IoTとは? モノがネットにつながるしくみと注意点
IoT(モノのインターネット)は、身の回りの機器に、センサと小さなコンピュータと通信の機能を入れるしくみです。ネット経由でデータを集めたり、離れた場所から操作したりできます。働きは「モノ・通信・クラウド・アプリ」の4つの部分に分けられます。便利な反面、初期設定のパスワードのままの機器が乗っ取られる事件も起きています。
この記事でわかること
- IoTを作る4つの部分と、家・工場での使われ方
- Wi-Fi・BLE・LPWA・携帯回線の使い分け
- データを機器の近くで処理するか、クラウドで処理するか
- IoT機器が乗っ取られる手口と、日本や海外の対策
前提知識: 特にありません。「マイコンとは?」や「Wi-Fiのしくみとは?」を読んでいると、わかりやすくなります。
身近なところでは
外出先から、玄関の鍵が閉まっているかをスマホで確かめる。留守番のペットの様子を、カメラで見る。こうしたことができる機器が増えました。どれも、機器そのものがインターネットにつながっています。
パソコンやスマホのような、いかにもコンピュータらしい機械以外のモノがネットにつながること。これをIoT(Internet of Things、モノのインターネット)と呼びます。
家の電気のメーターもその1つです。使った電気の量を、通信で電力会社へ送る「スマートメーター」に替わりました。東京電力パワーグリッドは2021年3月末までに、管内のほぼすべての世帯と事業所に約2,840万台を設置しました。検針の人が家を回らなくても、使った量がわかるのです。
工場では機械の調子を、物流では荷物の場所や温度を、IoTで見守っています。
IoTは4つの部分でできている
IoTの機器は種類が多いですが、中身を分けると、多くは同じ4つの部分でできています。ここでは話を簡単にするため、4つに分けます。実際の分け方は、本や会社によって少しずつ違います。
- モノ: 温度や明るさ、動きなどを感じて、電気の信号に変える部品を持ちます。この部品が「センサ」です。センサの値を読んで判断するのは、中に入った小さなコンピュータ(マイコン)です。
- 通信: 読んだ値を、電波や線で外へ送ります。
- クラウド: ネットの向こうのコンピュータが、たくさんの機器のデータを集めて記録し、決まりに沿って判断します。
- アプリ: 人がスマホやパソコンで結果を見たり、機器に指示を出したりします。
データは①から④へ流れ、操作の指示は④から①へ逆向きに届きます。マイコンの中身は「マイコンとは?」、クラウドは「クラウドとは?」で説明しています。
機器からクラウドへ短いデータを送る手順には、MQTTという決まりがよく使われます。送る側と受け取る側の間に、仲立ちのサーバを置くのが特徴です。受け取る側は、欲しい種類のデータを仲立ちに伝えておきます。送る側は相手を知らなくても、仲立ちに渡すだけで届きます。
家の例: スマートロック
4つの部分を、玄関の鍵で見てみます。今のドアの鍵に後から取り付け、スマホで開け閉めできる製品を「スマートロック」と呼びます。しくみは製品ごとに違うので、ここでは典型的な形に単純化します。
①モノ: 本体には、鍵のつまみを回すモーターと、ドアが閉まっているかを感じるセンサが入っています。センサは例えば、ドア枠に付けた磁石が近くにあるかを感じます。中のマイコンは、「ドアが閉まって少したったら鍵をかける」といった決まりを実行します。
②通信: 家の中では、スマホと本体が、Bluetoothの省電力の方式(BLE)で直接つながります。外出先から使うには、家のWi-Fiにつながる中継機を置くのが一般的です。電池で動く本体はBLEで中継機と話し、中継機がWi-Fiでネットへつなぎます。このように方式の違う通信を橋渡しする機器を、ゲートウェイと呼びます。
③クラウドと④アプリ: 開け閉めの記録はメーカーのクラウドに残り、アプリで見られます。外出先で「閉める」を押すと、指示はクラウド、中継機、本体の順に届きます。
工場の例: 機械が壊れる前に気づく
工場では、モーター1台が止まるだけで、ライン全体が止まることがあります。そこで、機械の調子を見守るのにIoTが使われます。
①モノ: モーターに、揺れ(振動)を測るセンサを取り付けます。回転を支える部品が傷み始めると、揺れの大きさや細かさが少しずつ変わることがあるからです。マイコンは、細かく何度も測った値から、揺れの大きさなどの要点だけを計算します。
②通信と③クラウド: 要点を工場のネットワークや無線でクラウドに送り、何か月分も記録します。いつもと違う変化が続いたら、担当者の④アプリに知らせます。
知らせを受けた人は、壊れる前に計画を立てて部品を替えられます。データから故障の前ぶれを見つけて、先回りして直す考え方を「予知保全」と呼びます。決まった期間ごとに替える方法と比べ、まだ使える部品を捨てずに済み、急な停止も減らせます。ただし、前ぶれの出にくい壊れ方もあり、すべての故障を予測できるわけではありません。
通信の選び方: 距離・量・電力
IoTで使う通信には、たくさんの方式があります。選ぶときの目安は、どれだけ遠くへ、どれだけの量を、どれだけ少ない電力で送るか、の3つです。3つを同時に満たす方式はないので、どれかをあきらめて選びます。
