プリント基板とは? 電子部品をつなぐ板のしくみ
プリント基板は、電気を通さない板の表面や内側に、銅の薄い配線を作り込んだ「部品の土台」です。チップやコンデンサなどの部品をはんだで取り付け、板の配線でつなぎます。部品を1本ずつ電線でつなぐ手作業を、同じ形の板の大量生産に置き換えた発明です。
この記事でわかること
- プリント基板が、機器の中で何をしているのか
- 板の材料(ガラスエポキシ、FR-4)と、片面・両面・多層の違い
- 層と層をつなぐ穴「ビア」と、緑の膜・白い文字の役目
- 部品の取り付け方: 穴に挿す方法、表面実装、リフローはんだ付け
- チップ・パッケージ・基板の関係と、速い信号の配線の注意
前提知識: 特にありません。チップを包む入れ物については「半導体パッケージとは?」で説明しています。
身近なところでは
壊れたリモコンやゲーム機を分解すると、緑色の板が出てきます。板の上には黒い四角い部品や、粒のような小さな部品が並んでいます。表面には、細い線が何本も走っています。この板を、プリント基板と呼びます。
業界では、プリント配線板とも呼びます。英語では Printed Circuit Board で、頭文字をとってPCBとも書きます。スマホ、テレビ、炊飯器、車など、電気で動く機器のほとんどに入っています。
スマホの基板にどんなチップが載っているかは「スマホの中にはどんな半導体が入っている?」で紹介しています。この記事では、部品ではなく、板そのもののしくみを見ていきます。
電線の手作業を、板の配線に置き換えた
昔の電子機器は、部品と部品を1本ずつ電線でつないでいました。つなぎ目は、はんだで止めます。はんだは低い温度で溶ける金属で、冷えると固まって、金属どうしを電気的につなぎます。手作業なので時間がかかり、つなぎ間違いも起こりました。
そこで、配線を先に板の上に作っておく方法が考えられました。電気を通さない板(絶縁の板)に銅の膜を貼り、要らない部分の銅を薬品で溶かして、配線の形だけを残します。配線の形を、印刷のように型から写し取って作ることから、「プリント」の名前がつきました。同じ形の板をいくらでもくり返し作れ、つなぎ間違いも起きません。
この方法の先駆けとして知られるのが、オーストリア出身の技術者パウル・アイスラーです。1936年にウィーンからイギリスへ移り、プリント基板を使ったラジオを試作しました。中心となる特許は、1943年に出願しています。ただし、平らな金属の線を絶縁の板に貼る考えは、1903年に出願されたイギリスの特許にもありました。そのため、誰を最初の発明者とするかには異論があります。
板の材料: ガラスの布と樹脂
板の芯には、多くの場合、ガラスの細い糸で織った布を使います。この布に、熱で固まる樹脂をしみ込ませて固めます。樹脂にはエポキシという種類を使うので、この板をガラスエポキシと呼びます。ガラスの布が板を丈夫にし、温度による伸び縮みも抑えます。
ガラスエポキシの代表的な等級が、FR-4です。FRは英語の Flame Retardant の略で、「燃えにくい」という意味です。部品が熱くなっても燃え広がりにくいよう、樹脂に燃えにくくする成分を加えてあります。もとはアメリカの電機メーカーの業界団体NEMAが決めた等級の名前ですが、今では基板の材料の代名詞のように使われています。
板の表面には、銅の薄い膜を貼ります。工作用に売られている板では、厚さ1.6 mm、銅の厚さ35 µmのものが定番です(サンハヤトの製品の例)。µm(マイクロメートル)は1000分の1 mmです。35 µmは、髪の毛(約0.09 mm)の半分よりも薄い厚さです。
片面・両面・多層: 配線の層を重ねる
配線を板の片面だけに作ったものを片面基板、両面に作ったものを両面基板と呼びます。部品が増えると、配線どうしが交わってしまい、1つの面だけでは引き回せなくなります。両面を使えば、交わる所で反対の面に逃がせます。
さらに配線の多い機器では、板の内側にも配線の層を作って重ねます。これを多層基板と呼びます。薄い板と銅の層を交互に重ね、熱と圧力で1枚に貼り合わせて作ります。層の数は、両面の2層から、4層、6層、8層と増えていきます。
スマホのように、小さな板に多くの部品を詰める機器では、層が多くなります。2022年の電波新聞の記事は、基板メーカーのメイコーの例を紹介しています。同社はスマホのメイン基板として、10層の基板を作っているとのことです。2017年のiPhone Xでは、メイン基板を2枚重ねてつないだ作りが、iFixitの分解調査で確かめられました。
