エッチングとは? 半導体を削るしくみとドライ・ウェットの違い
エッチングは、ウエハの上の膜のうち、いらない部分を薬液やガスで取り除き、回路の形を刻む工程です。光で薬剤(レジスト)に写した模様を、その下の膜に刻み込みます。今の細かい回路には、プラズマのイオンで真下に削る「ドライエッチング」が欠かせません。
この記事でわかること
- チップを作る流れの中で、エッチングがどこにあるか
- 薬液で溶かすウェットと、ガスで削るドライの違い
- 横に広がらず、まっすぐ下に削れるしくみ
- 狙った膜だけを削る「選択比」と、削るのを止める膜
- 3D NANDの深い穴が難しい理由と、原子1層ずつ削る技術
- 主な装置メーカーと、ガスの安全・環境への配慮
前提知識: チップが、ウエハの上で「膜をつける・光で模様を写す・削る」をくり返して作られること。くわしくは「半導体チップはどうやって作られる?」で説明しています。
身近なところでは
「エッチング」は、もともと版画の技法の名前です。銅の板を、ろうなど薬品に強い膜で覆い、針で線を彫って銅をのぞかせます。これを酸に浸すと、むき出しの線だけが溶けて溝になり、版ができます。
「覆った所は残し、むき出しの所だけを溶かす」という考え方は、電子部品でも同じです。プリント基板の銅の配線も、いらない部分の銅を薬品で溶かして作ります(「プリント基板とは?」)。半導体のチップでは、これをはるかに細かい模様で行います。
IEEE Spectrumの記事(2020年)によると、当時の最先端の世代では、細い配線の間隔は約36 nmです。nm(ナノメートル)は、100万分の1 mmです。髪の毛1本の太さ(約0.09 mm)に、2,000本以上が並ぶ細かさです。
エッチングは工程のどこにある?
チップの回路は、ウエハの上に薄い膜をつけ、その膜を回路の形に刻むことをくり返して作ります。刻む前に、まず膜の上に光で模様を写します。光で性質が変わる薬剤を塗り、模様の形に光を当て、一部を溶かして残すのです。この薬剤をフォトレジスト(略してレジスト)と呼びます。
写した模様は、まだレジストの上にあるだけです。そこで、レジストで覆われていない部分の膜を取り除き、模様を膜そのものに刻みます。この作業がエッチングです。
刻み終えたら、役目を終えたレジストを取り除きます。多くの場合、酸素のプラズマでレジストを燃やすように気体に変えて取り除きます。この工程をアッシングと呼びます。こうして膜に回路の形が残り、次の層の作業へ進みます。
光で模様を写すまでの流れは「半導体チップはどうやって作られる?」に、光そのもののしくみは「EUV露光とは?」にあります。ここからは、削る作業の中身を見ていきます。
薬液で溶かす「ウェット」、ガスで削る「ドライ」
削り方は、大きく2つに分かれます。1つは、薬液にウエハを浸したり、薬液をかけたりして、膜を溶かす方法です。液を使うので、ウェットエッチングと呼びます。
例えばフッ酸(フッ化水素の水溶液)は、ガラスと同じ成分の酸化シリコンの膜をよく溶かします。一方で、シリコンそのものはほとんど溶かしません(テキサス大学の実習資料)。しくみが簡単で、ウエハを傷めにくいのも利点です。
もう1つは、空気を抜いた容器の中で、ガスに電気のエネルギーを与えて削る方法です。ガスの一部は電子がはがれ、反応しやすい粒が混ざった「プラズマ」になります。液を使わないので、ドライエッチングと呼びます。プラズマの中身は「プラズマとは?」でくわしく説明しています。
2つの大きな違いは、「どの向きに削れるか」です。次の節で、それが細かい回路でなぜ大事なのかを見ます。2つを並べた表は「ウェットエッチングとドライエッチングの違い」にあります。
横にも削れると困る: 等方性と異方性
薬液は、膜にふれた所ならどこでも同じように溶かします。下へ進むのと同じ速さで、横にも削れていきます。そのため、レジストの縁の下にももぐり込み、断面はおわんのような形になります。どの向きにも同じ速さで削れるこの削り方を、等方性エッチングと呼びます。
単純に考えると、膜を100 nm削る間に、横にも左右それぞれ約100 nm広がります。幅が数十nmの線を残したくても、膜はまるごと溶けてしまいます。模様が細かくなるほど、薬液だけで刻むのは難しくなりました。
そこで、真下にだけ削る方法が必要になります。プラズマの中には、プラスの電気を帯びた粒(イオン)があります。イオンはウエハの手前で電気の力に引っぱられ、真上からそろって降ってきます。イオンが当たる溝の底では反応が速く進み、イオンがほとんど当たらない側面はあまり削れません。
こうして、縦にまっすぐな壁ができます。向きによって削れる速さが違うこの削り方を、異方性エッチングと呼びます。イオンが真上から降るしくみは、「プラズマとは?」でくわしく説明しています。
