フォトリソグラフィとは? 半導体の回路を光で写す工程

約13分 · 更新: 2026年10月23日

フォトリソグラフィは、チップの回路の模様を、光を使ってウエハ(シリコンの円い薄い板)の上に写す工程です。光で性質が変わる薬剤を塗り、原版の模様をふつう4分の1に縮めて光で写し、薬液で模様を浮かび上がらせます。チップができるまでに何十回もくり返され、写せる細かさと重ねる正確さが、チップの細かさを左右します。

この記事でわかること

  • フォトリソグラフィの手順と、2種類の装置の役割
  • ポジ型とネガ型のレジストの違い
  • 原版(マスク)の模様を縮めて写す理由
  • どこまで細かく写せるかを決めるもの
  • 層どうしを数nmの精度で重ねる難しさ、費用、主なメーカー

前提知識: チップが「膜をつけ、模様を写し、削る」作業のくり返しで作られると知っていると読みやすくなります。くわしくは「半導体チップはどうやって作られる?」で説明しています。

身近なところでは: 黄色い部屋と「リソ」

半導体工場の写真で、黄色い照明の部屋を見たことがあるかもしれません。そこが、フォトリソグラフィを行う場所です。この工程で使う薬剤が青い光や紫外線に反応するので、照明からその光を除いています。工場の部屋のしくみは「クリーンルームとは?」で説明しています。

「フォト」は光、「リソグラフィ」はもともと石版を使った印刷の名前です。つまり「光を使った印刷」という意味です。短く「リソ」と呼んだり、光を当てる作業から「露光」と呼んだりもします。半導体の会社に入ると、まず耳にする言葉の一つでしょう。

しくみ1: 手順は「塗る・写す・現像する」

フォトリソグラフィの目的は、膜の上に「型」を作ることです。この型があると、次の工程で、決めた場所だけを削ったり加工したりできます。型の材料は、光が当たると薬液への溶けやすさが変わる薬剤です。この薬剤をフォトレジスト(略してレジスト)と呼びます。

まず、ウエハを速く回しながら、液体のレジストを中心に垂らします。レジストは外へ広がり、ごく薄く均一な膜になります。回す速さで厚さを調節できます。そのあと軽く温めて、液に含まれる蒸発しやすい成分(溶剤)を飛ばし、膜を固めます。

次に、光を当てる装置(露光装置)が、ウエハにつけた目印を読み取ります。そして、前の層の模様と位置を合わせます。そのあと、回路の模様を描いた原版を通して光を当てます。光が当たった部分だけ、レジストの性質が変わります。

多くのレジストは、光を当てたあと、もう一度温めます。光で生まれた物質が、温めると反応を進め、溶けやすさの差を大きくするからです。最後に薬液をかけると、レジストの一部が溶けて模様が残ります。この作業を現像と呼びます。

レジストの模様ができたら、レジストのない所の膜を削ります。この作業がエッチングです(「エッチングとは?」)。削る代わりに、すき間から特定の元素を打ち込んで、決めた場所の電気の通りやすさを変えることもあります。こちらはイオン注入と呼びます。役目を終えたレジストは取り除き、次の層へ進みます。

フォトリソグラフィの流れ: 塗布・現像装置と露光装置の間をウエハが行き来し、そのあとエッチングかイオン注入をしてレジストを除く 塗布・現像装置 ① レジストを塗る ② 温めて固める 露光装置 ③ 位置を合わせる ④ 光を当てる 塗布・現像装置 ⑤ もう一度温める ⑥ 現像する 別の装置 ⑦ エッチングかイオン注入 ⑧ レジストを除く ⑧のあと、次の層で①から
フォトリソグラフィの1回分の流れと、それぞれを受け持つ装置。①〜⑥がリソグラフィで、⑦⑧はその型を使う工程です。省略していること: 洗浄、レジストの下に塗る膜、写した模様の寸法やずれを測る検査、温める回数や温度の違い。

しくみ2: ポジ型とネガ型のレジスト

レジストには、光への反応が逆の2種類があります。光が当たった部分が溶けるものと、光が当たった部分が残るものです。前者をポジ型、後者をネガ型と呼びます。

同じ原版を使っても、できる模様は白黒が逆になります。ポジ型では、原版で光を通す所が溝になります。ネガ型では、そこだけが残ります。下の図で、2つを見比べてみてください。

