半導体工場(ファブ)とは? 巨額の投資と水・電気が要る理由

約13分 · 更新: 2026年10月23日

半導体工場(ファブ)は、シリコンの円い板(ウエハ)にチップの回路を作り込む工場です。建設費の大部分は、中に並べる製造装置の代金です。高いものは1台で数百億円になります。ごみを嫌う部屋を休まず動かし、ウエハを洗うため、大量の電気と極めて純粋な水も使います。建てて量産を始めるまでには年単位の時間がかかります。

この記事でわかること

  • ファブとは何をする工場か(前工程と後工程の分担)
  • 最先端の工場が数兆円規模になる理由
  • 水と電気をたくさん使うわけと、その数字
  • 建て始めてから量産まで、何年かかるか
  • 工場の中の自動搬送と、働く人
  • 国が補助する理由と、熊本の地下水の取り組み

前提知識: とくになし。チップが「膜をつけ、光で模様を写し、削る」作業のくり返しで作られると知っていると読みやすくなります。流れは「半導体チップはどうやって作られる?」で説明しています。

身近なところでは: 熊本・北海道・広島・三重のニュース

「TSMCの熊本の工場が量産を始めた」「ラピダスが北海道の千歳市に工場を建てた」。ここ数年、半導体の工場のニュースが続いています。広島県のマイクロンの工場や、三重県と岩手県のキオクシアの工場にも、国の助成が決まっています。

こうしたニュースの「工場」の多くは、業界で「ファブ」と呼ばれる工場です。英語で製造を意味するfabricationを縮めた言葉です。この記事では、ファブが何をする場所で、なぜこれほどお金と水と電気が要るのかを順に見ていきます。

ファブとは: ウエハに回路を作り込む工場

チップは、大きく2つの段階で作られます。ウエハの上にトランジスタと配線を作り込む段階を「前工程」と呼びます。ウエハを1個ずつのチップに切り分け、包んで検査する段階を「後工程」と呼びます。

ファブは、ふつう前工程の工場を指します。1枚のウエハに数百個のチップを並べ、膜をつける・写す・削る・洗う作業を何百回もくり返します。搬送装置メーカーのダイフクの説明では、工程の数は600〜1,000に達し、最先端の工場ではさらに多くなります。後工程は別の工場や別の会社が受け持つことも多く、2つの違いは「前工程と後工程の違い」の表で確かめられます。

ファブの断面のイメージ: 天井裏、クリーンルーム、床下の3層と、それを支える超純水・電気・排水処理の設備 ファブの断面(イメージ) 天井裏: 空気をこして送る ← OHT(搬送車) FOUP クリーンルーム 装置 装置 装置 床下: ポンプ・配管・ 排ガスの処理など 超純水 電気 排水の処理 工場を支える設備(別の棟など)
ファブを横から見た断面のイメージ。緑の矢印は工場へ送るもの、青の矢印は工場から出すもの。点線は穴のあいた床。天井の細長い板は、空気をこすフィルターです。省略していること: 縮尺、空気の流れ、薬品やガスの供給、事務所や後工程の建物。配置は工場ごとに違います。

工場の中心は、空気中のごみを極端に減らした部屋、クリーンルームです。そのきれいさや保ち方は「クリーンルームとは?」で説明しています。ファブでは、この部屋の上と下にも、空気を送る設備やポンプ、配管がぎっしり詰まっています。建物の外にも、水や電気、排水を扱う設備が並びます。

なぜ巨額なのか: 費用の大部分は装置

工場というと大きな建物を思い浮かべますが、お金の多くは中に並べる機械に使われます。米国の議会調査局の2020年の報告は、米国半導体工業会(SIA)の説明として、初期の建設費の大部分が製造装置だと書いています。1台で1億ドル(1ドル=150円で約150億円)を超える装置もあります。同じ報告は、先端の工場は200億ドルに達することもあるという専門家の見方も紹介しています。

代表的な高価な装置が、最も細かい模様を写すEUV露光の装置です。作っているのはオランダのASMLです。同社の2025年の決算で、EUV装置の売上を台数で割ると、1台の平均は約2.4億ユーロ、日本円で数百億円になります。ほかの装置も含めた全体像は「半導体製造装置とは?」で紹介しています。

実際の金額の例を見てみましょう。TSMCは熊本の第1工場の当初の投資を約70億ドルとしました(2021年)。第2工場と合わせた投資は200億ドルを超える見込みです(2024年2月の発表)。米国では、工場6つなどを含む合計1,650億ドルの投資の計画を発表しています(2025年3月)。どれも計画の金額で、使い終わった額ではありません。

これほど高い装置は、休ませるほど損をします。そのため多くのファブは、昼も夜も止めずに動きます。工場の能力を多くの客で分け合う理由は「ファウンドリとは?」で説明しています。

ウエハは自動で運ばれる

ウエハは、何百もの工程のたびに装置から装置へ移ります。人の手で運ぶと、重さで疲れ、落とす危険もあり、人から出るごみも増えます。そこで今のファブでは、ウエハを密閉した容器(FOUP)に入れ、機械が運びます。

