フォトリソグラフィとは? 半導体の回路を光で写す工程
フォトリソグラフィは、チップの回路の模様を、光を使ってウエハ(シリコンの円い薄い板)の上に写す工程です。光で性質が変わる薬剤を塗り、原版の模様をふつう4分の1に縮めて光で写し、薬液で模様を浮かび上がらせます。チップができるまでに何十回もくり返され、写せる細かさと重ねる正確さが、チップの細かさを左右します。
この記事でわかること
- フォトリソグラフィの手順と、2種類の装置の役割
- ポジ型とネガ型のレジストの違い
- 原版(マスク)の模様を縮めて写す理由
- どこまで細かく写せるかを決めるもの
- 層どうしを数nmの精度で重ねる難しさ、費用、主なメーカー
前提知識: チップが「膜をつけ、模様を写し、削る」作業のくり返しで作られると知っていると読みやすくなります。くわしくは「半導体チップはどうやって作られる?」で説明しています。
身近なところでは: 黄色い部屋と「リソ」
半導体工場の写真で、黄色い照明の部屋を見たことがあるかもしれません。そこが、フォトリソグラフィを行う場所です。この工程で使う薬剤が青い光や紫外線に反応するので、照明からその光を除いています。工場の部屋のしくみは「クリーンルームとは?」で説明しています。
「フォト」は光、「リソグラフィ」はもともと石版を使った印刷の名前です。つまり「光を使った印刷」という意味です。短く「リソ」と呼んだり、光を当てる作業から「露光」と呼んだりもします。半導体の会社に入ると、まず耳にする言葉の一つでしょう。
しくみ1: 手順は「塗る・写す・現像する」
フォトリソグラフィの目的は、膜の上に「型」を作ることです。この型があると、次の工程で、決めた場所だけを削ったり加工したりできます。型の材料は、光が当たると薬液への溶けやすさが変わる薬剤です。この薬剤をフォトレジスト(略してレジスト)と呼びます。
まず、ウエハを速く回しながら、液体のレジストを中心に垂らします。レジストは外へ広がり、ごく薄く均一な膜になります。回す速さで厚さを調節できます。そのあと軽く温めて、液に含まれる蒸発しやすい成分(溶剤)を飛ばし、膜を固めます。
次に、光を当てる装置(露光装置)が、ウエハにつけた目印を読み取ります。そして、前の層の模様と位置を合わせます。そのあと、回路の模様を描いた原版を通して光を当てます。光が当たった部分だけ、レジストの性質が変わります。
多くのレジストは、光を当てたあと、もう一度温めます。光で生まれた物質が、温めると反応を進め、溶けやすさの差を大きくするからです。最後に薬液をかけると、レジストの一部が溶けて模様が残ります。この作業を現像と呼びます。
レジストの模様ができたら、レジストのない所の膜を削ります。この作業がエッチングです(「エッチングとは?」)。削る代わりに、すき間から特定の元素を打ち込んで、決めた場所の電気の通りやすさを変えることもあります。こちらはイオン注入と呼びます。役目を終えたレジストは取り除き、次の層へ進みます。
しくみ2: ポジ型とネガ型のレジスト
レジストには、光への反応が逆の2種類があります。光が当たった部分が溶けるものと、光が当たった部分が残るものです。前者をポジ型、後者をネガ型と呼びます。
同じ原版を使っても、できる模様は白黒が逆になります。ポジ型では、原版で光を通す所が溝になります。ネガ型では、そこだけが残ります。下の図で、2つを見比べてみてください。
今のチップの細かい層では、主にポジ型が使われます。細かい模様をくっきり作りやすいからです。ネガ型は、とても厚い膜や、特別な断面の形が必要な場所のほか、最先端のチップの一部の層でも使われます。違いは「ポジ型とネガ型フォトレジストの違い」の表で比べられます。
しくみ3: 原版の模様を4分の1に縮めて写す
回路の模様を描いた原版を、フォトマスクと呼びます。縮めて写す装置用のものは、特にレチクルとも呼びます。材料は約152 mm角の石英ガラスの板で、光をさえぎる膜で模様が描かれています。言葉の使い分けは「レチクルとフォトマスクの違い」にまとめています。
今の主な露光装置では、原版の模様を、ウエハに写す模様の4倍の大きさで作ります。露光装置は、レンズでこれを4分の1に縮めて写します(ASMLの説明)。原版を大きく作るほうが、細かい模様を正確に作りやすいからです。原版のわずかなずれや小さなごみも、ウエハの上では4分の1になります。
ASMLの装置では、1回に写せる範囲は、ウエハの上で最大26 mm × 33 mmです(例えばNXT:1965Ciの仕様)。直径300 mmのウエハ全体に写すには、位置をずらしながら100回ほど写します。例えばASMLは、2017年に出荷を始めた装置NXE:3400Bの処理枚数を、1枚に96回写す条件で示しています。
しくみ4: 塗る装置と写す装置は別の機械
フォトリソグラフィには、大きく2種類の装置を使います。1つは、レジストを塗り、温め、現像する装置です。これを塗布・現像装置(コータ/デベロッパ)と呼び、業界では「トラック」とも呼びます。もう1つが、位置を合わせて光を当てる露光装置です。
2つは、ふつう横に並べて直接つないで使います。ウエハは、塗布・現像装置で塗られて露光装置へ渡り、写されると戻って現像されます。レジストは、光を当ててからの時間や温度でも仕上がりが変わります。つないで流れ作業にすることで、条件をそろえやすくなります。