ポジ型とネガ型のレジスト: 同じマスクで光を当てても、現像で残る部分が逆になる ① 同じマスクを通して光を当てる ② 現像したあと ポジ型 ネガ型 当たった所が溶ける 当たった所が残る レジスト 光が当たった所 下地の膜 マスク
同じマスクで光を当てたときの、現像後の断面のイメージ。省略していること: 縮小して写すためのレンズ、寸法の比率、レジストの断面の形の違い。

今のチップの細かい層では、主にポジ型が使われます。細かい模様をくっきり作りやすいからです。ネガ型は、とても厚い膜や、特別な断面の形が必要な場所のほか、最先端のチップの一部の層でも使われます。違いは「ポジ型とネガ型フォトレジストの違い」の表で比べられます。

しくみ3: 原版の模様を4分の1に縮めて写す

回路の模様を描いた原版を、フォトマスクと呼びます。縮めて写す装置用のものは、特にレチクルとも呼びます。材料は約152 mm角の石英ガラスの板で、光をさえぎる膜で模様が描かれています。言葉の使い分けは「レチクルとフォトマスクの違い」にまとめています。

今の主な露光装置では、原版の模様を、ウエハに写す模様の4倍の大きさで作ります。露光装置は、レンズでこれを4分の1に縮めて写します(ASMLの説明)。原版を大きく作るほうが、細かい模様を正確に作りやすいからです。原版のわずかなずれや小さなごみも、ウエハの上では4分の1になります。

ASMLの装置では、1回に写せる範囲は、ウエハの上で最大26 mm × 33 mmです(例えばNXT:1965Ciの仕様)。直径300 mmのウエハ全体に写すには、位置をずらしながら100回ほど写します。例えばASMLは、2017年に出荷を始めた装置NXE:3400Bの処理枚数を、1枚に96回写す条件で示しています。

しくみ4: 塗る装置と写す装置は別の機械

フォトリソグラフィには、大きく2種類の装置を使います。1つは、レジストを塗り、温め、現像する装置です。これを塗布・現像装置(コータ/デベロッパ)と呼び、業界では「トラック」とも呼びます。もう1つが、位置を合わせて光を当てる露光装置です。

2つは、ふつう横に並べて直接つないで使います。ウエハは、塗布・現像装置で塗られて露光装置へ渡り、写されると戻って現像されます。レジストは、光を当ててからの時間や温度でも仕上がりが変わります。つないで流れ作業にすることで、条件をそろえやすくなります。

露光装置には、2つの写し方があります。昔は、1区画分の模様を一度に写し、ウエハをずらして次を写す装置が主力でした。これをステッパーと呼びます。ニコンが1980年に出したNSR-1010Gは、国産初のステッパーだと同社は説明しています。

今の主力は、細い帯の形の光を使う装置です。原版とウエハを、帯の下で反対向きに同時に動かし、なぞるように写します。この装置をスキャナーと呼びます。縮小率が4分の1なので、原版はウエハの4倍の速さで動きます。レンズは帯の範囲だけよく写せればよいので、広い範囲を写しやすくなります。

速さも求められます。ASMLは2024年11月の投資家向けの資料で、装置NXT:2100iは1時間に295枚以上を処理できるとしています。1枚に96回写すと仮定して、この記事で単純に計算してみます。295枚に96回をかけ、1時間の3,600秒で割ると約7.9です。つまり、1秒に約8回写している計算です。

しくみ5: どこまで細かく写せるか

光には、細いすき間を通ると広がる性質があります。原版の模様が細かいほど、通った光は広がって、写る像がぼやけます。細かすぎると、となりの線とくっついて区別できなくなります。

光の広がり方は、光の波長が短いほど小さくなります。波長とは、光の波の山から山までの長さです。また、レンズが広い角度から光を集められるほど、細かく写せます。この角度の広さを表す数字を開口数(NA)と呼びます。