内側の層の多くは、細い線ではなく、広い銅の面として使います。電圧の基準になる0 Vの線を、グラウンドと呼びます。電源やグラウンドを広い面にしておくと、部品へ安定して電気を配れます。速い信号の線にとっても、すぐ近くに銅の面があることが大切です(あとで説明します)。
ビア: 層と層をつなぐ穴
層が分かれていると、上の層の配線と下の層の配線をつなぐ道が必要です。そこで板に小さな穴をあけ、穴の内側を銅のめっきで覆います。めっきは、薬品の液の中で、表面に金属の膜をつける方法です。この銅の筒が、層と層を結ぶ通り道になります。
この穴をビアと呼びます。表から裏まで貫くビアは、ドリルであけます。配線の細かい基板では、レーザーで隣の層までだけの浅い穴をあける方法も使われます。穴を小さく浅くするほど、ほかの層で配線を通せる場所が増えます。
緑の膜と白い文字
基板が緑色に見えるのは、表面を薄い樹脂の膜で覆っているからです。この膜を、ソルダーレジストと呼びます。ソルダーははんだ、レジストは「寄せつけないもの」という意味です。部品をはんだ付けする所だけ窓のようにあけて、残りの銅を覆います。
膜の役目は、主に3つです。1つ目は、溶けたはんだが隣の配線まで流れて、つながってしまうのを防ぐこと。2つ目は、銅が空気や湿気でさびるのを防ぐこと。3つ目は、配線どうしの間を絶縁して、ほこりや水分で電気が漏れるのを防ぐことです。
なぜ緑が多いのかには、一つに決まった答えがあるわけではありません。基板の設計ソフトを作るAltiumの解説は、緑の膜は細かい形まで作りやすいことを挙げています。また、黒い膜は配線との見分けがつきにくく、検査しにくいと説明しています。見分けやすく作りやすい色として、緑が標準のように使われてきたのです。
表面の白い文字や線も見てみましょう。部品の名前(R1、C3など)、部品を置く位置の枠、向きの印を、インクで印刷したものです。この印刷を、シルクスクリーン(略してシルク)と呼びます。組み立てや修理のとき、どこに何を付けるかがひと目でわかります。
部品の取り付け方: 穴に挿すか、表面に載せるか
1つ目の方法は、部品の足を基板の穴に挿し、裏側ではんだ付けするものです。これを挿入実装、またはスルーホール実装と呼びます。足が板を貫くので、引っ張りや振動に強くなります。大きな部品や、ケーブルを抜き差しするコネクタなどに、今も使われています。
2つ目の方法では、穴をあけずに、部品を基板の表面に直接載せてはんだ付けします。これを表面実装と呼びます。足を穴に通さないので部品を小さくでき、板の両面に部品を並べられます。
部品を載せる場所には、銅の小さな四角い台があります。この台をパッドと呼び、緑の膜の窓から顔を出しています。今のスマホの基板の部品は、ほとんどがこの表面実装です。村田製作所は2024年、0.16 mm × 0.08 mmというコンデンサを開発したと発表しました。コンデンサの話は「コンデンサとは?」で紹介しています。
リフローはんだ付け: 何百個もまとめて一度に
表面実装の部品は、ふつう3つの段階でまとめてはんだ付けします。まず、穴のあいた金属の薄い型を基板に重ね、パッドの上だけに、はんだの細かい粉を練ったペーストを塗ります。次に、機械が部品をつまんで、ペーストの上に次々に置きます。最後に基板を炉に通して温め、はんだを溶かしてから、冷やして固めます。
この方法をリフローはんだ付けと呼びます。溶けたはんだは、水滴が丸くなるのと同じように縮もうとします。この力で、少しずれて置かれた小さな部品が、パッドの真ん中へ引き寄せられます。
今のはんだの多くは、鉛を含みません。EUでは2006年7月から、RoHS指令という決まりで、新しく売る電子機器への鉛の使用が原則として制限されたためです。よく使われる鉛を含まないはんだは、すずに銀と銅を少し混ぜたもので、約217〜220 ℃で溶けます。炉では、これより少し高い温度まで上げます。部品の側は、さらに高い温度に耐えることを確かめておきます。業界の規格(J-STD-020)では、部品の大きさに応じて245〜260 ℃で試します。
チップ・パッケージ・基板の関係
チップから機器までのつながりは、3段の入れ子で考えるとわかりやすくなります。シリコンのチップは、まずパッケージという入れ物に包まれます。そのパッケージを、プリント基板にはんだ付けします。チップを包むしくみは「半導体パッケージとは?」で説明しています。