- Wi-Fi: 家や会社の中で、カメラの映像のような大きなデータを送れます。電力は多めで、電源につなぐ機器に向きます。
- Bluetooth(BLE): 数m〜数十mの近くで、少しのデータを省電力で送ります。スマホや中継機と組み合わせます(「Bluetoothとは?」)。
- LPWA: 速さをうんと下げる代わりに、少ない電力で数km以上届かせる方式です。下で詳しく見ます。
- 携帯電話の回線(4G・5G): 広い範囲で、大きなデータも送れます。走る車や、電源のある遠くの機器に向きます(「5Gとは?」)。
LPWAには、代表的な方式が4つあります。
- LoRaWAN: 免許の要らない電波を使う、業界団体LoRa Allianceの規格です。電波を受ける基地局を、自分で置くこともできます。
- Sigfox: 決まった事業者の網を使い、ごく短いデータを送ります。機器から1回に送れるのは12バイト(半角の英数字12文字分)までです。
- LTE-M: 携帯電話の4G(LTE)の技術を、IoT向けに省電力にした方式です。移動しながらでも使えます。
- NB-IoT: 同じく携帯電話の技術を元に、使う電波の幅をさらに細くした方式です。メーターのような動かない機器に向きます。
LTE-MとNB-IoTの規格は、携帯電話の規格を作る団体3GPPで、2016年にまとまりました。どちらも、携帯電話の会社と契約して使います。距離や速さの目安は「Wi-Fi・Bluetooth・LPWAの違い」で表にしています。
電池で何年も動かす工夫
LPWAやBLEの機器には、電池で何年も動くものがあります。秘密は、ほとんどの時間を眠って過ごすことです。
例えば、1時間に1回だけ温度を送る機器を考えます。起きて測り、短い時間で送り終えたら、また眠ります。眠っている間は回路の大部分を止め、ごくわずかな電気しか使いません。
この休んでいる状態を、スリープモードと呼びます。ボタン電池が何年もつかの計算は「マイコンとは?」で紹介しました。逆に、映像を送り続けるカメラは、電源か充電が前提です。
どこで処理する? エッジとクラウド
集めたデータを、すべてクラウドに送って処理するとは限りません。機器の中や、工場の中のコンピュータで処理することもあります。ネットワークの端(エッジ)で処理するという意味で、これを「エッジコンピューティング」と呼びます。
手元で処理する理由は、主に3つあります。
- 反応の速さ: クラウドまで往復すると、そのぶん時間がかかります。機械を急いで止めるような判断は、手元でします。
- 通信の量: 映像や細かな揺れの記録をすべて送ると、回線も費用も足りなくなります。手元で要点だけにしてから送ります。
- プライバシー: 家の中の映像や声を外に出さず、「人が来た」という結果だけを送れば、もれる心配が減ります。
一方、何千台もの機器の記録を比べたり、長い期間の変化を調べたりするのは、クラウドの得意な仕事です。実際には、両方を組み合わせて使います。手元の機器でAIを動かす話は「NPUとは?」で紹介しています。
メーカーの違いをこえる: Matter
スマートホームの機器は長い間、メーカーごとにアプリやつなぎ方がばらばらでした。ある会社の電球を、別の会社のスマートスピーカーから操作できない、といった不便がありました。
そこで業界団体のCSAが、共通の規格「Matter(マター)」を作りました。CSAの正式な名前はConnectivity Standards Allianceで、AmazonやApple、Googleも加わっています。CSAは2022年10月に、最初の版のMatter 1.0を発表しています。対応した機器どうしなら、メーカーが違っても同じしくみでつながることを目指しています。
Matter 1.0は、Wi-Fi、有線のLAN(イーサネット)、Threadの3つの通信の上で動きます。Threadは省電力の無線で、電源につながった機器が中継役になり、網の目のように電波をつなぎます。最初の設定にはBLEを使います。1.0の対象は、照明、空調の操作、ドアの鍵、テレビなどの映像機器などでした。
小さな機器も乗っ取られる
IoTの機器は、小さくても中身は立派なコンピュータです。そのため、パソコンと同じように乗っ取られることがあります。画面がなく、持ち主が異常に気づきにくい点も、攻撃する側には好都合です。
よく知られた例が、2016年に広がった「Mirai(ミライ)」という悪いプログラムです。ネットにつながった防犯カメラや録画機などを探し、遠隔操作のための入口からログインを試みます。使うのは、初期設定のまま変えられていないことの多いIDとパスワードの、数十組の一覧でした。
乗っ取った多くの機器を、遠くからまとめて操れるようにしたものを「ボットネット」と呼びます。2017年に米国の学会で発表された研究によると、Miraiとその改造版に乗っ取られた機器は、2016年11月に最大で約60万台でした。
