ツェナー降伏とアバランシェ降伏の違い:しくみ・不純物濃度・降伏電圧・温度係数を比較

どちらもPN接合に大きな逆電圧を加えたときに電流が急に増える降伏現象ですが、しくみが違います。ツェナー降伏は、不純物濃度が高く空乏層が非常に薄い接合で、価電子帯の電子がトンネル効果で伝導帯へ通り抜けて起こります。アバランシェ降伏(なだれ降伏)は、強い電界で加速されたキャリアが衝突電離で電子・正孔対をつくり、それが連鎖的に増えて起こります。シリコンでは降伏電圧が約5 V以下ならツェナー降伏、約6〜7 V以上ならアバランシェ降伏が主で、温度係数の符号が逆になります。

項目ツェナー降伏アバランシェ降伏
しくみトンネル効果。価電子帯の電子が薄い障壁を通り抜けて伝導帯へ移る衝突電離。電界で加速されたキャリアが新しい電子・正孔対をつくり、連鎖的に増える
接合の不純物濃度両側とも非常に高い少なくとも片側が低い。低いほど降伏電圧が高くなる
空乏層の幅非常に薄い(約10 nm以下)広い。キャリアを加速する距離が必要
降伏が起きる電界(シリコン、目安)約10⁶ V/cm程度の非常に強い電界約3×10⁵ V/cm前後(不純物濃度で変わる)
降伏電圧(シリコン、目安)約5 V以下。約5 Vから約6〜7 Vの間は両方が混ざって起こる約6〜7 V以上。数百〜数千 Vの高耐圧の接合もこの降伏で決まる
降伏電圧の温度係数負。温度が上がるとバンドギャップが縮み、降伏電圧が下がる正。温度が上がると格子振動による散乱が増え、降伏電圧が上がる
降伏の立ち上がり比較的ゆるやか急峻
雑音比較的小さいなだれ増倍にともなう雑音が大きい
主な用途約5 V以下の定電圧ダイオード、低い電圧の基準やクランプ約6 V以上の定電圧ダイオード、サージ吸収用のダイオード、アバランシェフォトダイオード、SPAD

数値は代表的な目安で、世代や製品によって異なります。

どんなときに使うか

ツェナー降伏
約5 V以下の低い電圧で電圧をそろえたいとき。低電圧の定電圧ダイオードや、入力の電圧を抑えるクランプなどで使われます。
アバランシェ降伏
約6 V以上の定電圧や、サージから回路を守るとき。光を増倍して検出するアバランシェフォトダイオードやSPADでは、この降伏を積極的に使います。パワー素子では、耐圧を決める現象として設計します。
組み合わせ
降伏電圧が約5〜6 Vの定電圧ダイオードでは、負の温度係数のツェナー降伏と正の温度係数のアバランシェ降伏が打ち消し合い、温度による電圧の変化が小さくなります。温度に安定な基準電圧が必要なときは、この範囲の品種や温度補償型を選びます。

よくある質問

ツェナーダイオードは、すべてツェナー降伏を使っているのですか?

いいえ。定電圧ダイオードは習慣的にツェナーダイオードと呼ばれますが、シリコンで約6〜7 V以上のものは主にアバランシェ降伏を使っています。トンネル効果によるツェナー降伏が主になるのは、約5 V以下の低い電圧のものです。

温度係数の符号が逆になるのはなぜですか?

ツェナー降伏では、温度が上がるとバンドギャップが縮んでトンネル効果が起きやすくなるので、降伏電圧が下がります。アバランシェ降伏では、温度が上がると格子振動による散乱が増え、キャリアが衝突電離に必要なエネルギーまで加速されにくくなるので、降伏電圧が上がります。

降伏したダイオードは壊れてしまうのですか?

どちらの降伏も、それだけで接合が壊れるわけではなく、電流を制限すれば元に戻ります。壊れるのは、降伏中の電流と電圧による発熱が大きすぎるときです。定電圧回路では、ダイオードと直列に抵抗を入れて電流を制限します。

アバランシェ降伏は、パワー素子ではどう扱われますか?

