータが安く高性能になってきた大きな理由です。

ただし2000年代半ばごろからは、小さくするだけでは電力を下げにくくなり、作る費用も大きく増えました。いまは、トランジスタを立体的な形にしたり、チップを重ねたりする工夫を組み合わせて、性能を伸ばしています。こうした工夫は「微細化の先へ」で整理しています。

よくある誤解

誤解: 「3nmのチップ」は、トランジスタの大きさが3nm

実際は、世代を区別するための名前です。昔は数字がゲートの長さなどの寸法とほぼ一致していたため、この誤解が生まれました。電気・電子の学会IEEEの雑誌(2020年)によると、このずれは約20年前から続いています。「7nm」世代でも、主な部分の寸法は7nmよりかなり大きいのです。

誤解: ムーアの法則は物理の法則で、必ず2年で2倍になる

実際は、ムーアが過去の傾向から示した観察と予測です。ペースも、1965年の「毎年2倍」から1975年に「約2年で2倍」へと、ムーア自身が改めています。よく聞く「18か月で2倍」は、ムーア本人が示した数字ではありません(コンピュータ歴史博物館の解説による)。

誤解: CMOSは電力をまったく使わない

実際は、オンとオフを切り替えるたびに電力を使います。また、オフのトランジスタにも、わずかな電流が漏れて流れます。この漏れはトランジスタを小さくするほど増えやすく、いまのチップでは対策が欠かせません。「CMOSは、何もしていない間の電力がとても小さい」と覚えるのが正確です。

数字で見る

  • 約800万倍: 1971年のインテル4004は、トランジスタ約2,300個でした。2023年のA17 Proは約190億個です。約50年で、およそ800万倍に増えました。倍になる間隔に直すと約2年3か月で、ムーアが1975年に示した「約2年」に近いペースです(当サイトの計算)。
  • 約690億個: スマホの作業用のメモリ(DRAM)は、1ビット(0か1の1つ分)を、トランジスタ1個と電気をためる部品1個で覚えます。8GBなら約690億ビットです。記憶する部分だけで、トランジスタが約690億個ある計算です(当サイトのおおまかな計算。周りの回路は数えていません)。
  • 約1.3×1022個: 1947年から2018年ごろまでに作られたトランジスタの数の推計です。業界アナリストのジム・ハンディの推計を、コンピュータ歴史博物館が2018年に紹介しました。1兆個の130億倍にあたり、人類が最も多く作ってきた物とされています。

もっと詳しく学ぶ

  • 図で見る: CMOSの回路は図解「CMOSインバータ」でも見られます。チャネルを少し専門的に表した図解「nMOSのチャネル」もあります。p型の場所に電子が集まってできる層なので、専門的には反転層と呼びます。
  • もう一つのトランジスタ: 1947年の発明の流れをくむバイポーラトランジスタとの違いは「BJTとMOSFETの違い」で比べられます。
  • 立体的なトランジスタ: 「プレーナ型MOSFETとFinFETの違い」で、平らな形から立体に変わった理由を読めます。
  • 中級に進みたい人へ: MOSFETの特性グラフのツールで、ゲートの電圧と流れる電流の関係を数字で試せます。

次に読む

シリーズ「はじめての半導体」の記事

  1. 半導体は何から学ぶ? 初心者向けの勉強の順番ガイド
  2. 半導体とは? 電気の通しやすさを変えられる材料
  3. トランジスタとは? スマホに100億個以上ある小さなスイッチ
  4. 集積回路(IC)とは? チップ・ダイ・LSI・SoCの違いも整理
  5. 「2nm」「3nm」は何の長さ? 半導体の世代の数字の読み方
  6. ダイオードとは? 電流を一方向にだけ流すしくみと使い道
  7. CMOSとは? nMOSとpMOSを組み合わせて電力を節約するしくみ
  8. GAAトランジスタとは? FinFETの次、2nm時代のナノシート

この分野の問題: MOSFET

参考にした資料

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