MOSFETの遮断領域・線形領域・飽和領域の違い:条件・電流の式・用途を比較

MOSFETの動作は、ゲート-ソース間電圧VGSとドレイン-ソース間電圧VDSによって3つの領域に分かれます。遮断領域では、VGSがしきい値電圧Vthより低くチャネルができないので、電流はほとんど流れません。線形領域(三極管領域)では、チャネルがソースからドレインまでつながり、ゲート電圧で値の変わる抵抗のように振る舞います。飽和領域では、チャネルがドレイン端でピンチオフし、電流がVDSにほとんどよらずVGSで決まるので、増幅や電流源に使います。なお、バイポーラトランジスタの「飽和」はスイッチのオンにあたる別の状態なので、同じ言葉でも意味が違う点に注意が必要です。

項目遮断領域線形領域(三極管領域)飽和領域
条件(nMOS)VGS < VthVGS > VthかつVDS < VGS − VthVGS > VthかつVDS ≥ VGS − Vth
チャネルの状態反転層ができない(弱い反転だけ)ソースからドレインまで反転層がつながるドレイン端で反転層が消える(ピンチオフ)
ドレイン電流の式(長チャネル)ID ≈ 0。実際にはサブスレッショルド電流がVGSとともに指数関数的に増えるID = μCox(W/L)[(VGS − Vth)VDS − VDS²/2]ID = (1/2)μCox(W/L)(VGS − Vth)²。チャネル長変調を入れると(1 + λVDS)倍
電流の振る舞いオフ。サブスレッショルドスイングの下限は室温で理論上約60 mV/桁VDSが小さいとIDはVDSにほぼ比例し、VDSが大きくなるにつれて傾きが小さくなるIDはVDSにほとんどよらず、(VGS − Vth)の2乗に比例する
小信号での見え方ほぼ開放VDSが小さいとき、オン抵抗Ron ≈ 1/[μCox(W/L)(VGS − Vth)]の抵抗相互コンダクタンスgm = 2ID/(VGS − Vth)の電圧制御電流源。出力抵抗はro ≈ 1/(λID)
数値の例(μCox(W/L) = 2 mA/V²、Vth = 0.5 V)VGS = 0.3 Vなら遮断(式の上ではID = 0)VGS = 1.0 V、VDS = 0.1 VでID = 90 µA。VDSが0に近いときのオン抵抗は約1 kΩVGS = 1.0 V、VDS ≥ 0.5 VでID = 250 µA(λ = 0として)。gm = 1 mS
主な使い方スイッチのオフ。デジタル回路でオフになっている側のトランジスタスイッチのオン(デジタル回路のオン側、アナログスイッチ、導通中のパワーMOSFET)、可変抵抗増幅回路、電流源、カレントミラー回路
バイポーラトランジスタで対応する領域遮断領域(呼び方も同じ)飽和領域(スイッチのオン)能動領域(増幅に使う)
短チャネルでの違いDIBLでしきい値電圧が下がり、オフ電流が増える移動度の低下や寄生抵抗で、電流が式より小さくなる速度飽和により低いVDSで電流が飽和し、(VGS − Vth)への依存が1乗に近づく

数値は代表的な目安で、世代や製品によって異なります。

どんなときに使うか

遮断領域
トランジスタをオフにしたいときの領域です。デジタル回路でオフになっている側のトランジスタはここにあり、流れるのはサブスレッショルド電流などのリークだけです。しきい値電圧を下げると速くなる一方で、オフ電流が指数関数的に増えるので、待機時の電力とのかね合いで決めます。
線形領域(三極管領域)
スイッチとして使うときのオン状態です。VDSが小さいほど抵抗に近く、オン抵抗はゲート電圧を高くするほど小さくなります。CMOSの出力が落ち着いた後のオン側のトランジスタ、アナログスイッチ、電源回路で導通しているパワーMOSFETなどがこの領域で動きます。
飽和領域
増幅回路や電流源として使う領域です。電流がVDSにほとんどよらないので出力抵抗が高く、大きな電圧利得が得られます。増幅回路では、VDSがVGS − Vth(オーバードライブ電圧)を下回らないように動作点を決め、これが出力の振れ幅の下限になります。

よくある質問

MOSFETの飽和とバイポーラトランジスタの飽和は同じ意味ですか?

違います。MOSFETの飽和領域は、チャネルがドレイン端でピンチオフし、ドレイン電流がVDSに対して飽和する(ほぼ一定になる)領域で、増幅に使います。バイポーラトランジスタの飽和領域は、2つの接合がどちらも順バイアスになり、VCEが0.1〜0.3 V程度まで下がったスイッチのオンの状態です。働きで対応させると、MOSFETの飽和領域はバイポーラの能動領域に、バイポーラの飽和領域はMOSFETの線形領域にあたります。

線形領域と飽和領域の境目はどこですか?

VDS = VGS − Vthです。このときドレイン端でゲートとチャネルの間の電圧がちょうどVthになり、チャネルがピンチオフします。長チャネルの式では、線形領域の式にVDS = VGS − Vthを入れると飽和領域の式(1/2)μCox(W/L)(VGS − Vth)²と一致し、電流は境目でなめらかにつながります。

デジタル回路のトランジスタはどの領域で動きますか?

