シリコンフォトニクスとは? 光で配線するチップのしくみ
シリコンフォトニクスは、コンピュータのチップと同じシリコンの板の上に、光を扱う部品を作る技術です。光の通り道、光を点滅させる部品、光を電気に戻す部品などです。データセンターでは、電気の配線だと損失や電力が大きくなる距離のデータを、これで光にして運んでいます。光を出すレーザーだけは、シリコンが苦手なので別の材料に任せます。
この記事でわかること
- データを電気ではなく光で運ぶと、何がよいのか
- 光の通り道(導波路)・変調器・受光器のしくみ
- レーザーだけを別に用意する理由
- データセンターの光トランシーバーやCPOでの使われ方と、残る課題
前提知識: 光ファイバで通信していることを知っていれば十分です。レーザーのしくみは「半導体レーザーとは?」で読めます。
身近なところでは
動画を見たり、AIのチャットに質問したりすると、データはデータセンターを通ります。データセンターは、たくさんのサーバー(計算をするコンピュータ)を並べた建物です。サーバーどうしや、データの行き先を振り分ける機器は、主に光ファイバで結ばれています。
光ファイバの両端には、指でつまめるほどの小さな部品が差し込まれています。電気の信号を光に変えて送り、届いた光を電気に戻す部品で、光トランシーバーと呼びます。ファイバの中を光が進むしくみは「インターネットはどうやってデータを届けるの?」でも触れています。
この光トランシーバーの中で働いているのが、シリコンフォトニクスのチップです。たとえばIntelは、2016年にこの技術を使った毎秒100ギガビットの製品の出荷を始めました。同社の製品ページによると、2016年から出荷したチップは800万個を超えます(2025年時点)。
なぜ電気ではなく光で運ぶのか
電気の配線では、銅の線の電圧を上げ下げして0と1を送ります。速く送るには、上げ下げをすばやく繰り返す必要があります。ところが変化が速いほど、電流は線の表面近くにしか流れなくなり、熱として失われる分が増えます。線を支える基板の材料も、速い変化ほど信号のエネルギーを多く吸い込みます。
そのため電気の信号は、速く、遠くへ送るほど弱まり、形も崩れます。受ける側で読み取れるように、信号を強めたり形を直したりする回路が要り、その回路が電力を使います。チップの中の細い配線が遅れるしくみは「時定数RCとは?」で説明しています。
光ファイバでは事情が違います。通信に使う赤外線の光は、1km進んでも4%ほどしか弱まりません。光の点滅を速くしても、ファイバの中での弱まり方はほとんど変わりません。ここでは話を簡単にするため、光の色の幅による形の崩れは省いています。
ただし光で送るには、両端で電気と光を変換しなければなりません。変換の部品にも電力と費用がかかるので、ごく短い距離では今も銅の線が使われます。NVIDIAが2024年に発表したGB200 NVL72は、1つの棚にGPU(AIの計算を受け持つチップ)を72個収めます。それらを結ぶのは、約5,000本の銅のケーブルです。
シリコンフォトニクスとは
シリコンフォトニクスは、シリコンのウエハ(チップを作る円い板)の上に、光の回路を作る技術です。回路の形を光で焼きつけ、いらない部分を削るなど、ふつうのチップとよく似た工程で作ります(「半導体チップはどうやって作られる?」)。そのため、細かな部品を同じ形のまま大量に作れます。
シリコンが光の回路に使えるのは、通信用の赤外線をよく通すからです。物質が光を吸い込むのは、光の粒のエネルギーが、電子を持ち上げるのに要るエネルギーの段差より大きいときです。この段差をバンドギャップと呼びます。シリコンでは、波長が約1,100nmより長い光はこの段差に足りず、ほとんど吸い込まれずに通り抜けます。通信に使う1310nmや1550nmの光にとって、シリコンは透明な板のようなものです。
1枚のチップには、主に3種類の部品を作ります。光の通り道、光を点滅させる部品、光を電気に戻す部品です。下の図は、送る側と受ける側の流れを示しています。
部品① 光の通り道「導波路」
光ファイバでは、ガラスの細い芯の中を光が進みます。チップの上で同じ役目をするのが光導波路で、シリコンフォトニクスではシリコンの細い線を芯にします。線のまわりは、ガラスと同じ成分の酸化シリコンで囲みます。
光は物質の中では、真空より遅く進みます。どれだけ遅くなるかを表す数を屈折率と呼び、大きいほど遅く進みます。通信に使う光で比べると、シリコンは約3.5、酸化シリコンは約1.45です。
光は、遅く進む物質から速く進む物質へ浅い角度で当たると、境目ですべてはね返ります。これを全反射と呼びます。シリコンの芯の中の光は、まわりの酸化シリコンとの境目ではね返り続け、外へ逃げずに進みます。