パワーMOSFETやダイオードの耐圧は、主にアバランシェ降伏が起きる電圧で決まります。ドリフト層の不純物濃度を低くして厚くすると耐圧は上がりますが、オン抵抗も増えます。誘導性負荷を切ったときなどに降伏領域に入ることがあり、そのとき耐えられるエネルギーをアバランシェ耐量として規定します。

理解度チェック

定電圧ダイオード(ツェナーダイオード)が主に利用している現象はどれか。

  1. A順方向の拡散電流
  2. B逆方向バイアスでの降伏現象
  3. C光の吸収による起電力
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正解:B. 逆方向バイアスでの降伏現象

定電圧ダイオードは、逆方向電圧が降伏電圧に達すると電流が急増し、電流が変わっても電圧がほぼ一定に保たれる性質を使います。降伏電圧は不純物濃度で決まり、市販品は約2〜200 Vまでそろっています。約5 V以下は主にトンネル効果によるツェナー降伏、それ以上は主になだれ降伏です。基準電圧の生成、過電圧からの保護などに使われます。光による起電力は太陽電池やフォトダイオードの現象です。

なだれ降伏の仕組みとして正しいものはどれか。

  1. A高電界で加速されたキャリアが格子に衝突して新たな電子・正孔対をつくり、それが連鎖的に増える
  2. B電子が薄い障壁を量子力学的にすり抜ける
  3. C温度上昇で接合が溶ける
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正解:A. 高電界で加速されたキャリアが格子に衝突して新たな電子・正孔対をつくり、それが連鎖的に増える

なだれ降伏では、空乏層の強い電界で加速されたキャリアが原子に衝突して電子・正孔対をつくり(衝突電離)、それがまた加速されて衝突を繰り返すことで電流が急増します。シリコンの臨界電界は約3×10⁵ V/cmで、不純物濃度が低く空乏層が広い接合ほど高い電圧で起こります。SiCは臨界電界が約10倍高いため、同じ耐圧を薄いドリフト層で実現でき、低損失のパワー素子になります。

不純物濃度が非常に高いPN接合で、低い逆電圧で起こる降伏の主な仕組みはどれか。

  1. Aなだれ降伏
  2. B量子力学的なトンネル効果によるツェナー降伏
  3. C熱による接合の溶融
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正解:B. 量子力学的なトンネル効果によるツェナー降伏

両側が高濃度の接合では空乏層が約10 nm以下と非常に薄く、強い電界のもとで価電子帯の電子が障壁をトンネル効果で通り抜けて伝導帯へ移ります。これがツェナー降伏で、おおむね5 V以下の低い降伏電圧で起こり、温度が上がると降伏電圧が下がります(ギャップが縮むため)。高い降伏電圧はなだれ降伏が主で、温度係数は逆に正になります。

  1. なだれ降伏の降伏電圧は、温度が上がると一般にどうなるか。
  2. 定電圧ダイオードで、ツェナー電圧が約5〜6 Vのものは温度による電圧の変化が小さい。その理由として正しいものはどれか。
  3. 片側の不純物濃度を低くしたPN接合の降伏電圧は、一般にどうなるか。

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関連する用語の解説

ツェナーダイオード
逆方向の降伏電圧がほぼ一定になることを利用して、定電圧を得るダイオード。
なだれ降伏
逆方向の強い電界で加速されたキャリアが原子にぶつかって新たなキャリアをつくり、それが連鎖的に増えて大電流が流れる現象。
空乏層
PN接合の境界付近にできる、キャリアがほとんど存在しない領域。逆バイアスで広がる。
SPAD(単一光子アバランシェダイオード)
降伏電圧を超える逆バイアスで動作させ、光子1個でもなだれ増倍で大きなパルスを出す受光素子。LiDARなどの距離測定に使われる。

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