希釈冷凍機とは

きしゃくれいとうき

ヘリウム3とヘリウム4の混合液を使い、10 mK 程度の極低温を連続して作り出す冷凍機。超伝導量子ビットやシリコンのスピン量子ビットの動作に使われる。最も冷たい段の冷却能力は十数〜数十 µW 程度と小さいので、配線からの熱の流入が大規模化の課題になる。

「希釈冷凍機」は、1分野の3問の練習問題に出てきます(量子コンピュータのハードウェアなど)。

この用語の分野: 量子コンピュータのハードウェア

冷える仕組み

ヘリウム3とヘリウム4の混合液は、約0.87 K 以下でヘリウム3を多く含む層と、ヘリウム3が薄く溶けたヘリウム4の層に分かれます。ヘリウム3が濃い層から薄い層へ溶け込む(希釈される)とき、液体が蒸発するときのように熱を吸収します。薄い層からヘリウム3をポンプで汲み出して濃い層に戻し続けることで、この吸熱を連続して起こし、10 mK 程度まで冷やします。前段の冷却には、パルス管冷凍機などで約4 K まで冷やす方式が広く使われています。

温度の段と配線

冷凍機の中は、約50 K、約4 K、約1 K 前後、約100 mK、最も冷たい約10 mK の段のように、温度の異なる板が何段にも重なっています。量子ビットへの制御用の同軸ケーブルは、各段で減衰器を通して、室温からの熱雑音を減らしながら下ろしていきます。読み出しの信号は、極低温の増幅器や 4 K 段の HEMT 増幅器で増幅してから室温に戻します。冷却能力の目安は、4 K 段で1 W 程度、最も冷たい段では20 mK 付近で十数〜数十 µW 程度です。

大規模化の課題

カルノーの限界でも、10 mK から1 µW の熱を汲み出すのに約30 mW の仕事が必要で、低温の段ほど熱の処理は高くつきます。量子ビットが増えると、1量子ビットあたり数本の配線が必要な方式ではケーブルの本数と熱の流入が急に増えるので、周波数多重化、フレキシブルな多芯の配線、4 K 段に置くクライオ CMOS の制御回路などの工夫が進められています。冷凍機そのものを大型化したり、複数の冷凍機をつないだりする取り組みもあります。

希釈冷凍機の練習問題に挑戦

超伝導量子ビットを、希釈冷凍機で10〜20 mK程度まで冷やして動作させる主な理由はどれか。

  1. A配線や接合を超伝導状態にし、熱による量子ビットの励起や熱雑音を十分に小さくするため
  2. B低温にするとシリコンのバンドギャップが広がり、量子ビットの周波数が高くなるため
  3. C低温では電子の移動度が上がり、ゲートの操作を室温の1,000倍速くできるため
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正解:A. 配線や接合を超伝導状態にし、熱による量子ビットの励起や熱雑音を十分に小さくするため

トランズモンに使うアルミニウムは約1.2 K以下で超伝導になり、抵抗による損失がなくなります。さらに、周波数5 GHz程度の量子ビットのエネルギー hf を温度に換算すると約0.24 Kなので、熱のエネルギー kT がこれより十分小さくなるまで冷やさないと、熱によって|1⟩に励起されたり、配線から熱雑音が入ったりします。そのため、液体ヘリウムの温度の約4 Kでは足りず、ヘリウム3とヘリウム4の混合液を使う希釈冷凍機で10 mK程度まで冷やします。量子ビットの速さは移動度では決まらず、超伝導量子ビットはシリコンのバンドギャップも使いません。

よくある質問

液体ヘリウムの温度(約4 K)ではなぜ足りないのですか?

5 GHz の量子ビットのエネルギー hf は温度に換算すると約0.24 K で、4 K では熱のエネルギー kT がその約17倍になり、量子ビットが熱で励起されてしまうからです。熱による励起を無視できるようにするには、0.24 K より十分低い、数十 mK 以下まで冷やす必要があります。

希釈冷凍機は量子コンピュータ以外に何に使われますか?

低温での物質の性質の研究、宇宙観測などに使う超伝導の検出器、暗黒物質を探す実験の検出器など、極低温が必要な物理の研究で以前から使われてきました。量子コンピュータの研究が進んで、大型で配線の多い冷凍機の開発が進んでいます。

解説の中の「希釈冷凍機」

「希釈冷凍機」が出てくる問題(3問)

  1. 超伝導量子ビットを、希釈冷凍機で10〜20 mK程度まで冷やして動作させる主な理由はどれか。
  2. 10 mKの段から1 µWの熱を汲み出して300 Kに捨てるとき、カルノーの限界で必要な最小の仕事率に最も近いものはどれか。
  3. 超伝導方式とイオントラップ方式を比べた説明として、最も適切なものはどれか。

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