イーサネットとは? 有線LANがデータを運ぶしくみ
イーサネットは、ケーブルで機器をつなぐ「有線LAN」の、世界共通の規格(IEEE 802.3)です。データを宛先つきの「フレーム」という小包に入れ、スイッチという機器が宛先の機器にだけ届けます。電波を分け合うWi-Fiと違い、1本のケーブルを1台で占めるので、速さが安定します。
この記事でわかること
- イーサネットが受け持つ範囲と、インターネットとの関係
- フレームの中身と、スイッチが宛先を見分けるしくみ
- LANケーブルの線がより合わせてある理由と、100 mの長さの上限
- 速さの歩み、ケーブルで電気も送るPoE、Wi-Fiとの違い
前提知識: 特にありません。「インターネットはどうやってデータを届けるの?」を先に読むと、つながりがわかります。
身近なところでは
家のルータの裏には、「LAN」と書かれた四角い差し込み口が並んでいます。ここにLANケーブルを挿すと、パソコンやゲーム機がケーブルでネットにつながります。このケーブルでデータをやり取りするときの決まりが、イーサネットです。
会社では、机の下や床の差し込み口にケーブルが来ています。天井のWi-Fiの親機や防犯カメラには、1本のLANケーブルだけでつながっているものがあります。電源のコードがないのは、同じケーブルで電気も送っているからです(後で説明するPoE)。
イーサネットは「有線LAN」の規格
家や会社の中のように、狭い範囲の機器どうしをつなぐネットワークを、LANと呼びます。電波でつなぐLANがWi-Fi(無線LAN)で、ケーブルでつなぐLANの代表がイーサネットです。
決まりごとは、技術者の国際的な団体IEEEが「802.3」という番号の規格として定めています。Wi-Fiの規格は「802.11」なので、同じ「802」の仲間です。ケーブルの電気の信号から、データのまとめ方までを決めています。
イーサネットが運ぶのは、ケーブルでつながった隣の機器までです。その先の、ネットワークをまたいで遠くの相手に届ける仕事は、IPという別の決まりが受け持ちます。この役割分担は「インターネットはどうやってデータを届けるの?」の「層」の話で説明しています。
1973年、研究所の中から生まれた
イーサネットは1973年、米国ゼロックス社のパロアルト研究所(PARC)で生まれました。ボブ・メトカーフが同年5月22日のメモで考えを示し、デビッド・ボッグスとともに作りました。研究所のコンピュータ「Alto」どうしを結ぶためのもので、速さは1秒に約294万ビット(2.94 Mb/s)でした。ビットは、0か1かを表す1けたのことです。
1980年には、ゼロックス・DEC・インテルの3社が、1秒に1000万ビット(10 Mb/s)の仕様を公開しました。3社の頭文字から「DIX」と呼ばれます。これをもとに、IEEEが1983年6月に802.3の規格を承認しました(発行は1985年)。仕様が公開されたので、どの会社でも同じ規格の機器を作れるようになりました。
データは「フレーム」という小包で送る
イーサネットでは、データを決まった形の小包に入れて送ります。この小包を「フレーム」と呼びます。フレームの中身は、おおまかに次の4つです(話を簡単にするため、始まりの合図などは省きます)。
- 宛先と送り主の番号: どの機器あてか、どの機器からか
- 種類: 中身がどの決まり(例えばIP)のデータか、という目印
- 中身: 運びたいデータ。1つのフレームに最大1,500バイト(1バイトは8ビット)
- 検査用の値: 途中で壊れていないかを確かめるための4バイト
機器の番号は、差し込み口ごとに製造時に付けられる48ビットの番号です。これをMACアドレスと呼びます。前半の部分は、IEEEがメーカーごとに割り当てた番号です。IPアドレスはネットワークをまたいで相手を探す番号で、MACアドレスは同じLANの中で隣の機器を呼び分ける番号です(「IPアドレスとは?」)。
最後の検査用の値は、FCSと呼ばれます。送る側が、宛先から中身までの部分をもとに、CRCという計算で求めた値です。受け取った側は同じ計算をして、合わなければフレームを捨てます。計算のしくみと、フレームの図は「CRCとは?」にあります。
イーサネット自身は、捨てたフレームを送り直しません。欠けたデータを取り戻すのは、送り主のTCPの仕事です(「TCPとUDPの違いとは?」)。
昔: 1本の線をみんなで使っていた
初期のイーサネットは、1本の太いケーブルにたくさんの機器をつなぐ形でした。誰かが送った信号は、つながっている全員に届きます。後に広まった「ハブ」という箱も、届いた信号をすべての差し込み口へそのまま流す機器でした。
この形では、2台が同時に送ると信号が重なって壊れます。これを衝突(コリジョン)と呼びます。そこで機器は、線が空いているのを確かめてから送り、衝突に気づいたら、ばらばらな時間だけ待って送り直しました。この手順をCSMA/CDと呼びます。
Wi-Fiも、送る前に空きを確かめる似た手順(CSMA/CA)を使います。一方、今の有線LANでは、CSMA/CDはほとんど使われていません。10 Gb/s以上の規格には、そもそもこの手順がありません。次に見るスイッチが、衝突そのものをなくしたからです。
今: スイッチが宛先にだけ届ける
今の有線LANの中心にあるのは、「スイッチ」という機器です。スイッチは、差し込み口ごとに、その先にいる機器のMACアドレスを覚えます。覚え方は簡単で、届いたフレームの「送り主」の番号と、届いた差し込み口を、表に書き留めていきます。