屈折率の差が大きいほど、光を小さな芯に強く閉じ込められます。よく使われる芯の断面は、幅約0.5µm、厚さ約0.22µmです。髪の毛の太さ(0.05〜0.1mmほど)の、100分の1よりさらに細い線です。急に曲げても光が漏れにくいので、部品を狭い所に詰め込めます。
部品② 光を点滅させる「変調器」
レーザーは点けたままにして、光の強弱は別の部品でつけます。この部品を変調器と呼びます。シリコンでは、導波路の中の電子や正孔(電子の空席)の数を、電圧で増やしたり減らしたりします。すると屈折率がわずかに変わり、光の波の進み方が少し遅れたり早まったりします。
ただ、波が少しずれるだけでは、光の明るさは変わりません。そこでマッハツェンダー変調器では、光を2本の道に分け、片方の波だけをずらしてから合流させます。波の山と山がそろって合流すれば明るく、山と谷が重なれば打ち消し合って暗くなります。シリコンでは屈折率の変化が小さいので、道の長さは数mmになります。
もう一つの方法はリング共振器を使うものです。導波路のすぐ横に、直径10〜数十µmの小さな輪の導波路を置きます。ここでは波長の違う光を「色の違う光」と呼びます(目には見えない赤外線です)。輪を1周する長さが波長のちょうど整数倍になる色の光だけが、輪に入ってぐるぐる回ります。2005年には米コーネル大学のチームが、直径12µmの輪で光を点滅させています。
輪の屈折率を電圧で少し変えると、輪に入る色がずれます。すると、ある色の光が「そのまま通る」と「輪に入って弱まる」の間で切り替わります。マッハツェンダー型よりけた違いに小さく作れますが、温度に敏感という弱点があります(課題の節で説明します)。
部品③ 光を電気に戻す「Ge受光器」
受ける側では、光を電気に戻します。使うのは、光が当たると電流が流れるフォトダイオードです。光の粒が半導体に吸い込まれると、電子と正孔の組ができ、それが電流になります。
ところが、シリコンは1310nmや1550nmの光をほとんど吸い込みません。光の通り道には好都合だった性質が、ここでは裏目に出ます。そこで、シリコンと同じ14族の元素であるゲルマニウム(Ge)を、導波路の上に結晶として育てます。ゲルマニウムは段差(バンドギャップ)が小さく、これらの光を吸い込んで電流に変えられます。
こうして作る受光部をGe受光器と呼びます。ゲルマニウムはシリコンの上に育てられ、シリコンの工場の工程とも組み合わせやすい材料です。そのため、受ける側の部品も同じチップの上にまとめられます。
レーザーだけは別に用意する
光の源だけは、シリコンで作れません。シリコンは間接遷移型の半導体で、電子と正孔が出会っても、エネルギーの多くが光ではなく熱になるからです。くわしくは「半導体レーザーとは?」と「直接遷移型と間接遷移型の違い」にあります。
そこで、光を出すのが得意なInPなどのレーザーを組み合わせます。InPは2種類の元素でできた半導体(化合物半導体)です。方法は大きく2つです。InPのかけらをシリコンのチップに貼り合わせる方法と、別の部品で作った光をファイバでチップに入れる方法です。後の方法は、レーザーが熱の多い場所から離れ、交換もしやすくなる利点があります。
使われ方① データセンターの光トランシーバー
いちばん大きな使い道は、データセンターの光トランシーバーです。イーサネットという通信方式の速さの規格は、IEEEという技術者の団体が決めています。毎秒400ギガビット(400G)の規格は2017年12月に、800Gの規格は2024年2月に承認されました。
たとえば400Gの「DR4」という種類は、4本のファイバにそれぞれ毎秒100ギガビットの光を流し、500mまで届けます。800Gの「DR8」は、これを8本にした形です。同じ働きの部品を何組も、1枚のチップに正確に並べる必要があります。細かな部品をそろえて並べるのは半導体の工場の得意分野で、シリコンフォトニクスはこの用途に向いています。
使われ方② CPOとAIのデータセンター
今の光トランシーバーの多くは、スイッチ(データを振り分ける機器)の前面の差し込み口に挿す形です。中央の大きなチップから差し込み口までは、基板の上の電気の配線で信号を運びます。1本の線で送る速さが上がるにつれて、この区間の損失と電力が問題になってきました。
そこで、光の部品をスイッチのチップと同じパッケージ(チップを収めて基板につなぐ台)に入れる方法が実用化されつつあります。これをCPO(コパッケージドオプティクス)と呼びます。電気の配線がごく短くなるので、その分の電力を減らせます。パッケージについては「チップのパッケージとは?」で読めます。
Broadcomは2024年3月、CPOのスイッチを顧客に届けたと発表しました。毎秒51.2テラビットのスイッチのチップに、シリコンフォトニクスの光の部品を8個組み合わせたものです。光の部分の電力は差し込み式より70%少ない、と同社は説明しています。NVIDIAも2025年3月にCPOのスイッチを発表し、電力の効率が3.5倍になるとしました。発表の時点では、2025年から2026年にかけて順に提供する計画でした。どちらの数字も、各社が自社の比べ方で示した値です。