定常状態では、オンのトランジスタは線形領域(VDSがほぼ0)、オフのトランジスタは遮断領域にあります。出力が切り替わる途中では、オンになったトランジスタはまずVDSが大きいので飽和領域で負荷容量を充放電し、出力電圧が変わるにつれて線形領域へ移ります。そのためゲートの遅延は、おもに飽和領域の電流(駆動電流)で決まります。

pMOSでは条件はどう変わりますか?

電圧と電流の向きがすべて逆になります。ソースから見たゲートの電圧VSG、VSD、しきい値電圧の大きさ|Vth|を使えば、VSG < |Vth|で遮断領域、VSG > |Vth|かつVSD < VSG − |Vth|で線形領域、VSD ≥ VSG − |Vth|で飽和領域と、nMOSと同じ形で書けます。電流の式も同じ形で、移動度には正孔の値を使います。

理解度チェック

長チャネルのnMOSFETが飽和領域で動作する条件として正しいものはどれか。(VGS > Vth とする)

  1. AVDS = 0
  2. BVDS < VGS − Vth
  3. CVDS ≥ VGS − Vth
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正解:C. VDS ≥ VGS − Vth

VGS > Vth でチャネルがあるとき、VDS ≥ VGS − Vth になると、ドレイン端のゲート-チャネル間電圧がVthを下回ってチャネルがピンチオフし、ドレイン電流はVDSにほとんど依存しなくなります。これが飽和領域です。増幅回路はこの領域で使い、最低限必要なVDS(= VGS − Vth)が出力の振れ幅の下限になります。短チャネルでは速度飽和のため、より低いVDSで電流が飽和します。

長チャネルのMOSFETが飽和領域で動作しているとき、ドレイン電流IDはおよそ何に比例するか。(VGS:ゲート-ソース間電圧、Vth:しきい値電圧)

  1. A(VGS − Vth)の2乗
  2. BVGS − Vth
  3. CVGSの逆数
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正解:A. (VGS − Vth)の2乗

長チャネルMOSFETの飽和領域では ID = (1/2)μCox(W/L)(VGS − Vth)² で、ドレイン電流は(VGS − Vth)の2乗に比例します(2乗則)。VGS − Vth はオーバードライブ電圧と呼ばれ、アナログ設計の基本パラメータです。短チャネルでは速度飽和によって1乗に近づき、さらに移動度の劣化や寄生抵抗の影響でずれるため、実際の設計ではBSIMなどの精密なモデルを使います。

ドレイン-ソース間電圧VDSが十分小さい線形領域でのMOSFETの振る舞いとして正しいものはどれか。

  1. Aゲート電圧によって抵抗値が変わる可変抵抗のように振る舞う
  2. BVDSによらず一定の電流を流す定電流源のように振る舞う
  3. C一方向にしか電流を流さないダイオードのように振る舞う
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正解:A. ゲート電圧によって抵抗値が変わる可変抵抗のように振る舞う

線形領域ではドレイン電流がVDSにほぼ比例し、その傾き(コンダクタンス)μCox(W/L)(VGS − Vth)がゲート電圧で変わるため、ゲート電圧で制御できる可変抵抗のように振る舞います。スイッチのオン状態はこの領域で、オン抵抗はゲート電圧を高くするほど小さくなります。この性質はアナログスイッチや可変利得回路にも使われます。VDSが VGS − Vth を超えると飽和領域になります。

  1. 飽和領域にあるMOSFETで、ドレイン電圧を上げると実効的なチャネル長が短くなり、ドレイン電流がわずかに増える現象を何と呼ぶか。
  2. MOSFETの相互コンダクタンスgmの定義として正しいものはどれか。
  3. バイポーラトランジスタをスイッチとして使うとき、オンの状態に対応する動作領域はどれか。

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関連する用語の解説

しきい値電圧
MOSFETでチャネル(反転層)が形成され、電流が流れ始めるゲート電圧。Vthと書く。
飽和領域
バイポーラトランジスタのベース-エミッタ接合とベース-コレクタ接合がどちらも順バイアスになった状態。コレクタ-エミッタ間電圧が0.1〜0.3 V程度まで下がり、スイッチのオンに相当する。
遮断領域
バイポーラトランジスタの2つの接合がどちらも逆バイアスになり、コレクタ電流がほとんど流れない状態。スイッチのオフに相当する。
能動領域
ベース-エミッタ間を順方向、ベース-コレクタ間を逆方向にバイアスした状態。ベース電流に比例したコレクタ電流が流れ、増幅に使う。
チャネル長変調
飽和領域のMOSFETで、ドレイン電圧を上げるとピンチオフ点がソース側へ移り、実効的なチャネル長が短くなってドレイン電流がわずかに増える現象。出力抵抗を有限にする。
速度飽和
強い電界の下で、キャリアのドリフト速度が電界に比例せず、約1×10⁷ cm/sで頭打ちになる現象。短チャネルのMOSFETでは、ドレイン電流が2乗則より小さくなる原因になる。
相互コンダクタンス
ゲート電圧の変化に対するドレイン電流の変化の割合で、gmと書く。トランジスタの増幅能力を表し、増幅回路の利得はおおよそgmと負荷抵抗の積で決まる。
サブスレッショルドスイング
しきい値電圧以下で、ドレイン電流を10倍変えるのに必要なゲート電圧。室温での理論的な下限は約60 mV/桁で、小さいほどオンとオフの切り替えが鋭い。

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