フレームが届くと、スイッチは宛先の番号を表で探し、その差し込み口にだけ送ります。表にまだない宛先なら、ほかの全部の口に送ります。相手が返事をすれば、その時点で表に載ります。しばらく通信のない番号は、表から消えます。
さらに今は、スイッチとの間で、送ると受けるを同時に行えます。これを全二重と呼びます。LANケーブルの場合、100 Mb/sまでは送る線と受ける線を分けています。1 Gb/s以上では、同じ線で両向きに送る工夫をしています。1本のケーブルを1台で占め、行きと帰りも同時に通せるので、衝突は起きません。
スイッチはLANの中で、MACアドレスを見て届けます。ネットワークとネットワークの間を、IPアドレスを見て中継するのはルータです。家庭用のルータの多くは、ルータの中に小さなスイッチを内蔵しています。裏のLANの口が4つほどあるのは、そのためです。3つの機器の違いはハブ・スイッチ・ルータの違いで表にしています。
速さの歩み: 10 Mb/sから800 Gb/sへ
イーサネットは、つなぎ方の決まりを保ったまま、速さだけを何度も上げてきました。主な規格は次のとおりです(年はIEEEで承認された年。1 Gb/sは1秒に10億ビット)。
| 速さ | 主な規格 | 主な使われ方 |
|---|---|---|
| 10 Mb/s | 802.3(1983年)、LANケーブル版は1990年 | 初期の会社のLAN |
| 100 Mb/s | 802.3u(1995年) | 1990年代後半のパソコン |
| 1 Gb/s | 802.3ab(1999年。LANケーブル版) | 今の家庭のパソコンやルータ |
| 10 Gb/s | 802.3ae(2002年) | 会社の基幹、10 Gb/sの光回線の家 |
| 100 Gb/s | 802.3ba(2010年) | データセンター |
| 400 Gb/s | 802.3bs(2017年) | データセンター |
| 800 Gb/s | 802.3df(2024年) | AI向けのデータセンター |
さらに1.6 Tb/s(1秒に1.6兆ビット)の規格(802.3dj)も、2026年中の完成を目標に作られてきました。速い規格の多くは、銅線ではなく光ファイバで使います。
LANケーブルの線は、なぜよってあるのか
LANケーブルを切ってみると、中に8本の細い線があり、2本ずつねじり合わされています。2本1組の線をより合わせたケーブルを、ツイストペアケーブル(より対線)と呼びます。先端の差し込む部分は、8本の端子を持つRJ45という形です。
2本1組にするのは、雑音に強い送り方をするためです。送る側は、2本の線に逆向きの信号を流します。受ける側は、2本の電圧の差だけを見て0と1を決めます。この送り方を差動信号と呼びます。
モーターや蛍光灯などから来る雑音は、すぐ隣の2本に、ほぼ同じように乗ります。差をとると、同じだけ乗った雑音は打ち消されます。2本をよっておくと、どちらの線も雑音のもとに近づいたり離れたりを繰り返します。そのため、2本に乗る雑音の量がそろいやすくなります。
同じ2本1組の送り方は、USBでも使われています(「USBとは?」)。1本の線で送る方式との違いはシングルエンドと差動信号の違いで表にしています。
ケーブルの「カテゴリ」と、光ファイバ
LANケーブルには「カテゴリ5e」「カテゴリ6A」のような等級があります。数字が大きいほど、速く変わる信号(高い周波数の信号)まで通せるよう作られています。目安は次のとおりです。
- カテゴリ5e: 1 Gb/sを100 mまで。家庭ではこれで足りることが多い
- カテゴリ6: 10 Gb/sも送れるが、届くのは数十mまで
- カテゴリ6A: 10 Gb/sを100 mまで
- カテゴリ8: 25・40 Gb/s用。ただし30 mまでで、主にデータセンター向け
LANケーブルの長さの上限は、規格で100 mと決まっています。壁の中などの配線が90 mまで、両端のコードが合わせて10 mまでです。長くなるほど信号が弱まり、雑音との区別がつきにくくなるからです。
データセンターや建物どうしの間では、光ファイバのケーブルもよく使います。光ファイバは、細いガラスの線に光を通して信号を送るケーブルで、電気の雑音を受けず、遠くまで届きます。光と電気を変換する部品の中のチップは、「シリコンフォトニクスとは?」で紹介しています。
PoE: LANケーブルで電気も送る
LANケーブルの線を使って、データと一緒に電気も送るしくみがあります。これをPoE(Power over Ethernet)と呼びます。天井のWi-Fiの親機や防犯カメラ、会社の電話機では、コンセントのない場所にケーブル1本で置けるので便利です。
| 規格 | 承認 | 送る側の電力 | 機器で使える電力 |
|---|---|---|---|
| 802.3af | 2003年 | 15.4 W | 12.95 W |
| 802.3at | 2009年 | 30 W | 25.5 W |
| 802.3bt | 2018年 | 60 W・90 W | 51 W・71.3 W |
送る側と機器の数字が違うのは、細い線を通る間に、電気の一部が熱になるからです。PoEのスイッチは、相手がPoEに対応した機器かを確かめてから電気を流します。そのため、規格どおりのPoEなら、対応していないパソコンをつないでも壊れません。
Wi-Fiより安定しやすいのはなぜ?