容器は、天井のレールを走る搬送車がつかんで運び、装置の入口に降ろします。この搬送車をOHTと呼びます。

搬送車や保管の棚、それらに行き先を指示するコンピュータの全体をAMHS(自動搬送システム)と呼びます。

規模の目安として、ダイフクは、大規模な工場では天井のレールの総延長が10 kmにおよぶと説明しています。数百台を超える搬送車が、24時間365日動き続けます(同社の2019年の報告書)。最先端の工場では、さらに長いレールの例も挙げています。

水: ウエハを洗う「超純水」

ウエハは、ほとんどの作業の前後で洗います。わずかな金属やごみでも、不良の原因になるからです。洗うのに使うのは、水からイオンや微粒子、有機物などを極限まで取り除いた水です。これを超純水と呼びます。

超純水は、くみ上げた地下水や工業用水などをもとに、工場の中の専用の設備で作ります。使った水の一部は処理して、ふたたび使います。純度の確かめ方は「クリーンルームとは?」の後半で説明しています。

使う量の例として、熊本県の2023年10月の資料を見てみます。JASM(TSMCの子会社)の第1工場がくみ上げる地下水は、1日平均8,500 m³(8,500トン)の計画です。1年では約310万 m³です。2022年4月の計画の1日1万2,000 m³から、約29%減らしています。

電気と排ガス: 休まず動かすための設備

ファブは、電気もたくさん使います。クリーンルームの空気を回し続けるファン、温度と湿度を保つ空調、製造装置、超純水を作る設備が、どれも一年中動くからです。

TSMCのサステナビリティ報告書を見てみます。同社が2024年に世界の工場などで使ったエネルギーは、2万7,456 GWh(274億5,600万kWh)でした。GWhは、家庭の電気の明細にも出てくるkWhの100万倍の単位です。その約93%が、電力会社などから買った電気です。2024年はうるう年で8,784時間です。買った電気をこれで割ると、1時間あたり平均約290万kWhになります(この記事での計算)。

工場から外へ出すものにも、手間がかかります。製造には、毒性や燃えやすさのあるガスも使います。こうしたガスは、そのまま空気中に出せないので、燃やす・水で洗うなどして無害にしてから出します。この装置を除害装置と呼びます。使った水も、処理してから外へ流します。

建て始めてから量産まで、何年かかる?

ファブは、建物ができればすぐ動くわけではありません。建物とクリーンルームを作り、装置を運び入れて据え付けます。そのあと、狙いどおりの膜や形ができるよう、装置ごとに条件を作り込みます。試しに作って確かめてから、量産に進みます。

熊本のJASM第1工場と千歳のラピダスの工場の、計画から量産までの主な出来事の年表 熊本(JASM第1工場) 千歳(ラピダス) 2021年11月計画を発表 2022年4月着工 2022年8月会社を設立 2023年9月着工 2024年2月開所式 2024年末量産を開始 2025年4月試作ラインが稼働 2027年度量産の計画(後半)
各社と経済産業省の発表による主な出来事。点線の四角は、まだ実現していない計画です。間隔は出来事の順に並べたもので、時間の長さに比例していません。省略していること: 熊本の第2工場、装置の搬入などの途中の段階、計画の変更。

熊本の第1工場は、計画の発表から量産まで約3年、着工からは約2年8か月でした。千歳のラピダスは、2023年9月に着工しました。2024年にクリーンルームが完成し、2025年6月までに200台を超える装置をつないだと発表しています。量産は2027年度の後半に始める計画です。

量産が始まっても、それで終わりではありません。最初のうちは良品の割合(歩留まり)が低く、原因を一つずつ直して上げていきます。また、ウエハ1枚が前工程を通るだけでも平均約12週間かかります(米国半導体工業会、2021年)。

ファブで働く人

ファブは自動化が進んでいますが、人がいなくなるわけではありません。工程の条件を決めて見張る技術者、装置を保守する技術者、データを分析する人、設備や安全を守る人などが働きます。TSMCは、熊本の2つの工場で、3,400人を超える専門職の雇用が生まれる見込みだとしています(2024年)。職種ごとの仕事の中身は「半導体業界にはどんな仕事がある?」で紹介しています。

なぜ国が補助するのか

経済産業省は、半導体を多くの製品づくりに欠かせない部品と位置づけています。供給が途絶えると、社会や経済に大きな影響が出るおそれがあるからです。2022年12月には、経済安全保障推進法にもとづき、安定して手に入れる必要がある「特定重要物資」に指定されました。2020〜2022年の品不足では、実際にチップが届かず車の生産が止まりました(「半導体不足はなぜ起きた?」)。

一方で、ここまで見たように、ファブは建てるのに巨額のお金と年単位の時間がかかります。そこで国は、国内に工場を建てる会社に、費用の一部を助成しています。経済産業省が認定した主な計画は次のとおりです。

最初に認定した時期工場(作るもの)認定時の最大助成額
2022年6月JASM第1工場・熊本(ロジック)4,760億円
2022年7月キオクシアほか・四日市(フラッシュメモリ)約929億円
2022年9月マイクロン・広島(DRAM)約465億円
2024年2月JASM第2工場・熊本(ロジック)7,320億円