まとめると、写せる細さは「波長に比例し、開口数に反比例する」と考えられます。光学では、物理学者レイリーの名前をとってレイリーの式と呼びます。実際には、照らし方やレジストの工夫で決まる係数もかかります。式は「EUV露光とは?」で説明しています。露光の解像度の計算ツールで、数字を変えて試せます。

工場では、層に求められる細かさに応じて、光を使い分けます。nm(ナノメートル)は、1 mmの100万分の1の長さです。波長365 nmや248 nm、193 nmの紫外線を主に使います。最も細かい層には、波長13.5 nmの極端紫外線(EUV)を使います。EUVの装置はとても高価なので、粗い層には使いません。EUVのしくみは「EUV露光とは?」にまとめています。

しくみ6: 層どうしを数nmの精度で重ねる

チップは、何十もの層を積み重ねて作ります。上の層の模様は、下の層の模様とぴったり重ならなければなりません。たとえば、上下の配線をつなぐ細い柱は、下の配線の真上に来る必要があります。前の層に対して、どれだけ正確な位置に重ねられたかを重ね合わせ精度と呼びます。

重ね合わせのずれ: 上の層の柱が下の層の配線の真上にあるときと、ずれて半分外れたとき 上から見た図 ぴったり ずれた 柱が配線に乗る 柱が半分外れる 下の層の配線 上の層とつなぐ柱
下の層の配線と、その上に作る柱(縦の配線)を上から見たイメージ。ずれると、つながる面積が減ったり、となりの配線に近づいたりします。省略していること: 縮尺、実際の配線の形と本数、上の層の配線。

ずれが許される幅は、配線の間隔よりずっと小さくなります。2020年ごろの最先端のチップでは、細い配線が約36 nmの間隔で並んでいました(IEEE Spectrum)。そのため、ずれは数nmに抑える必要があります。ASMLは同じ2024年11月の資料で、NXT:2100iを2台使って写した層どうしのずれを1.3 nm以下としています。

これを実現するため、露光装置はウエハの何か所もの目印を光で読み取り、前の層の位置を割り出してから写します。温度もそろえます。シリコンは温まるとわずかに伸び、それだけでnmの単位のずれになるからです。この話は「クリーンルームとは?」でもふれています。

1回で写せないときは: マルチパターニング

露光装置が1回で写せる細かさには、限界があります。それより細かい模様は、何回かに分けて作ります。この方法をマルチパターニングと呼びます。

やり方の1つは、模様を2枚の原版に分け、露光とエッチングを2回くり返す方法です。線を1本おきに分けて写すので、線の間隔は1回で写すときの半分にできます。ただし、2回目は1回目にぴったり重ねる必要があり、重ね合わせ精度がさらに厳しくなります。

もう1つは、1回写した線の両側に膜をつけ、その膜を新しい線として使う方法です。1本の線から2本の線ができ、位置は膜の厚さで決まります。どちらも工程が増えるので、時間と費用がかかります。方式の違いは「SADP・SAQP・LELEの違い」で比べられます。

なぜ費用の大きな工程なのか

フォトリソグラフィは、半導体の製造費の中でも大きな割合を占める工程です。業界の技術の見通しをまとめた国際半導体技術ロードマップ(ITRS)に、2007年版の見積もりがあります。原版やレジスト、計測を含めて、製造費全体の30〜40%です。ただし、作る製品の種類や数、装置の古さで大きく変わる、とも書いています。古い見積もりなので、今の割合とは違う可能性があります。

理由は主に3つです。1つ目は、層の数だけくり返すことです。ASMLは、チップができるまでに模様を写す作業が100回以上になると説明しています。2つ目は、露光装置そのものが高価なことです。最先端のEUV露光装置について、ASMLは2025年の年次報告で、自社を世界で唯一のメーカーと説明しています。装置の値段の目安は「半導体製造装置とは?」にあります。

3つ目は、原版がチップの種類ごと、層ごとに必要なことです。1つのチップには、何十枚もの原版がそろって初めて作れます。同じ原版から多くのチップを作るほど、1個あたりの費用は下がります。

だれが作っている?