ここでは話を簡単にしています。実際のドライエッチングでは、側面に薄い保護の膜をつけながら削るなどの工夫も重ねています。断面の違いは「等方性エッチングと異方性エッチングの違い」でも比べられます。
狙った膜だけを削る: 選択比
エッチングでは、削りたい膜だけが削れるのが理想です。しかし実際には、上のレジストや下の膜も少しずつ削れてしまいます。そこで、削りたい膜とそれ以外の膜が、どれだけ違う速さで削れるかが大事になります。この速さの比を選択比と呼びます。
例えば選択比が20なら、削りたい膜が20 nm削れる間に、下の膜は1 nmしか削れません。選択比は、ガスの種類や圧力、イオンの勢いなどの条件で大きく変わります。そのため、削る膜と残す膜の組み合わせごとに、条件を選び分けます。
どこで止める? 止める膜と終わりの見きわめ
膜の厚さは、ウエハの場所によってわずかに違います。いちばん薄い場所で削り終えても、厚い場所にはまだ膜が残っています。そのため、膜がなくなったあとも、少し長めに削り続けます。これをオーバーエッチングと呼びます。
長めに削ると、先に削り終えた場所では、その下の層が削られ始めます。そこで、削りたい膜の下に、同じ条件ではとても削れにくい別の材料の膜を敷いておくことがあります。この膜が「止める膜」になり、下の層を守ります。選択比の高い組み合わせが大事なのは、このためです。
削り終えたことは、プラズマの光でわかります。プラズマの光の色は、中にある粒の種類で決まります。削りたい膜がなくなると、膜から出ていた物質が減り、その物質の色の光が弱まります。この変化をとらえて終わりを知る方法を、終点検出と呼びます。
深い穴を削るときは、レジストが先に削れてなくなってしまうことがあります。そのときは、レジストの下に、もっと削れにくい硬い膜を敷いて、模様の型として使います。この膜をハードマスクと呼びます。
深くて細い穴は、なぜ難しい?
穴や溝の深さが、幅の何倍あるかを表す数をアスペクト比と呼びます。幅1に対して深さが50なら、アスペクト比は50です。数が大きいほど、細くて深い穴になります。
深い穴が特に必要なのが、SSDなどに使われる3D NANDというメモリです。まず、材料の膜を何百層も積み重ねます。その層を上から下まで貫く穴をあけ、穴に沿ってデータを覚える小さな部品(セル)を作ります。積み重ねるしくみは「SSDとは?」で説明しています。
この穴を、チャネルホール(メモリホール)と呼びます。ラムリサーチの技術者の解説では、128層の場合の目安として、直径は約100 nm、深さは5〜6 µmほどです。µm(マイクロメートル)は1,000分の1 mmで、アスペクト比は50〜60になります。直径1 cmの穴なら、深さ50 cmを超える細長さです。
穴が深くなると、イオンやラジカル(反応しやすい粒)が底まで届きにくくなります。削れてできた気体も、細い穴から外へ出にくくなります。そのため、深くなるほど削れる速さが落ちていきます。わずかに斜めに入ったイオンが側面に当たると、穴の途中がふくらんだり、曲がったりもします。
何百層もの層を貫く穴の形がそろわないと、層によってセルの出来が変わってしまいます。そこで、上から下まで同じ太さで、速く削る技術の開発が続いています。ラムリサーチは2024年7月、深さが幅の50倍を超える穴を、上から下までほぼ同じ太さで削れると発表しました。東京エレクトロンは2023年6月、400層を超える3D NAND向けの技術を発表しました。深さ10 µmの穴を33分で削れるとしています。
2社の技術は、どちらもウエハを0 ℃よりずっと低い温度に冷やして削る「極低温エッチング」です。性能の数字は、どちらもメーカー自身の発表で、ほかの機関が確かめた値ではありません。
原子1層ずつ削る: 原子層エッチング
反対に、ごく薄い膜を、ほんの少しだけ正確に削りたい場面もあります。最先端のトランジスタでは、数nmの厚さの膜を、決めた量だけ削る必要があります。ふつうのエッチングは削り続ける方式なので、止める時間のわずかなずれが、そのまま削りすぎや削り残しになります。
そこで、2つの段階を交互にくり返す方法が使われます。まず、ガスを表面にくっつけて、いちばん上の原子の層だけを削れやすい状態に変えます。次に、勢いの弱いイオンを当てて、変わった層だけを取り除きます。どちらの段階も、表面の1層分が終わると、それ以上はほとんど進みません。
1回のくり返しで削れるのは、原子の層1枚ほどの決まった量です。くり返す回数で、削る量を細かく決められます。この方法を原子層エッチング(ALE)と呼びます。ラムリサーチは2014年、量産に使えるとする原子層エッチングの機能を、自社の装置に加えたと発表しています。
