ムーアの法則とは? 半導体が速く安くなってきた理由と今

約13分 · 更新: 2026年10月23日

ムーアの法則とは、「チップに載るトランジスタの数が、およそ2年ごとに2倍になる」という経験則です。1965年にゴードン・ムーアが「毎年2倍」と書き、1975年に「2年ごと」に改めました。物理の法則ではなく、過去の傾向から立てた予測で、業界の目標にもなってきました。数は今も増えていますが、1個あたりの値段の下がり方や、速さの伸びは昔より鈍っています。

この記事でわかること

  • ムーアが1965年と1975年に、実際に書いたこと
  • トランジスタの数が増え続け、1個の値段が下がってきた理由
  • 小さくすると速く、省電力にもなった理由(デナード則)と、それが止まった理由
  • 「ムーアの法則は終わった?」という議論の中身と、これからの方向

前提知識: トランジスタが「電気のオン・オフを切り替える、とても小さなスイッチ」だと知っていると読みやすくなります。くわしくは「トランジスタとは?」で説明しています。

身近なところでは: ニュースの「ムーアの法則」

「ムーアの法則の限界」「ムーアの法則は終わった」。半導体のニュースで、こうした見出しをよく見かけます。2022年には、AI用の半導体で知られるNVIDIAのCEOが「ムーアの法則は死んだ」と発言しました。一方、インテルのCEO(当時)は2023年、「ペースは遅くなったが、終わってはいない」と話しています。

正反対に聞こえる2つの発言は、実は「何を数えるか」が違います。この記事では、ムーアが書いたことから順に見ていきます。

いまのスマホのチップには、トランジスタが数十億〜数百億個入っています。1971年のインテル4004は約2,300個でした。この伸びを言い表したのがムーアの法則です。

1965年にムーアが書いたこと

ゴードン・ムーアは、のちにインテルを共同で創業する技術者です。フェアチャイルドという会社にいた1965年、雑誌『Electronics』の4月19日号に短い記事を書きました。題は「集積回路にもっと多くの部品を詰め込む」という意味です。集積回路(IC)とは、トランジスタなどの部品と配線を、1つのシリコンのかけらにまとめた回路です。

ムーアが注目したのは、部品の数そのものより「部品1個あたりの費用」でした。部品が少なすぎるチップは、包んで製品にする費用などが割高になります。逆に多すぎると、不良品が増えて、やはり高くつきます。そのため、1個あたりの費用がいちばん安くなる、ちょうどよい部品の数があります。

部品1個あたりの費用は、部品が少なすぎても多すぎても高くなる。最も安くなる点は、年とともに部品の多い方へ移る ↑ 部品1個あたりの費用 ある年 数年後 最も安い点 最も安い点が右へ 1チップに載せる部品の数 →
ムーアの1965年の記事にある考え方の模式図。曲線の形と位置は説明用で、実際の数値ではありません。省略していること: 費用の内訳と目盛り。

ムーアは、この「いちばん安くなる部品の数」が、毎年およそ2倍に増えてきたと書きました。当時、その数は1チップに約50個でした。この調子が続けば、1975年には約6万5,000個になると予測しました。

数年分の少ないデータから10年先を見通した、大胆な予測でした。なお、数えたのはトランジスタだけでなく、抵抗などを含む「部品」です。

1975年の修正: 「2年ごとに2倍」へ

10年後の1975年、インテルに移っていたムーアは、国際的な学会(IEDM)で講演しました。コンピュータ歴史博物館によると、1965年の予測はほぼ当たっていました。

この講演でムーアは、ここまで伸びた理由を4つ挙げています。模様を光で写す技術、ウエハ(チップを作るシリコンの円い板)の大きさ、製造の工程、「回路と素子の工夫」です。そのうえで、これからのペースを「毎年ではなく、2年ごとに2倍」に落としました。今よく言われる「約2年で2倍」は、この修正版です。

「ムーアの法則」という名前は、ムーア自身がつけたものではありません。カリフォルニア工科大学のカーバー・ミード教授が名づけたと、コンピュータ歴史博物館は紹介しています。短い定義は用語集のムーアの法則にもあります。

グラフで確かめる: 本当に2年で2倍だった?

実際のチップの数字を、グラフに並べてみます。数千万倍にもなる数を1枚に収めるため、縦の目盛りが1つ上がるごとに数が1,000倍になる描き方にしました。これを対数目盛と呼びます。この目盛りでは、「一定の間隔で2倍」の増え方がまっすぐな線になります。

1チップのトランジスタ数の移り変わり(対数目盛): 1971年の約2,300個から2023年の920億個まで、2年で2倍の線に近い 1チップのトランジスタ数(対数目盛) 1兆 10億 100万 1000 1970 1990 2010年 4004 386 Pentium Pentium 4 M1 M3 Max 2年で2倍のペース(4004から引いた線) 実際のチップ
点は左から、インテルの4004(1971年、約2,300個)、386(1985年、27万5,000個)、Pentium(1993年、310万個)。続いてPentium 4(2000年、4,200万個)、AppleのM1(2020年、160億個)、M3 Max(2023年、920億個)。数値は各社とコンピュータ歴史博物館による。種類の違うチップを並べた図です。省略していること: ほかの多くのチップ。