実は、包みの中にも小さな配線の板が入っていることがあります。これをパッケージ基板と呼びます。チップのとても細かい電極(電気の出入り口)を、機器の基板にはんだ付けできる間隔まで広げる役目です。樹脂と銅の層を重ねる考え方はプリント基板と同じですが、配線はずっと細く作ります。
つまり「基板」という言葉には、チップのすぐ下の小さな板と、部品を並べる機器の板の2種類があります。この記事の「プリント基板」は、後のほうです。機器の中心になる大きな基板は、パソコンではマザーボード、スマホではメイン基板(ロジックボード)とも呼ばれます。
速い信号の通り道: 線の太さもそろえる
今の機器の基板には、とても速く0と1が切り替わる信号が通ります。信号が速くなると、配線はただの電線ではなく、電圧の変化が波のように伝わっていく通り道として考える必要が出てきます。ここでは話を簡単にするため、くわしい理屈は省きます。
通り道の途中で、波にとっての「通りやすさ」が急に変わると、波の一部がはね返ります。はね返った波が元の信号と重なると、0と1の形がくずれ、読み間違いの原因になります。この通りやすさの目安を特性インピーダンスと呼びます。配線の幅や、すぐ下の銅の面までの距離、板の材料で決まります。
そこで速い信号の線では、幅や層の厚さを計算して決め、特性インピーダンスを一定にそろえます。たとえばUSB 2.0は、2本1組の線で信号を送ります。この組の特性インピーダンスは、90 Ω±15%と決められています(テキサス・インスツルメンツの解説)。単位のΩ(オーム)は、電気抵抗と同じ単位です。考え方の土台は「交流と直流の違いとは?」で説明しています。
よくある誤解
誤解: プリント基板は、いつも緑色
実際は、緑なのは表面の膜の色で、赤・青・黒・白などの膜もあります。工作用の基板や、見た目を重んじるパソコンの部品では、緑以外の色もよく見かけます。膜の色で、電気の性質が大きく変わるわけではありません。見かける基板の多くが緑なので、生まれやすい誤解です。
誤解: 基板は部品を載せるだけの、ただの板
実際は、配線の幅や層の重ね方が、機器が正しく動くかを左右します。速い信号がくずれずに届くか、電源の電圧が揺れないか、チップの熱を逃がせるかも、基板の作りで変わります。同じ部品を使っても、基板の設計が悪いと機器は正しく動きません。そのため、配線の引き方を決める基板の設計は、専門の仕事になっています。
誤解: 表面に見える線が、配線のすべて
実際は、多層基板では配線の多くが内側の層にあり、外からは見えません。表面に見えるのは、そのごく一部です。スマホのメイン基板のように10層ある板なら、見えるのは表と裏の2層だけです。
数字で見る
| 数字 | 何の数字か |
|---|---|
| 1943年 | アイスラーが、プリント基板の中心となる特許を出願した年 |
| 1.6 mm・35 µm | 工作用の基板で定番の、板の厚さと銅の厚さ(サンハヤトの製品の例) |
| 10層 | スマホのメイン基板の層の数の例(メイコー。2022年の電波新聞の記事) |
| 245〜260 ℃ | 部品がリフローの熱に耐えるかを試す温度(J-STD-020。鉛を含まないはんだの場合) |
| 約217〜220 ℃ | すず・銀・銅の鉛を含まないはんだ(SAC305)が溶ける温度 |
| 2006年7月 | EUで、新しく売る電子機器への鉛の使用の制限が始まった時期(RoHS指令) |
| 90 Ω±15% | USB 2.0の2本1組の配線に決められた特性インピーダンス |
| 6割超 | ソルダーレジストでの、日本の太陽ホールディングスの世界シェア(富士キメラ総研の2024年の予測。EE Times Japan、2026年3月の記事) |
調査会社の予測では、緑の膜の材料の世界の半分以上を、日本の1社が占めています。プリント基板は目立たない部品ですが、材料と作り方の細かな工夫が、スマホの小ささや速さを下から支えているのです。
もっと詳しく学ぶ
- 違いを表で見る: 「BGA・QFP・QFNの違い」(基板に載せるパッケージの形)、「シングルエンドと差動信号の違い」(2本1組で信号を送る理由)
- 次の一歩の用語: BGA、差動信号、クロストーク(隣の配線に雑音が移る現象)、MSL(部品の湿気への弱さ)、ガラスコア基板
- 計算してみる: 「PDNの目標インピーダンスの計算ツール」(基板の電源の配線に、コンデンサが何個要るかを見積もる。やや上級)
- 関連する読み物: 「集積回路(IC)とは?」(チップ・ダイ・パッケージの言葉の整理)
- 仕事として: 基板への実装やパッケージの仕事は「パッケージ・実装エンジニア」で紹介しています