AIの学習では、非常に多くのGPUを結んで、1つの大きな計算機のように使います。NVIDIAは、CPOで数百万個のGPUをつなぐ規模をめざすとしています。結ぶ数が多いほど、1本あたりの電力のわずかな差が全体では大きくなります。光と電子の回路を近づけていくこの流れは、日本では光電融合とも呼ばれます。
残る課題
光ファイバとのつなぎ目
標準的な光ファイバの芯は、光の通る範囲が直径約9µmです。一方、チップの導波路は幅約0.5µmしかなく、大きさが約20倍違います。そのまま突き合わせると、光の多くが漏れてしまいます。
そこで、導波路の先を少しずつ細くして光を広げ、チップの端でファイバと突き合わせる方法があります。導波路に細かな溝を刻み、光をチップの上の方向へ曲げて取り出す方法もあります。どちらでも、ファイバの位置をµm単位の精度で合わせる必要があり、組み立ての手間と費用がかかります。
温度に敏感
シリコンの屈折率は温度で変わるので、リング共振器が引き込む色は1℃上がるだけで約0.08nmずれます。10℃なら約0.8nmです。1本のファイバに色の違う光をいくつも通す方式(WDM)では、色の間隔が約0.8nmのものもあります。10℃で隣の色の位置まで動いてしまうわけです。そのためリングには小さなヒーターと、温度を見張って調整する回路を付けます。その分の電力もかかります。
組み立てと交換
差し込み式の光トランシーバーは、壊れたら1個だけ抜いて交換できます。CPOでは光の部品がパッケージの中にあるので、そうはいきません。組み立てる前の検査が重要になり、熱に弱いレーザーをパッケージの外に出して交換できるようにする設計も使われます。NVIDIAは2025年の発表で、レーザーの数を従来の4分の1にしたと説明しています。
よくある誤解
誤解: チップの中の配線が、すべて光に置き換わる
実際は、チップの中でトランジスタどうしを結ぶのは今も銅の配線です。光の部品は、導波路でも幅約0.5µm、変調器は長さ数mmと、トランジスタよりずっと大きいからです。短い距離では、変換にかかる電力のほうが大きくなることもあります。光が受け持つのは、チップやパッケージの外へ出る長めの距離です。「光で配線するチップ」という言い方から、中まで光になると思われやすいのです。
誤解: 光にすると、計算そのものが速くなる
実際は、シリコンフォトニクスはデータを運ぶ技術で、計算はトランジスタの回路が行います。光の信号がシリコンの導波路を進む速さは、真空中の光の約4分の1です。光だから届くのが格段に速い、というわけでもありません。よくなるのは、同じ電力で、より遠くへ、より多くのデータを送れる点です。光そのもので計算する研究もありますが、それは別の技術です。
誤解: データセンターの光の配線は、もうCPOに切り替わった
実際は、CPOの製品は2024年ごろから出始めたところです。今も広く使われているのは、差し込み式の光トランシーバーです。交換のしにくさや組み立ての費用といった課題を解きながら、どこまで広がるかが注目されています。ニュースで新製品が大きく報じられるので、すでに主流と思われやすいのです。
数字で見る
| 項目 | 数字 | ひとこと |
|---|---|---|
| 導波路の芯 | 幅約0.5µm・厚さ約0.22µm | 髪の毛の100分の1以下 |
| 屈折率 | シリコン約3.5、酸化シリコン約1.45 | 差が大きいほど強く閉じ込める |
| 光ファイバの芯 | 直径約9µm | 導波路の約20倍 |
| リング共振器 | 直径10〜数十µm | 2005年の例は12µm |
| リングの色のずれ | 1℃で約0.08nm | ヒーターで調整する |
| 400G・800Gの規格 | 2017年・2024年 | IEEEが承認 |
| CPOのスイッチ | 毎秒51.2テラビット | 2024年3月に発表 |
毎秒51.2テラビットは、800Gの差し込み口64個分にあたります。1つの光の部品が受け持つのは、その8分の1の毎秒6.4テラビットです。
もっと詳しく学ぶ
- 光を出す側: 「半導体レーザーとは?」(1310nmと1550nmが使われる理由も)
- 違いを表で見る: シングルモードとマルチモードの光ファイバの違い、NRZとPAM4の違い(光の強さを何段階に分けるか)
- 次の一歩の用語: キャリア分散効果(電子の数で屈折率を変える)、グレーティングカプラとエッジカプラ(ファイバとのつなぎ方)、伝搬損失(導波路で光が弱まる割合)
- 図解: マッハツェンダー変調器、リング共振器、シリコン導波路の断面を、もう少し詳しい図で見られます(図解の一覧)
- チップを組み合わせる技術: 「チップレットとは?」「HBMとは?」
- これからの半導体の全体像: 「微細化の先へ」