4004からM3 Maxまでの52年で、数は約4,000万倍になりました。2倍を約25回くり返した計算で、倍になる間隔は平均して約2年です(当サイトの計算)。点がほぼまっすぐな線に乗っており、1975年の見通しが長く当たってきたことがわかります。

法則ではなく、観察と目標

「法則」と呼ばれますが、重力の法則のような自然の決まりではありません。過去の傾向を読み取った観察と、そこからの予測です。

それでも長く当たったのは、業界がこのペースを目標にしたからでもあります。1992年からは業界団体が、「何年後に、どこまで細かく作るか」の見通し(ロードマップ)を作りました。1998年からは国際的なもの(ITRS)になり、装置や材料の会社もこれに合わせて開発しました。予測が目標になり、目標が予測を当てさせた面があるのです。

しくみ① 数を増やした3つの道

1チップのトランジスタの数は、「1個をどれだけ小さく作れるか」と「チップをどれだけ広くできるか」の掛け算で決まります。ここに、同じ働きを少ない部品で作る工夫が加わります。

小さく作る

いちばん大きく効いたのは、トランジスタや配線を小さくすることでした。この流れを「微細化」と呼びます。チップの細かい模様は、光で原版の模様を写して作ります。より短い波長の光を使うほど、細かい模様を写せます。最先端の光については「EUV露光とは?」で説明しています。

昔は、世代が1つ進むたびに、長さを約0.7倍にするのが目安でした。縦と横が0.7倍なら、面積は約半分です。つまり同じ面積に、約2倍のトランジスタが入ります。「3nm」「2nm」といった世代の数字の読み方は、「「2nm」「3nm」は何の長さ?」にまとめています。

チップを広くする

チップ1個の面積も、少しずつ大きくなりました。ムーアの1975年の論文では、最も複雑なチップの面積は、1959年から1975年までに約20倍になっています。ただし、チップが大きいほど不良品が増え、一度に写せる広さにも上限があります。この壁を避ける方法は「チップレットとは?」で説明しています。

回路を工夫する

同じ働きを、より少ない部品で作る工夫も効きました。例えばメモリでは、1ビット(0か1の1つ分)を覚えるのに使う部品を減らす工夫が進みました。IBMのロバート・デナードは1966年、トランジスタ1個と、電気をためる部品1個で1ビットを覚える方式を考え出しました。特許は1968年です。今のパソコンやスマホの作業用メモリ(DRAM)も、この方式です。

しくみ② 1個あたりの値段が下がった理由

ウエハ1枚を加工する費用は、世代が進むと上がります。それでも、1枚から作れるトランジスタの数がそれ以上に増えれば、1個あたりの値段は下がります。長いあいだ、この関係が成り立ってきました。

ウエハ自体も大きくなりました。直径が大きいほど、1回の加工でたくさんのチップが取れます。直径300mmのウエハでの量産は、2001年ごろに始まりました(「シリコンウエハとは?」)。

経済学者ケネス・フラムの2018年の研究では、微細化が順調だった間、1個を作る費用は年に20〜30%下がりました。同じ値段で買える性能が上がり続けたのは、このためです。

しくみ③ 小さくすると速く、省電力にも: デナード則

数が増えるだけなら、チップはどんどん熱くなりそうです。ところが長いあいだ、小さくすると1個1個のトランジスタも速く、省電力になりました。その理由を示したのが、IBMのロバート・デナードらが1974年に発表した論文です。

要点を言葉で言うと、こうです。トランジスタの寸法をすべて同じ割合で縮め、かける電圧も同じ割合で下げます。すると1個1個は速く切り替わり、使う電力も減ります。しかも、同じ面積あたりの電力、つまり発熱は変わりません。この関係をデナードスケーリング、または「デナード則」と呼びます。

このおかげで、世代が進むたびに、同じ大きさのチップが「数が多く、速く、熱くならない」ものになりました。チップの回路は、一定の間隔で来る合図に合わせて動きます。この合図が1秒に何回来るかを、クロック周波数と呼びます。4004は約0.75MHz(1秒に約75万回)でした。2004年には、インテルのパソコン用CPUが3.8GHz(1秒に38億回)に達しています。

デナード則が成り立っていたころ2000年代半ばから
寸法世代ごとに縮む縮み続ける
電圧寸法と一緒に下げるほとんど下げられない
同じ面積あたりの発熱変わらない増えやすい
クロック周波数世代ごとに上がる数GHzで伸び悩む

表は話を簡単にするため、大きな傾向だけを書いています。実際の変わり目は、製品によって数年ずれます。

デナード則の終わり: 2000年代半ばに何が起きた?