露光装置には、2つの写し方があります。昔は、1区画分の模様を一度に写し、ウエハをずらして次を写す装置が主力でした。これをステッパーと呼びます。ニコンが1980年に出したNSR-1010Gは、国産初のステッパーだと同社は説明しています。
今の主力は、細い帯の形の光を使う装置です。原版とウエハを、帯の下で反対向きに同時に動かし、なぞるように写します。この装置をスキャナーと呼びます。縮小率が4分の1なので、原版はウエハの4倍の速さで動きます。レンズは帯の範囲だけよく写せればよいので、広い範囲を写しやすくなります。
速さも求められます。ASMLは2024年11月の投資家向けの資料で、装置NXT:2100iは1時間に295枚以上を処理できるとしています。1枚に96回写すと仮定して、この記事で単純に計算してみます。295枚に96回をかけ、1時間の3,600秒で割ると約7.9です。つまり、1秒に約8回写している計算です。
しくみ5: どこまで細かく写せるか
光には、細いすき間を通ると広がる性質があります。原版の模様が細かいほど、通った光は広がって、写る像がぼやけます。細かすぎると、となりの線とくっついて区別できなくなります。
光の広がり方は、光の波長が短いほど小さくなります。波長とは、光の波の山から山までの長さです。また、レンズが広い角度から光を集められるほど、細かく写せます。この角度の広さを表す数字を開口数(NA)と呼びます。
まとめると、写せる細さは「波長に比例し、開口数に反比例する」と考えられます。光学では、物理学者レイリーの名前をとってレイリーの式と呼びます。実際には、照らし方やレジストの工夫で決まる係数もかかります。式は「EUV露光とは?」で説明しています。露光の解像度の計算ツールで、数字を変えて試せます。
工場では、層に求められる細かさに応じて、光を使い分けます。nm(ナノメートル)は、1 mmの100万分の1の長さです。波長365 nmや248 nm、193 nmの紫外線を主に使います。最も細かい層には、波長13.5 nmの極端紫外線(EUV)を使います。EUVの装置はとても高価なので、粗い層には使いません。EUVのしくみは「EUV露光とは?」にまとめています。
しくみ6: 層どうしを数nmの精度で重ねる
チップは、何十もの層を積み重ねて作ります。上の層の模様は、下の層の模様とぴったり重ならなければなりません。たとえば、上下の配線をつなぐ細い柱は、下の配線の真上に来る必要があります。前の層に対して、どれだけ正確な位置に重ねられたかを重ね合わせ精度と呼びます。
ずれが許される幅は、配線の間隔よりずっと小さくなります。2020年ごろの最先端のチップでは、細い配線が約36 nmの間隔で並んでいました(IEEE Spectrum)。そのため、ずれは数nmに抑える必要があります。ASMLは同じ2024年11月の資料で、NXT:2100iを2台使って写した層どうしのずれを1.3 nm以下としています。
これを実現するため、露光装置はウエハの何か所もの目印を光で読み取り、前の層の位置を割り出してから写します。温度もそろえます。シリコンは温まるとわずかに伸び、それだけでnmの単位のずれになるからです。この話は「クリーンルームとは?」でもふれています。
1回で写せないときは: マルチパターニング
露光装置が1回で写せる細かさには、限界があります。それより細かい模様は、何回かに分けて作ります。この方法をマルチパターニングと呼びます。
やり方の1つは、模様を2枚の原版に分け、露光とエッチングを2回くり返す方法です。線を1本おきに分けて写すので、線の間隔は1回で写すときの半分にできます。ただし、2回目は1回目にぴったり重ねる必要があり、重ね合わせ精度がさらに厳しくなります。
もう1つは、1回写した線の両側に膜をつけ、その膜を新しい線として使う方法です。1本の線から2本の線ができ、位置は膜の厚さで決まります。どちらも工程が増えるので、時間と費用がかかります。方式の違いは「SADP・SAQP・LELEの違い」で比べられます。
なぜ費用の大きな工程なのか
フォトリソグラフィは、半導体の製造費の中でも大きな割合を占める工程です。業界の技術の見通しをまとめた国際半導体技術ロードマップ(ITRS)に、2007年版の見積もりがあります。原版やレジスト、計測を含めて、製造費全体の30〜40%です。ただし、作る製品の種類や数、装置の古さで大きく変わる、とも書いています。古い見積もりなので、今の割合とは違う可能性があります。
理由は主に3つです。1つ目は、層の数だけくり返すことです。ASMLは、チップができるまでに模様を写す作業が100回以上になると説明しています。2つ目は、露光装置そのものが高価なことです。最先端のEUV露光装置について、ASMLは2025年の年次報告で、自社を世界で唯一のメーカーと説明しています。装置の値段の目安は「半導体製造装置とは?」にあります。
3つ目は、原版がチップの種類ごと、層ごとに必要なことです。1つのチップには、何十枚もの原版がそろって初めて作れます。同じ原版から多くのチップを作るほど、1個あたりの費用は下がります。
だれが作っている?
