Bluetoothとは? イヤホンやスマートウォッチがつながるしくみ

約14分 · 更新: 2026年10月23日

Bluetoothは、身の回りの近い機器どうしを、ルータのような中継役なしで直接つなぐ無線の規格です。Wi-Fiと同じ2.4 GHz帯の電波を、使う周波数を次々に切り替えながら分け合います。音を流し続けるのが得意な「クラシック」と、短く送って長く休む省電力の「BLE」の2つの方式があります。

この記事でわかること

  • Bluetoothは誰が決めた規格で、名前はどこから来たのか
  • 周波数を次々に変えて、Wi-Fiや電子レンジと電波を分け合うしくみ
  • クラシックとBLEの違いと、BLEがボタン電池で長く動く理由
  • ペアリングの意味、ワイヤレスイヤホンの音質と遅れ、安全な使い方

前提知識: 特にありません。「Wi-Fiのしくみとは?」を先に読むと、電波と周波数の話がわかりやすくなります。

身近なところでは

ワイヤレスイヤホンで音楽を聴く。スマートウォッチに、スマホの通知が表示される。パソコンに、キーボードやマウスを線なしでつなぐ。車のスピーカーから、スマホの通話の声が流れる。こうした場面の多くで、Bluetoothが使われています。

新しいイヤホンを使い始めるときは、スマホの設定で機器の名前を選び、最初に1回だけ「ペアリング」という手続きをします。2回目からは、ケースから出すだけでつながります。この記事では、その裏で何が起きているのかを順に見ていきます。

Bluetoothは「近くの機器を直接つなぐ」規格

Wi-Fiでは、スマホもパソコンも、家のルータ(中継役)を通してインターネットにつながります。Bluetoothは、スマホとイヤホンのように、近くの機器どうしを中継役なしで直接つなぎます。送るのは、音や操作、センサの値など、その場で使うデータが中心です。

どの会社のイヤホンでもスマホにつながるのは、電波の出し方やデータの送り方を、共通の決まりにしているからです。この決まりを作っているのが、業界団体のBluetooth SIGです。1998年にエリクソン・IBM・インテル・ノキア・東芝の5社が作りました。1999年には、最初の規格(バージョン1.0)を公開しました。

名前は、10世紀のデンマークの王、ハーラル・ゴームソンのあだ名「青歯王(Bluetooth)」から取られました。Bluetooth SIGによると、王はデンマークとノルウェーを1つにまとめたことで知られています。パソコンと携帯電話の業界を1つの無線でつなぐ、という願いを重ねた名前です。もとは開発中の仮の名前でしたが、そのまま正式な名前になりました。ロゴは、王の頭文字HとBを表す古い文字(ルーン文字)を組み合わせた形です。

スマホの中では、Bluetoothの電波を扱うのは専用のチップです。Wi-Fiと同じチップにまとめられていることもあります(「スマホの中にはどんな半導体が入っている?」)。

2.4 GHz帯を、Wi-Fiや電子レンジと分け合う

電波は、1秒間に振れる回数で区別されます。この回数を周波数と呼びます(くわしくは「Wi-Fiのしくみとは?」)。Bluetoothが使うのは、1秒に約24億回振れる2.4 GHz帯です。使える幅は約80 MHz(0.08 GHz)です。

この帯域は、もともと産業・科学・医療の機器が電波を使うために、国際的に用意された範囲です。そのため、ISMバンドと呼ばれます。ISMは、産業(Industrial)・科学(Scientific)・医療(Medical)の頭文字です。代表的な機器が電子レンジで、食べ物を温めるのにこの帯域の電波を使います。

決まった条件を守れば免許なしで使えるので、Wi-FiとBluetoothも、同じこの帯域に入っています。つまり2.4 GHz帯は、いろいろな機器が同時に電波を出す、にぎやかな場所です。ここで安定して通信するために、Bluetoothは独特の工夫をしています。

