超伝導量子ビットとイオントラップ量子ビットの違い:仕組み・動作環境・ゲートの速さ・コヒーレンス・つながり方を比較

どちらも、量子コンピュータの量子ビットを作る代表的な方式です。超伝導方式は、ジョセフソン接合とキャパシタで作った超伝導の回路(トランズモンなど)を量子ビットにし、マイクロ波のパルスで操作します。半導体と同じリソグラフィでチップに作れる一方、希釈冷凍機で10 mK程度まで冷やす必要があります。イオントラップ方式は、真空中に電場で捕らえたイオンの電子のエネルギー準位を量子ビットにし、レーザーやマイクロ波で操作します。一般に、超伝導方式はゲートが速く、イオントラップ方式はコヒーレンス時間が長く、量子ビットどうしを自由につなぎやすいという特徴があります。

項目超伝導量子ビットイオントラップ量子ビット
量子ビットの実体ジョセフソン接合とキャパシタで作る超伝導の回路(トランズモンなど)の、最も低い2つのエネルギー準位真空中に捕らえたイオン(イッテルビウムやカルシウムなど)の、電子の2つのエネルギー準位
作り方チップの上に、リソグラフィで回路として作る原子をイオンにして、電極が作る電場で捕らえて並べる
動作の環境希釈冷凍機で10〜20 mK程度まで冷やす超高真空。イオンはレーザーで冷却する。mKまで冷やす冷凍機は必要ない(真空をよくするため数K程度に冷やす装置もある)
操作のしかた数GHzのマイクロ波のパルスレーザー(またはマイクロ波)
ゲートの速さの目安速い。2量子ビットゲートで数十〜数百ns程度遅い。2量子ビットゲートで数µs〜数百µs程度で、超伝導方式より2〜3桁遅いことが多い
コヒーレンス時間の目安数十µs〜数百µs程度長い。秒単位、条件によってはそれ以上
量子ビットのつながり方チップの上の回路で結合するので、主に隣り合う量子ビットどうし同じトラップ内のイオンは共通の振動を通じて、任意の組み合わせで2量子ビットゲートを行える
ばらつき製造した回路なので、接合のわずかな違いで周波数がばらつき、量子ビットごとに校正が必要同じ種類のイオンはすべて同一で、製造のばらつきがない
大規模化の課題冷凍機の中に引き込む配線の数と熱の流入、量子ビットの間のクロストーク、材料の欠陥による損失1つのトラップに並べられるイオンの数の限り、ゲートの遅さ。イオンを移動させる方式や、光でトラップどうしをつなぐ方式が研究されている

数値は代表的な目安で、世代や製品によって異なります。

どんなときに使うか

超伝導量子ビット
ゲートの速さを生かして、多くの回路を短い時間で実行したいとき。半導体の製造技術を使えるので、チップの上に多数の量子ビットを並べやすい方式です。
イオントラップ量子ビット
長いコヒーレンス時間と、量子ビットどうしを自由につなげる性質を生かしたいとき。1回のゲートは遅いものの、量子ビットどうしの結合が多い回路を、つなぎかえの操作なしで実行しやすい方式です。

よくある質問

超伝導量子ビットは、なぜ10 mK程度まで冷やす必要があるのですか?

回路のアルミニウムを超伝導にする(約1.2 K以下)だけでなく、熱による励起や雑音を十分に小さくするためです。周波数5 GHzの量子ビットのエネルギーhfを温度に換算すると約0.24 Kなので、それより十分低い温度にする必要があり、液体ヘリウムの約4 Kでは足りません。

イオントラップ方式では、なぜ離れた量子ビットどうしでもゲートを行えるのですか?

同じトラップに並んだイオンは、クーロン力で互いに押し合っているので、列全体の振動を共有しています。レーザーでイオンの内部の状態とこの振動を結び付けることで、隣どうしでなくても、任意の2つのイオンの間で2量子ビットゲートを行えます。ただし、イオンの数が増えると振動のモードが混み合ってゲートが難しくなるので、1つのトラップに並べる数には限りがあります。

ゲートの速さとコヒーレンス時間は、どう比べればよいですか?

絶対的な速さだけでなく、コヒーレンス時間の間に何回のゲートを行えるかと、ゲートの忠実度が重要です。超伝導方式はゲートが速い代わりにコヒーレンス時間が短く、イオントラップ方式はゲートが遅い代わりにコヒーレンス時間が長いので、方式どうしを1つの数字で比べることはできません。実際の性能は、量子ビットの数だけでなく、忠実度、つながり方、読み出しの誤りなどを合わせて評価します。

理解度チェック

量子ビットの位相緩和時間 T2 とエネルギー緩和時間 T1 の関係として、正しいものはどれか。

  1. AT2 は T1 と無関係に決まり、T1 の100倍以上になることもよくある
  2. BT2 はどの量子ビットでも T1 と等しい
  3. CT2 は 2T1 を超えない
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正解:C. T2 は 2T1 を超えない