Wi-Fiでは、同じ通り道(チャネル)の電波を、近くの機器みんなで交代に使います。近所のWi-Fiや、電子レンジが出す電波が混ざることもあります。そのため、混み具合や距離で、速さや待ち時間が変わります(「Wi-Fiのしくみとは?」)。
スイッチにつないだ有線LANでは、1本のケーブルを1台で占め、行きと帰りを同時に通せます。電波のような順番待ちがなく、差動信号で雑音にも強いので、速さと待ち時間がそろいます。オンラインゲームや大きなファイルのやり取りで有線が好まれるのは、このためです。そのかわり、ケーブルの届く場所でしか使えません。
イーサネットの中で働くチップ
パソコンやルータのLANの口の奥には、役割の違う2種類の回路があります。1つは、0と1をケーブルに流す電気の信号に変え、届いた信号を0と1に戻す回路です。ケーブルで弱まった信号の形を整える仕事もします。これをPHY(物理層の回路)と呼びます。
もう1つは、データをフレームの形にまとめ、検査用の値を付けたり確かめたりする回路です。これをMACと呼びます(MACアドレスのMACです)。MACとPHYを1つの小さなチップにまとめることも、MACをパソコンの中心のチップに組み込むこともあります。
データセンターのスイッチの中心には、フレームを振り分けるためだけの専用チップが入っています。例えば2025年に出荷が始まった製品では、1つのチップで合計1秒に102.4兆ビットを扱います。チップの縁には、データを1本の速い信号にまとめて送る回路がたくさん並びます。この回路をSerDesと呼びます。データセンターの全体像は「データセンターとは?」で説明しています。
よくある誤解
誤解: イーサネットとインターネットは、同じもの
実際は、イーサネットは、ケーブルでつながった隣の機器までデータを運ぶ決まりです。インターネットは、世界中のネットワークをIPでつないだ全体のことです。名前が似ているので混同されがちです。家の有線LANが受け持つのは、インターネットの入口(ルータ)までの区間です。インターネットにつながっていない、社内だけのLANもあります。
誤解: カテゴリ8のケーブルにすれば、家のネットが速くなる
実際は、速さの上限を決めるのは、たいてい光回線の契約とルータやパソコンの口です。例えばNTT東日本・西日本の「フレッツ 光クロス」は、最大概ね10 Gb/sです(2020年から)。10 Gb/sならカテゴリ6Aで100 mまで送れます。カテゴリ8は、データセンターの30 mまでの配線のための規格です。
誤解: LANケーブルは、いくら長くしてもよい
実際は、LANケーブルの規格は合計100 mまでです。それより長いと信号が弱まり、つながらなかったり、速さが落ちたりします。もっと遠くへ届けるには、途中にスイッチを置くか、光ファイバを使います。
数字で見る
| 項目 | 数字 | くらべると |
|---|---|---|
| 最初のイーサネット(1973年) | 2.94 Mb/s | 800 Gb/sの規格(2024年)は約27万倍 |
| 1つのフレームの中身 | 最大1,500バイト | 1 Gb/sなら送るのに約12マイクロ秒 |
| LANケーブルの長さの上限 | 100 m | カテゴリ8で25・40 Gb/sなら30 m |
| PoEで機器に届く電力 | 最大71.3 W(802.3bt) | 最初の802.3afの約5.5倍 |
「約12マイクロ秒」は、1,500バイト(1万2000ビット)を、1秒に10億ビットの速さで送る時間です。1マイクロ秒は、100万分の1秒です。
もっと詳しく学ぶ
- 違いを表で見る: ハブ・スイッチ・ルータの違い、シングルモードとマルチモードの光ファイバの違い、CAN・LIN・車載イーサネットの違い
- 計算で試す: データ転送時間の計算ツール、CRCの計算ツール
- 次の一歩の用語: イーサネット(規格の要点)、ARP(IPアドレスからMACアドレスを調べる)
- さらに先の用語: VLAN(1台のスイッチでLANを区切る)、MTU(1回で運べる大きさ)
- 家のネットの守り: ルータで通信を選り分けるしくみは「ファイアウォールとは?」で