周波数ホッピング: 使うチャネルを次々に変える

クラシックのBluetoothは、2.4 GHz帯を幅1 MHzずつ、79の区切りに分けて使います。この区切りを「チャネル」と呼びます。つながった2台は、決まった順番で、1秒に1,600回もチャネルを切り替えながら送受信します。

このやり方を「周波数ホッピング」と呼びます。ホップは「跳ぶ」という意味です。跳ぶ順番は、まとめ役になる側(多くはスマホ)の機器の番号と時計から計算されます。相手も同じ計算をするので、2台は同じ瞬間に同じチャネルへ移れます。

周波数を変え続けると、どこか1つのチャネルが邪魔されても、影響はほんの一瞬で済みます。届かなかった分は、次のチャネルで送り直せます。さらに、2003年のバージョン1.2からは、混んでいるチャネルを見つけて、跳ぶ先から外せるようになりました。これを「適応型周波数ホッピング(AFH)」と呼びます。

Bluetoothは使うチャネルを短い時間ごとに切り替える。Wi-Fiが使う範囲に当たると届かずに送り直し、混んだ範囲を見つけた後はそこを避けて跳ぶ チャネル(周波数) Wi-Fiが使う範囲 × 時間 → 当たると送り直し 混んだ所を避ける
四角の1つひとつが、短い時間だけ使うチャネルです。×の白い四角は、Wi-Fiとぶつかって届かなかった分です。点線より右では、Wi-Fiが使う範囲を跳ぶ先から外しています(適応型周波数ホッピング)。省略していること: 実際の79チャネルと1秒1,600回の速さ、Wi-Fiのチャネルの実際の幅。

2つの方式: クラシックとBLE

Bluetoothには、大きく分けて2つの方式があります。1つは最初の規格からある方式で、正式にはBR/EDRといい、ここでは「クラシック」と呼びます。音楽や通話のように、データを途切れなく流し続ける使い方に向いています。速さは、規格上の最大で1秒に300万ビット(3 Mbps)です。ビットは、0か1かの1けたのことです。

もう1つは、2010年のバージョン4.0で加わったBluetooth Low Energy(BLE)です。少ないデータをときどき送る機器のために、電気を少なく使うことを目指して作られました。2.4 GHz帯を幅2 MHzずつ40のチャネルに分け、そのうち3つを、周りへの「呼びかけ」専用にしています。呼びかけは、自分がここにいることや短い情報を、相手を決めずに知らせる電波です。

BLEの機器は、送ることがあるときだけ、ほんの短い時間電波を出し、あとは回路の大部分を止めて休みます。機器の電気の多くは、電波を出したり受けたりする間に使われます。そのため、送る時間を短くし、休む時間を長くするほど、電池が長くもちます。こうして、ボタン電池で年単位で動く製品も作れるようになりました。

クラシックは音を送るあいだ電波をほぼ休まず使い続ける。BLEはごく短く送って、長い時間休む クラシック(音楽を流す) BLE(センサの値を送る) 休む 休む 時間 → 電波を出す時間
色のついた部分が、電波を出したり受けたりしている時間の模式図です。BLEは送る時間を短くして休む時間を長くし、電池を長もちさせます。省略していること: 実際の時間の長さ(縮尺は正確ではない)、受信の時間、クラシックが休む工夫。

休んでいる間に電気をほとんど使わない工夫は、機器を動かす小さなコンピュータ(マイコン)の側にもあります。ボタン電池が何年もつかの計算は、「マイコンとは?」で紹介しています。

2つの方式は、同じ2.4 GHz帯を使いますが、電波の使い方が違うので、そのままでは互いに通信できません。スマホやパソコンは両方に対応しているので、クラシックのイヤホンとも、BLEのセンサともつながります。