フォトリソグラフィの装置と材料は、日本の会社も多く手がけています。ここでは各社が自ら説明している内容を、時点とともに挙げます。
| 分野 | 会社と、各社の説明 |
|---|---|
| 露光装置 | ASML(オランダ): 248 nmや193 nmの光の装置からEUVまで作る。EUV露光装置の唯一のメーカーと説明(2025年の年次報告) |
| 露光装置 | ニコン: 1980年に国産初のステッパーを出荷したと説明。2023年12月、193 nmの光を使うスキャナーNSR-S636Eの発売を発表 |
| 露光装置 | キヤノン: 365 nmと248 nmの光のステッパー・スキャナー。2023年10月、光を使わず型を押し付けて写す装置を発売 |
| 塗布・現像装置 | 東京エレクトロン: 2026年4月の決算説明会で、コータ/デベロッパの世界シェアは9割を超えると自社で説明 |
| レジスト | JSR: 365 nmの光からEUVまでに使うレジストをそろえていると説明 |
| レジスト | 東京応化工業: フォトレジストを中心とする材料メーカー |
| レジスト | 信越化学工業: 2024年4月、群馬県に露光材料の新工場を建てると発表 |
| レジスト | 住友化学: 2026年4月、大阪工場に先端のレジストの技術棟を建てると発表 |
型を押し付けて写す方法は、ナノインプリントリソグラフィと呼ばれます。装置メーカーの全体像は「半導体製造装置とは?」で紹介しています。
よくある誤解
誤解: 露光装置は、回路の線を1本ずつ描いている
実際は、原版に描いた模様を、まとめて縮めて写します。1回に写す範囲には、チップ1個から数個分の模様がまるごと入ります。量産で1本ずつ描いていては、時間がかかりすぎます。プリンターのように「描く」イメージから生まれやすい誤解です。
誤解: 写せる細かさは、光の波長だけで決まる
実際は、レンズの開口数、照らし方や原版の工夫、レジストの性質も効きます。さらに、チップとして使うには、層どうしの重ね合わせ精度や、そのあとのエッチングの正確さも必要です。「波長が短いほど細かい」という説明が広く知られているので、生まれやすい誤解です。
誤解: 原版やレジストは、チップの中に残っている
実際は、原版は露光装置の中で何度も使う道具で、チップにはふれません。レジストも、エッチングなどが終わると取り除きます。チップに残るのは、レジストの型を使って作った膜の模様だけです。「回路を焼き付ける」という言い方から生まれやすい誤解です。
数字で見る
| 数字 | 何の数字か |
|---|---|
| 4分の1 | 原版の模様をウエハに写すときの縮小率(ASML) |
| 約152 mm角 | 原版の石英ガラスの板の大きさ |
| 26 mm × 33 mm | ASMLの装置で1回に写せる最大の範囲(ウエハの上で。NXT:1965Ciなどの仕様) |
| 96回 | ASMLがNXE:3400Bの処理枚数を示すときの、直径300 mmのウエハ1枚に写す回数の条件 |
| 295枚以上 | NXT:2100iが1時間に処理できるウエハの枚数(ASML、2024年11月の資料) |
| 1.3 nm以下 | NXT:2100iの、2台の装置で写した層どうしのずれ(ASML、2024年11月の資料) |
| 100回以上 | チップができるまでに模様を写す回数(ASMLの説明) |
| 30〜40% | 製造費全体に占めるリソグラフィの費用の見積もり(ITRSの2007年版) |
数字を並べると、この工程の難しさが見えてきます。1枚のウエハに約100回、1時間に300枚近いペースで模様を写します。そのたびに、前の層とのずれを数nm以下に抑えているのです。
もっと詳しく学ぶ
- 関連する記事: 「EUV露光とは?」(最先端の光と装置)、「エッチングとは?」(型を使って削る工程)、「成膜とは?」(削る前の膜をつける工程)、「シリコンウエハとは?」(平らな板が必要な理由)、「「2nm」「3nm」は何の長さ?」(世代の名前と実際の寸法)
- 違いを表で見る: 「EUVとDUV露光の違い」、「OPC・位相シフトマスク・変形照明の違い」(限界に近づける工夫)
- 数字で試す: 露光の解像度の計算ツールで、波長や開口数を変えると、写せる細さがどう変わるかを計算できます。
- 図で見る: リソグラフィとエッチングの手順の図は図解の一覧にあります。