フォトリソグラフィの装置と材料は、日本の会社も多く手がけています。ここでは各社が自ら説明している内容を、時点とともに挙げます。

分野会社と、各社の説明
露光装置ASML(オランダ): 248 nmや193 nmの光の装置からEUVまで作る。EUV露光装置の唯一のメーカーと説明(2025年の年次報告)
露光装置ニコン: 1980年に国産初のステッパーを出荷したと説明。2023年12月、193 nmの光を使うスキャナーNSR-S636Eの発売を発表
露光装置キヤノン: 365 nmと248 nmの光のステッパー・スキャナー。2023年10月、光を使わず型を押し付けて写す装置を発売
塗布・現像装置東京エレクトロン: 2026年4月の決算説明会で、コータ/デベロッパの世界シェアは9割を超えると自社で説明
レジストJSR: 365 nmの光からEUVまでに使うレジストをそろえていると説明
レジスト東京応化工業: フォトレジストを中心とする材料メーカー
レジスト信越化学工業: 2024年4月、群馬県に露光材料の新工場を建てると発表
レジスト住友化学: 2026年4月、大阪工場に先端のレジストの技術棟を建てると発表

型を押し付けて写す方法は、ナノインプリントリソグラフィと呼ばれます。装置メーカーの全体像は「半導体製造装置とは?」で紹介しています。

よくある誤解

誤解: 露光装置は、回路の線を1本ずつ描いている

実際は、原版に描いた模様を、まとめて縮めて写します。1回に写す範囲には、チップ1個から数個分の模様がまるごと入ります。量産で1本ずつ描いていては、時間がかかりすぎます。プリンターのように「描く」イメージから生まれやすい誤解です。

誤解: 写せる細かさは、光の波長だけで決まる

実際は、レンズの開口数、照らし方や原版の工夫、レジストの性質も効きます。さらに、チップとして使うには、層どうしの重ね合わせ精度や、そのあとのエッチングの正確さも必要です。「波長が短いほど細かい」という説明が広く知られているので、生まれやすい誤解です。

誤解: 原版やレジストは、チップの中に残っている

実際は、原版は露光装置の中で何度も使う道具で、チップにはふれません。レジストも、エッチングなどが終わると取り除きます。チップに残るのは、レジストの型を使って作った膜の模様だけです。「回路を焼き付ける」という言い方から生まれやすい誤解です。

数字で見る

数字何の数字か
4分の1原版の模様をウエハに写すときの縮小率(ASML)
約152 mm角原版の石英ガラスの板の大きさ
26 mm × 33 mmASMLの装置で1回に写せる最大の範囲(ウエハの上で。NXT:1965Ciなどの仕様)
96回ASMLがNXE:3400Bの処理枚数を示すときの、直径300 mmのウエハ1枚に写す回数の条件
295枚以上NXT:2100iが1時間に処理できるウエハの枚数(ASML、2024年11月の資料)
1.3 nm以下NXT:2100iの、2台の装置で写した層どうしのずれ(ASML、2024年11月の資料)
100回以上チップができるまでに模様を写す回数(ASMLの説明)
30〜40%製造費全体に占めるリソグラフィの費用の見積もり(ITRSの2007年版)

数字を並べると、この工程の難しさが見えてきます。1枚のウエハに約100回、1時間に300枚近いペースで模様を写します。そのたびに、前の層とのずれを数nm以下に抑えているのです。

もっと詳しく学ぶ

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  1. 半導体チップはどうやって作られる? 前工程・後工程の全体像
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  3. EUV露光とは? 13.5nmの光で回路を描くしくみ
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  5. クリーンルームとは? 半導体工場がほこりを嫌う理由
  6. 電子顕微鏡(SEM・TEM)とは? 光では見えないものを見るしくみ
  7. プラズマとは? 半導体の加工に欠かせない「第4の状態」
  8. プリント基板とは? 電子部品をつなぐ板のしくみ
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  10. エッチングとは? 半導体を削るしくみとドライ・ウェットの違い
  11. 成膜とは? CVD・PVD・ALDの違いと薄い膜のつけ方
  12. CMP(化学機械研磨)とは? 半導体を平らに磨く理由としくみ
  13. イオン注入とは? 半導体に不純物を打ち込むしくみと装置
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この分野の問題: リソグラフィ

参考にした資料

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