ボットネットは、一斉に大量のデータを送りつけて相手のサービスを止める攻撃に使われます。これをDDoS攻撃と呼びます。2016年10月21日には、米Dyn社が狙われました。Webサイトの名前をIPアドレスに置き換えるサービス(DNS)を、多くの会社に提供していた会社です。その影響で、米国を中心にTwitterやNetflixなどがつながりにくくなりました。Dyn社は、攻撃にMiraiのボットネットが加わっていたと認めています(DNSは「DNSとは?」)。
米国政府のUS-CERT(今のCISA)は2016年10月、注意を呼びかけました。Miraiは機器のメモリの中だけで動くので、電源を入れ直せば消えます。ただし、パスワードを変えなければ、すぐにまた感染するおそれがあると指摘しています。
日本と海外の取り組み
日本では、総務省と情報通信研究機構(NICT)などが、2019年2月20日に「NOTICE」という取り組みを始めました。NICTが、ネットから接続できる国内の機器に、推測されやすいIDとパスワードでログインできるかを試します。ログインできてしまった機器は、プロバイダを通じて利用者に知らせ、設定の見直しを促します。
総務省とNICTの説明では、試すのはログインできるかどうかまでです。機器の中に入り込んで設定を変えたり、データを見たりはしません。2024年度からは、ソフトウェアの弱点が残る機器や、すでに感染した機器も調べる対象に加わりました。こうした弱点を「脆弱性(ぜいじゃくせい)」と呼びます。
買う人が安全な製品を選べるよう、目印を作る動きもあります。情報処理推進機構(IPA)は2025年3月、IoT製品にラベルを付ける制度「JC-STAR」を始めました。最初の段階の★1は、どの製品にも求められる最低限の対策を、メーカー自身が確かめて宣言するものです。より高い★2〜★4は、製品の種類ごとに基準を決めます。
EUでは、ネットにつながる製品に安全の対策を求める法律「サイバーレジリエンス法」が、2024年12月に発効しました。見つかった弱点を報告する義務は2026年9月から、ほとんどの決まりは2027年12月から適用されます。JC-STARはメーカーが申請するかを選ぶ制度で、EUの法律は守る義務がある、という違いがあります。
使う人ができること
- 最初の設定で、パスワードを推測されにくいものに変える(「パスワードはなぜ破られる?」)
- 機器のソフトウェアの更新を当てる。通信で届く更新をOTA更新と呼び、自動で更新する設定があれば使う
- 使わない機能、特に外から操作するための入口は切っておく
- 買うときに、更新がいつまで続くかを確かめる。更新の止まった機器は、買い替えも考える
よくある誤解
誤解: IoT機器は小さいから、ハッキングされる心配はない
実際は、上で見たMiraiのように、カメラや録画機が何十万台も乗っ取られた例があります。小さな機器でも、ネットにつながる以上、中身はコンピュータです。1台では力が弱くても、たくさん集めると大きな攻撃に使えます。家電のような見た目なので、パソコンほど注意されにくいことから生まれる誤解です。
誤解: IoTには5Gが必要
実際は、多くのIoT機器はWi-FiやBluetoothでつながっています。調査会社IoT Analyticsの2025年の推計では、32%がWi-Fi、24%がBluetoothでした。携帯電話の回線は22%で、5Gはその一部です。LTE-MやNB-IoTも4Gの技術が元です。5Gには多くの機器を同時につなぐ目標があるため、「IoT=5G」と結びつけて報じられがちです。
誤解: IoT機器のデータは、すべてクラウドに送られる
実際は、手元で処理して要点だけを送る機器や、ネットを通らずにスマホと直接やり取りする使い方もあります。ただし、クラウドに送る製品も多いので、何を送るかは製品の説明で確かめましょう。「ネットにつながる=全部外に出る」と考えやすいことから生まれる誤解です。
数字で見る
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 世界でつながっているIoT機器(IoT Analytics、2025年末の見込み) | 約211億台 |
| 同じ調査の2030年の予測 | 約390億台 |
| IoT機器の通信の割合(同、2025年) | Wi-Fi 32%、Bluetooth 24%、携帯回線 22% |
| Miraiとその改造版に乗っ取られた機器(2016年11月のピーク) | 約60万台 |
| 東京電力パワーグリッドのスマートメーター(2021年3月末までに設置) | 約2,840万台 |
IoT Analyticsの数には、スマホ、パソコン、タブレットは入っていません。センサを束ねる中継機を1台と数えるなど、数え方は調査会社ごとに違い、台数は推計です。
もっと詳しく学ぶ
- 違いを表で見る: Wi-Fi・Bluetooth・LPWAの違い、MCUとMPUの違い(IoT機器の頭脳の選び方)、TCPとUDPの違い(MQTTはTCPの上で動く)
- 次の一歩の用語: TLS(通信の暗号化)、ファイアウォール(外からの入口を絞る)、SBOM(中のソフトウェアの一覧)
- 数字で試す: dB・dBmの換算ツール(電波の強さの単位)、パスワードの総当たり時間の計算ツール
- 関連する記事: 「VPNとは?」(ネットに開いた装置が狙われる話)、「IPアドレスとは?」