nMOSとpMOSの違い:キャリア・移動度・しきい値電圧・CMOSでの役割を比較

nMOSは電子が、pMOSは正孔がチャネルを流れるMOSFETで、電圧の向きがすべて逆になります。nMOSはゲートをソースより高くするとオンになり、pMOSはゲートをソースより低くするとオンになります。シリコンでは電子の移動度が正孔の約2〜3倍あるので、同じ寸法ならnMOSの方が大きな電流を流せます。CMOS回路では、nMOSが出力をグラウンドへ、pMOSが出力を電源へ引く役割を分担し、pMOSのゲート幅を広くして駆動力をそろえます。

項目nMOSpMOS
構造p型の基板やpウェルの中に、n⁺のソースとドレインnウェルの中に、p⁺のソースとドレイン
チャネルを流れるキャリア電子正孔
移動度(シリコンの反転層)大きい。正孔の約2〜3倍小さい
しきい値電圧(エンハンスメント型、ソース基準)正(例: +0.3 V)負(例: −0.3 V)
オンになる条件VGS > Vth。ゲートをソースより高くするVGS < Vth(負)。ゲートをソースより|Vth|以上低くする
CMOSでのソースのつなぎ先グラウンド側電源(VDD)側
CMOSでの役割プルダウン。出力をグラウンドへ引く。NANDでは直列、NORでは並列プルアップ。出力を電源へ引く。NANDでは並列、NORでは直列
スイッチとして伝えやすい値0をよく伝える。1はVDD − Vth程度までしか上がらない1をよく伝える。0は|Vth|程度までしか下がらない
同じ駆動力に必要なゲート幅基準(1倍)nMOSの約2〜3倍が基本
移動度を上げるひずみ引っ張りひずみ(応力ライナー、Si:Cのソース・ドレインなど)圧縮ひずみ(SiGeのソース・ドレインなど)
代表的な劣化PBTI(High-k/メタルゲートで問題になる)NBTI

数値は代表的な目安で、世代や製品によって異なります。

どんなときに使うか

nMOS
出力をグラウンドへ引き下げるとき。CMOSのプルダウン網、0を伝えるスイッチ、電流を流し込む側のスイッチなど。
pMOS
出力を電源へ引き上げるとき。CMOSのプルアップ網、1を伝えるスイッチ、電源側に置くスイッチ(ハイサイドスイッチ)など。
組み合わせ
CMOSでは両方を対にして使い、定常状態ではどちらか一方が必ずオフになるので、静的な電流がほとんど流れません。nMOSとpMOSを並列にしたトランスミッションゲートは、0も1もよく伝えられます。

よくある質問

CMOSで、pMOSのゲート幅をnMOSより広くするのはなぜですか?

正孔の移動度は電子の約1/2〜1/3なので、同じ寸法ではpMOSの電流が小さいからです。pMOSの幅をnMOSの約2〜3倍にすると、立ち上がりと立ち下がりの遅延がそろい、インバータの論理しきい値が電源電圧の約半分になります。

pMOSのしきい値電圧が負になるのはなぜですか?

pMOSでは、n型のウェルの表面に正孔の反転層をつくる必要があり、そのためにはゲートをソースより低い電圧にするからです。符号の混乱を避けるため、設計では絶対値の|Vth|で比べることがよくあります。

nMOSだけで論理回路をつくらないのはなぜですか?

nMOSだけの回路では、出力を1にするときに抵抗や負荷素子から電流が流れ続け、静的な電力が大きくなるからです。nMOSとpMOSを組み合わせたCMOSでは、定常状態でどちらか一方が必ずオフになり、この電流がほとんど流れません。

先端のプロセスでも、nMOSとpMOSの差は2〜3倍ですか?

差はかなり縮まっています。SiGeのソース・ドレインによる圧縮ひずみでpMOSの移動度を高めたり、FinFETで正孔が流れやすい結晶面をチャネルに使ったりするからです。それでも、セルの設計では両者の駆動力の差を考えて寸法を決めます。

理解度チェック

同じ寸法のnMOSとpMOSでは、一般にnMOSの方が駆動電流が大きい。その主な理由はどれか。

  1. AnMOSのゲート酸化膜の方が必ず厚いから
  2. BpMOSにはゲート電極がないから
  3. Cチャネルを流れる電子の移動度が、正孔の移動度より大きいから
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正解:C. チャネルを流れる電子の移動度が、正孔の移動度より大きいから

nMOSでは電子、pMOSでは正孔がチャネルを流れ、シリコンの反転層では電子の移動度が正孔の約2〜3倍あるため、同じ寸法ならnMOSのほうが大きな電流を流せます。CMOSではpMOSのゲート幅を広くしてバランスをとります。先端プロセスではSiGeの圧縮ひずみでpMOSの移動度を高め、FinFETでは正孔が流れやすい(110)面がフィンの側壁になることもあって、差はかなり縮まっています。

シリコンにおける電子と正孔の移動度の比較として正しいものはどれか。

  1. A電子の移動度のほうが大きい
  2. B正孔の移動度のほうが大きい
  3. C両者は常に等しい
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正解:A. 電子の移動度のほうが大きい

シリコンでは、室温・低不純物濃度で電子の移動度が約1400 cm²/V·s、正孔が約450 cm²/V·sと、電子が約3倍大きくなります。正孔の有効質量が大きいことが主な理由です。そのため同じ寸法ならnMOSのほうが大きな電流を流せ、CMOSではpMOSのゲート幅をnMOSの2〜3倍にして駆動力をそろえるのが基本です。先端プロセスではSiGeによる圧縮ひずみでpMOSの移動度を高めています。

CMOSインバータの論理しきい値電圧を電源電圧のほぼ半分にするための設計として正しいものはどれか。

  1. AnMOSを取り除く
  2. B電源電圧を0 Vにする
  3. CpMOSとnMOSの駆動能力がつり合うよう、pMOSのゲート幅をnMOSより広くする
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正解:C. pMOSとnMOSの駆動能力がつり合うよう、pMOSのゲート幅をnMOSより広くする

正孔の移動度は電子より小さいため、同じ寸法ではpMOSの駆動能力が低く、論理しきい値はグラウンド側に寄ります。pMOSのゲート幅をnMOSの2〜3倍にして駆動能力をそろえると、論理しきい値が電源電圧の約半分になり、ノイズマージンが上下で等しくなり、立ち上がりと立ち下がりの遅延もそろいます。ただし面積と入力容量が増えるため、速度重視の回路ではあえて比を小さくすることもあります。

  1. エンハンスメント型pチャネルMOSFETのしきい値電圧(ソース基準)の符号はどれか。
  2. nチャネルMOSFETのチャネルで電流を運ぶキャリアはどれか。
  3. CMOSの2入力NANDゲートのトランジスタの接続として正しいものはどれか。

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関連する用語の解説

CMOS
nMOSとpMOSを相補的に組み合わせた回路方式。定常状態で貫通電流がほとんど流れず、消費電力が小さい。
移動度
電界をかけたときのキャリアの動きやすさ。シリコンでは電子の移動度が正孔より大きい。
しきい値電圧
MOSFETでチャネル(反転層)が形成され、電流が流れ始めるゲート電圧。Vthと書く。
トランスミッションゲート
nMOSとpMOSを並列につないだアナログスイッチ。nMOSが0を、pMOSが1を得意とするため、どちらの値も電圧の低下なく伝えられる。

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