ペアリング: 最初に共通の「鍵」を作っておく

Bluetoothの電波は壁の外にも届くので、近くにいる人なら受け取れます。そこでBluetoothは、決まった鍵がないと読めない形に、データを変えて送ります。これを暗号化と呼びます(しくみは「暗号とは?」)。

2台が初めてつながるときに、暗号化に使う共通の鍵を作り、互いに覚えておく手続きがペアリングです。今の方式では、鍵の材料を電波でやり取りしても、聞いた人には鍵がわからない計算方法を使います。この方法は鍵交換と呼ばれるものの一種です。2回目からは、覚えた鍵ですぐにつながります。

画面のある機器どうしでは、両方に同じ6けたの数字が出て、「一致しますか」と聞かれることがあります。間に別の機器が割り込み、両方に成りすましていないかを確かめるためです。割り込まれていると、2台の数字はまず一致しません。数字が違うときや、身に覚えのない接続の要求が来たときは、許可しないでください。

イヤホンのように画面もボタンも少ない機器では、この確認ができません。そこで、確かめずに鍵を作る方法を使います。米国国立標準技術研究所(NIST)の手引きによると、この方法では割り込みを防げません。イヤホンのペアリングは、人の少ない落ち着いた場所で済ませると安心です。

プロファイル: 使いみちごとの決まり

同じBluetoothでも、イヤホンとキーボードでは送るデータが違います。そこで、使いみちごとに、どんなデータをどう送るかの決まりが用意されています。この決まりを「プロファイル」と呼びます。

例えば、音楽を送る決まり、通話の声をやり取りする決まり、キーボードやマウスの操作を送る決まりがあります。BLEには、心拍計などの値を送る決まりもあります。つなぐ2台が同じプロファイルに対応していないと、その使い方はできません。

イヤホンの音: コーデックと遅れ

CDの音楽は、音の波の高さを1秒に44,100回、16ビットの数字で記録しています。左右2つ分あるので、そのまま送るには1秒に約141万ビット(約1,411 kbps)が必要です。クラシックの規格上の最大は300万ビットですが、実際に送れる量はそれより少なく、送り直しの余裕も要ります。

そこで、音のデータを小さくしてから送り、イヤホンの側で音に戻します。この縮める・戻す計算の方法を「コーデック」と呼びます。Bluetoothで音楽を送る決まりでは、どの機器も「SBC」というコーデックに対応する必要があります。ほかに「AAC」なども、両方が対応していれば選べます。

SBCの高音質の設定では、データの量は1秒に約33万ビット(328 kbps)です。CDのそのままの量の、およそ4分の1です。SBCもAACも、聞こえにくい部分を粗くするなどして縮める方式で、削った部分は元に戻りません。

ワイヤレスイヤホンでは、ゲームの効果音が少し遅れて聞こえることがあります。音を一定の長さずつまとめて縮め、イヤホンでは送り直しに備えて少し貯めてから鳴らすからです。元に戻す計算にも時間がかかります。画面に合わせて操作するゲームや楽器の演奏では、このずれを感じやすくなります。

LE Audio: BLEで音を送る新しい方式

Bluetooth SIGは2020年に、BLEの電波で音を送る新しい方式「LE Audio」を発表しました。2022年には、一連の規格がそろいました。中心になるのが、新しいコーデック「LC3」です。SIGの発表によると、聞き比べの試験で、LC3はSBCの半分のデータ量でも、SBCより良い音質と評価されました。

LE Audioでは、補聴器に直接音を送る使い方も決められました。1台の送り手から何人にでも同時に音を届ける「Auracast」もあります。SIGは、空港のアナウンスや、お店のテレビの音を、自分のイヤホンや補聴器で聞く使い方を例に挙げています。使うには、送る側と受ける側の両方が対応している必要があります。

届く距離は「何m」と決まっていない

Bluetooth SIGは、届く距離は条件しだいで、1 mに満たないものから1 kmを超えるものまであるとしています。決めるのは、電波の強さ、受け取る側の感度、アンテナ、途中の障害物などです。