表の「ロジック」は計算や制御をするチップ、フラッシュメモリとDRAMは記憶するチップです。助成額は「上限」で、計画が変わると見直されます。2026年10月には、熊本の第1工場の計画の変更が認定されたと報じられました(EE Times Japan)。変更後の金額を含む最新の一覧は、経済産業省のページで確かめられます。

ラピダスには、国が研究開発を委託する形で支援してきました。さらに、国の機関の情報処理推進機構が出資しました。2026年2月に1,000億円、6月に1,500億円です。政府は2024年11月、2030年度までにAIと半導体の分野へ10兆円以上の公的な支援を行う枠組みも決めました。

ほかの国も同じような政策をとっています。米国では2022年8月にCHIPS法が成立しました。527億ドルの予算のうち390億ドルを、工場の建設などへの補助に充てます。工場への投資額の25%を税金から差し引く制度も設けました。

地域と環境: 熊本の地下水

熊本の工場では、地下水が大きな話題になりました。熊本市によると、熊本市を含む熊本地域の約100万人は、水道の水源のほぼすべてを地下水でまかなっています。そこへ、大量の水を使う工場ができるからです。

そのため、くみ上げる量に見合う水を地下に戻す取り組みが進められています。雨水などを地面にしみ込ませて地下水を増やすことを、涵養(かんよう)と呼びます。2023年5月には、JASM・熊本県・菊陽町などの5者が、涵養を進める協定を結びました。JASMの計画は、くみ上げる量の104.7%を涵養するというものです(熊本県、2023年10月)。JASMは、冬の田んぼに水を張って地下にしみ込ませる取り組みにも加わっています。

県は2023年9月に指針を改め、新たに地下水をくみ上げる会社などに、採取量と同じ量の涵養を求めるようにしました。それまでは1割でした。県は、地下水の流れを計算で再現するシミュレーションで影響も予測しました。当初の計画の量(1日1万2,000 m³)でも、地下水の高さの低下は最大30 cm程度で、場所も限られるという結果です(2024年11月の県の資料)。工場のある地区には観測用の井戸を新たに設け、地下水の高さを見続けています。

水の質も調べています。県は工場の周りの川や地下水などを測り、専門家の委員会で確かめて結果を公表しています。測る物質には、国内の法令で規制されていない物質(有機フッ素化合物の一部など)も含みます。2026年2月の委員会は、規制されている物質は基準を下回り、現時点で影響は確認されていないと評価しました。規制されていない物質も、多くは明確な変化が確認されていないとしています。

よくある誤解

誤解: 工場の建設費の大部分は、建物の代金

実際は、費用の大部分は中に並べる製造装置です(米国議会調査局、2020年)。最先端の露光装置は、1台で平均数百億円になります。ニュースでは工場の外観は映っても、中の装置はほとんど見えません。そのため、建物にお金の多くがかかっていると思われがちです。

誤解: 工場が完成すれば、すぐにチップが大量に出てくる

実際は、装置を据え付けて条件を作り込み、試作を重ねてから量産に入ります。熊本の第1工場は、着工から量産まで約2年8か月かかりました。量産のあとも、良品の割合を少しずつ上げていきます。「開所式」や「完成」の報道が、量産の開始と同じ意味に受け取られやすいことから生まれる誤解です。

誤解: 新しいファブは、どれも最先端のチップを作る

実際は、熊本の第1工場が作るのは、最先端より何世代も前の世代のチップです(TSMCの発表では12〜28nmの世代)。車や家電の部品には、こうした世代のチップも多く使われます。工場ごとに作るものは違い、「新工場=最先端」とは限りません。世代の数字の意味は「「2nm」「3nm」は何の長さ?」で読めます。

数字で見る

数字何の数字か
600〜1,000半導体工場の製造の工程の数(ダイフクの説明)
約2.4億ユーロEUV露光装置1台の平均の売上(ASMLの2025年の決算の数字から計算)
200億ドル超熊本の第1・第2工場を合わせた投資の見込み(TSMC、2024年2月の発表)
約10 km大規模な半導体工場の天井の搬送レールの総延長の例(ダイフク、2019年)
1日8,500 m³JASMの第1工場の地下水の採取の計画(熊本県、2023年)
104.7%JASMの採取量に対する涵養の計画の割合(熊本県、2023年)
2万7,456 GWhTSMCの2024年のエネルギーの使用量(約93%は買った電気。同社のサステナビリティ報告書)
約3年熊本の第1工場の、計画の発表(2021年11月)から量産(2024年末)まで
390億ドル米国のCHIPS法で、工場の建設などへの補助に充てる額(2022年)

数字を並べると、ファブの姿が見えてきます。何百もの工程を、高価な装置と自動の搬送で24時間休まず進めます。そのために大量の水と電気を使います。熊本では、地域の水を守るしくみも合わせて整えられてきました。助成額や投資額は計画とともに変わるので、最新の値は各社と経済産業省の発表で確かめてください。

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