2000年代半ばごろ、電圧をそれ以上下げにくくなりました。トランジスタには、スイッチが入り始める電圧があり、これをしきい値電圧と呼びます。電源の電圧を下げるには、この電圧も下げる必要があります。ところが、しきい値電圧を下げると、オフのはずのトランジスタから漏れる電流が急に増えるのです。

電圧が下がらないまま小さくすると、同じ面積あたりの発熱が増えていきます。クロック周波数を上げれば、熱はさらに増えます。チップから逃がせる熱には限りがあるので、周波数を上げ続けることができなくなりました。

インテルは2004年、計画していた4GHzのPentium 4をとりやめました(当時の報道)。代わりに、計算の中心部(コア)を1つのチップに2つ載せる製品へ力を移しました。米国研究評議会の2011年の報告書も、1つのプロセッサの性能の伸びは2000年代のはじめに鈍ったとまとめています。コアについては「CPUとは?」で説明しています。

大事なのは、終わったのはデナード則で、ムーアの法則ではないことです。トランジスタの数は、その後も増え続けました。「数が増えれば、自動的に速く省電力にもなる」というおまけが付かなくなったのです。

ムーアの法則は終わったのか

答えは、見る人によって分かれています。主な見方は3つです。

数は今も増えている: Appleの発表では、パソコン用チップのM1(2020年)は160億個、M3 Max(2023年)は920億個です。NVIDIAが2024年に発表したAI用のB200は、2つのチップをつないだ製品で、合わせて2,080億個です。

ペースは落ちた: インテルのCEO(当時)パット・ゲルシンガーは2023年、倍になる間隔は「3年に近い」と話しました。それでも、終わってはいないという立場です。

値段の面では終わった: 最先端の世代では装置も工程も高くなり、1個あたりの費用が下がりにくくなりました。Tom's Hardwareによると、Googleの技術者は2023年のIEDMで「28nm世代のあとはほぼ横ばい」と示しました。ただし、これは1社の見方で、費用は製品や生産量でも変わります。冒頭のNVIDIAのCEOの発言も、GPUの値段を問われての答えでした。

つまり、答えは何を数えるかで変わります。1チップのトランジスタの数なら、ペースを落としながらも増えています。1個あたりの値段や、1個1個の速さという意味なら、昔のようには進んでいません。

そこで業界は、小さくする以外の道も組み合わせて、性能を伸ばそうとしています。

  • トランジスタの形を変える: 電流の通り道を、スイッチの役をする部分(ゲート)で全面から囲む形(GAA)
  • 配線の通し方を変える: 電源の配線を、ウエハの裏側に回す方法(裏面電源供給)
  • 分けてつなぐ: 大きなチップを小さく分けて作り、1つの製品にまとめる方法(チップレット)
  • 積み重ねる: チップを縦に重ねてつなぐ方法(3D実装)。例は「HBMとは?」

こうした方向の全体像は、読み物「微細化の先へ」で整理しています。

もう1つの方向: 「More than Moore」

ここまでの話は、計算の回路を小さく、多くする方向でした。業界のロードマップ(ITRSと、後を継いだIEEEのIRDS)では、これを「More Moore」と呼びます。これに対し、センサーや電力の制御などの働きを加えて価値を高める方向を「More than Moore」と呼びます。こうした部品では、最先端の細かさより、役目に合った材料や作り方が大事です。例えば「パワー半導体」や「イメージセンサー」です。

よくある誤解

誤解: ムーアの法則は「コンピュータの速さが18か月で2倍になる」という法則

実際は、ムーアが書いたのは部品(のちにトランジスタ)の数で、ペースは「毎年」から「2年ごと」です。ムーア本人は、18か月とは言っていないと説明しています。18か月は、数が増えることと1個1個が速くなることを合わせて、性能について言い直した数字です。言い直したのは、インテルの幹部だったデイビッド・ハウスだとされます。速さの伸びは、デナード則が止まった2000年代半ばから大きく鈍りました。

誤解: 物理の法則なので、放っておいても続く

実際は、過去の傾向から立てた予測で、業界の目標でもありました。続いてきたのは、各社がばく大な費用をかけて、装置・材料・設計を作り直してきたからです。「法則」という名前が、自然の決まりのような印象を与えやすいのです。

誤解: 「◯nm」の数字が小さくなるのと同じペースで、トランジスタも小さくなっている

実際は、「3nm」「2nm」は世代の呼び名で、チップのどこかの寸法ではありません。いまは寸法を縮めるだけでなく、トランジスタを縦に立てたり重ねたりする形の工夫や、並べ方の工夫でも密度を上げています。数字が小さくなった割合と、同じ面積に入る数が増えた割合は一致しません。くわしくは「「2nm」「3nm」は何の長さ?」で説明しています。

数字で見る

数字何の数字か
約2,300個インテル4004(1971年)のトランジスタの数(インテル)
920億個Apple M3 Max(2023年)のトランジスタの数(Apple)
約4,000万倍4004からM3 Maxまでの52年間の増え方。倍になる間隔は平均約2年(当サイトの計算)
約0.75MHz → 3.8GHz4004(1971年)と、2004年のインテルのパソコン用CPUのクロック周波数。約5,000倍
年20〜30%微細化が順調だった間に、トランジスタ1個を作る費用が下がった割合(フラム、2018年)

ニュースでムーアの法則を見かけたら、「何の数字の話か」を確かめてみてください。

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