イヤホンやスマートウォッチは小さな電池で動くので、電波の強さにも限りがあります。壁や家具のほか、人の体も電波を弱める障害物です。スマホを体の反対側のポケットに入れると音が途切れることがあるのは、このためです。

位置を知る: ビーコンと「探す」ネットワーク

BLEの「呼びかけ」の電波は、場所の目印にも使えます。決まった番号を、周期的に発信し続ける小さな機器を「ビーコン」と呼びます。スマホは、受け取った電波の強さから、ビーコンにどのくらい近いかをおおまかに推定します。お店や施設の案内などに使われています。

なくし物を探すタグも、BLEの呼びかけを使います。タグが発信する電波を、近くを通った他人のスマホが受け取り、自分のいる場所を暗号化してサーバに送ります。持ち主は、その情報からタグのある場所を知ります。Appleの資料によると、同社の「探す」ネットワークでは、Apple自身も場所を読めません。持ち主にも、見つけた人が誰かは知らされません。

安全に使うために

Bluetoothでも、機器のソフトウェアに弱点(脆弱性)が見つかることがあります。例えば2017年には、セキュリティ企業のArmisが「BlueBorne」と名づけた複数の脆弱性を公表しました。対象はAndroid、Windows、Linux、iOSの一部の版です。ペアリングしていなくても、近くから機器を操作されるおそれがありました。各社は更新プログラムで対策し、日本のJPCERT/CCも更新の適用を呼びかけました。

BlueBorneは、規格そのものではなく、各社が作ったソフトウェアの弱点でした。対策は、OSや機器のソフトウェアを最新に保つことです。使わなくなった機器の登録は消し、知らない機器からの接続の要求は許可しないようにしましょう。

よくある誤解

誤解: BluetoothとWi-Fiは同じ電波なので、ひどく邪魔し合って一緒には使えない

実際は、同じ2.4 GHz帯なので邪魔し合うことはありますが、ふだんは一緒に使えるように工夫されています。Bluetoothは適応型周波数ホッピングで、Wi-Fiが使っているチャネルを避けます。両方を1つのチップにまとめた製品では、チップの中で送るタイミングを調整します。Wi-Fiを5 GHz帯や6 GHz帯でつなげば、2.4 GHz帯の混雑そのものを避けられます。電子レンジのそばで音が途切れた経験などから、そう思われがちです。

誤解: Bluetoothのイヤホンには、元の音がそのまま届く

実際は、SBCやAACなど、よく使われるコーデックは、データを削って小さくする方式です。イヤホンに届く音は、元のデータとまったく同じではありません。デジタルで送るので劣化しない、と思われがちですが、送る前に削った部分は戻りません。

誤解: BLEは、Bluetoothを遅くしただけのもの

実際は、BLEは目的の違う、別の方式として作られました。クラシックは音などを流し続けるのが得意で、BLEは短く送って長く休み、電池を長もちさせるのが得意です。2016年のバージョン5.0からは、BLEにも規格上の最大2 Mbpsで送る方法が加わりました(対応は機器しだい)。LE Audioのように、BLEで音を送ることもできます。「Low Energy(省電力)」の名前から、速さを落としただけだと思われやすいのです。

数字で見る

項目数字ひとこと
クラシックのチャネル1 MHz幅 × 791秒に1,600回切り替える(1回は0.000625秒)
BLEのチャネル2 MHz幅 × 40うち3つは呼びかけ専用
音のデータの量CDそのまま約1,411 kbps、SBCの高音質の設定328 kbps約4分の1に縮めて送る
1年に出荷される機器53億台を超える(2025年の予測)Bluetooth SIGの市場報告(調査会社ABI Researchによる)

53億台は、世界の人口(国連によると2022年に80億人)の3分の2ほどにあたります。それだけの機器が、毎年新たに作られています。

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