T2 は、重ね合わせ α|0⟩ + β|1⟩ の相対位相の情報が失われるまでの時間です。エネルギー緩和が起きれば位相の情報も失われるので、1/T2 = 1/(2T1) + 1/Tφ(Tφ は周波数のゆらぎなどによる純粋な位相緩和の時間)の関係があり、T2 ≤ 2T1 になります。例えば T1 = 100 µs、Tφ = 150 µs なら、T2 は約86 µs です。実際の量子ビットでは、磁束や電荷の雑音による周波数のゆらぎのために、T2 が 2T1 よりかなり短いことがよくあります。

超伝導量子ビット(トランズモン)が量子ビットとして働くために欠かせない素子はどれか。

  1. Apn接合ダイオード
  2. Bフローティングゲートをもつ MOSFET
  3. Cジョセフソン接合
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正解:C. ジョセフソン接合

ジョセフソン接合は、2つの超伝導体で厚さ1〜2 nm程度の薄い絶縁膜を挟んだ構造で、電圧を生じずに超伝導電流が流れ、損失のない非線形なインダクタとして働きます。トランズモンは、この接合とキャパシタを組み合わせた共振回路です。通常のコイルとキャパシタの LC 共振回路ではエネルギー準位が等間隔に並ぶので、|0⟩と|1⟩の間の遷移だけを選んで操作できませんが、接合の非線形性によって準位の間隔が不等間隔になり、最も低い2つの準位を量子ビットとして使えます。接合は、アルミニウムと、その表面を酸化したアルミニウム酸化膜で作るのが一般的です。

超伝導量子ビットを、希釈冷凍機で10〜20 mK程度まで冷やして動作させる主な理由はどれか。

  1. A配線や接合を超伝導状態にし、熱による量子ビットの励起や熱雑音を十分に小さくするため
  2. B低温にするとシリコンのバンドギャップが広がり、量子ビットの周波数が高くなるため
  3. C低温では電子の移動度が上がり、ゲートの操作を室温の1,000倍速くできるため
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正解:A. 配線や接合を超伝導状態にし、熱による量子ビットの励起や熱雑音を十分に小さくするため

トランズモンに使うアルミニウムは約1.2 K以下で超伝導になり、抵抗による損失がなくなります。さらに、周波数5 GHz程度の量子ビットのエネルギー hf を温度に換算すると約0.24 Kなので、熱のエネルギー kT がこれより十分小さくなるまで冷やさないと、熱によって|1⟩に励起されたり、配線から熱雑音が入ったりします。そのため、液体ヘリウムの温度の約4 Kでは足りず、ヘリウム3とヘリウム4の混合液を使う希釈冷凍機で10 mK程度まで冷やします。量子ビットの速さは移動度では決まらず、超伝導量子ビットはシリコンのバンドギャップも使いません。

  1. 超伝導量子ビットの読み出しに広く使われる分散読み出しの仕組みとして、正しいものはどれか。
  2. イオントラップ方式の量子コンピュータの特徴として正しいものはどれか。
  3. 超伝導方式とイオントラップ方式を比べた説明として、最も適切なものはどれか。

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関連する用語の解説

量子ビット
量子コンピュータで情報を表す単位。|0⟩と|1⟩の重ね合わせ α|0⟩ + β|1⟩ の状態をとることができ、測定すると確率 |α|² で0、|β|² で1が得られる。超伝導回路、イオン、中性原子、シリコン中の電子のスピン、光子などで実現される。
トランズモン
ジョセフソン接合とキャパシタを組み合わせた超伝導量子ビット。周波数は一般に数 GHz で、接合の非線形性によってエネルギー準位の間隔が不等間隔になり、最も低い2つの準位を量子ビットとして使う。電荷の雑音の影響を受けにくくした設計で、超伝導方式で広く使われている。
ジョセフソン接合
2つの超伝導体で、厚さ1〜2 nm 程度の薄い絶縁膜などを挟んだ構造。電圧を生じずに超伝導電流が流れ、損失のない非線形なインダクタとして働く。超伝導量子ビットや、超高感度の磁気センサ(SQUID)、電圧標準などに使われる。量子ビットでは、アルミニウムとその酸化膜で作るのが一般的。
希釈冷凍機
ヘリウム3とヘリウム4の混合液を使い、10 mK 程度の極低温を連続して作り出す冷凍機。超伝導量子ビットやシリコンのスピン量子ビットの動作に使われる。最も冷たい段の冷却能力は十数〜数十 µW 程度と小さいので、配線からの熱の流入が大規模化の課題になる。
イオントラップ
電場などでイオンを真空中に捕らえておく装置、またはそれを使う量子コンピュータの方式。イオンの電子のエネルギー準位を量子ビットにし、レーザーやマイクロ波で操作する。量子ビットがすべて同一でコヒーレンス時間が長く、忠実度が高い一方、ゲートは超伝導方式より遅い。
デコヒーレンス
量子ビットが周囲の環境と相互作用することで、重ね合わせの位相やエネルギーの情報が失われ、量子的な性質が壊れていく現象。エネルギー緩和時間 T1 と位相緩和時間 T2 でその速さを表す。
量子ゲート
量子ビットの状態を変える基本操作。X(ビット反転)、Z(位相反転)、H(アダマール)などの1量子ビットゲートと、CNOT などの2量子ビットゲートがあり、ブロッホ球の上では回転として表せる。超伝導量子ビットではマイクロ波のパルス、イオンや中性原子ではレーザーなどで実現する。

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