ここでは、代表的な流れを単純にして示しています。1回にほんのわずかしか削れないので時間がかかり、精度が特に必要な工程で使われます。プラズマを使う他の削り方との違いは「RIE・ICP-RIE・ALEの違い」で比べられます。
エッチング装置と主なメーカー
ドライエッチングの装置は、主に4つの部分でできています。ウエハを入れる真空の容器、ガスを流すしくみ、プラズマを作る電源、ウエハを載せて温度を保つ台です。主なメーカーは、アメリカのラムリサーチとアプライド・マテリアルズ、日本の東京エレクトロンです。3社とも、自社の製品としてエッチング装置を紹介しています。
3D NANDの穴を削る技術では、先に見たとおり、ラムリサーチと東京エレクトロンが新しい技術を発表しています。アプライド・マテリアルズは、3D NANDなどのメモリや計算用のチップ向けに、電気を通す膜を削る装置を出しています。装置の種類とメーカーの全体は「半導体製造装置とは?」にまとめています。
安全と環境への配慮
エッチングで使う薬液やガスには、危険なものもあります。例えばフッ酸は皮膚からも体に入り、やけどの症状が遅れて出ることがあります(米国NIOSH)。ドライエッチングで使う四フッ化炭素(CF4)は、同じ重さの二酸化炭素の約6,600倍も温暖化に効きます。しかも大気中に約5万年残ります(IPCC第5次評価報告書の値。効き目は100年で比べたもの)。そのため工場では閉じた装置の中で扱い、排気は除害装置で処理してから外へ出します。
よくある誤解
誤解: エッチングは、小さな刃や針で膜を削っている
実際は、薬液の化学反応や、プラズマの中の粒の働きで、膜を気体や液に溶ける物質に変えて取り除きます。刃物のような道具がウエハにふれるわけではありません。どこを削るかは、レジストの模様が決めます。「削る」という言葉や、版画で針を使うことから生まれやすい誤解です。
誤解: ドライなら必ずまっすぐ、ウェットなら必ず横に広がる
実際は、向きをそろえているのは、真上から降るイオンの働きです。ドライでも、イオンを使わずラジカルだけで削れば、横にも広がります。逆にウェットでも、シリコンの結晶の向きによって溶ける速さが大きく違う薬液を使うと、角ばった形に削れます。「ドライは異方性」という短い覚え方から生まれやすい誤解です。
誤解: ウェットエッチングは古い方法で、もう使われない
実際は、模様のない膜を全部取り除くときや、表面のごく薄い膜を落とす洗浄などで、今も使われています。横に広がっても困らない場面では、選択比が高く、ウエハを傷めにくい利点が生きます。細かい模様を刻む工程がドライに替わったことから生まれやすい誤解です。
数字で見る
| 数字 | 何の数字か |
|---|---|
| 約36 nm | 2020年ごろの最先端のチップで、細い配線が並ぶ間隔(IEEE Spectrum、2020年) |
| 約100 nm・5〜6 µm | 128層の3D NANDでの目安となる、チャネルホールの直径と深さ(ラムリサーチの技術者の解説) |
| 50倍超 | ラムリサーチが2024年7月に発表した技術で削れる穴の、幅に対する深さ(同社の発表) |
| 10 µmを33分 | 東京エレクトロンが2023年6月に発表した、400層超の3D NAND向けの穴の深さと削る時間(同社の発表) |
| 321層 | SK hynixが2024年11月に量産開始を発表した3D NANDの層の数 |
| 約6,600倍・約5万年 | 四フッ化炭素(CF4)の温暖化への効き目と、大気中に残る年数。効き目は、同じ重さの二酸化炭素と100年で比べた値(IPCC第5次評価報告書) |
深さ5〜6 µmは、髪の毛の太さ(約0.09 mm)の十数分の1です。とても浅く見えますが、直径100 nmの穴にとっては、幅の50倍以上の深さです。その穴を、1枚のウエハの上に、上から下まで形をそろえて数えきれないほどあけているのです。
もっと詳しく学ぶ
- シリーズの記事: 「半導体チップはどうやって作られる?」(工程の全体)、「プラズマとは?」(イオンが真上から降るしくみ)、「シリコンウエハとは?」、「クリーンルームとは?」、「半導体の検査・テストとは?」(削った形を測る検査)
- 違いを表で見る: 「CCPとICPの違い」(プラズマの作り方)、「SC-1・SC-2・希フッ酸の違い」(薬液で洗う・薄い膜を溶かす)、「ダマシン法とエッチングで形づくる配線の違い」
- 用語で深める: ARDE(深い穴ほど削れにくい)、ICP(高密度のプラズマ)、パーフルオロカーボン(温室効果ガス)
- 図で見る: 露光とエッチングの手順や、膜のつけ方の図は図解の一覧にあります。